古賀茂明氏が越えてしまった「一線」 「メディアへの圧力」を考える
J-CASTニュース 2015/4/ 5 11:45
先日、元経産官僚の古賀茂明氏が報道ステーションの生放送中に暴走し、ニュースそっちのけで10分以上にわたり手製フリップを出すわ自身の降板問題をぶちまけるわで、大きな話題となっている。
果たして氏の言う通り、氏の降板の背景には政府の陰謀のようなものがあったのだろうか。
いい機会なので、メディアの裏側の力関係についてまとめておこう。
*「政治の圧力」ほど、メディアにとって美味しいネタはない
一部の人たちの夢を壊すようで悪いが、結論から言うと「メディアに政府が圧力をかける」ということはまずありえない。仮にやったとすれば、報ステあたりなら大喜びして「徹底検証!政府による圧力と報道の自由について」とかなんとかいって2時間特番くらい組むだろう。「政府は常に暴走するリスクがあるからチェックするのが我々の役目だ」と考えている彼らにとって、これほど美味しいネタはないからだ。
数年前、筆者自身も出演していたサンデープロジェクト(テレビ朝日系、2010年3月終了)では、1985年の派遣法成立時の厚労省事務次官の自宅にカメラが突撃して老人を追い回すVTRが流されたことがある。別に彼らが利益目的でやったわけでもなんでもなく「全員終身雇用で雇わせるという狂気の政策」に代わる常識的な規制緩和なのに、制作側はまるで「大企業と結託して甘い汁を吸った張本人」と言わんばかりの悪趣味なVTRだった記憶がある(さすがにやりすぎたらしく、後にBPO審査にかけられていたが)。
彼らにとって政府とは、世の中で起きている不都合の責任をかぶせ、叩き、粗を探す獲物ではあっても、恐れるべき怪物ではないのだ。
というような話は、メディアの作り手や出演経験のある人なら誰でも知っている話だ。もちろん、経産省OBであり報道ステーションのレギュラーでもあった古賀さんも知らないわけがない。だからこそ、彼の発言は、メディアの作り手からすると、とうてい看過できないものだろう。
*作り手との信頼関係
「テレ朝のトップが政府の圧力に屈したから自分は辞めさせられます」
と、自分がレギュラーを外される理由をトップのへたれっぷりのせいにされた上、生放送の場で全国に放送させられてしまったわけだから。古賀さんは一部で反体制のヒーローになれるかもしれないが、テレ朝は広く赤っ恥をさらしたわけだ。
筆者自身、発言部分が全編カットされたり、後で小言を言われたりしたことは結構あるが、それでも今のところ干されていないのは、作り手側との信頼関係を壊すような発言はしていないからだと思う。古賀さんは明らかに越えてはならない一線を越え、作り手との信頼関係を木端微塵にぶち壊してしまった。おそらく報道系の番組で彼を使おうという局はもうないのではないか。
*「メディアがもっとも怖いのは政府ではなくスポンサー」
とはいえ、公平を期すため、メディアが100点満点とは程遠い現実も付け加えておこう。彼らにも怖い怪物はいる。それは政府ではなく、お金の出し手であるスポンサーだ。活字、テレビを問わず、大口で鼻息の荒いスポンサーが圧力をかけてくれば彼らは勝てないし、多くの場合、圧力がかかる前段階で「自主規制」という形でコンテンツを修正してしまう。筆者自身、政府が怖いから云々というのは聞いたことは無いが、「スポンサーの〇〇が怖いから」という理由で文章やコメントを掲載拒否されたことは何度かある。
最近、使い物にならずにメディアからリストラされた識者たちが連合して「政府の言論弾圧を許すな」的なキャンペーンを張っているのをたまに目にする。彼らも古賀氏と同様、「自身の使えなさ」を棚に上げて全部メディアに責任をおっかぶせているわけで、ますます自分の首をしめているようなものだろう。
はっきり言うと、日本のメディアで政府の圧力云々を心配する暇があったら、JTとトヨタの圧力の方を心配した方がいいんじゃないか、というのが筆者の意見である。(城繁幸)
<筆者プロフィール>
城繁幸(じょう・しげゆき)
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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<テレ朝>古賀氏降板問題 「圧力」か「暴走」か
