富山の交番襲撃、無期判決 元自衛官の警官ら2人殺害
中日新聞 2021年3月6日
富山市の交番で二〇一八年、警察官を刺殺し、奪った拳銃で警備員を射殺したとして強盗殺人や殺人罪などに問われた元陸上自衛官島津慧大被告(24)の裁判員裁判で、富山地裁は五日、「拳銃強奪の意思は警察官殺害後に生じた疑いがある」と強盗殺人罪の成立を認めず、計画性が高いとは言えないとして無期懲役(求刑死刑)の判決を言い渡した。
大村泰平裁判長は判決理由で、被告の自閉症スペクトラム障害(ASD)が動機形成に影響したと指摘。「一定程度、酌むべき事情だ。死刑がやむを得ないとは言えない」と死刑を回避した理由を述べた。
逮捕後の取り調べで襲撃を「武器を奪う目的もあった」などと述べていたが、大村裁判長は「供述が揺れており、内心を表現したものかは疑問を持たざるを得ない」として殺人と窃盗罪を適用。現行犯逮捕に至るまでは行き当たりばったりな面があり、犯行の計画性は高くないとした。
判決によると一八年六月二十六日、富山中央署奥田交番で、所長の稲泉健一警部補=当時(46)、警視に昇任=を刺殺し拳銃を窃取、近くの市立奥田小の正門付近にいた警備員中村信一さん=同(68)=の頭をこの拳銃で撃ち殺害するなどした。
(後半略=来栖)
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解説 極刑回避 障害の影響重視
死刑か無期懲役か、判断の分岐点となったのは、判決が検察の求めた強盗殺人罪を否定したことと、被告の抱えるASDの犯行への影響を重くみた点だ。
最高裁司法研修所がまとめた1980年度から30年間の統計によると、2人殺された事件では、強盗殺人罪が成立すれば66%、殺人罪だけならば48%が死刑となっている。強盗目的の有無が判決に影響を与えており、殺人のみの場合は、心神耗弱や計画性の低さなどが認められると、無期懲役となる傾向がある。
判決は、取り調べ段階の供述のあいまいさなどから、強盗の意図がなかった可能性を排除できないとして強盗殺人罪の成立を認めなかった。
その上で、判決文の約3分の1をあてて被告の障害を詳しく検討。小学生からの生い立ちにも触れながら「本人の努力ではいかんともしがたい先天性の脳機能障害に起因する」というASDの影響を指摘した。
裁判長は量刑の判断に際して「死刑は究極の峻厳な刑であり、慎重に適用すべきだ」とした2015年の最高裁決定を踏まえた。犯行の計画性が低く、ASDを情状として重く酌み、「死刑やむなし」の判断に踏み切ることを避けた。
判決後、極刑を求めていた遺族は「くやしいのひと言」と憤った。公判で黙秘を貫いた被告は、反省の言葉を一言も口にしていない。判決は「遺族に謝罪や慰謝の措置をなんら講じておらず、更生への道のりは長く険しい」と説いた。自身が犯した罪に真正面から向き合うことを、被告に課している。 (山岸弓華)
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
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〈来栖の独白 2021.03.06 Saturday〉
強盗殺人罪の成立を認めなかった点、良い、立派な判決だと思う。
>「遺族に謝罪や慰謝の措置をなんら講じておらず、更生への道のりは長く険しい」と説いた。自身が犯した罪に真正面から向き合うことを、被告に課している。
これも、首肯できる。