<秤の重み 裁判員制度10年> ③辞退 偏る「なり手」

2019-05-20 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

<秤の重み 裁判員制度10年>(3)辞退 「私には」偏るなり手 

2019/5/18 朝刊

    

  画像;裁判員の調査票

 「私には絶対に無理」。愛知県内で会社経営に携わる女性は裁判所からの書類を手に、そう思ったことを鮮明に覚えている。裁判員候補者に登録されたことを伝える内容で、すぐさま辞退の手続きを取った。五、六年前のことだ。

 目に浮かんだのは、凶器などの証拠写真を見せられ、心理的負荷に悩む裁判員がいるという報道。刑事ドラマやホラー映画などの怖い映像を見た後は必ず夢に出てきて、嫌な体験はいつまでも忘れられない。証拠を直視できないと確信した。「法廷で冷静でなくなれば公正な判断ができなくなる。終わってからもフラッシュバックするに違いない」

 忙しさも辞退の理由だった。経理を中心に営業、人事など全般を担当し、社員と打ち合わせながら昼食をとることも。数日間ですら会社を空けられる状況ではなかった。「裁判所にいる間は外部と連絡が取れないと聞いた。自分の印鑑が必要になるような緊急事態が起きた時、だれが対応するのか」

 裁判員法は自らが候補者であることを公にしてはならないと定めるが、例外として家族や会社の上司らには明かすことができる。ただ、女性は「公」の範囲がよく分からず、「社内や取引先に相談すらできなかった」と振り返る。

 最高裁によると、裁判員候補者の辞退率は、制度が始まった2009年の53・1%から、68・4%(今年3月末)と上昇傾向にある。

 辞退者が多くなれば、裁判員の年齢構成のバランスが崩れるとの指摘がある。最高裁によると、11~18年度に裁判員を務めた市民のうち、70代以上の割合は全事件平均で2・2%。ただ、審理期間が2か月を超える事件では5・7%に跳ね上がる。

 2か月以上に及ぶ裁判員裁判に参加した同県内の40代男性によると、選任手続きに出席した多くが年配の人だった。事前に審理予定期間を聞かされ、「ほとんどの人は仕事で断ったんだと思った」と振り返る。

 実際に選ばれた裁判員も50~70代が目についた。男性は「無作為に選ばれた人が裁判員を務めるのが公正な形だが、長期の審理はなり手の条件を狭める。断ることが公然化した印象がある」と話す。

 逆に、裁判員を務めたくても辞退せざるを得ないケースがある。例えば、非正規雇用者だ。法律は裁判員のための休暇を認める。だが、個人加盟労働組合の「愛知連帯ユニオン」(名古屋市)の元座(がんざ)毅委員長は「法律上保障された権利であっても、報復的な雇い止めをおそれ、休暇を取ることができないのが現実だ」と話す。

 裁判員制度の制度設計に携わった弁護士の四宮啓國學院大學法学部教授は「裁判員を務めることは、主権者としての国民一人一人の権利でもあり、義務でもある。国民が権利を行使し、義務を果たしやすい環境整備が、裁判所や雇用主にとっての課題だ」と指摘する。

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)

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【裁判員制度のウソ、ムリ、拙速】 大久保太郎(元東京高裁部統括判事) 『文藝春秋』2007年11月号

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