検察の取り調べ=普通の社会で生きてきた人にはとても耐えきれない、拷問と言っていい非人道的手法

2010-02-20 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

【往復書簡】「リクルート事件の有罪は無念」と江副氏、宗像氏は「ギリギリの攻防」
産経ニュース2010.2.18 00:40
  約20年前、元官房長官ら政官財の大物が続々と起訴されたリクルート事件で、容疑者と主任検事として対峙(たいじ)した2人のキーマンが、いま改めて事件と向き合った。
 元首相ら多くの政治家や官僚に値上がり確実な未公開株を譲渡していたことが発覚し、東京地検特捜部に贈賄容疑などで逮捕された元リクルート会長の江副浩正氏(73)。当時の特捜部副部長で事件の主任検事として捜査を指揮したほか、江副氏の取り調べも担当した宗像紀夫弁護士(68)。
 江副氏は当時、宗像氏らの取り調べに対して“自白”して贈賄を認める供述をしたものの、公判では一転、無罪を主張。最終的には有罪判決が確定したが、一体、あの“自白”は何だったのか。事件の真相とは…。「冤罪(えんざい)」「取り調べの可視化」「政治とカネ」など注目されている問題の核心が語られた。
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 【江副氏から】
 私は今も有罪判決を無念に思っています。東京地検特捜部に逮捕された後、贈賄を認める供述調書に署名をしましたが、それは本意ではありませんでした。
 宗像さんら取り調べ検事たちに「この調書に署名しなければ君を長期勾留(こうりゅう)する」「部下を逮捕する」と言われ、別の検事からは「壁に向かって立て」「土下座しろ」などと言われました。「苦しみから逃れたい」という私の弱さから、身に覚えもない調書に署名してしまったのです。
 逮捕から113日の長期にわたって勾留されましたが、現代の「拷問」といえるような取り調べや、早期保釈を条件に自白を迫る“司法取引”のようなことが、密室の取調室で行われている。それは問題ではないでしょうか。
 これは私の推測ですが、検察官は容疑者を起訴し有罪にすれば、昇進につながります。だから冤罪が起きるのだと思います。宗像さんは有能な検察官で、人柄も誠実でよい人でした。検察上層部の方針と、私の抵抗の間で苦悩していた姿が、今も思い浮かびます。
 冤罪をなくすためには取り調べを録画・録音する可視化が必要だと思います。しかも全面可視化でなければならない。一部だけ可視化すれば、検察側が都合のいいところだけ録画・録音し、逆に冤罪につながりかねないからです。
 民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体をめぐる事件がメディアで注目を集めましたが、メディアとその読者の責任も重要です。「出るくいは打たれる…」と言いますが、リクルート事件の背景には、私がメディアに出過ぎていて、株でもうけるのは良くないという世間の風潮があったのではないかと思います。
 裁判で、1審判決が出るまで13年。執行猶予付きの判決であり、控訴しても、無罪になるためにはさらに長い時間と費用がかかると考え、裁判をやめました。裁判の長期化を防ぐためにも裁判員裁判に期待したいと思います。ただ、死刑の判断をしなければいけないような公判に裁判員を参加させることには疑問を抱きます。むしろ窃盗や贈収賄事件など、ほかのさまざまな事件で裁判員裁判が行われるべきだと思います。
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 【宗像氏から】
 リクルート事件は、私の36年間の検察官生活の中で最も記憶に残る記念碑的な事件でした。
 値上がり確実な未公開株の譲渡が単なる「経済行為」なのか「贈収賄」なのか、難しい法律問題がありましたし、江副さんをはじめ当時のリクルート関係者の抵抗も激しかった。真実の供述を求めて、取り調べでもギリギリの攻防が展開されました。だから江副さんからみて圧力を感じる調べもあったのかもしれません。真剣勝負でした。
 あれから20年。起訴した人は全員有罪になり、誤りのない事件処理だったと自負しています。いちいち反論するつもりはありませんが、一つだけ言うとすれば、保釈について説明したのは「司法取引」ではなく、否認のままだと証拠の隠滅の恐れがあるから「保釈は難しいですよ」と説明したのかもしれませんね。一般的に、犯行を認めていれば証拠隠滅の恐れがなくなるので保釈が認められる可能性は高まるのです。
