<命の償い>「罪滅ぼし」より極刑を  第3部 米死刑囚の声(中)

2023-05-04 | 死刑/重刑(国際)
<命の償い> 第3部(中)「罪滅ぼし」より極刑を、米死刑囚の声 
  中日新聞 2023年5月4日 Thu.
 「人は誰かの死に安らぎを見つけることはできない。誰にでも、生きて罪滅ぼしできる可能性がある」
 米南部テキサス州にあるポランスキー刑務所の死刑囚棟。自らが直面する死刑という制度をどう考えるかという問いに、レイナルド・デネス(67)は答えた。
 それまでの一時間近い面会で過去を悔い、「処刑は怖くない」と言ったデネスだが、法が人の命を奪うという刑罰には、はっきりと反対した。「重い罪を犯す人間の多くは、脳や心に障害がある。教育や治療が手厚ければ、私だってここにいなかったかもしれない」
 確かに米国では、死刑囚の度重なる上訴や処刑自体の実行コストなど、死刑制度の維持に巨額が費やされる半面、再犯者や薬物依存者への回復支援が足りないという議論が常にある。
 宗教や音楽に救いを求める者から心を病んで自殺した友まで、デネスは獄中で多くの死刑囚を見てきた。中には貧困から良い弁護人を雇えず、必要以上の厳罰を受けたと感じる囚人もいる。そんな命まで奪う死刑は「文明社会のすることではない」と言う。
 だが、デネスの言葉を聞きながら思い浮かんだのは、二十七年前の事件を忘れられない人々の顔だった。
 ポランスキー刑務所から車で90分離れた同州最大都市ヒューストン。デネスと面会する前日、事件のあったビルを訪ねると、当時を知るコイン商のロバート・スワンソン(58)は「このあたりの全員が衝撃を受けた」と惨事を振り返った。
 ビルは十数軒の店舗が入る7階建て。裁判記録などによると、デネスは1996年1月24日夜、2歳年上の兄=有期刑後に仮釈放=とともに7階の宝石店を襲い、44歳の男性店主を射殺。360万㌦(約4億8千万円)相当のダイヤモンドなどを奪った。
 デネスは銃声を抑えるサイレンサーを用意し、ビルの清掃係だった愛人に内部へ手引きするよう依頼するなど、一貫して犯行を主導。数か月前には、別の強盗事件にも関与していた。
 スワンソンは「殺された宝石商には妻もいた。デネスは彼女の人生まで台無しにした」と話した。
 ビル内の別の店で働いていた男性は、事件後に会ったデネスが「大変なことが起きたらしいな」ととぼけていたのを覚えていた。男性は「あんな事件があるから、これが手放せない」と拳銃を見せ、「あの男は死刑に値する」と言い切った。
 ギャラップ社の昨年の調査では「死刑を道徳的に容認できるか」との問いに肯定したのは55%と、否定の38%を上回る。「目には目を、歯には歯を」という処罰感情は米国でも根強い。
 面会の終わり、デネスに「亡くなった店主や関係者に何かを伝えられるとしたら?」と尋ねてみた。
 デネスは再び謝罪の意を示した後、こちらの思いを見透かしたように続けた。「それでも、人々は私の死から癒しを得ることはできない。復讐を求める人は、自分自身をも損なってしまう」
 (テキサス州で、杉藤貴浩、写真も)=敬称略  写真略(=来栖)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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命の償い 獄中で芽生えた「反省」 第3部 米死刑囚の声(上)


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