DIAMOND online 2010年6月16日
日本でも「要は経済なんだよ、バカモノ」と世界に心配されたり提案されたり 英語メディアが伝える「JAPAN」のニュースをご紹介するこのコラム、今週は菅直人新首相の所信表明演説についてです。英語メディアが何より注目したのは、菅氏が日本の財政再建について触れたくだりでした。日本は巨額赤字をなんとかしろなんとかしろなんとかしろとマントラのように繰り返してきた英米マスコミは、新首相が日本もギリシャのようになりかねないと発言したことに「そうだそうだ」「大事なのは経済なんだよ」と言わんばかりに反応。「でも解決は難しい」という明るい意見や、「インフレにすればいいんだよ」という提言もいただいています。(gooニュース 加藤祐子)
経済優先内閣への期待
所信表明演説に先立ち、民主党代表選に出馬した時点ですでに菅氏は、「財政健全化も大変な課題だが、少なくとも無限に借金が増えるような方向性をただしていくことができると思う」と明言。米ブルームバーグ社の『Business Week』誌は10日付記事でこの発言を取り上げ、「日本では新しい合い言葉が繰り返されている」という記事を掲載。その合い言葉とは「It’s the Economy, Stupid」だと。
少し解説しますと、「It’s the Economy, Stupid」というのはアメリカ政治の決まり文句で、訳せば「要は経済なんだよ、馬鹿者」、「大事なのは経済なんだよ、バカ」というような意味です。 1992年米大統領選で挑戦者だったクリントン陣営が、再選を目指すブッシュ政権の経済失策をあげつらうために繰り返し唱えた合い言葉で、クリントン初当選の原動力になりました。以来アメリカでは選挙というとこのフレーズが繰り返され、2008年大統領選でもしかりでした。オバマ対マケインの拮抗を最終的にオバマ有利に傾けたのはリーマン・ショックへの対応の差だったとされていることから、あの時も「It’s the economy, stupid」と言われたのです。大事なのは、経済だと。
菅新首相の就任によって、この合い言葉が日本でも言われるようになったというのが、『Business Week』誌記事の主旨です。「It’s the economy, stupid」などと実際に口にしている日本人は(ほとんど)いないでしょうが、記事のいわんとすることは分かります。鳩山政権は普天間問題で破綻したが、世界における日本にとって何より大事なのは、経済だろうと。とりわけ大事なのは、国内総生産(GDP)比200%に近い巨額の公的債務をどうするかだろうと。
同記事では、日本通で知られるエコノミストのジェスパー・コール氏が、鳩山政権の「最優先事項は社会政策だった」が、菅政権では「経済政策が最優先になる」と発言。おそらくこれは、各国の経済・金融関係者の共通の願いではないかと思います。そしてインフレ目標導入の積極論者として知られ、経済財政担当相の頃から「物価のプラス1~2%を目標に、それを達成するまでは日銀にも努力してもらう」と発言してきた菅氏の首相就任に、期待を寄せているのです。
今すぐはギリシャにならないが……
なぜかというと、菅首相が所信表明演説でいみじくも語ったように、日本がギリシャの二の舞になったら世界経済は大変なことになると、欧米各国(特に欧州各国)は心配しているからです。アメリカのサブプライム破綻、アイスランドやドバイでの債務不履行、そしてギリシャ危機と、近年繰り返し見てきたように、世界のどこかの市場が何かの要因で暴落したりすれば、その影響はあっという間に世界中をかけめぐり、一般市民の年金や貯蓄、ひいては仕事や生活そのものに影響するからです。
首相は演説で、「強い財政」の実現について語る際、日本の「財政は先進国で最悪という厳しい状況に陥っています。もはや、国債発行に過度に依存する財政は持続困難です。ギリシャに端を発したユーロ圏の混乱に見られるように、公的債務の増加を放置し、国債市場における信認が失われれば、財政破たんに陥るおそれがあります」と発言。
演説のこの部分を、様々な英語メディアが伝えました。英BBCは「日本の菅直人首相、巨額債務による『破綻』を警告」という記事で、「菅直人新首相は就任後初の演説で、ギリシャ式の危機を避けるには日本は金融刷新が必要だと述べた」と書き、上述した演説の箇所を紹介しています。
