世界株安 問題の根元にある欧州の危機を収拾しなければ、事態は沈静しない

2010-05-08 | 国際
世界株安 危機の連鎖を止めよ
中日新聞【社説】2010年5月8日
 ギリシャの財政危機を引き金に世界の株価が急落した。信用不安は他国に飛び火する懸念もある。欧州連合(EU)と関係機関は危機の連鎖を食い止めるために、万全の方策を講じるべきだ。
 六日のニューヨーク株式市場はギリシャ危機に加えて証券会社による誤発注の疑いも加わって、ダウ工業株三十種平均が急落した。東京市場も平均株価が一時、ことし最大の下げ幅を記録した。
 先進七カ国(G7)財務相が緊急電話会議に動く一方、日銀も短期金融市場に資金を供給し、緊張が高まった。
 株価が世界で急落したのはギリシャの財政危機が深まっているためだ。欧州のユーロ圏十五カ国と国際通貨基金(IMF)は財政再建策を条件にギリシャに三年間で総額千百億ユーロ(約十三兆円)を融資する救済策を決めた。
 ところが、ギリシャが厳しい緊縮財政を実行できるかどうか疑問視される一方、財政赤字を抱えたポルトガルやスペインなどに危機が連鎖する懸念もあって、単一通貨であるユーロが売られた。日本市場では輸出減要因になる円高ユーロ安が嫌われた格好だ。
 ギリシャに対する悲観論は収まっていない。「最終的に債務不履行(デフォルト)が避けられない」とみる専門家もいる。そうなれば、ギリシャ国債を保有する欧州金融機関が打撃を被り、信用収縮が欧州全体に広がりかねない。
 本来、放漫財政を続ければ長期金利が上昇、為替も下落して自動的に規律維持を迫られる。ところが、ギリシャはユーロ導入によって金利と為替の安定を享受しつつ放漫財政を続けてしまった。
 単一通貨ユーロが財政規律の緩みを覆い隠してきたともいえる。こうした問題点はユーロ導入前から指摘されていたが、今回の危機であらためて表面化した。
 金融政策を欧州中央銀行(ECB)に一元化して単一通貨を導入するなら、原理的には財政もECBの政策運営に見合うように規律を維持しなければならない。残念ながら、ギリシャは失敗した。
 小国の放漫財政がユーロ圏全体に悪影響を及ぼしている今回の危機は、金融を一元化する一方、財政は各国の自由裁量に委ねたユーロ圏の制度設計自体に欠陥があった可能性を示唆しているのではないか。
 欧州は各国に財政規律を守らせる効果的な方策を早急に検討すべきだ。市場は次の標的を探している。時間との競争でもある。
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国際協調待ったなしの欧州発金融危機
日経新聞 社説2010/5/8
 もはやギリシャ一国という段階を越え、欧州発のグローバルな危機と呼ぶべき事態が到来しかねない。
 菅直人副総理・財務相をはじめ日米欧7カ国(G7)の財務相は7日、電話協議でこの問題を話し合った。市場の動揺が景気や業績に悪影響を及ぼさないよう、政策当局は協調行動に踏み出すときだ。
 まず大きな検討課題は、ギリシャ支援の枠組みの見直しだ。
 ユーロ圏諸国と国際通貨基金(IMF)による金融支援に際して、ギリシャは大幅な財政赤字削減を約束した。2009年に国内総生産(GDP)比で13.6%に達した財政赤字を、14年に3%以内に抑える内容だ。ギリシャは3年間で300億ユーロの財政赤字削減法案を可決した。
 もちろん緩み切った財政の立て直しは必要。だが、財政引き締めが景気と雇用を悪化させ、社会不安を増幅させる悪循環も懸念される。
 とりわけユーロ圏に属するギリシャの場合、過去に経済危機に陥った国々と違い、自国通貨切り下げによる外需主導の景気立て直しという道が残されていない。
 財政規律などの条件は、衰弱したギリシャ経済の実力に見合った現実的なものにすべきだ。問題の震源地であるユーロ圏の諸国が責任を持って再建の後押しをすることで、信認を担保する必要がある。
 金融市場の安定も差し迫った課題だ。ギリシャ国債は米格付け会社によって「投機的」水準まで格下げされた。欧州中央銀行(ECB)は、引き続き資金供給の担保として受け入れると発表したが、ギリシャの民間銀行は欧州の銀行間市場で資金調達が非常に困難になっている。
 不信の連鎖はギリシャ向けの与信額の多いフランスやドイツの銀行にも及びつつある。ECBは潤沢な資金供給を続けるだけでなく、危機対応をもっとしっかりすべきだ。欧州勢がドル資金の調達に支障を来すような事態に備え、米連邦準備理事会(FRB)との間で、ドルとユーロとの通貨スワップ(交換)を復活させることも、そのひとつだろう。
 外国為替市場での備えも必要だ。ユーロ安が加速し、信用不安との連鎖が起きかねないときには、ユーロ防衛の協調介入に乗り出すことを確認しておく必要がある。ユーロ安の裏側で円高が進めば、輸出企業への打撃が大きい日本もこの点では協力の余地が大きい。
 米国や日本の株式市場も動揺しているが、問題の根元にある欧州の危機を収拾しなければ、事態は沈静しない。G7は真価を問われる。
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天声人語2010年5月8日(土)付
 安心を与える大きな政府か、活力を生む小さなそれか。国家像を語るのに避けて通れぬ設問だが、有事に問われるのは大小より強弱、そしてリーダーシップらしい。そう教える出来事が続く▼国の破産を防ぐため、ギリシャのパパンドレウ首相は全人格をかけて国民に我慢を説く役回りだ。自国通貨が暴落して済んだ頃と違い、混乱はユーロを介して世界に飛び火する。火元責任は大きい▼ユーロ危機も追い風としたか、英国の総選挙で、一貫して欧州統合に冷ややかだった保守党が第1党に返り咲いた。ただ、2党間の交代は「前にダメだった党」に託すこと。有権者は過半数を与えなかった。43歳のキャメロン党首に首相への目算はあるか▼はるかに重苦しい決断を迫られそうなのは、韓国の李明博大統領だ。黄海で哨戒艦が沈んだ原因が、魚雷攻撃である疑いが出てきた。韓国の船を狙う国はいくつもない。46人の殉職は、熱い心と冷めた頭の両方を大統領に求めている▼イラクにアフガンと、米国は万年有事。中国との二極時代を意識しながらも、オバマ大統領は核軍縮の長い道のりに踏み出した。そこに、未曽有の海洋汚染とされるメキシコ湾の原油流出である。神は越えられる試練しか与えないはずだが……▼普天間は、米国にすれば数ある懸案の、小さめの一つだろう。自らの言動でそれを大ごとにしてしまったわが首相。どんな有事もリーダーの資質を試すが、「ひとり有事」とは情けない。地球大乱の気配がにわかに漂う中、この人物に国を任せる間の悪さを思う。

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