親族有権者リスト作成 防衛局、職員に指示
琉球新報2012年2月1日
沖縄防衛局(真部朗局長)が宜野湾市長選(12日投開票)に向けて、職員の親族の有権者リストを作っていたことが31日、明らかになった。共産党の赤嶺政賢衆院議員が衆院予算委員会で局内の指示メールの存在を明らかにし、防衛省関係者も認めた。防衛局は投票権がある職員と親族がいる職員のリストを作成し、職員を集め真部局長が講話していた。同局関係者によると、真部氏は2人の立候補予定者の政策を説明して実名は挙げなかったが、出席者は間接的に日米安保、自衛隊を容認する保守系の立候補予定者への投票を促すものと受け取っていた。事実上の選挙運動との批判や個人情報保護法や自衛隊法、公職選挙法に違反するとの指摘が出ている。政府内には真部氏の更迭は不可避との見方も出ており、普天間飛行場の返還・移設問題は一段と混迷を深めている。
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律では、行政機関の個人情報保有は法令の定める所掌事務に必要な場合に限っており、業務外の選挙への対応でリストを作成、保有したことは同法に抵触することが濃厚だ。防衛局総務課人事係が宜野湾市に選挙権を有する職員と、職員の親族を報告するよう部内メールで求め、リストを作成した。藤村修官房長官は31日の会見で「事実確認をしなければいけない重大な事案だ。厳正に対処する」と述べた。
真部氏は同日夜、「調べられている立場なので事実関係は申し上げられない。多くの方々にご迷惑を掛け反省している」と陳謝。自身の進退については「防衛省が事実認定と評価をする」と述べ、省の判断に従うとの姿勢を示した。
赤嶺氏が公表した部内メールによると1月4日、同局総務課人事係が各部庶務宛てに、職員に宜野湾市に選挙権を有する親族の状況を6日までに報告するよう指示。18日付メールでは把握した職員を「聴講者リスト」にまとめ、23、24の両日の局長講話を「必ず聴講するよう職員に通知願います」と連絡した。
田中直紀防衛相は衆院予算委で「そういうことはあってはならない。事実関係を明確にしたい」と述べた。防衛省は同日午後、槌道明宏秘書課長らを沖縄防衛局に派遣。真部局長ら数人を事情聴取し、帰京した。沖縄防衛局の池田欽吾報道室長は「本省が調査中であることから当局としては回答などは差し控えたい」と述べた。防衛省の鎌田昭良官房長は1日午前の衆院予算委員会理事会であらためて説明したいと述べた。
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防衛局選挙介入 公僕にあるまじき行為
琉球新報2012年2月1日
2月12日投開票の宜野湾市長選挙へ向け、沖縄防衛局が同市に在住する職員や選挙権を有する親族を持つ職員の名簿を作成の上、該当する職員に真部朗局長の講話を聞くよう指示していたことが明らかになった。
衆院予算委員会で共産党の赤嶺政賢氏が防衛局の人事係が局内各部の庶務担当に送ったメールの内容を「内部告発」として暴露した。告発通りなら公務員の政治的中立性への疑念を招き、防衛局の組織ぐるみの選挙妨害とされかねない大問題だ。国家公務員法違反や公職選挙法違反に問われる可能性がある。田中直紀防衛相は直ちに真相を究明し県民に説明すべきだ。
国家公務員法102条1項【政治的行為の制限】では「職員は、政治又は政治的目的のために(中略)選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない」と明記。これを受けて人事院規則は「政治的目的のために職名、職権又はその他の公私の影響力を利用すること」など17項目を「政治的行為」として規定し、職員に禁じている。
赤嶺氏は「内部告発」を職権を使った「指示、命令」と位置付け、「講話は勤務時間中に庁舎4階の講堂で行われている。国家権力による選挙の自由への不当な介入ではないか」と防衛相を追及した。告発内容は日時、場所、指示内容など具体的で、信ぴょう性が高い。
防衛局が市長選挙で一方の当事者に肩入れし、普天間飛行場の名護市辺野古移設を強行する環境整備を画策したのなら、公僕にあるまじき行為であり、民主主義を否定する暴挙というほかない。
防衛省はどう釈明するのか。組織ぐるみの選挙介入となれば、現地責任者の真部局長はもとより、防衛相も監督責任を免れない。
防衛省への県民の信頼は失墜している。昨年末から田中聡前沖縄防衛局長の暴言、1995年の米兵少女乱暴事件をよく知らないと述べた一川保夫前防衛相、普天間第二小学校の騒音被害を軽視するかのような田中防衛相と、不適切発言が後を絶たない。
大多数の県民が普天間の県外・国外移設、撤去を訴えても取り合わない政府の姿勢は罪深い。沖縄は無視しても構わないのか。米国では在沖海兵隊の撤退論が広がるなど変化が起きているのに日米両政府の思考停止ぶりは嘆かわしい。
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クローズアップ2012:沖縄防衛局が有権者リスト 失態続き不信増幅
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題が争点となる宜野湾市長選(2月5日告示、12日投開票)に防衛省沖縄防衛局が組織的に関与した疑いが31日、浮上し、普天間移設問題は再び防衛省の失策で混迷を深める形になった。「有権者リスト」の作成や局長による「講話」が事実となれば、沖縄の政府に対する不信感がさらに増幅されるのは必至。担当する田中直紀防衛相は31日の国会答弁で訂正や陳謝を繰り返し、野党が野田内閣を揺さぶる「問責カード」の格好の対象となってきた。