ただしその上で記事は「首相のぞっとするような言葉とは裏腹に、市場はまばたきすらしなかった」として、「日本政府は欧州の一部の国とは異なり、金融危機を目前にしているわけではないし、財政赤字に取り組み始めるにはあと1~2年はかかるだろう」というロンドンにいる大和証券キャピタル・マーケッツのエコノミスト談話を紹介。ギリシャやスペインと違って日本はGDP比2.5%を外国に貸し出している対外債権超過国なのだし、日本は今日明日でどうこうなるというわけではないと、(日本情勢に詳しくないかも知れない)英語読者に念を押しています。確かに、日本が明日にもギリシャと同じような財政危機に陥ると言ったりしたら、下手をするとパニックの引き金になりかねませんから。
もっともBBCは、今日明日はどうこうならないかもしれないが、高齢化の進展に伴い国債の大量償還が迫っている日本は、外国から借りざるを得なくなるだろうし、日本ほど低金利の国に貸してくれる外国はそうはないのではないかと警告もしています。
英『ガーディアン』紙もやはり、「日本の菅直人首相、ギリシャ式公的債務問題を警告」という見出しの記事で、菅首相が「巨額の公的債務を急ぎ抑制しなければ、日本はギリシャと同じような債務危機に陥る危険があると警告」し、「今のペースで国債を発行し続ければ、債務不履行となる危険があると議会に述べた」と紹介し、所信表明演説の同じ箇所を引用しました。
同紙もBBC同様、首相は「ギリシャ式メルトダウンの危険を大げさに煽り過ぎだ」という金融関係者のコメントを紹介。クレディ・スイス・ジャパンのエコノミスト談話として、「日本は貿易黒字国で、対外債務国だ。日本がギリシャと同じような危機に直面しているとは思えない」というコメントを紹介しています。
日本のマスコミは財政再建や増税論議の必要性には触れつつも、ギリシャと日本を比較した首相演説のこの部分にはさほどクロースアップしませんでした。それはやはり、ギリシャ危機の記憶が生々しい英国メディアとの違いかもしれません。
英『タイムズ』紙もやはり首相演説のこの箇所を紹介し、首相が「日本が財政破綻の危機に直面している」と警告した。さらに、首相は経済成長策よりもまず、巨額の公的債務削減に取り組む様子だと。日本の借金がなぜこれほど膨れあがった原因は、「政府が過去20年にわたり中毒のように依存してきた国債発行」と財政支出、および歴代指導者がこの問題をおおむね無視してきたからだと指摘しています。
その一方で首相が「自らの指導力のおそらく肝心要となるだろう一点、つまり消費税増税については触れなかった」のは、「政治的にあまりに劇薬だから」だろうと。「歴代首相は増税を導入した当事者と言われるよりは辞任することを選んできた」からだと。
○ゆるいインフレが答えなのか?
では、どうしたらいいのか? 米『ニューズウィーク』誌は12日付記事で、「菅の巨大な問題 日本の債務は何とかするには大きすぎる」という明るい見出しで、新首相が「いつまで職に留まるかは誰にも分からないが、これだけは確かだ。普天間基地移設問題が前任者の政治生命を断ったように、新首相にとっては財政再建が同じような正念場になりかねない」と解説。
記事いわく、日本の公的債務が多いと言ってもその95%は国内の日本人が国債の形で債権を保有しているという実に特殊な状況なので、今までは国際社会も大目に見て来たが、もうそうはいかないと。日本は高齢化が進んでいるし、200 %近い債務のGDP比はジンバブエに次いで世界2位だし、控え目に計算してもギリシャと同じくらいだと。格付け会社もOECDもIMFもみんな、日本は大丈夫なのかと懸念を表明しているのだと。しかし対策と言っても、橋本政権が財政健全化を目的に1997年に消費税率を3%から5%に引き上げるや、日本は深刻な不況に陥ってしまった。増税が政策手段として使えない政府はますます国債を発行するしかどうしようもなくなった。この悪循環を断ち切るにはデフレ対策しかない、そのためには日銀を説得してマネーフローを増やすしかないというのが、同誌の提言です。
「資金供給量を増やす」べきかどうかは別にして、「答えはデフレ対策だ」という点では、英『フィナンシャル・タイムズ』のマーティン・ウルフ氏も一致しています。元世界銀行のエコノミストで、FT論説委員として世界的に評価の高いウルフ氏は、驚くほどシンプルな処方箋を「日本は本当に公的債務問題を抱えているのだろうか?」というコラムで提示しました。
いわく、「国債の満期を最低でも15年に延長し」「予想インフレ率を3%に設定」すれば、国債の金利は上がり、よって国債の市場評価額は一気に下がるので、よって日本の債務残高は「雪が溶けるように」減るだろうと。そしてインフレ状態の経済環境で日本人は、貯金が目減りするよりはと資産は消費財を買い始めるので、経済は「正常」な状態に近づくだろうと。
