裁判員裁判の孕む致命的な問題点を露呈した「米原女性殺人事件」「鹿児島夫婦殺害事件」

2010-11-05 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

関連; 「米原女性殺人事件」二審大阪高裁も懲役17年 森田繁成被告の控訴を棄却2011-10-07
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〈来栖の独白〉
 裁判員裁判の重大な問題点を露呈した「米原女性殺人事件」と「鹿児島夫婦殺害事件」。いずれも裁判員裁判にしては長期審理が予想される。これは、裁判員と弁護人にとって、過重の負担だ。過密に拘束されては、弁護士は他の仕事に支障を来す。
 が、更に深刻な問題点は、被告人の防御権だ。そもそも裁判員裁判であるから「長期審理」などと言われてしまうが、本来、どのような事件でも時間をかけて精密に審理されねばならないものだ。とりわけ、当該2件は被告人が起訴事実を否認している。それを「長期審理」などと言うのは、当たらない。冤罪は、絶対にあってはならない。
 当該のような事件の事実認定は、プロの裁判官にさえ難しい。それを素人にやらせ、量刑まで決めさせる。
 なぜ、そのような制度を導入し、維持しなければならないか。別のエントリでも書いたが、死刑を選択した場合、裁判員の心に深刻な傷が残る。その後の人生を左右しかねない。
 元々、裁判員裁判など、どだい無理な制度だったのだ。裁判員と弁護人、そして被告人が痛ましくてならない。国が国民に、このような制度を押し付けてよい謂われは、ない。
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米原殺人事件 検察と弁護側主張対立
中日新聞2010年11月5日
 4日に初公判を迎えた米原女性殺人事件の裁判員裁判。森田繁成被告(41)が殺害したことを示す直接的な証拠がない中、被告は起訴内容を全面的に否認した。メールのやりとりや車内に残された血痕など、状況証拠だけで立証しようとする検察側。弁護側は「被告を犯人と断定できる証拠はない」との立場を崩さない。両者の主張が対立する状況で、裁判員は難しい判断を迫られる。
 ◇殺害動機
 検察側は事件以前からの2人の携帯電話のメール内容を公開。「森田被告と小川さんは、互いの異性関係を疑ってトラブルになっていた」と主張した。
 小川さんが被告の暴力に身の危険を感じて被告との関係を暴露したいと周囲にもらしており、被告も小川さんの異性関係を激しくののしるメールを送っていた。事件当日も「森田被告の別の異性関係を疑った小川さんをなだめる際、被告の怒りが爆発して強い殺意を抱きかねない状況にあった」と指摘した。
 弁護側は「頭蓋(ずがい)骨の骨が飛び散るような残酷な方法で殺す理由がない」と殺害の動機がないと強調。森田被告が「小川さんは真っすぐな性格で純粋でかわいらしいと思っていた」と説明し、被告が強い殺意を抱くことはあり得ないと主張した。
 ◇被告の車の血痕
 検察側が被告と小川さん殺害を直接結びつける証拠と主張する被告の車内外に付着した小川さんの血痕。
 検察側は、助手席ドアや前席中央部、フロアマットなど5カ所で小川さんの血痕が確認でき、森田被告はフロアマットを自宅庭に隠していたとした主張。車の左後輪ブレーキドラム2カ所に見られる小川さんの血痕は、森田被告が車外で小川さんを殴った際に血液が飛んで付いたと説明した。
 これに対して、弁護側は「森田さんを犯人とする証拠にはなり得ない」と一蹴(いっしゅう)。「小川さんの鼻血などがついたもので、ふいたときに広がったために広範囲で血液反応が出ている」とし、左後輪の血痕は「事件とは無関係についた可能性がある」と主張した。
 ◇犯人性
