Listening:<どう動く>集団的自衛権・識者に聞く 北岡伸一・安保法制懇座長代理
毎日新聞 2014年04月16日
*見捨てられる危機
集団的自衛権の行使容認を巡る議論が活発化している。国内外の有識者にインタビューし、論点を整理する。
「中国の軍備拡張や北朝鮮の核・ミサイル開発で東アジアの安全保障環境は悪化している。軍備増強で対抗するのが一般的なのだろうが、日本はそうした手段をとらない。代わりに集団的自衛権の行使を認めて日米同盟を強化し、守りを固めようとしている。これは穏健なやり方だ。
外国からの侵略を独力ではね返せる国は多くない。だから親しい国と連携して対抗する集団的自衛権が国際法上認められている。政府は憲法9条が許容する『必要最小限度の自衛権の行使』に集団的自衛権は含まれないと解釈してきたが、これは国際法の常識から外れ、間違っている。解釈を見直さなければいけない」
集団的自衛権とは、自国と密接な関係にある外国が武力攻撃を受けた場合、自国が直接攻撃されていなくても実力で阻止できる権利のこと。国連憲章51条で認められているが、政府は憲法解釈で行使を禁じてきた。安倍晋三首相は第1次内閣の2007年に私的懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)を設置し、行使に道を開こうとしたが、報告書がまとまる前に退陣。後任の福田康夫首相(当時)は報告書を棚上げした。第2次安倍内閣で再開した安保法制懇は14人中13人が当時と同じメンバー。安倍首相の思い入れは強い。
「今の日米安全保障条約ができて50年以上たった。日本は力をつけ、国際情勢も変化した。日米同盟を手入れしなければならない。例えば、米国がある国から攻撃された際、その国へ軍事物資を運ぶ船を検査する。あるいは日本近海で攻撃を受けた米艦船を助ける。いずれも集団的自衛権の行使にあたるが、自衛隊がこうした任務をできるようにすべきだ。
同盟には必ず、見捨てられる危機と巻き込まれる危機がある。昔のように米国が圧倒的に強い状況ではない。明らかに腰が引けており、今あるのは見捨てられる危機だ。米国を何とか引きとめなくてはいけないのに、米軍が襲われても助けるのは嫌だという都合のいいことはできない」
ヘーゲル米国防長官は6日、小野寺五典防衛相との会談で、集団的自衛権を含む安倍政権の安全保障政策を「支持している」と踏み込んだ。首相は安保法制懇の新たな報告書がまとまるのを受けて政府方針を作り、与党との協議に入る。夏には憲法解釈変更を閣議決定し、年末の日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しに反映させたい考えだ。
「1959年の最高裁砂川事件判決が集団的自衛権の行使を認める根拠になるという主張があるが、決定的ではない。行使容認の是非は、個別的自衛権だけで本当に国を守れるのかという問題意識で議論されるべきだろう。集団的自衛権は基本的に抑止のためのものであり、外国による侵略の可能性を少しでも減らすのが目的だ。日本は戦後、個別的自衛権を行使したことは一度もない。集団的自衛権もそうなるはずだ」
政府・自民党内では集団的自衛権を限定的に認めるべきだという見解が有力になりつつある。首相も8日のテレビ番組で限定容認論に同調し、「安保法制懇でも主流的になりつつある」と述べた。しかし、具体的な線引きは難しく、逆にあいまいなままでは行使容認に慎重な公明党が納得しない。報告書提出は5月半ばになる見通しだ。【構成・青木純、写真・小関勉】=随時掲載
■人物略歴 きたおか・しんいち
1948年、奈良県生まれ。東京大卒。東大教授、政府国連代表部次席代表などを経て、現在は国際大学学長を務める。専門は日本政治外交史。主な著書に「日本陸軍と大陸政策」「清沢洌」などがある。
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