山口光市母子殺害事件 最高裁弁論要旨

2007-05-30 | 日録

 工事中 時間要するが、HPに。

http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/colum-menu.htm

FORUM 90 VOL..87(2006年05月24日フォーラム90実行委員会発行)
光市事件における最高裁弁論要旨
 なぜ光市事件の最高裁弁論を掲載するのか
 以下に紹介するのはいわゆる「光市母子殺人事件」において、最高裁第三小法廷で、4月18日に弁護人から語られた弁論の要旨である。この事件で、当初予定されていた3月14日の口頭弁論に弁護人が欠席したことに対し、マスコミで批判的な報道が盛り上がった。それに煽られたかのように、弁護士への個人攻撃、ひいては死刑廃止運動をも中傷する声が溢れかえった。そして、少年事件(事件当時被告は18歳1ヵ月)にも死刑を適用しようとする動きが強まっている。
 もちろん、そうした動きに対して警鐘を鳴らす報道もあった。しかし、マスコミがこの事件に割ける時間や紙面にはいずれにせよ限界がある。弁護団が主張している「事実に即して事件をとらえなおす」ことの重要性は、一般論としては紹介されても、具体的な内容にまではほとんど踏み込めていない。
 改めて明記しておかねばならない。この事件は1審、2審とも無期判決であった。検察は被害者遺族の声を楯として上告審にもちこんだのである。そもそも現行の量刑基準とされている1983年の永山事件の最高裁判決に照らしても死刑が相当ではなかった事件なのだ。それどころか、新弁護団は本弁論において、1審、2審の無期判決ですら重すぎると、新証拠に基づいて訴えている。
 私たちフォーラム90は、これまで個別の事件については直接かかわらないという姿勢を保ってきた。今回、あえて光市事件の最高裁での弁護人弁論を掲載するのは、この事件を通して検察側が死刑の適用範囲の拡大を求め、最高裁がこれに応えて一歩大きく踏み込もうとしているからだ。ある意味で死刑存置と廃止のせめぎ合いの場に、最高裁によってこの裁判は設定されてしまっている。そして「凶悪さ」を煽る報道と弁護人批判という形でマスメディアが最大限利用されている。
それも断片的で誤った情報をもとにして。だからこそ事実に即して事件をとらえなおすために大幅にページを割かざるをえなかった。読み通していただけた方には理解していただけるものと思う。
 なお無期懲役とした1審、2審の判決文、この弁論の主張を裏づけする鑑定書等の全文、さらには上告審における検察の主張も紹介したかったが、それにはとても紙面が足りないので、ご了承いただきたい。
 掲載にあたっては、編集部の責任において一部匿名とした。

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平成14年(あ)第730号
弁論要旨
最高裁判所
第3小法廷 殿
 被告人○○○○に対する殺人等上告事件に付き、以下のとおり、弁論をする。
2006年4月18日
弁護人 安 田 好 弘
同    足 立 修 一