 小川さんを殺害した上での言動として、検察側は、森田被告が昨年6月10日まで小川さんに1日に20回もメールすることがあったが、11日以降は激減した事実を指摘。同6月13日ごろ、森田被告は自分の携帯電話のデータを削除し、自分の車の修理や清掃などを依頼したことは「犯人でしか説明のつかない行動だ」と説明した。
 この点についても弁護側は反論。携帯電話のデータはSDカードに保存しており「それを逮捕まで捨てずに持っていたのは真犯人だとするとつじつまが合わない」と主張した。
 ◇被告のアリバイ
 検察側は、2人が長浜市内で会った昨年6月10日午後9時前から、妻が森田被告の帰宅を確認する11日午前3時ごろまで、被告に裏付けのある行動がないと指摘した。
 同11日午前1時すぎ、森田被告が小川さんに「車かえして」と送ったメールについては「小川さんが殺害されたときに一緒にいなかったと装うカムフラージュ」と主張した。
 弁護側は、10日夜、小川さんが森田被告の車を1人で運転して去った後、森田被告はこの車を見つけたが、小川さんが見つからず、探していたら同11日午前1時を過ぎたと主張。同午前1時すぎ、「車かえして」とメールを送ったのは、被告の車で走り去った小川さんの同情を誘おうとしたためと説明した。
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娘心配し何度も電話 米原殺人事件被害者の母ら証人尋問
中日新聞2010年11月6日
 米原女性殺人事件の裁判員裁判は5日、2日目を迎えた。検察側、弁護側が自らの主張を裏付けるため、殺害された小川典子さん=当時(28)=の母親と、勤めていた会社の上司、森田繁成被告(41)の妻の3人が証人として出廷した。小川さんの母親が事件当夜から帰宅しない娘を探す様子を話せば、森田被告の妻は家庭で家族を大切にする夫の姿を強調した。裁判員も初めて疑問に思った点を証人に質問した。
 ◇娘を捜す母
 遺族として証言台に立った小川さんの母親は、当時の状況を丁寧に話した。
 昨年6月10日、小川さんが帰宅しないのを心配し深夜、携帯電話に2度電話。さらに翌日早朝から昼すぎまで13度にわたって電話しても娘から応答はない。検察官の質問に対して説明する母親の声が徐々に小さくなる。
 「メールも送りましたか」との問いかけには一瞬、間があった後「『所在がつかめないがどーしているのか。何かあったらすぐ連絡して』とメールしました」とはっきりした口調で答えた。
 勤務先でも所在が分からず、「事件に巻き込まれたのでは」と思い、10日に小川さんを勤務先まで送った道のりを往復もした。
 手がかりは小川さんの部屋に残された森田被告の携帯電話の契約書。夫とともに12日朝、被告宅を尋ねたが出勤し不在だった。
 同日午前10時半すぎ、電話すると森田被告が出た。「小川さんとはそれほど親しくない。家庭があるので、電話したり家に行かれると迷惑だ」などと言われた。遺体発見を警察から知らされたのは電話のすぐ後だった。
 弁護側の質問に「会社でリストラにあうかもとかパワハラを受けたと相談されたことはあったが、男女関係でトラブルがあったとは思えない」と答え、森田被告に対する言葉はこの日はなかった。
 母親の尋問を聞く間、終始無表情の森田被告。だが、尋問が終わると母親に向かって一礼した。
 ◇被告をかばう妻
 「主人はこんな恐ろしいことをするような人ではない」。法廷に立った被告の妻は強い口調で夫の無罪を主張した。休憩時には、被告に「大丈夫か」と声をかけられ、うなずく場面もあった。
 「浮気でもめたことはありますか」との検察側の質問に「全然ないです」と毅然(きぜん)と言葉を返した。夫の浮気はうすうす気づいていたが、小川さんの名前を知ったのは母親が訪ねてきたとき。夫と小川さんの関係について「家で居場所がなくて寂しかったという主人の気持ちを、私も分かっていなかった部分があった」と被告をかばった。
 当初の報道で犯行日時は6月11日とされた。妻が森田被告に10日からの行動をメモするようにアドバイスした理由を検察側から尋ねられると、「わからない」と答えた。