 それから、検察官は昇進や出世のために人を起訴するわけではありません。検察官は、例外なしに強い正義感で日々の困難な事件に取り組んでいます。
 江副さんは若くして独創的な事業を興して、リクルート社を築き上げ成功した人だけあって信念の人という印象でした。当時も今も悪い感情は全くありません。なかなか折れにくい「生木のような」意志の強い人、「手ごわい敵」という感じでした。
 江副さんの言う通り、取り調べの全面可視化は避けられない流れだと思います。最近、冤罪があちこちで起きていますからね。取り調べは難しくなりますが、これは乗り越えなければならない試練だと思います。正式な司法取引制度の導入など、何か対抗手段を考えてもいいかもしれません。
 リクルート事件は、江副さんが「出るくい」だから打ったわけではありません。確かに当時、メディアに注目されていましたが、関係なく、あくまで川崎市助役の疑惑報道をきっかけに捜査した結果です。事件のスケールは違いますが、民主党の小沢一郎幹事長の政治団体をめぐる事件でも報道が過熱しました。ただ、あれは騒ぎ過ぎですね。
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 リクルート事件 昭和63年、リクルート側から当時の川崎市助役へ未公開株の譲渡が発覚。それがきっかけに元首相らに渡っていた未公開株や資金が明らかになり、同社会長だった江副浩正氏らが逮捕された。江副氏の供述などから、藤波孝生元官房長官ら10人を超える政治家や財界の大物らが収賄、政治資金規正法違反罪などで起訴、略式起訴された。江副氏は平成15年に懲役3年執行猶予5年の有罪判決が確定。「リクルート事件・江副浩正の真実」と「取調べの『全面可視化』をめざして」を出版、事件捜査を厳しく批判している。
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検察を支配する「悪魔」田原総一朗+田中森一(元特捜検事・弁護士)講談社 2007年12月5日第1刷発行[1] 
p93~ 検察に拷問された江副浩正---田原
 容疑が固まり、身柄を拘束すると、検察の取り調べが始まる。これがひどい。江副の場合を見ても普通の社会で生きてきた人には、とても耐えきれるものではない。拷問だといってもいい非人道的な取り調べですよね。
 江副弁護側の訴えでは、江副に対して、検事は逮捕前から威圧的で陰湿だったと言っている。江副に関する週刊誌の報道を持ち出し、「女性連れで旅行したことがあるだろう。証拠写真もある」とか、「ずいぶん女性がいるらしいじゃないか」「あちこちのマンションに女性を住まわせている」「酒池肉林の世界にいたらしいじゃないか」などと、事件に関わりない江副のプライバシー、それも根拠のない女性問題を執拗に問い質し、江副の人格を否定しようとする。この事実は、担当検事が認めています。
 精神的な屈辱と同時に、肉体的にも苦痛を与える。江副が意のままにならないと、担当検事は机を蹴り上げたり、叩いたり、大声でどなりつけたり、耳元で罵声を浴びせたり、土下座を強要したりした。
 江副自身が、肉体的に最も厳しかったと述懐しているのは、壁に向かって立たされるという懲罰だったそうです。
 至近距離で壁に向かって立たされ、近づけ、近づけと命令される。鼻と口が壁にくっつく寸前まで近づけさせられて、「目を開けろ」。目を開けたまま、その状態で、1日中立たされる。しかも耳元へ口をつけられ、鼓膜が破れるかと思うほどの大声でバカ野郎と怒鳴られる。それが肉体的に本当に苦痛だったと。
 このような、実質的に拷問と呼べる違法な取り調べが、宗像主任検事の指示で行われたとされています。
 もっとも、僕が宗像に極めて近い検事に確かめたところ、「そんな暴力的取り調べなどあるわけない。噂がひとり歩きしているだけ。とくに宗像さんは紳士なので、そんなみっともないことなどするわけはない」と一笑に付していましたけれど。
 裁判所でも、弁護側が訴える暴力的取り調べが行われたとは認めていない。被告が肉体的、精神的苦痛を検察から受けることはない、というのが前提なのですね。
 いっぽう弁護人は、「調書なんかいかようにもつくれる。身柄を拘束して長時間責め立てられ、脅される。肉体的、精神的に追い込まれれば、検事の巧みな誘導についつい乗ってしまう」と反論している。歴戦のプロである検事と、罵詈雑言、人権蹂躙とはほど遠いエリートの世界で生きてきた経営者では勝負にならないと。

