『悪党 小沢一郎に仕えて』マスメディアと東京地検特捜部/石川知裕氏×佐藤優氏 緊急対談〈1〉からの続き
*メディアには何をやられても、メディアでやり返せばいい
『石川さんはメディアを訴えるのは得策ではないと考えているようですが、何もしないと調子に乗って同じ事を繰り返すと思います。是非戦って欲しいのですが、その気は全くないのですか?』
石川:訴訟ですね。弁護士と話しをして、メディアを訴えるのに力を費やすのと、自分自身が政治家としてメディアを利用するのと、天秤にかけました。それで後者を取るべきだという結論に至ったんです。
ただ、裁判の一審が終るまでは、裁判に専念したいと思っています。その後、きちんと考えます。
佐藤:私は政治家がメディアを訴えるのは反対。メディアには何をやられても、メディアでやり返せばいい。公権力を介入させるべきではない。私は訴えられたことがありますが、訴えたことは一度もない。
例えとして、回り道になっているけれど、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が書いたディプロマシー(diplomacy)、『駆け引き』や『謀(はかりごと)』と訳されている怪談があります。
ある死刑囚が奉行に言う、『俺は馬鹿だったけれど、殺されるような悪いことはしていない。もし、俺を死刑にするのならば、必ず呪って復讐してやる。最期の一念は怖いんだ』と。でも奉行は、『最期の一念なんて信じない。もし最期の一念があるならば、そこの石に噛み付け』と言い放って、首を斬った。すると、首がコロコロと転がって行って、パクッと石に噛み付く。みんなは真っ青になって、『これは供養をしないと大変だって』と騒ぎ出した。でも、奉行だけが平気な顔をしている。彼は『最期の一念がどれだけ恐ろしいか、私がよく知っている。あの男はとんでもない最期の一念を持っていた。だから、俺はdiplomacy(駆け引き)で転換させたんだ。最期の一念は石に噛み付くことになった。彼は石に噛み付いて安心して、成仏したはずだから、絶対に祟りはない』と。
なぜ、この例を出したかと言うと、もし我々がメディアを相手に喧嘩をしたら、それは石に噛み付いたことと同じです。情報を流したのは、公的な機関なわけです。マスコミは情報がないところには書きません。これは日本のマスコミが良心的だからではないんです。
例えば、企業ジャーナリストだったら、情報源がないのに記事を作って発覚したら、クビです。フリーランスだったら、正に『偽メール事件』で分かるように、そのようなことをやった人は業界から仕事を貰えなくなる。 だから、日本でマスメディアが意図的に捏造することはないんです。必ず何か端緒があります。端緒をやった奴、私の場合は外務省ね。ある意味じゃ、検察も外務省にやられてしまった。だから、さっきの丹波さんみたいな人の素顔をお伝えしたいんですよ(笑)。
*女性で2回も失敗
佐藤:少し時間がなくなってきたんですが、著書を見たら女性で2回も失敗しているんですね(笑)。
石川:そうですね(笑)。
佐藤:ひとつは結婚しようと思って、岐阜の相手の両親の所に了承を貰いに行ったら、入口で猫に『シャー!!』と拒絶されて(笑)。
石川:毛を逆立ててきたんですよ。よくよく考えて見ると、小沢さんって犬は好きなんですけれど、猫は大嫌いだった。塀を針金で括るくらい猫が嫌い。それを感じ取って、彼女の実家の猫に『シャー!!』ってやられたのかもしれない。やっぱりあの時、結婚に失敗したのも小沢一郎のせいなんですよ(笑)。
佐藤:ちなみに、ムッソリーニも猫が嫌いでしたよね。レーニンは猫が好きでした。もうひとつは、キャビンアテンダントと事件が報道される直前ぐらいまで付き合っていて......。
石川:私が1回目の事情聴取の前まで付き合ったり、別れたりだったんですけれど。1月に振られるんです。3月に事情聴取の段階になって、連絡が来た。その後、8月30日に選挙で当選したら、メールが来た。こっちもスケベ心出して、また会おうかってことになりました。そして10月16日に読売新聞の第一報が出てると、その前に日光にドライブに行ったりしていたのに、『やっぱり、私はあなたに合わない』だって。
彼女の前世はネズミなんじゃないかって思いましたね。危機を察知すると去って行く(笑)。これも小沢一郎のせいといえば......、いやいや人のせいにしちゃいけないな。
佐藤:小沢さんと付き合わなければ、こんな事にならなかった訳でしょう? 小沢さんに惹かれた理由って何だったと思います? あるいは、小沢さんの周辺にあれだけの人が集まってくる魅力って? 金とか権力が得られるとはちょっと違うと思うな。
石川:実際、給料も安かったですしね。魅力を一言で言うと『物を実現できる力が強い』。国民からの期待に対して、『小沢ならやってくれる』という期待をそばで手助けできるのが、秘書のモチベーションだったと思います。議員としても、何か変えてくれる力があった。
ただ、その『何か』を我々もきちんと理解していないと、盲目的な『キン肉マン』と呼ばれることになる。それは避けなければならない。
*菅首相が溺れている”ナルシシズム”
佐藤:石川さんは、今後の政治の中で何をやりたいですか?