毎日新聞 4月6日(月)7時56分配信
放送現場で報道の自由は守られていたのか。コメンテーターの暴走だったのか--。テレビ朝日の「報道ステーション」で、元経済産業官僚の古賀茂明氏が生放送中に突然、自身の降板をめぐる政権からの圧力を訴え、物議をかもしている。古賀氏、テレビ朝日、首相官邸それぞれの言い分は真っ向から対立している。【青島顕】
*古賀氏「官邸から批判」
3月27日の番組に出演した古賀氏は、古舘伊知郎キャスターから中東情勢へのコメントを求められた際に、テレビ朝日の早河洋会長らの意向で降板に至ったと発言し、「菅(義偉)官房長官をはじめ官邸のみなさんにはものすごいバッシングを受けてきた」と語った。古賀氏は1月23日の番組では、イスラム過激派組織「イスラム国」(IS)の日本人人質事件の政権の対応を批判し、「I am not ABE」と述べていた。
古賀氏は4月1日、毎日新聞の取材に約10分間応じた。「圧力」の内容について、菅官房長官が報道機関の記者らを相手に古賀氏らの番組での言動を批判していた、と主張したうえで「官邸の秘書官からテレビ朝日の幹部にメールが来たことがある」と語った。
また、昨年末の衆院選前、自民党が在京テレビ局各社に「公平中立」を求めた文書を配布したことについて「(テレビ朝日は)『圧力を受けていない』と言うけれど、局内にメールで回し周知徹底させていた」と批判した。
古賀氏はテレビ朝日が3月末に番組担当のチーフプロデューサーとコメンテーターの恵村(えむら)順一郎・朝日新聞論説委員を交代させたことにも言及した。「月に1度の(ペースで出演していた)ぼくの降板はたいしたことがないが、屋台骨を替えた。プロデューサーを狙い撃ちにし、恵村さんを更迭した」と語った。
一連の人事をめぐる古舘キャスターの対応については「前の回(3月6日)の出演前に、菓子折りを持ってきて平謝りだった」と述べた。
生放送中に、持論を展開した行動に批判が出ていることについては「ニュース番組でコメンテーターが何を言うかはある意味、自由だ。テレビ朝日の立場では『降板』ではないので、あいさつの時間も与えられなかった。だからどこかで言わなければならなかった。権力の圧力と懐柔が続き、報道各社のトップが政権にすり寄ると、現場は自粛せざるを得なくなる。それが続くと、重大な問題があるのにそれを認識する能力すら失ってしまう。『あなたたち変わっちゃったじゃないですか』というのが一番言いたかった」と語った。
古賀氏は1日、市民団体のインターネット配信番組に出演し、「安倍政権のやり方は上からマスコミを押さえ込むこと。情報公開を徹底的に進め、報道の自由を回復することが必要だ」と述べた。報道ステーションでの発言に対する反応についても触れ「多くの方から大丈夫かと聞かれるが、批判は予想より少ない」と語った。
*テレ朝と政権「事実無根」
テレビ朝日広報部は、古賀氏の言う「圧力」について「ご指摘のような事実はない」と否定した。同社の早河会長も3月31日の記者会見で「圧力めいたものは一切なかった」と話した。
広報部は毎日新聞の取材に対し、恵村氏の交代については「春の編成期に伴う定期的なものだ」と説明した。さらに、プロデューサーを「狙い撃ち」にしたとの主張についても「ご指摘は当たらないと考える」とした。
その一方で、衆院選前の自民党の文書については「報道局の関係者に周知した」と認め、「日ごろから公平・公正な報道に努めており、特定の個人や団体からのご意見に番組内容が左右されることはない」と回答した。
菅官房長官は3月30日の記者会見で古賀氏の発言について「事実無根。事実にまったく反するコメントを公共の電波を使った報道をして、極めて不適切だ。放送法という法律があるので、テレビ局がどのような対応をされるか、しばらく見守っていきたい」と全面的に否定した。放送法4条は「報道は事実をまげないですること」と規定している。
最終更新:4月6日(月)9時6分
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