「決める政治の前進と増税案可決を礼賛する大メディアのおめでたさ」永田町異聞/「決めない」のも政治だ

2012-06-28 | 政治

決める政治の前進と増税案可決を礼賛する大メディアのおめでたさ
永田町異聞
2012年06月27日(水)
 マスコミという特殊な世界では、昨今、 「決める政治」というのが金科玉条になっているようである。
 筆者にはごまかしとしか思えない「社会保障と税の一体改革関連法案」が衆院を通過して、「決める政治」が前進したという。
 「『決められない政治』が、ようやく一歩、前に進む。素直に評価したい」(朝日社説)
 「やっと一歩を踏み出した『決める政治』を前に進めていくしかない」(日経、池内新太郎政治部長)
 打ち合わせでもしたかのような画一表現。これら論者の描くのは、「決めようとする野田首相の足を引っ張る小沢一郎」という構図だろう。
 だから池内氏の「延々と同じ議論を蒸し返す。…底流に渦巻いていたのが小沢一郎元代表が仕掛ける権力闘争だ」など、片手落ちの議論がまかり通る。
 決めようとする中身が悪いなら、決めないほうがよいのだが、それはさておき「政治とカネ」のみならず「決められない政治」の元凶にさえまつりあげられた小沢氏の身になって、よく考えてみよう。
 そもそも、「決められない政治」をつくったのは、菅直人前首相ではなかっただろうか。
 まさに今、野田首相が政治生命を賭けるという消費増税を、菅前首相が参院選前にぶち上げたことから、衆参のねじれが起こった。
 「延々と同じ議論を蒸し返す」ばかりで、ついには国会の外の与野党協議という「談合」によって決めようと画策したのが、今回の消費増税法案であろう。
 その密室談合はまさに、民主党分断をねらう自公の言うなりであった。「あんたのところの小沢、あいつと手を切れば組んでもいいぜ」といえば、少々やくざっぽいが、実態はそんなところだ。
 消費増税でぶれたら自分の政権は終わりだと思えば、たとえ相手が悪魔であろうと詐欺師であろうと、救いの手にすがりたくなるだろう。
 野田首相はこの罠にまんまとはまった。党内議論を十分に尽くさず、小沢グループ切りを覚悟で消費増税関連法案の採決に突っ込んだ結果、予想をはるかにこえる造反者が出た。
 この法案への民主党の反対票は57人、欠席・棄権が15人にものぼった。彼らに厳しい処分を下さなければ参院審議に協力しないという谷垣自民党総裁の筋の通らない言いぐさからは、「国民不在」の党議拘束を民主主義と称してはばからない大マスコミと同じ傲岸不遜のニオイを感じる。
 消費増税で手を組んだ自民、公明両党は、早期の解散・総選挙で政権を奪還することが最大の政治目的である。野田をたらしこんで民主党を分裂させたことにより、反野田となった小沢グループも勘定に入れ、内閣不信任をつきつけて野田を解散に追い込む展望が開けつつあるといっていい。
 さて、法案の中身である消費増税のことについて、少しふれておきたい。周知の通り、このデフレ不況下、消費税は中小零細企業にとって本当につらい負担だ。簡単にいえば、消費税分を販売価格に上乗せできない、つまり転嫁できないからである。
 1000円の商品を1050円で売りたいのはやまやまでも、競合他社が980円の値段をつけたら、それに合わせないと売れてゆかない。50円の消費税を客からとるどころか、収入を減らしたうえ、消費税分を自腹で納税することになる。
 それでも消費税制度の理屈の上からは、980円のうち、46.6円は客から預かったものとみなされる。つまり実感では自腹だが、自腹とはいえないわけだ。
 大企業の下請け部品工場でも、街の小売店でも、納税時期になると、たとえ大赤字といえど、わずかな社長の個人預金を取り崩したり、生命保険を解約したり、あるいはどこかから借りたりして納税分のおカネを工面しなければならない。
 そのような庶民の痛みを知ってか知らずか、この国の首相は消費税を5%から2倍の10%に引き上げることに政治生命をかけるという。
 困ったことに、日本の事業者の75%ほどが赤字だといわれる。そのうち9割以上は中小零細企業だ。
 消費税の倍増政策は、「中小零細企業抹殺計画」といいかえてもいいほどである。中小零細企業で働いている大多数の国民が職を奪われ、いっそう深刻な不況に見舞われるのは目に見えている。
