今週のことば
哀れ、生き物は互いに殺しあう 過去現在因果経(意訳)
文化 尾畑文正
中日新聞 朝刊 2024.04.14 Sun.
この経典は釈迦が後に国を捨て出家する動機を「樹下の思惟」として語る。ある日、少年釈迦が父王と閻浮(えんぶ)樹の下で休息していた時、農作業で掘り起こされた虫を鳥が啄むのを見た。経典の原文は「互いに相呑(あいどん)食(じき)す」とあるが、意は「殺しあう」である。その姿に少年は深く悲しみ、その場に留まり、樹下で瞑想する。
やがて仏陀(目覚めた人)となる少年が自らも含む衆生の弱肉強食の現実に触れ、「生きるとは何か」の問いを抱えた場面である。
少年が見た互いに殺しあう衆生の現実は現在、戦争のかたちで世界を覆っている。日本はどうなのか。憲法で不戦を誓い、武力なき平和を掲げながら、戦争の悲しみを忘れたかのように、武器輸出を閣議決定している。
想像してみよう、戦闘機で命奪われる人々の叫び、瓦礫の下で殺された命を。武器輸出で平和は創れない。少年の悲しみは今の私たちの愚かさを問うている。(同朋大 名誉教授)
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◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)