このコラムは「皆さんはどう思いますか?」という議論のきっかけ作りを目的としたものなので、FT.com上では続けて読者が次々と書き込んでいます。「無駄遣いをしないで貯金するのがそんなに悪いのか」という、(主に非欧米人らしい人の)書き込みが目立ちます。「借金っていうのは、返さなきゃいけないものなのでは? そんなからくりで帳消しにしていいでしょうか?」という道徳的な意見も。あとは「だったらもっと増税したら?」という、選挙前の与党には耳の痛い意見も。
ただしそのためには、「インフレの作り方を知っている人間を中央銀行総裁にする必要がある。たとえばアルゼンチン人とか」だそうで。このウルフ氏の提言は本気なのかジョークなのか分からないのですが、イギリス人の言うことなのでおそらくジョークでしょう。読者の書き込みもそこに「あはは」と反応している部分が多く、日本人としては「アルゼンチン人が日銀総裁」というイメージにニヤニヤ苦笑するしかありません。アルゼンチン人の起用は難しいとしても、そうですねえ……、単に貯金がなかなかできない、ついついお金を使ってしまう江戸っ子気質というか消費性向の高い人間でいいなら、私がいつでも手を挙げますが……。
ところで全くの余談ですが、昨夜はこのコラムを書きながらサッカーW杯の日本対カメルーン戦を観ていました。勝ったからこそこうして言えるのですが、私は実はカメルーンを応援しようかという気分になっていました。なぜかというとその前の晩に、貧困にあえぐカメルーンがいかに代表チームとエトーの活躍を切望しているか描く、実に優れたNHKスペシャルを観たからです。影響されやすい私はこれで、日本よりもカメルーンの方がはるかにW杯での勝ちを必要としているじゃないかと、そんな気分になっていたのです。しかしそれを熱烈日本サポーターのヨーロッパ人にボソリと漏らしたら、叱られてしまいました。「社会貢献というのは、身近なところから始めるべきだ。カメルーンも大変だが、日本も大変じゃないか。日本が勝てばみんな気持ちが明るくなって、お祝いに飲み食いしたりものを買ったりしてお金を使うだろう。そうやって日本経済が元気になれば、まわりまわってカメルーンやアフリカにもその金は回って行く。だから日本を応援すべきなんだよ」と。
日本の大変さと、練習用のボールもないカメルーンの大変さは違うような気もするのですが、確かにこの人の言うとおり、回る回るよ経済は回るです。ともあれ、日本代表おめでとう!
日本でも「要は経済なんだよ、バカモノ」と世界に心配されたり提案されたり 英語メディアが伝える「JAPAN」のニュースをご紹介するこのコラム、今週は菅直人新首相の所信表明演説についてです。英語メディアが何より注目したのは、菅氏が日本の財政再建について触れたくだりでした。日本は巨額赤字をなんとかしろなんとかしろなんとかしろとマントラのように繰り返してきた英米マスコミは、新首相が日本もギリシャのようになりかねないと発言したことに「そうだそうだ」「大事なのは経済なんだよ」と言わんばかりに反応。「でも解決は難しい」という明るい意見や、「インフレにすればいいんだよ」という提言もいただいています。(gooニュース 加藤祐子)
経済優先内閣への期待
所信表明演説に先立ち、民主党代表選に出馬した時点ですでに菅氏は、「財政健全化も大変な課題だが、少なくとも無限に借金が増えるような方向性をただしていくことができると思う」と明言。米ブルームバーグ社の『Business Week』誌は10日付記事でこの発言を取り上げ、「日本では新しい合い言葉が繰り返されている」という記事を掲載。その合い言葉とは「It’s the Economy, Stupid」だと。
少し解説しますと、「It’s the Economy, Stupid」というのはアメリカ政治の決まり文句で、訳せば「要は経済なんだよ、馬鹿者」、「大事なのは経済なんだよ、バカ」というような意味です。 1992年米大統領選で挑戦者だったクリントン陣営が、再選を目指すブッシュ政権の経済失策をあげつらうために繰り返し唱えた合い言葉で、クリントン初当選の原動力になりました。以来アメリカでは選挙というとこのフレーズが繰り返され、2008年大統領選でもしかりでした。オバマ対マケインの拮抗を最終的にオバマ有利に傾けたのはリーマン・ショックへの対応の差だったとされていることから、あの時も「It’s the economy, stupid」と言われたのです。大事なのは、経済だと。
菅新首相の就任によって、この合い言葉が日本でも言われるようになったというのが、『Business Week』誌記事の主旨です。「It’s the economy, stupid」などと実際に口にしている日本人は(ほとんど)いないでしょうが、記事のいわんとすることは分かります。鳩山政権は普天間問題で破綻したが、世界における日本にとって何より大事なのは、経済だろうと。とりわけ大事なのは、国内総生産(GDP)比200%に近い巨額の公的債務をどうするかだろうと。