 報道陣が被告の自宅を尋ねてきた6月14日以降の様子を、弁護側から聞かれると、「不安を感じていたが、主人が『大丈夫』と守ってくれた」と説明。13年連れ添った夫を「子ども思いで、仕事は一生懸命でまじめ」と評し、「いつも優しい主人。本当に人を殺していたなら、いつもどおりに子どもと戯れることができるでしょうか」と訴えた。
 ◇小川さんの上司証人尋問
 「小川さんは仕事に対して本当にすごくまじめで手を抜くことはまったくなかった」。派遣会社で小川さんの上司だった男性が検察側の質問に答えた。
 小川さんは現場管理者として責任を持っており「無断欠勤したことは1度もなかった」と強調した。弁護側の質問でも「非常に熱心で、自分の力の10の内12を出そうとする」ほど小川さんの誠実さを説明した。
 一方、精密機器を扱う部屋で仕事をするため「化粧を薄く、ノーメイクでと小川さんに注意したが、最終的に聞き入れなかった」とも話した。
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選任手続き、半数超辞退を許可 米原の長期審理裁判員裁判
2010年11月3日 10時50分
 滋賀県米原市の汚泥タンクで昨年6月、交際していた同県長浜市の小川典子さん=当時(28)=を窒息死させたとして殺人罪に問われている森田繁成被告(41)の事件を審理する裁判員の選任手続きで、大津地裁は2日、裁判員6人と補充裁判員4人を決めた。一方、呼び出し状を送った91人のうち、申し出があった計55人の辞退を許可した。29日間という長期審理に向け慎重な対応を取ったとみられる。
 地裁によると、裁判員候補者名簿から通常の裁判員裁判の2倍近い180人を抽出。その上で、高齢者、重病人、警察官らを除いた91人に呼び出し状を送った。このうち39人が仕事、育児などの理由で書面により辞退が許された。この日は40人が出席し、16人が身体的な事情や仕事の都合などで辞退が認められた。
 初公判は4日午前10時からで、森田被告は無罪を主張する方針。判決は12月2日に言い渡される。公判は予備日を含め延べ11日、判決内容を話し合う評議は延べ6日間で、裁判員らは計17日間に地裁に出向く。
 公判、評議の日数はともに中部地方の裁判員裁判で最長とみられる。高齢夫婦殺害事件の裁判員裁判(審理期間40日間)が2日始まった鹿児島地裁は、295人に呼び出し状を送り、221人の辞退を認めた。
 この事件では、森田被告が昨年6月10~11日に同市の汚泥タンク付近で、小川さんの頭を鈍器のようなもので殴り、タンク内に落として窒息死させたとされる。
◆辞退者「とても無理」
 大津地裁に出向き、2日、体の負担や仕事上の理由で辞退を認められた候補者は「1カ月も裁判所に通い続けるのは厳しい」と口をそろえるが、「短期間なら裁判員を務めたかった」と漏らす人もいた。
 「仕事の代わりがいないから1カ月はとても無理。取引先の信用も失ってしまう」。精密機械製造加工業の男性(62)=大津市=は3月の裁判でも呼び出されたが、仕事が忙しく辞退。今回は1週間程度なら体験してみたかったが「選ばれたら最後までやって」と説明され、再び辞退。「報道でしか知らない被告が、どんな気持ちでいるのか直接聞きたかった」と残念がる。
 ひざ痛に悩む滋賀県野洲市の主婦(66)は裁判所に通い続けるのが難しい。最寄り駅まで歩いて25分。寒くなると、駅の階段を上るのもつらい。9月に呼び出し状が届き、質問票に「もう年なので辞退したい」と書いて返送したが、「辞退理由にならない」と出頭を求められていた。
 この日は足の痛みを説明すると、裁判長はすんなり辞退を認めてくれた。胸をなで下ろしつつ「裁判で意見を言ってみたかった気もします」。(中日新聞)
