復興需要 潤い どこへ/被災地復旧の公共工事/「とんでもない。地元にカネは落ちていない」地元の建設業者

2012-03-10 | 政治

 復興需要 潤い どこへ 
中日新聞 《特 報》 2012/3/9 Fri.
 被災地復旧の公共工事には、地元経済の復興を促す狙いもある。国土交通省は17日、人件費の高騰で被災地の入札不調が続いているとして、労務単価の引き上げを決めた。人手不足が起きるほど、被災地が好況であるのなら結構なことだ。ところが、地元の建設業者たちの間では「とんでもない。地元にカネは落ちていない」という声が飛び交っている。一体、どうなっているのか。(出田阿生、上田千秋)
■労務単価上げたのに・・・
 岩手県16%、宮城県45%、福島県51%-。被災3県で昨年12月に実施された復旧公共工事の入札での不調率だ。国交省が労務単価引き上げに踏み切った理由である。
 岩手県こそ低い数字にとどまっているが、宮城、福島両県ではおよそ半分の工事で、落札業者が決まらないという異常事態になっている。
 ここまで入札価格と予定価格が折り合わない理由は、やはり地元の人件費の高騰にあるのだろうか。現地の様子を見に行った。
 宮城県石巻市。市内の工業港では、小山のように積み上げられたがれきを重機がひっきりなしに行き交って運んでいた。舞い上がる土埃と塵で、目の前が白くかすむ。
 現場近くには幹事会社の鹿島をはじめ、ゼネコンの名前が連なった共同企業体(JV)の事務所があった。隣に「協力会社様」と看板が下げられたプレハブの長屋が見える。「協力会社」とは系列の下請け会社を指す。
 JVは県発注の石巻地区のがれきや土砂の処理事業を請け負っている。現在は、市が一時的に置いたがれきを移動させ、処理プラントを建設するために土地の造成をしているという。
 落札価格は1923億6千万円。県の担当者は「復興工事の資金は地元に還元されなければ。JVからは『1日当たり1250人、延べ67万4千人の地元雇用を目標にする』という内容の計画書が提出されている」と説明した。
 さぞかし、地元は活況を呈しているのでは-と思いきや、市内の土木建築業者は首を振った。
 「儲かるのは元請けと一次の下請けまで。二次以下は利益にならない。ゼネコンは人と機械をセットで現場に入れる。地元業者は一次下請けにさえ入れない。結局、地元にはカネが落ちない仕組み。この構造は震災の前と後で変わらない」
 実際、市内には復興工事のために県外から大勢の作業員が押し寄せている。三陸道のインター近くには、新しいプレハブの建物が建っていた。造りから仮設住宅とよく間違えられるというが、遠隔地から来る業者向けの宿泊施設という。
 この施設の女性マネジャーは「もともと石巻はホテルが少ない。市内に宿泊施設をつくってほしいという強い要望に応えた」と話す。2月下旬にオープンし「土木関係のお客さまを中心に3月は満室です」という。
 県発注工事では、入札業者が事前に県に提出する文書に「地域性」という項目がある。下請けに地元業者を積極的に使うという約束だ。それなのに、なぜ「外国人部隊」が多いのだろうか。
■重機流出 資材は高騰 受注競争 地元勝てず
 この石巻市の業者は「地元重視は、実際には機能していない。からくりがある」という。
 「ゼネコン側は『このぐらいの金額で仕事をしてほしいと地元業者に提示したが、折り合いがつかなかった』と県に説明する。その後、長年付き合いのある県外の系列業者に仕事を回す」
 ゼネコンの提示した値段で受注すれば、確実に赤字になるという。「会社の体力の弱体化」も追い打ちをかけている。被災地の業者の多くが社員を失い、社屋や機械、資材を流された。この業者も重機11台のうち、10台が津波で壊された。
 「減価償却済みの機械を使うのならともかく、被災後に購入したり、リースの機械で、ゼネコンの提示する額での仕事をこなしていては、到底割に合わない」
 福島県浜通り地方の建設業者も苦境を嘆く。
 「外から出稼ぎに来られているようなもの。資材が高く、工事を落としても儲けが出ない。資材の購入能力ではゼネコンに歯が立たないし、大きな仕事は会社のランク(入札の等級)から単独では落とせない。そのため、ゼネコンの下請けに入るしかないが、他県からのゼネコン系列業者との競争には勝てない」
 今回の労務単価の引き上げも、こうした状況を変えられそうにない。50職種の労務単価の平均上げ幅は、宮城県で約7%、岩手、福島両県では約3%。「普通作業員」の8時間当たりの単価は岩手県は1万1800円、福島県は1万700円でそれぞれ据え置き。宮城県も1万1100円から700円上積みされた程度だ。
 国交省建設市場整備課の担当者は「被災地の企業や統計などを調べた上で、総合的に判断して出した数字。実勢に近いものと考える」と話す。
 だが、福島県建設業協会の高木明義専務理事は「今まで一年に一回だった単価の見直しを3カ月ごとにするとした点は評価できるが、納得できる上げ幅ではない。状況は変わらないだろう」と不満を隠さない。
 高木専務理事はここ十数年、公共工事が減り続けてきた影響もあるとみる。「一度、人を減らしてしまうと、いまだ品薄で高値の生コンが示すように、業者の体力はすぐには元に戻らない」
 被災者自らが復興事業で報酬を得て、生活再建する仕組みを提唱している関西大の永松伸吾准教授(災害経済学)は「技術力が必要な大規模工事を早急にやるには、地元の中小業者を優先させるにも限度がある。非常に難しく、同時に古典的な問題だ」と指摘する。
 入札の不調が相次いでいる現状については「土木建築の業界内で、ミスマッチが深刻になってきている」と分析する。
■識者「情報集め 被災地企業仲介を」
 とはいえ、少しでも大手ゼネコンが被災地以外の系列業者に発注しがちという現状を、地元業者重視に転換させるにはどうしたらいいのか。
 永松准教授は「どの業者が、どのくらいの仕事ができる-という地元業者の情報をとりまとめ、工事の情報と照合し、発注側と受注側の両者を仲介する作業が有用ではないか」と提案する。
 同准教授は震災直後から被災地入りし、寄付金で失業した被災者を雇用し、清掃に取り組むといった活動を見てきた。「いずれの例も成功の秘策は地元住民が立ち上がったこと。復旧公共工事の問題も地元業者が団体をつくるなどして、声を上げていく必要がある」
<デスクメモ> 現下の経済危機の底に小泉改革の傷が見える。徹底した市場原理主義は談合排除の名の下、中小零細の土建業界を追い込んだ。そのツケが復興の遅滞の一因になっているという指摘は強い。企業年金を消した投資顧問会社事件でも、この業種を登録制に緩和したのは改革だった。「痛み」は続いている。(牧)


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