同記事では、日本通で知られるエコノミストのジェスパー・コール氏が、鳩山政権の「最優先事項は社会政策だった」が、菅政権では「経済政策が最優先になる」と発言。おそらくこれは、各国の経済・金融関係者の共通の願いではないかと思います。そしてインフレ目標導入の積極論者として知られ、経済財政担当相の頃から「物価のプラス1~2%を目標に、それを達成するまでは日銀にも努力してもらう」と発言してきた菅氏の首相就任に、期待を寄せているのです。
今すぐはギリシャにならないが……
なぜかというと、菅首相が所信表明演説でいみじくも語ったように、日本がギリシャの二の舞になったら世界経済は大変なことになると、欧米各国(特に欧州各国)は心配しているからです。アメリカのサブプライム破綻、アイスランドやドバイでの債務不履行、そしてギリシャ危機と、近年繰り返し見てきたように、世界のどこかの市場が何かの要因で暴落したりすれば、その影響はあっという間に世界中をかけめぐり、一般市民の年金や貯蓄、ひいては仕事や生活そのものに影響するからです。
首相は演説で、「強い財政」の実現について語る際、日本の「財政は先進国で最悪という厳しい状況に陥っています。もはや、国債発行に過度に依存する財政は持続困難です。ギリシャに端を発したユーロ圏の混乱に見られるように、公的債務の増加を放置し、国債市場における信認が失われれば、財政破たんに陥るおそれがあります」と発言。
演説のこの部分を、様々な英語メディアが伝えました。英BBCは「日本の菅直人首相、巨額債務による『破綻』を警告」という記事で、「菅直人新首相は就任後初の演説で、ギリシャ式の危機を避けるには日本は金融刷新が必要だと述べた」と書き、上述した演説の箇所を紹介しています。
ただしその上で記事は「首相のぞっとするような言葉とは裏腹に、市場はまばたきすらしなかった」として、「日本政府は欧州の一部の国とは異なり、金融危機を目前にしているわけではないし、財政赤字に取り組み始めるにはあと1~2年はかかるだろう」というロンドンにいる大和証券キャピタル・マーケッツのエコノミスト談話を紹介。ギリシャやスペインと違って日本はGDP比2.5%を外国に貸し出している対外債権超過国なのだし、日本は今日明日でどうこうなるというわけではないと、(日本情勢に詳しくないかも知れない)英語読者に念を押しています。確かに、日本が明日にもギリシャと同じような財政危機に陥ると言ったりしたら、下手をするとパニックの引き金になりかねませんから。
もっともBBCは、今日明日はどうこうならないかもしれないが、高齢化の進展に伴い国債の大量償還が迫っている日本は、外国から借りざるを得なくなるだろうし、日本ほど低金利の国に貸してくれる外国はそうはないのではないかと警告もしています。
英『ガーディアン』紙もやはり、「日本の菅直人首相、ギリシャ式公的債務問題を警告」という見出しの記事で、菅首相が「巨額の公的債務を急ぎ抑制しなければ、日本はギリシャと同じような債務危機に陥る危険があると警告」し、「今のペースで国債を発行し続ければ、債務不履行となる危険があると議会に述べた」と紹介し、所信表明演説の同じ箇所を引用しました。
同紙もBBC同様、首相は「ギリシャ式メルトダウンの危険を大げさに煽り過ぎだ」という金融関係者のコメントを紹介。クレディ・スイス・ジャパンのエコノミスト談話として、「日本は貿易黒字国で、対外債務国だ。日本がギリシャと同じような危機に直面しているとは思えない」というコメントを紹介しています。
日本のマスコミは財政再建や増税論議の必要性には触れつつも、ギリシャと日本を比較した首相演説のこの部分にはさほどクロースアップしませんでした。それはやはり、ギリシャ危機の記憶が生々しい英国メディアとの違いかもしれません。
英『タイムズ』紙もやはり首相演説のこの箇所を紹介し、首相が「日本が財政破綻の危機に直面している」と警告した。さらに、首相は経済成長策よりもまず、巨額の公的債務削減に取り組む様子だと。日本の借金がなぜこれほど膨れあがった原因は、「政府が過去20年にわたり中毒のように依存してきた国債発行」と財政支出、および歴代指導者がこの問題をおおむね無視してきたからだと指摘しています。
その一方で首相が「自らの指導力のおそらく肝心要となるだろう一点、つまり消費税増税については触れなかった」のは、「政治的にあまりに劇薬だから」だろうと。「歴代首相は増税を導入した当事者と言われるよりは辞任することを選んできた」からだと。
○ゆるいインフレが答えなのか?