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鹿児島夫婦殺害、被告が全面否認=期間最長40日、死刑求刑も-裁判員裁判
 鹿児島市で昨年6月、無職蔵ノ下忠さん=当時(91)=と妻ハツエさん=同(87)=を強盗目的で殺害したとして、強盗殺人などの罪に問われた無職白浜政広被告(71)の裁判員裁判が2日、鹿児島地裁(平島正道裁判長)で始まった。白浜被告は「絶対にやっていません」と述べて全面否認し、無罪を主張した。
 強盗殺人罪の法定刑は死刑か無期懲役。殺された被害者が2人で、検察側は死刑を求刑する可能性がある。1日の裁判員選任手続きから12月10日の判決までの期間は40日間で、裁判員裁判では最長。裁判員は長期日程の負担に加え、対立する主張の事実認定を迫られる。
 検察側は冒頭陳述で、白浜被告が蔵ノ下さん宅に、金属製スコップで窓ガラスを割り侵入したと指摘。割れたガラス片や物色跡のあるタンスの引き出しなどから検出した指紋と、窓の網戸に付着した細胞片のDNA型を調べた結果、被告と一致するものが見つかったと説明した。さらに、室内に残された壊れた時計や台所の状況などから、2人は就寝前の午後7時~9時ごろに殺害されたと推定されるとした。
 弁護側は「現場をよく知る顔見知りが、物取りに見せかけた犯行」と主張。検察側が指摘した指紋やDNA型について「指紋は転写が可能。DNA鑑定型は『ほぼ一致』にとどまり、再鑑定もできない」とし、直接証拠はないと反論した。
 起訴状によると、白浜被告は昨年6月18日夕から19日朝までの間、鹿児島市下福元町の蔵ノ下さん宅に金品を奪う目的で侵入し、2人をスコップで多数回殴打して殺害したとされる。2人の遺体は自宅で発見された。(時事通信2010/11/02-12:38)
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耳かき店員ら殺害事件 死刑賛成が8割超の国民世論のなか、被告に無期懲役判決=裁判員裁判/判決文要旨2010-11-01 | 司法改革/被害者・裁判員参加/検察審査会 

裁判員・被害者参加制度
裁判員制度のウソ、ムリ、拙速~大久保太郎(元東京高裁部統括判事)
  現場の混乱で司法の質は暴落。こんな悪法は廃止しかない
   「違憲のデパート」
   「国民の自由」にも反する
   長期審理に対処不可能 はじめから破綻している制度
   違憲審査権はどこへいった?
   施行前に廃止を
▼司法改革の行き先は現代の徴兵制?裁判員制度~弁護士 安田好弘
裁判員制度 “賛成派”も批判~国民参加 隠れ蓑に 
  重大事件1審のみ関与 制度設計に問題
  代用監獄など課題放置も
  せめて中止、延期すべき---河上和雄弁護士に聞く
  “国民に司法を体験してもらうのに、いきなり死刑事件を担当させる、そんなバカな話、ありますか、人の命に関わることを。憲法に規定された『裁判官の独立』が侵されるという問題もある。”

1 コメント

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憲法違反 (narchan)
2010-11-05 18:53:43
日本国憲法、第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
人を裁き、処刑するという行為は、最悪の苦役です。ですから、国民の生命財産を護るため、高邁な志のある人々が、大きい犠牲を覚悟の上で、英雄的な目的に自由志願して法曹になるのです。国民は、十分な養成、心のケア、妥当な経済的保障などによって、法曹の貢献に報いるのです。しかし、裁判員や、検審員は、「その意に反して」苦役に服させられるのです。このことは、徴兵制同様明白な憲法違反です。日本国憲法は第9条だけではありません。
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