「塀の中」は想像よりも“快適”だった? 大阪刑務所を見学 「広く理解を」公開へ舵 2015.11.3

2015-11-05 | 社会

「塀の中」は想像よりも“快適”だった? 大阪刑務所を見学してみた!
 SankeiBiz 2015.11.3 17:12 

     

 定員6人の共同室。きれいにたたまれた布団の近くに私物を入れる黒いかばん、壁に本棚が設置され、液晶テレビまで備え付けられている=堺市堺区の大阪刑務所 

     

 共同室に入れない受刑者を収容する「単独室」。いわゆる独房だが、ここにも液晶テレビが…=堺市堺区の大阪刑務所 

     

 刑務作業で織物を織る受刑者=堺市堺区の大阪刑務所(一部画像を処理しています) 

     

 出所後に役立つようアーク溶接の技術を学ぶ受刑者たち=堺市堺区の大阪刑務所

 「塀の中」と聞いて頭に浮かぶイメージといえば、暗くじめじめとした独房に、受刑者の一挙一動に厳格な刑務官の姿だが…。大阪刑務所は10月、処遇の実態を知ってもらおうと、報道関係者向けの見学会を実施した。普段は外部の人の目に触れる機会がない単独室(独房)の中まで公開。意外なことに、清潔な居室に液晶テレビが置かれるなど、受刑者の“快適”な処遇をここぞとばかりにアピールした。今夏、居室にエアコンがない関西の刑事施設で収容者が熱中症になるケースが相次ぎ、弁護士会が「人権」の観点から問題視し、処遇改善を求める声を強めていた。見学会開催の背景には、刑務所の負のイメージを一掃する狙いもあるようだ。(大森貴弘)
■本棚に漫画本まで
 男性受刑者ばかり約2千人が収容され、西日本最大規模という大阪刑務所。厳重に施錠された分厚い鉄扉を2枚くぐり、塀の中に足を踏み入れた。
 「イチッニー、イチッニー!」
 受刑者が行進しているのだろうか。遠くから野太い号令の声が響いてきた。
 まず刑務官の案内で居室棟に向かった。ここに全受刑者が寝泊まりする。定員6人の共同室は、現在は4~5人で使うケースが大半だが、過剰収容が問題になった10年以上前は、1部屋に10人近く収容することも珍しくなかった。受刑者が2段ベッドで折り重なるように寝ていたという。
 「まさに3D画面の世界でしたね…」と、当時を知る刑務官は振り返る。
 その頃に比べれば、住環境は格段に向上したのだろう。寝起きする程度なら十分なスペースが与えられているという印象だ。
 見学した時間帯は受刑者が刑務作業で不在だったが、布団が壁際に整然と折りたたまれていた。布団の脇にはスーツケースのような黒いかばん。布団の上部には壁から突き出すように本棚が設置され、文庫本や辞書、漫画本までが並ぶ。手荒れ対策のためか、保湿クリームも置いてある。
 刑務官は「受刑者の私物はすべて黒いかばんに収納させています。かばんと個人の本棚だけが、いわばプライベート空間なんです」と解説してくれた。
 共同室には洗面所やトイレがあり、電化製品も扇風機、そして何と液晶テレビまで備え付けられていた。時間帯や視聴番組に制限はあるが、受刑者であっても自室でテレビが見られるのだ。家庭でチャンネルの選択権すらない父親とどちらが“まし”なのか。何とも釈然としない思いがした。
■独房も十分な生活必需品
 続いて単独室。一般に独房と称される個室だ。
 広さは4畳ほど。小さな机に洗面所、トイレ、そしてここにも液晶テレビがあった。必要最小限の生活必需品がすべてそろっている。
 大阪刑務所の場合、受刑者の約3割が単独室に収容されている。案内役の刑務官によれば単独室に入る理由はさまざまだ。
 周囲とトラブルを起こしやすい性格や精神状態のほか、「いびきがうるさい」「静かな環境で通信教育の勉強をしたい」「気分転換したい」など、わがままレベルの事情まで考慮しているという。
■刑務作業、人気は印刷
 居室棟を後にし、次に向かったのが炊事場。ここでは1日1万食を作っている。この日の受刑者のメニューは以下の通りだ。
 【朝食】パン▽ミルクティー▽マーガリン▽白黒チョコジャム
 【昼食】ごはん▽肉団子▽サケと根菜のみそ汁▽ゴボウサラダ
 【夕食】ごはん▽炒り鶏▽わさびサラダ▽ワカメとキャベツの酢の物