第1 弁護人が裁判所に求める裁判
 1 弁護人が、裁判所に対し求める裁判は、以下の3点である。すなわち、
 ① 検察官の本件上告を棄却すること。
 ② 原判決には著しく正義に反する事実誤認があることを理由に原判決を破棄し、原審に差し戻すこと。
 ③ 本日をもって弁論を終結することなく弁論を続行し、さらに弁護人をして弁護の機会を保障すること。
 である。
 2 被告人は、MAさんに対し、殺意をもってその頸部を圧迫したことはなく、従ってその行為は傷害致死にとどまる。またMUちゃんに対しても同じく殺意をもってその頸部を紐で緊縛したことはなく、従ってその行為も傷害致死にとどまる。
 しかるに、検察官は、被告人の本件行為が、殺人、強姦致死、殺人に該当するとし、原判決の無期懲役の量刑は著しく正義に反して軽いとして本件上告をする。しかし、被告人の本件行為は傷害致死罪及び死体損壊罪にとどまるものであって、検察官の本件上告はその前提たる事実に既に誤りがあり、これが失当であること明白である。
 3 また、原判決は、被告人が殺人及び強姦致死について無罪であるにもかかわらず、誤ってこれを有罪であると判示し、そもそも2年以上の有期懲役刑しか宣告できないにもかかわらず、無期懲役を宣告しており、これが著しく正義に反する事実誤認であるばかりか、重大な法令違反であることは明らかである。従って、原判決は破棄されなければならない。
 4 私たちは、本年2月27日に被告人と接見し、弁護人に就任した。
 私たち弁護人は、如何に結果が重大であり、その行為がおよそ許されないものであったとしても、事実は決してないがしろにされてはならないと考える。まず、事実を究明して真実を明らかにし、その上で、その刑責を量る、これが弁護士、検察官、裁判官の共通の責務であり、司法の役割であると考える。
 このような職責が誠実に履行されず、あるいはその履行が保障されないのであれば、それはもはや裁判とは言えないと考える。それは単なるリンチというほかなく、法治主義の下にある現在の日本にあっては、決してそのようなことがあってはならない。
 私たち弁護人は、被告人との第1回目の接見の当座から、被告人から、「強姦する目的でMAさんに抱きついたのではない。寂しくて。寂しくて。つい家の中に入れてもらったMさんに、優しくしてもらいたいという甘えの気持ちから、抱きついてしまった」ということを告げられた。そして次には、「MAさんに抵抗されて、パニック状態に陥り、もうその後はもう無我夢中、何が何だかわからないまま結局、MAさんを姦淫してしまった」と訴えられたのである。
 それ以来、弁護人は、被告人がほとんど持っていなかった刑事記録を次々と差し入れ、被告人と一緒になって一つ一つの記憶をたどり、他の証拠と突き合わせていくとともに、法医学者にして元東京監察医務院院長である上野正彦博士に意見を聞くという作業を本日まで行ってきた。
 しかし、弁護人と被告人がやりとげることができたのは、未だほんのわずかにとどまる。弁護人は、彼に対し、まず、事実から逃げることなく、正面から事実に向き合うこと、その上で、有利不利を問わず、手足の動作や心のヒダの動きに至るまでの一切の出来事を、そっくりそのままに明らかにしていくことを求めている。最初こそ彼との間に軋轢があったものの、この1ヶ月半の期間に彼は、その必要性を十分に理解するに至った。
 彼は事実と向き合うことによって、初めて、反省悔悟の気持ちも本物になることを理解し始めたのである。事実をないがしろにしている中にあっては、およそ贖罪もあり得ないことを知ったのである。
 事実の見直しは、未だ端緒についたばかりである。遅まきながらも、本件被告人にも十分な弁護を受ける機会が保障されるべきである。そのためには、是非とも、時間が必要である。このことは、私たちにおいて3ヶ月の期間の猶予を、被告人にあっては6ヶ月の期間の猶予を求めているとおりである。
 弁護人は、裁判所に対して、弁論を本日で終結することなく、続行して弁護の機会を保障することを求めるものである。
 以下、各別に述べる。
 
 
第2 検察官の上告はなぜ棄却されなければならないのか。

 1 検察官の上告理由
 検察官は、本件被告人の犯行、とりわけ二人に対する殺害態様において、その殺意は強固でありその殺害の手段も執拗であり、その冷酷さは首筋が凍る思いを禁じ得ないほどの人倫にもとる比類のない悪質なものであって、その罪責は誠に重大であり、最高裁判例の基準に照らせば、本件は正しく死刑を適用すべき事案であると主張する。
 すなわち、検察官は、
 ① MAさんにあっては、被告人が背後からMさんに抱き付き、Mさんに騒がれるや、仰向けに引き倒し、馬乗りになって、
  1) Mさんの喉仏部分を両手親指で指先が真っ白になって食い込むまで強く抑え付けたが、Mさんが死に至るどころかより激しく抵抗をし続けたことから(資料1~4)、
  2) 今度はより確実にMさんを殺害しようと考え、両手でMさんの頸部をつかみ、自己の体重をかけながら頸部を圧迫して絞め続けたところ、Mさんの抵抗が止り、その両手が床の上に落ち、全く無抵抗の状態になったにもかかわらず(資料5~10)、
  3) 被告人は、Mさんを確実に死に至らしめるため、なおも頸部を絞め続けて殺害したとし(資料5~10)、
 ② MUちゃんにあっては、泣き止まないUちゃんに激昂して、Uちゃんの殺害を決意し、
  1) Uちゃんを頭の上の高さに持ち上げ、その後頭部から居間の床に思い切り叩き付けたところ、一瞬泣き声がやんだものの、被告人の意に反してUちゃんが絶命せず、かえって激しく泣き出したため、
  2) Uちゃんの首を締め付けて殺害しようと考え、両手でUちゃんの頸部をつかむようにして絞め付けたが、首尾よく締め付けることができなかったことから(資料20~23)、
  3) 最終的には、ズボンのポケットに入れていた紐を同児の頸部に巻き付け、その両端を力一杯引っ張ってUちゃんを絞殺した(資料24、25)
 と主張する。
 しかし、以下に述べるとおり、上記の検察官の主張は、いずれも検察官によってねつ造されたものであって、全く事実に反する虚偽のものである。

 2 事案の真相その1・・・MAさんについて
 (1)両手親指による扼頚はなかった
 まず、検察官は、MAさんについて、被告人が、Aさんに馬乗りになって(以下工事中 来栖)


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