p95~ 調書にサインすれば終わり---田中
 殴ったりはしないけれど、世間でまともに扱われてきた人から言えば、検察の取り調べは確かに荒っぽいでしょうね。僕だって、イスは蹴ったし、机もたたいた。ある程度、冷酷な対応をしないと被疑者になめられる。吐きませんから。
 ただ、暴力的な行為と一口に言っても人によって感じ方もずいぶん違うし、検事の性格にもよりけり。どちらの言い分が正しいかは、微妙でしょう。暴行うんぬんより、もっと重要なのは、弁護側が言うように、検事は調書を思惑通りにつくれるという点です。日本の司法は調書裁判で、調書の内容ほど裁判の行方を左右するものはない。
 裁判所での被疑者の陳述と、検事調書の内容が違ったとします。その場合、とくに調書のほうが信用できることを検事が証明したら、検事調書の内容が真実として採用されることになっている。
 どのような内容を裁判官が信用するのか、過去の判例を調べると、次の2点に集約される。具体性が合って、論理が明快。そんなの検事は先刻承知だから、具体的な理路整然とした調書に仕立て上げる。検事の調書は筋がしっかりしていて論理的なので、裁判官も抵抗なく頭に入る。だから調書の内容が全部生きる。
 かたや、被告の主張は、いくら真実であっても、記憶が曖昧だったり、どこか支離滅裂な部分があるので、圧倒的に検事調書の心証がよい。
 普通の人は、連日、検事から責められて辛い思いをすると、事実とは違っていても認めてしまう。しかし、裁判で事実を明らかにすれば覆ると思っているので、裁判に望みを託す。
 日本の場合は人質司法で、罪を認めなければ保釈されないので、なおさらこの罠にはまりやすい。何日も自由を拘束されて、厳しい取調べで肉体的にも精神的にも苦痛を受け続けると、一刻も早く家に帰りたいと思うようになる。
 事実であろうが、なかろうが、罪を認めれば、帰れる可能性が出てくる。そして、その場から逃れたい一心で、検事の言うがままになる。だが、これは、非常に甘い考えです。
 と言うのも、一度、調書がつくられて、それにサインしてしまえば、それが事実ではなくても、裁判でも通ってしまうからです。客観的なアリバイなど、よほど明白な証拠でもない限り、弁護士でも検事調書の内容をひっくり返すのはむずかしい。
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検察の力の源泉は任意捜査にある ライブドア事件堀江貴文氏 村上ファンド事件 ロッキード事件
ゲスト:堀江貴文氏(株式会社ライブドア元代表取締役CEO)

 堀江氏は自分自身が検察の手によって不当に犯罪者に仕立て上げられたとの立場から、検察とメディアがタッグを組んで事件を作り上げていく(堀江氏)手法の怖さと危うさを繰り返し訴える。
 また、現在問題にされている捜査の可視化や弁護士の立ち会いなどは必要だが、それだけでは不十分だと堀江氏は指摘し、自身の経験では、検察の力の源泉は任意捜査にあると言う。堀江氏によると、ライブドア事件を立件するために、検察は周囲に広く捜査の手を広げ、堀江氏に不利な供述をした人は罪に問わなかったり、罪を軽減するなど、事実上の司法取引が行われている。それが検察の最大の武器だと堀江氏は言う。事件に巻き込まれる恐怖から、本人が言ってもいないことを聞いたとか、やってもいないことを見たと証言する人が出てくるからだ。


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