山城新伍さん「人は生まれながらにして人間や。平等でなきゃならんのや」父から学んだ平等意識

2009-08-17 | 社会

【放送芸能】
山城新伍さんを悼む 軽妙さの裏に硬派な一面
2009年8月15日 東京新聞朝刊
 十二日に亡くなった俳優の山城新伍さん(享年70)。「白馬童子」でさっそうと登場した後は、やくざ映画でのこわもてのイメージ、バラエティー番組ではおちゃめなもの言いの「チョメチョメ」が流行するなど、多芸だった。一方で、権威や差別に歯向かう硬派な側面も持ち合わせていた。山城さんの芸能人生を振り返ってみた。
 口八丁手八丁のイメージもあった山城さんも、病魔には勝てなかったようだ。特別養護老人ホームでの最期は、無念だったろう。
 映画好きの開業医の父の影響を受け、七歳ごろから映画館通い。「会議は踊る」や「人情紙風船」に「河内山宗俊」などに夢中になった。
 一九六〇年に子供向けのテレビドラマ「白馬童子」で二枚目アイドルからスタートしたが、東映時代劇の衰退とともに、主役から遠ざかる。その後は、「仁義なき戦い」シリーズなどやくざ路線で、セリフなのかアドリブなのか分からないとぼけた味でユニークさを見せた。
 七〇年代に入ってからは、NHKの連続テレビ小説「おはようさん」でさわやかな中年を演じる一方、夜は民放バラエティー番組の司会者として、痛烈なギャグを飛ばすなど、変幻自在な才を発揮した。ギャグには、美しいものの仮面をはぎ、正義の裏を暴くという一面があった。
 八〇年公開の「ミスターどん兵衛」という、川谷拓三さんとの絶妙の掛け合いで人気となったCMを題名にした映画を企画・製作・脚本・主演・初監督し、一人五役。作品の中身は、そのインスタントめんとは全く関係のないものだった。当時、黒沢明監督が「影武者」を撮っていて主役の勝新太郎さんとトラブルに。黒沢監督が勝さんを降ろしたばかりのときで、こんな映画界の権威主義を風刺した内容になっていた。
 「黒沢監督は、勝さんを想定した企画を立てたのだから、ケンカしながらでも勝さんとやるべきじゃないか。それが完全主義というもの」と、評していた。また、「節操なくテレビの仕事をしていると映画人でなくなる感じがし、一層映画にかかわりたくなる」とも語っていた。
 多方面で活躍したが、反骨精神を持った映画人だったといえよう。 (大谷弘路)
◆医者の父から学んだ平等意識
 山城さんは、日清食品「どん兵衛」のCMで、ひょうきんのイメージがお茶の間に浸透したが、一九九七年、「現代・河原(かわら)乞食(こじき)考」と題したエッセーを出版、独自の「反差別論」を展開するなど、硬派な一面も見せた。異色本の原点となったのは幼少年時代の体験である。
 山城さんが生まれ育ったのは京都。父親が開業する医院の周辺には在日韓国・朝鮮人が住む地域や被差別があった。どんな患者とも分け隔てなく接し、治療代が払えなくても診療したという。ある日、来院した韓国・朝鮮人の名前の発音を笑ったとき、父親からこっぴどく殴られた。「その国の人たちの誇りであり文化である言葉や名前を、おもしろいっていうおまえの解釈だけで笑った」との理由だった。父親からは「人は生まれながらにして人間や。だから平等でなきゃならんのや」と、幼いころから繰り返し言い聞かされた。
 差別問題を身近に感じながら育った山城さんは、「もうからん医者なんてまっぴら」と役者の世界に飛び込んだが、芸能界も差別と無縁の世界ではなかった。エッセーのタイトルにある河原乞食は、中世から近世にかけ、芸能人を蔑視(べっし)した呼称。山城さんは、本の中で「日本の芸能文化は、虐げられた底辺の民衆が不屈のエネルギーでつくってきた」と強調。今もなおさまざまな差別が残る社会への批判も織り込んだ。
 「ハミダシ者であること、少数意見を吐くことを恐れていては、プロの役者を張ってはいけない」。歯に衣(きぬ)着せぬ発言、毒舌で知られた山城さんの思いが、生前に遺(のこ)した言葉の中に凝縮されている。 (安田信博)

http://www.impala.jp/bookclub/html/dinfo/10305308.html


2 コメント

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不平等 (田中洌)
2009-08-17 19:49:29
これを読んで思い出したというより、常々感じていることを思いだしたのは、ドストエフスキーだ。
「作家の日記」だったか、あるいは「死の家の記録」だったか。

ぶち込まれた彼は、思っていた。

●おれにゃいまだに分からん。それはな、同じ犯罪に対する刑罰が不平等だということだ。実際、どんな犯罪も、“互いに似ている犯罪だ”ということは、ありえないぜ。●

死刑をくらい、減刑され、五年ほど入っていて、頭から離れなかった切実な問題が、そいつだ。

後々教導されるのは別にして、いたるところで働いてきて、平等というのは、事実、生々しく人間的だと、おれも思う。

不平等が当たり前なら、どうして、おれたちゃ、泣いたり、躍りこんだり、悲しんだり、自殺したりする?

淡々と死んで行くさ。

平等だからこそ、そうはいかんのさ……。

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Re:不平等 (ゆうこ)
2009-08-18 10:37:31
田中さん。コメント、心よりありがとう。
 不平等については色んなところで書かれていると思いますが、上に挙げていらっしゃるのは、「死の家の記録」だったかと記憶します。

 前に戴いたコメントですが、「生活保護を受けているくせに」といった暴言が全く問題とされなかった・・・心に滓のように溜まっています。
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