藤田正美の時事日想:中国にどう対抗するべき? 日本外交の未来を考える
*日本にとって中国は最大の貿易相手国。しかし、中国は資源のシーレーンを防衛するため、太平洋進出の野望を隠していない。こうした中、中国の動きに対抗するために、日本はどのような外交戦略をとるべきなのだろうか。
2013年01月07日 00時00分[藤田正美,Business Media 誠]
「アベノミクス」と言うか、「安倍幻想」と言うか、見る人によって変わりそうだが、少なくとも市場は反応している。「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略」を三本の矢として掲げる安倍首相。ここから夏の参議院選挙までは、とにかく景気回復に全力をあげるということのようだ。円はたちまち安くなり、株はたちまち高くなった。
しかし、状況はそう安倍首相が望むようには展開しない。今、アジアの状況は大きく変化している。中国は世界第2位の経済大国になり、さまざまな場面で存在を見せつけている。さらに中国はこれまでの大陸国家から海洋国家へと変貌しつつある。それは中国が、資源や食糧の輸入国に変わってきたからだ。
中国の人民解放軍海軍が初めての空母「遼寧」を就役させたのは昨年だが、さらに2隻を建造中。沿岸防衛の海軍から遠洋艦隊へと脱皮を図っているのも、資源のシーレーンを防衛するためだ。すなわち南シナ海、インド洋のことだ。それらの防衛のためには日本列島から台湾に連なる第一列島線を越えて太平洋に出るルートが必要だが、その1つのルートの上にあるのが尖閣諸島だ。もし尖閣を中国が実効支配できれば、人民解放軍は大手を振って太平洋に進出できるのである。
このような中国とどう向き合っていくのか。これは日本に突きつけられた極めて新しい課題だと思う。最大の貿易相手国で、経済的には相互依存の関係があるとはいえ、相手はこれからも経済発展をしていく国。生産年齢人口は2015年でピークを打つとは言っても、日本のように「衰退国家」になるにはまだ時間がたっぷりある。格差問題や腐敗、国有企業の民営化といった大きな課題をもし徐々にでも解決することができたら、そのポテンシャルはさらに大きくなるだろう。
そして重要なことは、中国はアジアにおいて必ず覇権を求めてくるということだ。それは歴史的必然だと思う。中国に対抗できるだけの力(経済力と軍事力)を備えた国がアジアにない時には、いかに中国指導部が「覇権を求めない」と言っても、国益を追求しようとすればそれは必ず覇権を求めることになる。日本は中国と拮抗するだけの力を持てない。ASEANはまとまれば可能性はあるが、10カ国で利害を調整することは容易ではない。
ロシアも同様である。ロシアは中国に対して強い警戒心を持っているが、資源輸出に頼っている国であり、産業力は弱い。さらにやはり人口が減少している国である。だからロシアはエネルギーを日本に売りたい。今は欧州への輸出が多いが、極東でのエネルギー開発が進めばアジアに売れる。その場合、中国一辺倒になるのは避けたいのだ。その点から言えば、ロシアにとって日本は重要なパートナーということになる。
このような状況下で、日本が中国に対抗していくためには、まずは日米関係が支えにならなければならない。米国も、アジアで中国が覇権を握るのは好ましくないと考えているから、日本や韓国との同盟関係を通じてアジアにコミットしようとしている。その点では日米の利害は一致すると思う。
さらに日本はロシアやASEANと経済的なつながりを強めることが必要だと思う。もちろんロシアの場合は、平和条約を結ぶことも重要なステップだ(ロシアと平和条約交渉が進むだけで中国に対する牽制になるはずだ)。その上でロシアからエネルギー輸入(天然ガスあるいはLNG、あるいは電力)も真剣に検討する必要がある。
ASEANとは、いわゆるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)とを通じて結びつくことができる。ここにはもちろん中国も入っているが、インドやオーストラリア、ニュージーランドが加わることで、中国が単独で主導権を持ちにくい構成になった。同時に必要なのがTPPへの参加だ。TPPに参加することで中国に対する日本の立場は強くなるだろう。TPPは単に自由貿易というだけでなく、まさに安全保障上からも必要な経済連携であるということだ。
こうしたことを考えれば、安倍政権の最初の試練はTPP参加を参院選前に打ち出せるかどうかということだと思う。すでに高市政調会長は「参加容認」という発言をテレビで行ったが、果たしてこれが党内で受け入れられるのか、それとも反発を食うのか、興味深いところである。もし農業団体の反発を恐れてTPP参加を打ち出すのが遅れるようであれば、安倍首相が狙っているような日本の国力回復という「大望」は遠のいてしまうかもしれない。そしてその時は日本そのものも、取り返しのつかないほど泥沼にはまりこんでしまう時だと思う。
*著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年~2000年に同誌編集長、2001年~2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
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