麻原彰晃死刑執行2018/7/6 「極秘テープ」に残されたオウム真理教の真実【後編】

2018-07-06 | オウム真理教事件

麻原彰晃死刑執行 「極秘テープ」に残されたオウム真理教の真実【後編】
NHKスペシャル未解決事件取材班 
source : 文春ムック 昭和・平成「怪事件の真相」47
genre : ニュース, 社会

7月6日、オウム真理教の教祖・麻原彰晃(本名・松本智津夫)の死刑が執行された。NHKスペシャル「未解決事件File.02 オウム真理教」取材班が入手した7教団の極秘テープには、麻原の素顔とオウム真理教の真実が残されていた――。後編は地下鉄サリン事件にいたる過程に迫る。。※前編より続く (初出:「文藝春秋」2012年8月号)

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■ハルマゲドンの予言を実現
 最後の逃亡犯として逮捕された高橋克也容疑者の上司だった井上嘉浩。麻原の側近の一人で「諜報省」と呼ばれた組織のトップとして地下鉄サリン事件などの犯罪に関わった。死刑が確定し、拘置所で外部との接触ができない状態に置かれている。その井上と家族を通じてやりとりが始まったのは昨年12月。
 井上は裁判でも語ることがなかった数々の事実を、手記を通じて明らかにした。例えば、地下鉄サリン事件の前年、サリンを使った「計画」が首都を標的に進められていたという。
〈私の知る限り、松本サリン事件後の(94年)8月頃には早川(紀代秀、死刑確定)氏が極秘に担当してサリン散布の拠点として皇居をぐるりと囲むように10カ所、テナントやマンションを借りていました。千代田区では平河●-●-●等5カ所、中央区では銀座●-●-●等3カ所、港区では赤坂●-●-●等2カ所です〉
〈サリンの大量生成のための大量の薬品・生成の技術、確実に生成するための場所の確保(オウム真理教附属医院専用のビルの地下)、2万個の小型拡散機、そして都内の10カ所の散布用の拠点と大型ヘリがありました。目的は武力クーデターによる政権奪取です。10カ所の拠点から、皇居のまわりをぐるりと囲むエリア、つまり国家の中枢機関の破壊を狙っていたことは確かです〉(以下、〈 〉内は井上手記より=原文ママ)
 松本サリン事件後、神奈川と長野、二つの県警がそれぞれ別の捜査からオウムとサリンの関係をつかんでいたことが、今回の取材で明らかになっている。しかし、当時サリンを取り締まる法律は日本にはなかった。旧上九一色村の地元・山梨県警単独の捜査では態勢が心もとないと警察庁上層部が考えていたこともあって、警察はオウムに踏み込むことに躊躇していた。
 ところが95年2月、東京・警視庁の管轄下で、オウムによる公証役場事務長の監禁致死事件が起きる。ついに圧倒的な動員力を誇る警視庁を中心に関係府県警が一斉にオウムへの強制捜査を行うことが決まった。Xデーは3月22日。しかしその2日前、地下鉄サリン事件が起きる。
 これまで麻原の裁判では、この強制捜査の情報を事前に知った麻原が3月18日未明、捜査攪乱のためにリムジン内で地下鉄にサリンをまくよう指示した、とされてきた。ところがリムジンに同乗していた井上は、車内では具体的な指示はなかった、と証言する。
〈リムジンでは何も決定されず、サリンを散布しても強制捜査は避けられないとの話しで終わったのです。このことはすでに法廷で証言しています。(略)リムジン後、麻原が自分のアイデンティティとしての、予言の自己成就のためと、全ての事件を弟子の責任に押しつける布石として、事件を決断したのです〉
〈午前4時頃、第二サティアンに到着し、麻原は「瞑想して考える」と言ってリムジンを降りました〉
〈本質的には強制捜査を妨げる、妨げられないとは関係なく、予言の成就のために麻原は事件を決断したのです〉
 地下鉄サリン事件の目的はこれまで言われていた捜査の攪乱ではなく、自らが主張する「ハルマゲドン(世界最終戦争)」の予言を実現することに、麻原がこだわったためだという新たな証言だった。
■徹夜で6リットルのサリンを製造