◇防衛相、野党の標的
「国家権力による選挙の自由への不当な介入ではないか。こんなことが許されるのか」
31日の衆院予算委員会集中審議で、共産党の赤嶺政賢議員は沖縄防衛局内でやりとりされたメールの内容を紹介しながら、同局の宜野湾市長選への関与を追及した。田中防衛相は「そういう事実があってはいけないので、事実を明確にしたい」と調査を約束した。
予算委では、普天間飛行場の同県名護市辺野古への移設に向けた環境影響評価(アセスメント)の評価書提出の経緯も野党が追及。昨年末、反対派の抵抗を避けるため防衛局職員が未明に搬入する異例の対応がかえって沖縄側の反発を強め、田中防衛相は「その判断が良かったかどうか、大変反省をしている」と釈明に追われた。
日米合意に沿った辺野古移設を目指す野田政権だが、沖縄をめぐる「失態」が目立つ。昨年11月下旬には評価書提出のタイミングに関連し、前沖縄防衛局長が沖縄県民や女性を侮辱したと受け取れる発言をして更迭。12月には、一川保夫前防衛相が95年の米兵による沖縄少女暴行事件について「詳細には知らない」と答弁したことなどで参院で問責決議を受けた。評価書提出の混乱に加えて、さらに浮上したのが今回の有権者リスト問題だ。
事実なら「行政に対する信頼を揺るがす問題で深刻」(政府関係者)だが、「特定候補を応援するような話なんてするわけがない。選挙に行くようにという内容だけなら問題ない」(防衛省幹部)と擁護する声もある。野田政権としては沖縄側の反発や野党の出方を見極めながら、真部朗(まなべろう)局長の処分を検討することになりそうだ。
自民、公明両党は当面、「(両党が推薦する)佐喜真淳県議を支援する内容だった可能性もある」(自民党幹部)とみて、調査結果を見極めるなど慎重に対応する考えだ。自民党の脇雅史参院国対委員長は31日の記者会見で「事実関係が明確にならないと論評しようがない。今の段階では何とも言いようがない」と述べた。
防衛省の武田博史報道官は記者会見で「本省からそういった話をすることは考えにくい」と本省の関与を否定。野党側がこの問題で田中防衛相の責任追及に動くかは微妙だが、自民、公明両党は参院で問責決議案を突きつける問題閣僚の最有力候補として田中防衛相への攻撃を強めており、問責理由の新たな材料が加わった。【西田進一郎、朝日弘行】
◇答弁、何度も訂正と陳謝 陸自警護「バングラデシュ」知らず 「どこか決まってない」
31日の衆参両院予算委員会では田中防衛相が答弁の訂正や陳謝を繰り返し、質問と答弁がかみ合わず立ち往生する場面も目立った。
「どこと一緒にやるかは決まっていない」
参院予算委で田中氏が南スーダンに派遣された陸上自衛隊施設部隊の警護を依頼している国について答えると、失笑が広がった。山谷えり子氏(自民)が「役人さん、教えてあげてください」と皮肉を込めて促すと、官僚ではなく渡辺周副防衛相が「バングラデシュ」と助け舟を出した。陳謝を求められた田中氏は「大変申し訳ない」と頭を下げた。
米海兵隊が沖縄に駐留する理由を問われた際も答弁できず、「ペーパーを読んで」などのヤジが飛ぶ中、事務方から渡された資料を棒読み。周りには渡辺氏や秘書官が寄り添い、質問を受けるたびに耳打ちしても繰り返し答弁に詰まる。見かねた民主党の石井一参院予算委員長が「分からなければ分からないと言ってほしい」と叱責する一幕もあった。
「資質」問題に沖縄防衛局の「有権者リスト」問題が加わった田中氏に対し、野党の攻撃が強まるのは確実。野田佳彦首相は任命責任を問われ「就任直後でいささか緊張している向きもあるかもしれない」と苦しい釈明をせざるを得なかった。【福岡静哉】
◇「普天間」抱える宜野湾市長選 元市長と県議、一騎打ち
◇焦る政府、行方を注視
「有権者リスト」問題は、米軍普天間飛行場移設問題の進展へ焦る政府が、宜野湾市長選の行方に神経をとがらせていることをあぶり出した。
同市長選(2月5日告示、同12日投開票)は元市長の伊波洋一(いはよういち)氏(60)=共産、社民推薦=と、県議の佐喜真淳(さきまあつし)氏(47)=自民、公明推薦=が出馬を予定しており、一騎打ちの構図だ。伊波氏は革新陣営に身を置き、一貫して県内移設に反対している。一方、佐喜真氏は市長選で県外移設を訴えるが、かつて条件付きで辺野古移設を容認。仲井真弘多知事の全面支援を受ける。
自民党県連が09年11月に辺野古移設容認から「県外」へと方針転換した際、宜野湾市区選出県議として最後まで抵抗したのが佐喜真氏だ。「県外」主張により移設が遅れ、普天間が固定化しかねないとの理由からだ。6月には沖縄県議選、2年後には名護市長選を控え、沖縄の政治状況を少しでも好転させたい政府側にとって、宜野湾市長選で佐喜真氏が当選すればそのきっかけになるとの期待がある。
辺野古移設に反対する玉城義和・県議会副議長(名護市選出)は「普天間移設が進展しないことに対する防衛局のいらだちや焦りが伝わってくるが、動けば動くほど墓穴を掘っている」と突き放した。【井本義親】
毎日新聞 2012年2月1日 東京朝刊
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