 みんなが儲かってふところ豊かだった時代ならまだしも、カツカツで生活している人の多い時代に採るべき政策ではない。
 むしろ、増税による税収増分は口を開けて待っている巨大天下り組織とそこからの受注に頼り切っている多くの企業に流れ込み、本当にそれを必要とする人々を潤す間もなく、乾いた砂に吸い込まれるように消えてなくなるに違いない。
 倒産企業と失業者を雪だるま式に増やし、何年か後には税収が今よりもさらに落ち込んで、社会保障どころか展望の見えない生活苦で自殺に追い込まれる人もますます増加する可能性がある。まさに反福祉的政策であるといえる。
 そういう意味で、小沢一郎ら消費増税反対を唱えるグループが、政権維持に躍起となる民主党主流派の圧力を跳ね返し消費増税法案の採決で反対を貫いたことは、ごく普通の考え方に沿ったものである。
 人の暮らしを守ると言いつつ特権集団に与する現民主党政権首脳の、霞ヶ関的「机上の空論」に染まった脳天にも少しばかりは響いてほしいものだが、野田、岡田、前原、仙谷といった顔ぶれではどうにもならないであろう。
 生活実感が乏しく想像力の欠如した「試験秀才」の政官財学報ネットワークががっちりこの社会に根をはっている以上、彼らの利益が優先される構造の「破壊者」がまずは必要であり、破壊することによって新しい統治の仕組み、予算の組み替えが可能になることに我々庶民は思いをいたす必要がある。
 ゆめゆめ「壊し屋」というネガティブキャンペーンに乗せられることなく、小沢氏らの行動を見ていくべきだろう。
 新 恭(ツイッターアカウント:aratakyo)
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逆風〈四重苦~社会保障棚上げ・デフレ・復興増税〉の中 消費税増税/延長国会「決めない」のも政治だ 2012-06-22 | 政治(経済/社会保障/TPP) 
 逆風の中 消費増税
 中日新聞【核心】2012/06/22 Fri.
 消費税増税関連法案が26日、衆院で採決、可決する見通しとなった。主要な社会保障政策は軒並み棚上げとなる中、消費税は段階的に10%に上がるレールに乗ろうとしている。ただ過去の導入時や引き上げ時とは明らかに違い、今回は国民にとっては、さまざまな好ましからざる4つの要因の下での増税となる。しかも救済策は、ほとんどない。(政治部・岩田仲弘・石川智規)
社会保障棚上げ/デフレ下で給与減/復興増税も負担
■逆風
 民主党の消費税増税反対派の象徴的な主張は「二〇〇九年マニフェストの政策を実現するために増税するはずが、増税のためにマニフェストを捨てた」というものだ。
 野田佳彦首相は二十日の両院議員懇談会で「野党との修正協議はマニフェストを守るためだ」と釈明した。しかしマニフェストに盛り込んだ最低保障年金制度の創設や後期高齢者医療制度の廃止は自民、公明両党との三党合意で先送りされた。首相の言葉に説得力はない。
 この論争は、ただの党内の権力闘争ではない。社会保障の充実を棚上げして消費税増税を決めるのは、国民にとっては負担増以外のなにものでもない。
■逆風
 長引く不況に加え、物価の下落が続くデフレに喘ぐ日本では、人々の給与所得は、ほとんど上がらない。厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、一般労働者の年間賃金水準の平均は、二〇〇六年のピーク時が約五百万円だったが、二〇一一年は約四百八十四万円に減少した。二〇〇八年のリーマンショック以降、企業は従業員の賃金を減らして業績を維持する傾向を強めている。
 政府がデフレと認める状態での消費税増税は初めてのこと。収入が減り続ける中での負担増は、国民生活を直撃する。
■逆風
 「(一九八九年の)消費税導入時は差し引き減税。5%に引き上げた時には中立で、今回は十三兆五千億円の増税だ」
 これは野田首相の国会答弁だ。
 消費税増税の歴史を紐解くと、過去はいずれも消費税増税の代わりに減税する「増減税一体」だった。一九八九年に税率3%の消費税が始まった際、所得税や相続税、法人税を減税した。
