「ユダヤ教・キリスト教・イスラームの比較」黒川知文 2017/11/25

2017-12-27 | 国際

宗教戦争という名の隣人愛の危機 「ユダヤ教・キリスト教・イスラームの比較」横浜YWCAで黒川知文氏の講演会
2017年11月25日07時14分 記者 : 守田早生里
 キリスト教講座「ユダヤ教・キリスト教・イスラームの比較」と題した講演会が10月21日、横浜YWCA(横浜市中区)で開催された。登壇したのは、宗教史学者の黒川知文さん(愛知教育大学教授、聖書キリスト教会牧師)。会場は、用意した席が開始前から埋まり、席を追加するほどの盛況ぶりだった。

 世界にはさまざまな宗教が存在するが、互いの宗教について深く知る人は多くない。そこで講演は、2016年版『キリスト教年鑑』と『宗教年鑑』(文化庁)による統計資料紹介から始まった。全世界を見渡すと、カトリック、プロテスタント、東方正教会を含むキリスト教の信徒数は3割を超えて一番多く、次いでイスラム教(イスラーム)、ヒンズー教、仏教となる。ユダヤ教は0・2パーセントだが、147カ国に信者がいる。つまり、少数の信仰者によって世界経済や学問界に大きな影響を与えているのがユダヤ教なのだ。
 一方、日本に目を向けると、世界とはまったく違うものとなっている。仏教系と神道系とされる信徒数がほぼ同率の47パーセント、諸教とする宗教の信徒数は4・6パーセント、最も少ないのが1パーセントのキリスト教徒。さらに、信徒数を合計すると、日本の人口をはるかに超えた数字になる。黒川さんによると、「氏家であり檀家(だんか)である家、仏教と神道を重複して信仰している人がいるためだ」という。
 ユダヤ教を源にして1世紀にキリスト教が誕生し、7世紀にイスラームが現れ、11世紀にはキリスト教が東方正教会とカトリックに分派、そして16世紀に入り、宗教改革によってプロテスタントが誕生した。
 「『宗教戦争』といわれる今日の紛争だが、それに関わっているそれぞれの一神教の源をたどれば、皆ほぼ同じ」と黒川さんは言う。
 この3つの宗教は何が違うのだろうか。まず神としているのは、ユダヤ教では「ヤハウェ」、キリスト教では父なる神と子なるキリストと聖霊という三位一体の神、そしてイスラームでは「アッラー」だが、神の本質は同じ。ただ、ユダヤ教やキリスト教と比べ、アッラーは超越度が高い。集団礼拝の時、男性は皆並んで深くひざまずいて祈ることからもそれがうかがえる。
 さらにイスラームは、聖職者を置かず、学者がそれに代わる。ユダヤ教ではラビ、キリスト教では神父や牧師がミサや礼拝を導き、信者を牧する。
 救世主の存在はどうだろうか。キリスト教では、イエスが救世主とされているが、ユダヤ教ではまだ救世主は現れておらず、今も待ち続けている。イスラームでは、イエスもムハマンドも預言者で、救世主ではないが、一部のイスラームはマフディーを救世主とする。
 聖典は、キリスト教は旧・新約聖書、ユダヤ教は(旧約)聖書(タナハ)。そしてイスラームでは、クルアーン(コーラン)だけでなく、モーセ五書と詩編、四福音書も聖典とするが、内容が矛盾する時にはクルアーンを優先する。例えば、アブラハムがささげようとしたのがイサクでなくイシュマエルとするのがその例である(イシュマエルの子孫がムハンマドであるため)。
 預言者は、ユダヤ教とキリスト教では、聖書に出てくる預言者だけだが、イスラームはそれに多くの預言者を加え、ムハンマドを最高の預言者(預言者の封印)と位置付ける。
 この3つの宗教がエルサレムを聖地とすることも興味深い。そこには紀元70年までユダヤ教の神殿が存在しており、キリスト教にとってはイエスの十字架と復活の地だ。イスラームでは、ムハンマドが天馬に乗って昇天した場であり、アブラハムが愛児をささげようとしたとされる岩の上に金色のドームが現在建っている。
 1945年に第二次世界大戦が終了し、それ以降も宗教に起因するとされる民族間の紛争が起こっている。黒川さんはそれをこのように解説する。
 「第一次中東戦争が1948年に勃発し、今もなおパレスチナ問題は続いている。これはユダヤ教とイスラームの宗教対立のように見えるが、実はそうではない。経済的・政治的な危機による独立運動や領土獲得を目的とした民族紛争だ。北アイルランド紛争はカトリックとプロテスタントの紛争、レバノン内戦はキリスト教とイスラームの紛争とされているが、これも政治経済的・社会的背景による民族紛争。これが政治学専門家の一致した見解だ。メディアの情報によってそれが『宗教戦争』とされ、イスラームへの偏見が高まっているが、もともとイスラームの世界観は『平和の家』を拡大することにある。これはすべてのイスラーム教徒の義務であり、神への奉仕でもある。偏見をもって彼らを見ることはしてはならない」
 最後に、9月に来日したパレスチナ人のムニブ・ユナン氏の言葉を紹介した。ルーテル世界連盟議長を5月まで務め、今年、カトリック教会のローマ教皇と共同声明に署名し、2005年には、イスラームやユダヤ教の指導者らと共に聖地宗教評議会を立ち上げた人物だ。
 「私たちはいま、『隣人愛の危機』に直面しています。隣人を愛するとは情緒的なことではなく、自分と異なる人たちの多様性を知り、その痛みを理解することです」(朝日新聞9月22日付)
 この言葉を読み上げ、黒川さんは次のように講演を締めくくった。
 「ユダヤ教、キリスト教、イスラームは同じルーツを持つ一神教の宗教。現今のさまざまな紛争をあたかも宗教戦争のようにメディアは報道するが、決してそうではない。かつて神学論争から展開したカトリックとプロテスタント間の宗教戦争は、1648年のウェストファリア条約により和解して終焉(しゅうえん)した。神学論争の一切ない現今の紛争は、社会経済的要因による民族紛争だ。宗教は外見標識にすぎない。このことをぜひ覚えて、他宗教を理解し、平和を希求してほしい」

 ◎上記事は[Christian Today]からの転載・引用です
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エルサレム首都認定、トランプ政権の決断とその波紋 どうして米国はイスラエルを重要視するのか(5)最後に
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