天声人語
2009年8月31日(月)付
国会は歴史的な掃除のただ中にある。いや議事堂のことだ。建設から73年、高圧水流による初の汚れ落としで、黒ずんだ御影石に桜色が戻ってきた。議席の布地も張り替わるが、まずはお尻の方がごっそり入れ替わった▼負けに不思議の負けなし。自民党は傍目(はため)にも耐用年数が尽き、最後は民意のあずかり知らぬ面々が1年交代で首相の座をとことん軽くした。政治の非力に一部の官僚がつけこみ、血税や年金が消えていく。やりきれない閉塞(へいそく)を、投票箱に注がれた高圧水が襲った▼だが、うっぷんを晴らして喜んでいる時ではない。積年のよどみは黒々とまだそこにあり、日本を桜色に蘇生する持ち時間は限られる。しがらみのなさや、新たな発想が暮らしや外交に生きなければ代えた意味がない▼55年前にも「戦後最大」と評された政変があった。首相鳩山一郎の大衆人気は、前任吉田茂の近づきがたさの反動でもある。小欄の先輩、荒垣秀雄は「気分の上では世の中がいくらか明るくなった」と歓迎した。孫の圧勝も前政権の「お陰」と割り引くのがいい▼「希望だけ膨らますと期待外れの時の揺り戻しが強い」。万感こもる宮崎県知事の戒めだ。有権者は、小選挙区という洗浄機の使い勝手、破壊力を知った。約束した「日本の大掃除」の手を緩めたら、自民の二の舞いだろう▼時の権力に目を光らせるのがジャーナリズムの本懐。なれば小欄も今朝をもって照準を改め、筆鋒(ひっぽう)を研ぎ直すとする。明るくなったか否かを後世に問われるのは、政変後の気分ではなく現実である。
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日経新聞 社説 変化求め民意は鳩山民主政権に賭けた(8/31)
政権交代の是非が最大の焦点となった第45回衆院選は、民主党が圧勝した。来月中旬にも召集される次期特別国会で鳩山由紀夫民主党代表が新首相に選ばれる。有権者は「変化」に賭け、民主を中心とする新政権に国政のかじ取りをゆだねた。
1955年の結党以来、ほぼ一貫して政権の座にあった自民党は、衆院でも第2党に転落し、下野する。2005年の前回衆院選と立場が逆転する歴史的な惨敗を喫し、議席数は過去最低となった。麻生太郎首相は党総裁を辞任する意向を表明した。自民と連立を組んできた公明党も大幅に議席を減らした。
初の本格的な政権交代
93年に細川非自民連立政権が誕生した時とは異なり、今回の衆院選は第1党と第2党が入れ替わる形の本格的な政権交代である。現行憲法下で選挙による本格的な政権交代は初めてのことだ。
選挙戦は野党の民主が終始、優勢を保つ異例の展開になった。事前の情勢調査で「民主圧勝」の予測が出ていたとはいえ、結果は衝撃的である。小選挙区、比例代表のいずれも民主が自民を圧倒した。小選挙区では民主の新人や元職が自民の大物を破り、続々と勝ち名乗りを上げた。有権者の関心は高く、投票率は前回(67.51%)を上回る見通しだ。
自民は4年前の郵政選挙で圧勝したが、党則を理由に小泉純一郎首相が1年で退任し、後を継いだ安倍晋三、福田康夫両首相はともに1年で政権を投げ出した。07年の参院選で大敗し、参院第1党の座を民主に明け渡した。その後は衆参ねじれ国会の運営に苦しめられた。
昨年9月の総裁選で「選挙の顔」として選ばれた麻生首相は、リーマン・ショックを契機とする経済・金融危機への対応を最優先し、景気対策に取り組んできた。だが自らの失言や政策決定の迷走で内閣支持率は低迷し、党勢回復のきっかけをつかめぬまま、衆院議員の任期満了直前に解散に追い込まれた。
半世紀余り続いた自民党政治への飽きとともに、前回の衆院選以降に顕著となった自民の統治能力の劣化が有権者の離反を招いたといえる。年金の記録漏れ問題などの行政の不祥事が相次いで表面化した。前回選挙では小泉首相の郵政民営化への執念が有権者の共感を呼んだが、小泉氏の退任後は、なし崩し的に構造改革路線の転換が進んだ。
民主は現状に不満を持つ層を広く吸収して、政権交代への期待を高めるのに成功した。マニフェスト(政権公約)では「官僚丸投げの政治」からの転換を掲げ、政治主導を前面に打ち出した。行政刷新会議を新設して予算の無駄を徹底的に排除するなどの、既得権益に切り込もうとする姿勢が支持されたとみられる。
民主は政府と与党の二元的な政策決定の仕組みを改め、内閣の下に一元化する方針を打ち出している。政権の司令塔となる国家戦略局をはじめ法改正が必要な構想も多く、軌道に乗せるための現実的な工程表が要る。統治機構の改革への有権者の期待にこたえるには、鳩山氏が強い指導力を発揮して政権の課題を明確にし、閣僚や副大臣に能力のある政治家を配することが不可欠だ。
新政権は発足後直ちに来年度予算編成に取り組まねばならず、政権公約を実現する力が試される。政権公約には月額2万6000円の子ども手当などの目玉政策を列挙したが、財源の裏づけははっきりしないままだ。鳩山氏は民主の政策に欠けている日本経済の成長戦略や財政再建目標などの中・長期ビジョンについても、所信表明演説などできちんと説明する責任を負っている。
