吉田修一さん 新作『犯罪小説集』に込めた思い---現実の事件を基に五つの物語 2016/10/15

2016-11-06 | 本/演劇…など

 大手小町 小町さんが聞く
 現実の事件を基に五つの物語…『犯罪小説集』の吉田修一さん
 2016年10月15日
 『悪人』『さよなら渓谷』『怒り』など、数々の犯罪小説の傑作を手がけてきた吉田修一さんが、その名もズバリ『犯罪小説集』(KADOKAWA)と銘打った短編集を出版しました。愛と欲望、夢と挫折、墜ちていく男と女……。実際に起きた事件を基にして、罪を犯した人たちと巻き込まれていく人々の哀しみを描いています。新作に込めた思いを、小町さんが聞きました。

*100枚前後の“中距離作品”に久しぶりに挑戦
Q 五つの物語をまとめた『犯罪小説集』が生まれた経緯を教えてください。
A 「実際にあった事件を基にした短編をいくつか並べてみたい」と『小説 野性時代』の編集部に相談したんです。その短編を1冊の本にまとめたのが『犯罪小説集』です。一つの作品で書こうと思っているものが自分の想像内だとすると、五つの作品を並べて1冊にしたときに、自分の想像をはるかに超えた何かが生まれるんじゃないか、という期待もありました。
Q どれくらいの長さの小説なのですか。
A 1作だいたい400字で100枚前後、90枚から120枚ぐらいの作品です。100枚というのは、文芸誌で芥川賞候補になるような作品なんです。でも、100枚って書くのが難しいんですよ。陸上競技でいうと、中距離みたいな感じです。そこに久しぶりにチャレンジしたいという気持ちもありました。
Q 5作のテーマの選び方は?
A 本来なら、自分で気になる素材を選ぶべきなんですけれど、今回、自分が選ぶと偏ると思ったんです。そこで編集部にお願いして、小説のテーマになりそうな事件のリストを作ってもらったんです。何回か相談する中で、いくつか編集部から提案してもらって、ピンとくるものを選びました。
*「小説を書くとは、ディテールを書くこと」
Q 今回の短編集もそうですが、吉田さんの作品はディテール(細部)の書き方に引き込まれてしまいます。
A 舞台となる現場はマカオをはじめ、実際に何か所か行きました。現場ではじっくり見るということはしないし、無精者なのでメモもとりません(笑)。ただ、現場を見ると何かが違ってきます。たとえば、「青田Y字路」という短編の舞台になる現場には神社があり、そこで見たことが小説に生かされています。デビューしたてのころ、編集者から「小説はディテールだから」とさんざん言われたんです(笑)。小説を書くとは、ディテールを書くことだと思っています。
Q 『悪人』を書いた37歳のときから、ものの見方に変化を感じたと、以前、語られていました。具体的にはどういうことですか?
A それまでは、ちょっと引いたところから世界を見て書いていたように思いますが、『悪人』のころから物語の中に入って書いていたような感じがあるんです。登場人物の声が聞こえるように感じたんです。『悪人』の取材で福岡の三瀬峠を一人で車を運転しているとき、逃げる女(主人公の相手役・光代。映画では深津絵里が演じた)のセリフがどんどん聞こえてくるんですよ。今回も同じような経験をしました。こんなにも物語をコントロールできず、登場人物の感情にのみこまれそうになったのは、今回が初めてです。まさに濁流ですよ(笑)。
Q 長編の『怒り』もそうでしたが、殺人の動機に触れないのはなぜでしょう。
A 最初から触れないと決めているわけではないんです。『怒り』の場合も読売新聞に連載した1年間かけて、なんでなんだろうと動機を自分でずっと探すために書いていたんです。ただ、見つからないことってやっぱりあります。わからないものは、わからない。いくら自分で考えても見つからないものを、見つかったふりはしない、見つけたふりはしないというだけです。
Q 映画『怒り』が公開中です。映画を見て、原作者としていかがでしたか。
A 見終わったあと、すぐには立ち上がれなかったんです。人間が持っているさまざまな感情が、ラストシーンで一挙に押し寄せてきます。あれだけの俳優さんたちの感情がドッカーンと来たので立ち上がれなかったんだなと、今になって思います。今回の『犯罪小説集』はいろんな人たちのいろんな感情がごつごつしたままそこにあるという感じなので、作品としては『怒り』に近いかもしれないですね。
*歌舞伎にはまり、短編のタイトルを歌舞伎調に
Q 読者に読んでほしいポイントはどこでしょうか。
A こういう人間がいるということを、ただ読んで感じてもらえるのが一番うれしいですね。自分はそういうつもりで書いていますし、それが小説のおもしろさでもあると思います。登場人物に共感してほしいとは思っていません。
Q 最近、歌舞伎にはまっているとうかがいました。きっかけは何でしたか。作品に影響していますか。
A 何年か前に、映画『悪人』『怒り』の李相日監督と歌舞伎の話になったんです。そのときまで全然、興味はなかったんですけど、見てみたら、それからはまっちゃって。今回、短編のタイトルが「青田Y字路(あおたのわいじろ)」「曼珠姫午睡(まんじゅひめのごすい)」「百家楽餓鬼(ばからがき)」「万屋(よろずや)善次郎(ぜんじろう)」「白球(はっきゅう)白蛇伝(はくじゃでん)」となっていますが、タイトルを付けるときにちょっと歌舞伎調にしてみました。
Q 吉田さんの執筆スタイルは?
A ふだんは昼過ぎぐらいから書き始め、そのまま夜まで書いていることもあります。手書きではなく、パソコンを使っています。
Q 最後に、今後の執筆予定を教えてください。
A 来年また、新聞連載が始まります。そこで、これまでとは違う作品、犯罪小説とも違ったジャンルのものにチャレンジしたいと思っています。
*プロフィル
吉田 修一( よしだ・しゅういち )
 1968年、長崎県生まれ。97年、「最後の息子」で文学界新人賞を受賞し、デビュー。2002年、『パレード』で山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で芥川賞。07年、『悪人』で毎日出版文化賞と大佛次郎賞をダブル受賞。10年、『横道世之介』で柴田錬三郎賞を受賞。今年、『怒り』(上下、中公文庫)が累計で100万部を超える大ベストセラーに。

  『犯罪小説集』(KADOKAWA) 
  『犯罪小説集』(KADOKAWA)

 ◎上記事は[讀賣新聞]からの転載・引用です
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映画『怒り』 “人間はわからないもの”という視点 吉田修一氏「リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件の何に心を揺り動かされたのか?」 シネマトゥデイ 2016/9/15
吉田修一 作 『ウォーターゲーム』中日新聞朝刊連載から・・・鷹野一彦・リーヨンソン(柳勇次)・風間・富美子・・・
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