石川::今、私は北海道・十勝にいますけれど、結論から言えば、きちんと国民の所得を上げて行く政治をやらなければならない。
佐藤:それは私も大賛成。とにかく東日本大震災の復興から、やらなければならないことは、たったひとつだと思うんです。大量破壊が起こったんだから、それを回復するには生産しかありません。そのためには仕事です。労働価値説を復活して、とにかくみんなで働く。
今、政府の議論は、基本的にすべてが分配の議論でしょう? 生産を復活させるためには、やはりバッチをつけた人に頑張って頂かないと。なぜ、こうやって皆空回りしてしまうんだろう?
石川:やっぱり胆力がないからだと思います。執行部全員が自分のことを棚に上げて、トップが悪いんだと攻めている。そんな会社が成功する訳がない。専務も、部長も、みんな『ウチの社長が悪いから、スミマセン』って......。
佐藤:それに合わせて、今はナルシシズムが出ていると思う。
もともとギリシャ神話なんですが、ナルキッソスという青年がいました。彼は非常に女性にもてていた。でも、余りにも素行が悪いために、『自分以外は愛せない』という呪いをかけられてしまう。ある日、水に映る自分の姿に見とれてしまって、身動きが取れなくなってしまった。結局、そのままやせ衰えて死んだ。別の結末では、水に映った自分にキスをしようとして、溺れ死んでしまう。その後に水仙の花が咲いたというわけで、水仙の花言葉は『自己中心』になった。
今の菅さんは、このナルシシズムに溺れていると思います。これは取って付けた議論ではなくて、フランスの政治人口学者でフランス国立人口学研究所のエマニュエル・トッドという人が『デモクラシー以後』という本の中で言っているんだけれど、『バラバラになった新自由主義の後には、極端に自己愛の強いナルシストが出てくる』と。
菅さんは権力にしがみついているのではない。権力にしがみついているならば、何かやりたい事があるはずです。彼はやりたい事がない。それは自分の映った姿に見とれていて動けなくなっているから。それと同じことをBLOGOSの『眼光紙背』でも書きました(佐藤優の眼光紙背:第105回「竹島問題を巡る外務省の中途半端な対応が、ロシアに付け入る隙を与えている」)。韓国の大韓航空が竹島の上空でデモ飛行をしたことに対して、外務省がは省員だけ7月18日から1カ月間大韓航空機の利用を自粛するとした。これは外務省としては、相当踏み込んだ対応です。例えば、北方領土を考えた場合、サハリン航空なんて毎日領空侵犯している訳ですよ。それにも関わらず、抗議なんて1回もしたことがない。
今の状況で、内閣府や経産省の連中が大韓航空を利用して、外務省だけ利用しなくても意味がないでしょう。これでは、政府として機能していないということをあぶり出してしまう。
外務官僚達は、今の日本には単一の政府はないと考えたんでしょう。『Small Governments』、複数形の小さな政府しかないと。この状況で自分達の中で国益を代表するには、自分達の中で出来る措置は何かと考えた。それを官邸に上げずに決めてしまったんです。これもナルシズムとしか言いようがない。
結果、ロシアからは『韓国に言って、俺たちに言って来ないのは、俺たちが強いからだ』となめられてしまう。この自己陶酔をやめさせるためには、自分の姿が醜いことを、知ってもらう必要があります。その点、小沢さんはナルシストではないと思う。
石川:この顔を見て、ナルシストにはなりませんよね。その心配はない(笑)。
佐藤:彼が、自分自身を突き放して見ているのは、いい所だと思う。
石川:ニヒリズムとかが盛り上がる中で、小沢さんはギリギリのラインは分かっています。それが必要とされるんじゃないかな。
*最高裁まで戦うには4,500万円必要
佐藤:この続きは、是非『悪党』を読んで欲しいんです。この本を出版した目的に、金儲けがあります。何のために金が必要なのか、それは裁判なんですよ。裁判はやっぱり金がかかるでしょう?
石川:もう莫大な金額かかりますね。ビックリするくらい。
佐藤:私は8年間やりました。弁護士は適正な価格でやってくれましたが、外国からも証人を呼んできましたし、だいたい2,000万円掛かった。
この2,000万円は全て自分で稼いだんですが、税金払うことを考えると4,500万円くらいが必要です。これくらいの金額がないと、最高裁まで上げることは出来ないんです。石川さんは小沢さんに依存せずに、自分で訴訟費用を作っている。
石川:実際、ホームページで全国からカンパを募集して、500万円以上頂戴しています。
佐藤:10年も裁判が続くと金もかかります。『こっちだって執行猶予で済ませようと思ってるんだ。公判1回で終れば、みんなすぐに忘れる。新しい人生を始めることができる』って、検察官は本気でそう思っていました。外務省の東大卒キャリアだった私の同僚は、それを選択した。
石川さんが戦うという選択をした以上は金もかかるし、色々な逆風もあるけれど、最後までやってみた方がいいと思う。
石川:とにかく戦うことを選択したので、最後まで頑張ります。
佐藤:皆さんも、この『悪党』を是非読んで下さい。金返せって内容じゃないことは、私も本読みなので、ちゃんと保証します。
石川:重版が追いついていないんですけれど、Amazon等で予約して頂けると助かります。
佐藤:今日はありがとうございました。
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【佐藤優の眼光紙背】小沢一郎が『平成の悪党』になる日
2010年05月31日10時00分 / 提供:眼光紙背 BLOGOS
佐藤優の眼光紙背:第74回