民主は社民、国民新両党との連立政権を目指す方針だ。外交・安全保障政策では社民と大きな溝がある。連立を優先するあまり、政策面で安易な妥協をせぬよう求めたい。
自民は解党的出直しを
来月下旬には国連総会などの重要な外交日程が目白押しだ。それまでに新内閣を発足させなければならず、政権移行の時間は極めて限られている。鳩山氏は記者会見で、首相指名後に閣僚人事を決める考えを示したが、官房長官などの主要閣僚は速やかに内定し、準備を急ぐ必要がある。自民も政権交代が円滑に進むよう協力しなければならない。
かつてない敗北となった自民の今後はいばらの道だろう。党の有力者の落選が相次ぎ、人材難は深刻である。政党助成金が大幅に減るのは避けられず、党財政にも甚大な影響が及ぶのは必至だ。
この機会に党組織や候補者選考方法などを抜本的に見直し、新たな党の姿を探るしかない。麻生氏の後継を選ぶ総裁選で党の再建策を徹底的に議論し、有権者の信頼を取り戻すよう努めるべきだ。政権交代可能な二大政党制を定着させるために、自民は文字通りの「解党的出直し」に取り組む覚悟が求められている。
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新S 「くらべる一面」 編集局から
朝日新聞
怒濤の夜が明けました。民主党は308という衝撃的な議席とともに政権を手中にし、自民党と公明党は歴史的な惨敗を喫しました。民主への期待というよりは、とにかく政権を代えたい、政権交代を当たり前のことにしたいという有権者の強烈な意志を感じる結果です。民主党の課題、自公両党の今後、出口調査分析、勝者と敗者のドラマ、世界の視線など多彩なニュース、解説、記録をお届けしました。「政権と政治と主権」の「三つの交代」を唱える「鳩山首相」の言動に目をこらしていきたいと思います。(陽)
日本経済新聞
「反自民」の雪崩現象はすさまじく、首相・閣僚経験者、公明党前職らを次々になぎ倒しました。政権交代が可能な2大政党制は、交代が実現した途端に巨大な第1党と小さな第2党という状態のまま自民と民主が入れ替わりました。麻生首相が「自民党への積年の不信、不満が集約した結果だ」と漏らしたように、民主が大きな支持を受けたとは必ずしも言えません。リセット後の政治がどう動くのか、海外からの見方も中面に紹介しました。(田)
読売新聞
禍福はあざなえる縄の如し、とはよく言ったものです。4年前の郵政解散では自民が圧勝しました。しかし、今回は逆に民主が300を超える議席を獲得、政権交代を実現させました。大物議員が次々に落選し、自民には落日の面影さえ漂っています。慢心が国民に見透かされたのでしょうか。再生にはよほどの覚悟が必要です。民主も勝利の美酒に溺れているようでは次はない。国民がじっと見ていることを忘れてはいけません。(三)
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〈来栖の独白〉
外交、防衛、生活、鳩山さんに苦難の航海が始まった。昨日まで拍手していた国民は、明日にはブーイングの狼煙をあげるだろう。イメージや劇場に煽られやすい国民性だ。政治資金規正法や虚偽記載の問題も再燃するのではないか。
森喜朗元総理が当選したのも、気分が悪い。悪弊に満ちた自民党(人事)を牛耳ってきた張本人。また、世襲の金看板小泉進次郎氏の当選も、旧弊の断ちがたさを思わされる。良い意味で人の心が変わらなければ、世の中は変わらない。不条理と苦しみは解消されない。
残念なのは、裁判員制度見直しを進めていた亀井久興氏の落選。http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/bd226e0c771a08c6d575f113dfcc1772
ただ民主党政権となったことで、これまでとは違って、一抹の期待を抱くのは法務大臣のポストだ。誰が、座るのだろう。
解散前から、私は長崎2区を注視していました。
長崎は仕事で数度訪れたことの有る土地。 印象的だったのは、大型工業団地がぺんぺん草で覆われている風景。
永年中国ビジネスに関わっている私にとっては、“必然”という第一印象でした。 そもそも、上海に行くよりも飛行機賃が高いんだから話しにならない。
ところが、訪問したぺんぺん工業団地内のメーカー(エレクトロニクス系一流どころ)の地元のエンジニアと話をしながら、この工場はcloseしてはならない、何とか中国を利用して、この工場が延びるようなビジネスを考えようなどと、私に思わせたのは、“慎ましくも、美しい内海”に培われた“故郷を思う心”でした。(その後、手を引いたので、今どうなっているかは不明)
そういう立ち位置からすれば、“汚れたハト”の典型である久間さんは、この土地、そして同様な境遇に有る地方にとって、とても大事な政治家だと思っていました。
