中日新聞【社説】鉄鉱石寡占化 国際協調が欠かせない
2010年4月26日
公正取引委員会が豪州の資源大手二社の統合審査の準備に入った。日本の鉄鉱石は過半を二社に頼り、一段の寡占化は消費者にも影響が及ぶ。公正競争を保つにはEUなどとの協調が不可欠だ。
統合を予定しているのは、豪州で鉄鉱石などを採掘している英豪系資源メジャーのBHPビリトンとリオ・ティントの二社。鉄鉱石の世界貿易量は、ブラジルのバーレを加えたわずか三社で八割前後を占める。
統合すると鉄鉱石の大半が豪州とブラジルの二社に牛耳られるほか、世界の主要な採掘権も二社が握ることになる。産出量の調整などで市場原理によらない不合理な値上げが起きかねない。
資源メジャーは同業他社の買収を繰り返しながら鉄鉱石を囲い込み、急速に価格決定力を強めてきた。今や価格競争は起きにくく、買い手が資源メジャーの言い値で押しきられてしまう異様な価格交渉が常態化しているという。
中国の粗鋼生産量は毎年、日本の総生産量、年間一億トンに匹敵するペースで増え続けている。鉄鉱石の価格は新興国の旺盛な需要を背景に、四~六月は前年度に比べ二倍の大幅値上げとなった。鉄鋼原料用の石炭も急騰している。
日本の鉄鋼業界が神経をとがらせているのは資源メジャーによる人為的な価格操作だ。価格は今世紀に入って一トン=三十ドルから百三十ドルに四倍値上がりし、世界金融危機後は需要が激減したにもかかわらず値下がりは上昇幅の半分にとどまった。既に寡占化の弊害が生じている-との指摘もある。
欧州連合(EU)や韓国なども二社の統合には警戒を強めており、公正な競争を阻害しないかなどの審査を一斉に始めた。
それに引き換え、一九九九年の独占禁止法改正で海外の企業同士の統合も審査できるようになった日本の公取委は今回が初の審査となる。公取委は国際カルテルの摘発事例も決して多くはない。
EUなどと協調しなければ、価格支配力を強める資源メジャーを押し返せないだろう。
値上がりが自動車向け鋼板などに転嫁されれば影響は消費者に及び、関係業界の収益も圧迫して日本経済の回復にも水を差す。
公正な競争を損なうと判断すれば毅然(きぜん)として統合を排除せねばならない。公取委は迅速かつ実効性ある判断を下すため、各国との連携を密にし、寡占化がもたらす弊害を封じるべきだ。