 九七年の引き上げ時は、所得税や住民税などの減税に加え、社会保障費の増額なども行い、差し引きゼロとした。
 だが、今回は減税がない「純粋増税」だ。消費税導入時の首相、故竹下登氏の弟・竹下亘氏(自民党)が国会で「今回が初めて純粋な大増税という認識が欠けている」と首相に迫ったのは、こういう背景があった。
■逆風
 しかも、今回は消費税増税と並行して予定される負担増が、めじろ押しだ。
 東日本大震災の復興費用を賄う増税が、所得税分が来年一月から、住民税分は十四年六月から始まる。十六歳未満の子どもがいる世帯に適用される年少扶養控除は、六月に完全廃止となった。厚生年金の保険料も一七年まで上がり続ける。
 税制や社会保障の変更だけでない。東京電力管内では家庭向け電気料金が平均約10%値上げになる予定。その公共料料金にも消費税がかかる。あらゆる負担に消費増税が追い打ちを掛ける。
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拙速の印象 ぬぐえず
 「四重苦」の中で、なぜ増税しようとするのか。過去の政権は、世論や党内の反対を受け消費税論議には長い時間をかけてきた。
 故大平正芳首相は七八年の税制大綱で一般消費税の創設を明記。翌七九年の衆院選公約に盛り込んだが、その後撤回に追い込まれた。中曽根内閣では売上税導入の法案を提出したが廃案に。竹下内閣の下で消費税が導入されるまでに十年もの時間を要した。
 むしろ一国会で成立を目指すこと自体が、異例のこと。首相は今国会中の成立にこだわる理由を「決められない政治からの脱却」と力説するが「拙速」の印象が拭えない。
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延長国会 「決めない」のも政治だ
中日新聞【社説】2012年6月22日
 通常国会の会期が九月八日まで七十九日間延長された。消費税増税のための「一体」改革法案の成立が目的だが、それ以外にこそ、決めるべきことはたくさんある。優先順位を間違えてはならない。
 眼前の課題は放置され、二年先の消費税増税だけが先に決まる。政治生命を懸けた消費税増税をほぼ手中にした野田佳彦首相にとっては、面目躍如というところか。
 国民の多くは順序がおかしいと思うが、その声は政府や民主党執行部に届かない。
 ねじれ国会でもあり、政府提出法案の成立率は35%にとどまる体たらくだ。国会議員だけが担う立法という仕事を全うするには大幅な延長が必要なことは理解する。
 ただ、限られた時間である。決めるべきことにこそ力を注ぎ、無為に時間を過ごすべきではない。
 一体改革法案は民主、自民、公明三党などの賛成で近く衆院を通過し、参院での審議を経て今国会中に成立する見通しだ。
 しかし、政権を託された二〇〇九年衆院選のマニフェストに書いていない消費税増税を、民主党が自公両党と手を結んで進めることには、やはり納得がいかない。
 小沢一郎元代表ら民主党内にも法案反対を明言する議員がいるのは当然だ。小沢氏らは離党・新党結成も視野に入れる。首相は、民主党が打撃を被っても、増税さえ実現すればいいというのか。
 消費税増税の決定は、一年かけて検討する社会保障抜本改革の結論が出るまで棚上げすべきだ。増税が本当に必要かどうか見極めるのは、それからでも遅くはない。
 首相は、消費税増税の民自公三党合意を「決められない政治」からの脱却だと言うが、その詭弁(きべん)にはだまされたくない。国民の多くが疑問に思う政策なら「決められない」方がましである。参院議員の良識に望みをつなげたい。
 延長国会ではまず、衆院の「一票の格差」是正と、国会の無駄排除に力を注ぐべきだ。違憲・違法状態を放置し、政党交付金や文書通信交通滞在費などの特権に手を付けない国会が信頼されるのか。
 民主党が国会に提出した衆院比例代表に一部連用制を導入する案は、消費税増税への公明党の協力を得ようとの思惑が丸見えだ。
 一票の格差是正のために「〇増五減」は最低限必要だが、選挙制度を抜本的に変えるのなら有識者に議論を委ねるのも一手だ。議員を選ぶ土俵づくりは、党利党略とは距離を置くべきである。
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