その久間さんを破った、福田衣里子さん。
数年前、C型肝炎訴訟原告として、CSの番組で自身を語る(地上波では見られない)彼女を観て、何と清澄で強靭な心を持つ女性だろうと感嘆しました。 彼女のシュヴァリエになれる男は最高の幸せ者だろうなぁ、なんて思ったものです。
実は、彼女を支える久間さん、というのが私がイメージするベストの政治的風景だったんですね。
自民党は腐っています。 でも、人を援ける黴菌も有ると言う事を、忘れないで欲しい。 “水清没有魚”(水清ければ魚棲まず)を我慢する国民であって欲しいとも思います。
法を真っ当に解釈すれば、ポッポ総理の献金問題はアウトでしょう。(今月の文藝春秋を読めば分ります) 有る意味、小沢氏のそれよりも悪質。
この先、どうなれば良いのか、今現在私には判断できません。 野中氏の激しく非難する“小沢的なるもの”が現出することも有るでしょう。 しかし、小沢もまた岩手の産んだ政治家です。
都市圏で産まれ、育ち、主に海外を相手に仕事をして来た私は、本当に分らなくなっています。
コメント、ありがとう。
>長くなって御免なさいね
いえいえ。解散~選挙の大祭以来、やっと人間らしい、しみじみしたお声に出会えた思いです。感謝♪
いよいよ政治資金に関する捜査が始まるようです。
このところのゆうこさんのエントリー、最下層の人々への思い、に集中なさっているように思います。教えられたり共感したりが多いです。
>世襲の金看板小泉進次郎氏の当選
>“竹下元総理の孫であるDAIGOがテレビをにぎわしている。野中さんは、「DAIGOは、最初は祖父の名前を使わずに一生懸命自分で努力をして仕事をしていったからえらい頑張り屋だ」と語った。しかし今では、「竹下元首相の孫」がDAIGOの形容詞のようになった。
小泉孝太郎も、石原良純も、親のおかげで十分な光を浴びて、実力以上に芸能界を闊歩している。 ふと、野中さんのお孫さんが、祖父の名前を使って、例えば芸能界で活躍することは可能だろうか、と思った。
在日やセクシャル・マイノリティの場合は、その差別とは別に、テレビなどでその存在を曝すことができるようになってきた。しかし、テレビの中で「被差別出身」と名乗って仕事ができる人はほとんどいないのではないか。そこに差別の根深さがあるのだと思う。”
『差別と日本人』は、世襲とは何なのか、私にも一瞬にして教えてくれました。フツーの者はフツーでない人に教えられて気付く、そうだと思いました。
それと、隆慶一郎氏の『捨て童子 松平忠輝』。最下層の人たちが師であり兄であり友である、ということ。主イエスの、そして親鸞さんの、また本田神父さんの、そうして来栖宥子さんの視点なのだと読みました。思い出したのは、清孝さんが宥子さんのことを「心友」と呼んでいらっしゃったことでした。「友」とは、師や兄を含んで、人間として最高の関係性を表す言葉ではないでしょうか。イエスも言っています。「しもべではない。友と呼ぶ」、「友のためにいのちを捨てるほど大きな愛はない」と。
これからも楽しみに読ませていただきます。そういえば、『親鸞』、終わったのですね・・・。長くなって、すみません。
コメント、ありがとう。
>フツーでない人
訂正させてください。「フツーでない人」ではなくて、「フツーでなくされた人」「フツーの範疇から除外された人」と訂正しなければ、と思いました。丁度、本田神父が「小さい人」と云わず、「小さくされた人」と云っておられるように。
このところ、13年間一緒だったカローラと別れたので、不憫で、気分が沈んでいます。・・・
今朝、FMで岸洋子さんの「希望」を聴きました。流行った当時は大して感動しなかったのに、今朝は涙が流れてしまいました。歌詞が胸に響いてじっとしていられなかった。若い頃は、歌詞の意味が分からなかった。いや、考えてもみなかったのですね。変にシニカルになっていて、「希望」なんてタイトルに反発していたかも。
希望という名の あなたをたずねて
遠い国へと また汽車にのる
あなたは昔の あたしの思い出
ふるさとの夢 はじめての恋
けれどあたしが 大人になった日に
黙ってどこかへ 立ち去ったあなた
いつかあなたに また逢うまでは
あたしの旅は 終りのない旅
希望という名の あなたをたずねて
今日もあてなく また汽車にのる
あれからあたしは ただ一人きり
明日はどんな 町につくやら
あなたのうわさも 時折り聞くけど
見知らぬ誰かに すれちがうだけ
いつもあなたの 名を呼びながら
あたしの旅は 返事のない旅
希望という名の あなたをたずねて
寒い夜更けに また汽車にのる
悲しみだけが あたしのみちづれ
となりの席に あなたがいれば
なみだぐむとき そのとき聞こえる
希望という名の あなたのあの歌
そうよあなたに また逢うために
あたしの旅は いままたはじまる
http://www.jttk.zaq.ne.jp/babpa300/folk/kibou.html