社説:日米密約調査 政権交代の効用生かせ
岡田克也外相が外務省当局に対し、核を搭載した米艦船の寄港などをめぐる日米密約に関する資料を調査し11月末をめどに結果を報告するよう命令した。外務省はこの際、徹底調査し国民の疑念を晴らすべきだ。それが政権交代の効用というものである。
外相が調査を命じたのは1960年の日米安保条約改定時の「核持ち込みに関する密約」と「朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動に関する密約」、72年の沖縄返還時の「有事の際の核持ち込みに関する密約」と「米軍用地の原状回復費の肩代わりに関する密約」の計4点だ。
日米安保条約の改定では核兵器の日本への持ち込みは事前協議の対象とされたが、当時の日米合意では核兵器搭載艦船の寄港・領海通過は事前協議の対象としないことが確認されていた。また、朝鮮半島有事の際は米軍が事前協議なしに在日米軍基地から出撃することも認めていた。
これらの密約は米側の公文書などで明らかになっているが、核搭載艦船に関する密約については日本側でも村田良平・元外務事務次官が次官就任時に文書で引き継ぎを受け後任にも引き継いだと証言している。
有事の際の沖縄への核再持ち込みについては、日本が事実上拒否しないことを首脳間で合意していた。これは佐藤栄作首相(当時)の密使として米側との交渉にあたっていた元京都産業大学教授の若泉敬氏が著書で明らかにしている。沖縄返還をめぐる米軍用地の原状回復費の肩代わりについては、日本側担当者だった吉野文六・元外務省アメリカ局長が密約の存在を認めている。
岡田外相によると、外務省に残されている日米安保条約関連の資料は約2700冊、沖縄返還関連は約570冊にのぼる。このため、在外公館の職員を一時的に呼び戻して作業に当たらせることも検討しているという。さらに、調査が一定程度進んだ段階で第三者委員会を設置し外務省OBらから聞き取りを行うほか、米国でも調査を行う方針という。
日米密約の背景には米ソ対立という時代状況があったが、いまや冷戦構造は崩壊し国際情勢も大きく変化した。これ以上、密約の存在を否定し続ける合理的な理由はない。岡田外相も「密約問題は国民の不信感を高めている」と言っている。透明度を高めてこそ国民の支持に裏づけられた外交が展開できることを外務省は認識し調査に積極協力すべきだ。
同時に、調査の結果、政府が密約の存在を認めた場合、核の傘を中心とする米国の抑止力に安全保障を依拠する日本として非核三原則との整合性をどうとるのかという問題も整理しておく必要がある。毎日新聞 2009年9月18日 3時36分
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沖縄返還密約訴訟:原告が新政権に期待感
沖縄返還(72年)に伴い、日米両政府が交わした密約の存在を示す外交文書の開示を求め東京地裁で係争中の元毎日新聞記者、西山太吉さん(77)が6日、大分市内で開かれた市民団体の公開講座で講演した。民主党の岡田克也幹事長が次期外相に内定したことについて「岡田氏は政権を取った場合、密約を調べて公開すると言った人。『文書はない』と言い続けている外務官僚がどんな反応をするか」などと公開に向けての期待感を語った。毎日新聞 2009年9月7日 19時32分