【社説】
橋下知事敗訴 弁護士失格のTV発言
中日新聞2008年10月6日
タレントとしての軽い“乗り”の発言が、他人の名誉を傷つけた。橋下徹大阪府知事が弁護士失格と批判されるのは当然だが、無責任なコメントがはびこるテレビ番組の作り方を変えるべきだ。
山口県光市の母子殺害事件をめぐり、テレビ出演した橋下氏は弁護側主張を「荒唐(こうとう)無稽(むけい)」と批判、弁護団の懲戒請求を視聴者に呼びかけた。これを受けて弁護士会に殺到した請求は退けられたが、弁護団は対応に追われた。
弁護団から橋下氏への慰謝料請求を審理していた広島地裁は、橋下発言には根拠がなく名誉棄損だと認定し、計八百万円の支払いを命じた。マスメディアを通じて懲戒請求を呼びかけたことを不法行為と断定し、軽はずみなコメントを厳しく戒めたのである。
判決文には「少数派の基本的人権も保護すべき弁護士の使命、多数から批判されたからといって弁護活動が制限されたり懲戒されてはならないことを、橋下氏は理解していない」とまである。法律家としての基本常識もわきまえていないと言わんばかりである。
「テレビのトーク番組の軽い乗りでつい…」という言い訳は通らない。高度な専門知識と厳しい倫理観が求められる専門職である弁護士の資格が疑われる。
判決後に橋下氏は謝罪したが、控訴するという。判決は不当ではないと言いながら控訴するのは、法律家として理解しがたい。
歯切れ良さで知られる橋下氏は知事としても「くそ教育委員会」などの刺激的発言が物議を醸すことがある。政治家も弁護士も、説得力ある論理と、それを相手が納得するように説明する言語能力がなければならない。言葉の重さと節度を自覚すべきだ。
橋下発言だけではない。母子殺害事件の報道では、放送倫理・番組向上機構の放送倫理検証委員会から多くのテレビ番組が、刑事裁判の基礎知識不足や公平性、正確性の欠如を指摘された。
情報番組一般に言えるのは軽すぎるコメントの乱発だ。識者として登場する人たちが、専門知識があるわけでも特別勉強しているわけでもないことに安直、無責任に発言する。司会者の多くはいわゆるタレントだ。
視聴率を上げるため、親しみやすく、面白く…情報の本質を伝えることとは無縁の番組作りが橋下放言の背景にあるのではないか。だとすれば単なるタレント弁護士の暴走ではすまされない。
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〈来栖のつぶやき〉橋下氏は、控訴せず、弁護士バッジを返納すべきだ。
http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/kiyotaka/choukaiseikyu2.htm 「光市母子殺害事件弁護団が、タレントの橋下弁護士を提訴へ~テレビ番組での“懲戒請求呼び掛け”発言で」 光市母子殺害事件<橋下知事>「光母子弁護団懲戒」TV発言で賠償命令 判決後の弁護団のコメント 及び 記者会見概要 (平成20年10月2日)