 実は麻原が指示した時点で、教団が保有するサリンは無かった。警察の捜査を警戒して、1月の時点で大量に処分していたためだ。3月18日未明、麻原の指示を受けて遠藤らがわずかに残っていた原料から、徹夜で6リットルのサリンを製造。慌ただしく袋に詰め込んだ。精製が不十分だったため、本来無色透明であるはずのサリンが茶色だったという。高橋克也容疑者も警視庁の調べに、「実行役を車で運んだが、一緒に運んだ液体は茶色だった。サリンは透明だと思っていたので、液体がサリンとは思っていなかった」と供述している。
 こうして3月20日、世界でも例を見ない化学兵器による無差別テロ「地下鉄サリン事件」が起きた。警察は結果としてオウムの暴走を止めることができなかった。死者13人、負傷者6300人超。オウムが救済の名のもとに命を奪ったのは、無辜の人々であった。
 地下鉄サリン事件において、犯行に使われたサリンの製造に関わったとして殺人などの容疑で逮捕された菊地直子。調べに対し、「私がサリンの製造に関わっていたことに間違いありません。しかし、当時は何を作っているのか知らない状態でした」と供述しているという。NHKスペシャルの「実録ドラマ」に登場した元古参幹部の深山織枝(仮名)は地下鉄サリン事件後、教団施設内で身を潜めている菊地の姿を覚えている。
「アルミニウムかなんかの分厚い壁でしきっているシールドと呼ばれる瞑想室みたいなものがあるんです。それは富士山総本部の道場にもあって。人の出入りがあんまりないんです。そのシールドの中に、菊地さんが遠藤さんの指示でじっと籠っていたのを見ました。警察に分からないようにするためだったのか、その半日か1日あとに逃走したんだと思います」
 実は地下鉄サリン事件のあとも、警察の捜査を攪乱し麻原の逮捕を阻止するため、オウムはいくつもの犯罪を企図していた。その一つに未遂に終わった「石油コンビナート爆破計画」がある。左翼系過激派の犯行と見せかけて、4月30日にコンビナートを爆破するというものだった。
「その手伝いを菊地さんがさせられていた」と言う別の元幹部もいる。
 サリン製造に菊地を巻き込んだとされる中川智正(サリン製造メンバーの一人、死刑確定)が、菊地に旧上九一色村にあったサリンの実験棟から、爆弾の原料を運ばせていたというのである。
「サリンもそうですが、菊地さんが自覚的に関わっていたかどうか分かりません。あまり物事を詮索するタイプではなかったので……」(同前)
 幹部らの逮捕が相次いでいた5月。菊地は、中川や豊田亨(地下鉄サリン事件の実行犯の一人、死刑確定)らとともに東京・八王子のマンションに潜んでいたという。
「中川さんは、持っていた猛毒・ダイオキシンの原料を菊地さんに預け、『何としてでも捕まらずに持っていてくれ!』と頼んでいた」(同前)
 それから17年もの間、菊地は逃避行を続けることとなった。
■「お前は心が弱いからダメなんだ」と麻原が叱責
 一方、高橋容疑者は地下鉄サリン事件やVXガス殺人事件などオウムが終盤に起こした多くの事件に関わった疑いがもたれている。しかし、これまで高橋の素顔はほとんど知られていなかった。
 NHKスペシャルの「実録ドラマ」に登場した元幹部・早坂武禮(仮名)は、高橋と交流があった数少ない一人だ。
「94年の3月に、教団に毒ガスをまかれてるという麻原の説法があって、その時に肉体的なエネルギーを高めましょう、ということで、柔道とか空手の修行をしたことがあるんです。その時に指導者になったのが、柔道二段の高橋君でした。何かのきっかけで高橋君が素人と対戦することになって、それが引き分けみたいな形になって。その後麻原さんから呼ばれて、『お前は心が弱いからダメなんだ』と叱責されていたのを覚えています。
 高橋君は、修行もワークも一所懸命やってるんだけど、どこかで手を抜いちゃうようなところがあった。言われたことはやるけど、でも本当につらいことは最後までやらないで逃げるようなね」
 高橋は、古参信者ではあったが、そうした性格だったためか、教団内で出世することはなかった。車両班で車の運転の担当やSPS(尊師パーソナルスタッフ)の特別警備という役職についていたこともある。教団の全ての殺人事件に関わった新実智光(死刑確定)や井上らの運転手となって非合法活動に加わるようになり、ロシアへの射撃ツアーにも参加したとされる。
