拘留の亡命ウイグル族を釈放 マレーシア.マハティール首相、中国の強制送還要求を事実上拒否 2018/10/15

2018-10-17 | 国際/中国/アジア

拘留の亡命ウイグル族を釈放 マハティール首相、中国の強制送還要求を事実上拒否
2018年10月17日(水)11時27分 大塚智彦(PanAsiaNews)

  

   今年8月に訪中したマハティール首相は李克強首相との撮影でもよそよそしい雰囲気だった REUTERS
国際社会から批判を受けている中国のウイグル弾圧。亡命ウイグル族の扱いにアジア各国が苦慮するなか、マレーシアのマハティール首相は人道主義に基づいた決断をした
 マレーシアのマハティール首相は10月15日、マレーシア国内に不法入国容疑で拘留していた中国・新疆ウイグル自治区出身のウイグル族男性11人を釈放したことを明らかにした。
 中国政府はマレーシア当局に対し、拘留中のウイグル族に関して「中国へ強制送還するように」と強く求めていたが、今回のマレーシアの決定は、中国のこうした要求を事実上拒否したことになり、今後のマレーシア・中国関係になんらかの影響がでる可能性もある。
 釈放された11人はすでに空路で第三国のトルコに入国しているという。
 今年5月の政権交代で首相に返り咲いたマハティール首相はナジブ前政権の必要以上の親中政策の見直しを進めており、今回のウイグル族に対する措置もこれまでの中国寄り路線を是正した結果といえ、中国側は「彼ら(11人のウイグル族)は全て中国国籍であり、第三国への送還に対しては断固として反対する」と強い不満の意を示している。
 中国政府の著しいウイグル族に対する人権侵害が国際社会で注目されつつあるが、今回マレーシア当局から釈放されたのは、マレーシア当局に不法入国の疑いで拘束されている20人の内の11人。
 中国当局の弾圧を逃れるために新疆ウイグル自治州から中国南部雲南省に渡り、ミャンマーやラオス経由でタイに200人以上のウイグル族が脱出、2014年にタイで拘留されていた。
 2017年11月にそのうちの20人がタイ南部の拘留施設の壁に穴を開けて脱走、マレーシアに入国したところを「不法入国」の容疑で拘留されていた。
■ナジブ前政権は中国の要求通り強制送還
 2018年5月に政権交代で首相の座を追われ、不正資金問題で訴追を受ける身となっているナジブ前首相は、ウイグル族問題関しては中国政府の要求通りに「強制送還」措置を取っていた。2017年にも29人以上のウイグル族を「イスラム過激派に関係がある」として中国へ強制送還している。
 ウイグル族支援団体によると、ナジブ政権時代に強制送還されたウイグル族はその後行方不明となっており、消息に関する情報が途絶えているという。
 こうした前例からマレーシア当局が2017年11月に拘束したウイグル族20人に関しても中国政府は「強制送還」を強く求めていた。
 政権交代前の2018年2月にナジブ政権は中国への強制送還が国際的に批判を受けていたことから「外交的関係の中で解決策を探りたい」と表明しながらも、中国の求めに応じる形で「強制送還」する方針を示していた。
 ところが手続きに時間がかかった影響で11人の強制送還は実現しないままにマハティール政権が誕生。マハティール首相は「彼らは(ウイグル族)はマレーシアでは何も悪いことをしていない」として政治的判断で釈放が決まった。
 ウイグル族支援団体や20人の弁護団は7月に最高検察庁に対して「訴追の取り下げ」を文書で要求していたこともあり、マハティール首相の強い意向を受けて最高検察庁は訴追を取り下げ。法的問題をクリアして釈放、第三国への渡航となったという。
経済、人権問題で中国と一線を画す
 ウイグル族支援団体などによると、マレーシアのみならず海外で拘束されたウイグル族が中国に強制送還された場合、収監されて拷問などの厳しい措置が待ち構えており、行方不明になったり殺害されたりする事例も多く報告されているという。
マハティール首相が自らの後継首相として内外に明らかにしているアンワル・イブラヒム元副首相は米メディアのブルームバーグとのインタビューで「中国に対して公式に少数イスラム教徒の問題、秘密収容施設の問題などで協議を呼びかけているが、中国側は内政問題であるとの立場を崩さず、協議に応じる姿勢を示していない」ことを明らかにしている。
 マレーシアはイスラム教国で中国新疆ウイグル自治区のイスラム教徒への人権弾圧、差別問題に関してはとりわけ関心が強い。さらにミャンマーの少数イスラム教徒のロヒンギャ族に対して「国軍による民族浄化」と国際社会が指摘する人権侵害についても強い関心とロヒンギャ族支持を表明するなど、東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でもインドネシアと並んで存在感を示してきた。
 特に対中国ではカンボジアやラオスなどのASEAN加盟国が親中国路線を続ける中、マハティール政権は「中国の一帯一路政策は所詮中国の利益最優先である」と見抜き、ナジブ政権下で進められた中国関連の巨大プロジェクトなどの見直し、中止を次々と進めている。
 それだけに今回のウイグル族の中国への強制送還拒否という断固としたマレーシアの姿勢は中国に対し経済だけでなく人権問題でも毅然とした態度で臨むというマハティール首相の姿勢を内外に示したものといえる。
 今回の措置を受けて今後ミャンマーやラオス、タイを経由して最終的にマレーシアを目指すウイグル族が増えることも十分予想されている。
 また、逆に中国国境で中国官憲による不法出国の摘発強化、さらに親中国のラオスやカンボジア、ミャンマーなどに対する中国からの「発見、拘留したウイグル族の中国への強制送還」要求がさらに強いものになる可能性も指摘されており、国際社会が解決への道筋を提示することが早急に求められている。

[執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト)
 PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

 ◎上記事は[NewsweekJapan]からの転載・引用です
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