 管理栄養士の指導のたまものだろう。一人暮らしが長い自分よりも、よほど栄養バランスのいいものを食べているではないか。「ムショに入って健康になって出てきた」という言いふるされた言葉があるが、その意味がよく分かる。
 受刑者たちが刑務作業を行う場所にも案内された。
 大阪刑務所では、名刺やチラシの印刷、木工細工、革製品の製造、織物、洗濯、家電解体などさまざまな刑務作業を受刑者に担わせている。壁には「今月の生産目標」と題した棒グラフも掲示され、市中の工場と見まがうばかりだ。
 特に受刑者の人気を集めるのが印刷。理由は単純。「作業上の必要性から、室内にエアコンが入っている」(刑務官)ためだ。
 刑務所内では、フォークリフトなどの免許や溶接の資格など、出所後に役立つ職業訓練も受けられる。あちこちにフォークリフトやショベルカーの練習場があり、手厚い支援態勢をうかがわせた。
 法務省によると、出所後に仕事がない人の再犯率が37%なのに対し、職がある人の場合は7%。出所後に働いているか否かで再犯率に格段の違いが出るという。見学会を終え、刑務官はこう語った。
 「刑務所は罪を反省させ懲罰を与える場ですが、それだけではありません。出所後に再び罪を犯さないため、手に職をつけるよう支援するまでが私たちの役割なんです」
■「広く理解を」公開へ舵
 今夏、関西では刑務所・拘置所のエアコン設置を巡る議論が盛り上がった。きっかけは熱中症だ。
 和歌山市の丸の内拘置支所で7~8月、40代の男性収容者が死亡し、別の男性収容者2人が救急搬送された。香川県の丸亀拘置支所でも同時期、40代の男性収容者が熱中症で入院した。
 大阪刑務所では平成19年8月、当時30代の男性受刑者が熱中症で死亡している。
 こうした事態が起きるたび、地元の弁護士会などを中心に、刑務所や拘置所の設備面での改善を求める声が上がってきた。
 大阪弁護士会は19年、空調施設の改善などを求める会長声明を発表。和歌山弁護士会も今夏、会長声明を出し、「熱中症の発生が避けられない状態において被収容者を拘束しているとすれば、それは非人道的取扱いという誹(そし)りを免れない」という厳しい言葉で処遇の改善と原因究明を迫った。
 一部報道も今夏の事例を取り上げ、「警察の施設である留置場では冷房の設置が進んでいるのに対し、多くの刑務所・拘置所には冷房がない」として、対策が十分でないと指摘した。
 これに対し、「実態が正しく伝わっていない」というのが、施設側の本音なのだろう。ある刑務官はこう漏らした。
 「われわれはこれまで、外部にあまりに閉鎖的にすぎたのかもしれない。もっと広く知ってもらう方向に舵を切るべきではないか」
■テレビの法的根拠は…
 今回、大阪刑務所が見学会を開催した背景には、刑務所・拘置所の設備に対する世間の誤解や偏見を解きたいとの思いがあるといえる。実際、刑務所内の全居室にテレビがある環境を目の当たりにしただけで、刑務所のイメージはがらりと変わった。
 犯罪に手を染めて刑務所に入った受刑者に、こんな快適な環境を与えていいのかと正直思ったほどだが、そもそも、刑務所の居室にテレビを設置する法的根拠すらあいまいだ。法務省の担当者は「受刑者の処遇などを定めた法令では、報道番組に触れさせる機会を与えるよう明記されているだけだ」と説明する。
 エアコン設置も法的根拠があるわけではなく、居室にエアコンがある刑務所はない。法務省の別の担当者はエアコン設置について「刑務所の改築の機会と、被収容者の保健衛生状況を勘案して検討するが、一概には言えない」と明言を避けた。一方、未決勾留者が収容される拘置所・支所は全国111カ所のうち、15カ所で全居室に冷房を完備しているという。
 本来、刑務所の役割は「(受刑者の)自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図る」(刑事収容施設法)ことだ。全居室にテレビを設置することで改善更生の意欲を喚起できるのか。エアコンを新設すれば、意欲がさらに高まるのか。刑務所側は多くの国民が納得できる「答え」を探っている。

 ◎上記事は[SankeiBiz]からの転載・引用です
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