「SPSから『諜報省』に配置されたことで方向性が決まったと思います。彼が変わったというよりも、教団が変わっていって、諜報省のメンバーが違法行為を行うようになってたんで、そういう中で自然に事件に関与していくようになったと思います。VXガスの殺人事件とかですね。高橋君は古いサマナ(信者)なので非常にまじめですから、これはグルの意思だと強く言えばコントロールしやすいし、重宝されてたんじゃないかなと思います」(同前)
 地下鉄サリン事件後、警察の強制捜査が行われた後は、上司であった井上と行動を共にし、東京都内や埼玉県内の潜伏先を転々とした。井上は5月15日に逮捕されるが、高橋は07年頃まで偽名を使って菊地と逃亡生活を続けた。そして菊地逮捕の12日後、都内の漫画喫茶で身柄を確保されたのだった。
■いのちを奪うことを正当化
 これまでの歴史でも、多くの国家や宗教が「聖戦」の名のもとに戦争や殺戮を正当化してきた。井上も、700ページを超える手記の中で、事件をこう総括している。
〈オウム事件も規模は小さくても神の名において、善として他者のいのちを奪うことが正当化された点においては同じはずです。悲劇を繰り返さないためには、命の尊厳を否定できるような絶対的に正しい大義などない、この世は矛盾に満ち、人間は誤ちを犯す生き物だからとの謙虚さが必要ではないかと、痛感しています〉
 そして、こう謝罪の言葉を綴った。
〈自分達が救済と妄信して、多くの方々のかけがえのない命を奪い、苦しめ、今も苦しめてしまっています。ただただ申し訳ない思いで胸がはりさけそうになります。二度とこのような事件が起きないようにできる限り努めていきます〉
 平田信、菊地直子、高橋克也の逮捕によって、再びオウム裁判が始まる。果たして、これまで以上の真実が明らかにされるのか。事件から17年たった今なお新たな事実が出てくることを踏まえれば、裁判の場でもう一度事件を徹底解明することが必要だと言えよう。そして、事件を風化させないためにも、また事件から未来へつながる教訓を得るためにも、「未解決事件」の取材班はその行方を注視し取材を続けていくつもりである。
取材班による最新の特集番組が以下で放送されます。
NHKスペシャル「オウム 獄中の告白 ~死刑囚たちが明かした真相~」 2018年7月8日(日)21:00~21:49
(初出:「文藝春秋」2012年8月号)

 ◎上記事は[文春オンライン]からの転載・引用です
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麻原彰晃死刑執行2018/7/6 「極秘テープ」に残されたオウム真理教の真実【前編】
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1 コメント

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洗脳 (あやか)
2018-07-07 15:55:22
私は、昨日、ゆうこ様が、「死刑執行には慎重にも慎重さが必要なら、麻原こそ最も慎重にすべきではないか」とおっしゃった意味がわかりました。
オウム真理教が何故あんなことをしたのか、その理由や意図を、麻原教祖に問いただすべきだったかも知れません。
また、麻原氏を処刑する事によって、麻原教祖を「殉教者??」にしてしまう危険性も考慮すべきだったでしょうね。

 それにしても、オウム真理教の洗脳の巧妙さは恐ろしいです。
他の新興宗教にも、(直接的な破壊活動はしないとしても)、オウム真理教と似た教義や洗脳手法を持つ教団はあります。
宗教だけではありません。
近年、学校や会社で行われている『いわゆる、人件同和研修』や『自己啓発セミナー』なども、一種の洗脳行為に他なりません。
 オウム真理教事件は、一般的には、狂気の集団の異常行為と見なされていますが、実は、社会のさまざまな集団で、ありうることなんだと思いました。
 
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