では、どうしたらいいのか? 米『ニューズウィーク』誌は12日付記事で、「菅の巨大な問題 日本の債務は何とかするには大きすぎる」という明るい見出しで、新首相が「いつまで職に留まるかは誰にも分からないが、これだけは確かだ。普天間基地移設問題が前任者の政治生命を断ったように、新首相にとっては財政再建が同じような正念場になりかねない」と解説。
記事いわく、日本の公的債務が多いと言ってもその95%は国内の日本人が国債の形で債権を保有しているという実に特殊な状況なので、今までは国際社会も大目に見て来たが、もうそうはいかないと。日本は高齢化が進んでいるし、200 %近い債務のGDP比はジンバブエに次いで世界2位だし、控え目に計算してもギリシャと同じくらいだと。格付け会社もOECDもIMFもみんな、日本は大丈夫なのかと懸念を表明しているのだと。しかし対策と言っても、橋本政権が財政健全化を目的に1997年に消費税率を3%から5%に引き上げるや、日本は深刻な不況に陥ってしまった。増税が政策手段として使えない政府はますます国債を発行するしかどうしようもなくなった。この悪循環を断ち切るにはデフレ対策しかない、そのためには日銀を説得してマネーフローを増やすしかないというのが、同誌の提言です。
「資金供給量を増やす」べきかどうかは別にして、「答えはデフレ対策だ」という点では、英『フィナンシャル・タイムズ』のマーティン・ウルフ氏も一致しています。元世界銀行のエコノミストで、FT論説委員として世界的に評価の高いウルフ氏は、驚くほどシンプルな処方箋を「日本は本当に公的債務問題を抱えているのだろうか?」というコラムで提示しました。
いわく、「国債の満期を最低でも15年に延長し」「予想インフレ率を3%に設定」すれば、国債の金利は上がり、よって国債の市場評価額は一気に下がるので、よって日本の債務残高は「雪が溶けるように」減るだろうと。そしてインフレ状態の経済環境で日本人は、貯金が目減りするよりはと資産は消費財を買い始めるので、経済は「正常」な状態に近づくだろうと。
このコラムは「皆さんはどう思いますか?」という議論のきっかけ作りを目的としたものなので、FT.com上では続けて読者が次々と書き込んでいます。「無駄遣いをしないで貯金するのがそんなに悪いのか」という、(主に非欧米人らしい人の)書き込みが目立ちます。「借金っていうのは、返さなきゃいけないものなのでは? そんなからくりで帳消しにしていいでしょうか?」という道徳的な意見も。あとは「だったらもっと増税したら?」という、選挙前の与党には耳の痛い意見も。
ただしそのためには、「インフレの作り方を知っている人間を中央銀行総裁にする必要がある。たとえばアルゼンチン人とか」だそうで。このウルフ氏の提言は本気なのかジョークなのか分からないのですが、イギリス人の言うことなのでおそらくジョークでしょう。読者の書き込みもそこに「あはは」と反応している部分が多く、日本人としては「アルゼンチン人が日銀総裁」というイメージにニヤニヤ苦笑するしかありません。アルゼンチン人の起用は難しいとしても、そうですねえ……、単に貯金がなかなかできない、ついついお金を使ってしまう江戸っ子気質というか消費性向の高い人間でいいなら、私がいつでも手を挙げますが……。
ところで全くの余談ですが、昨夜はこのコラムを書きながらサッカーW杯の日本対カメルーン戦を観ていました。勝ったからこそこうして言えるのですが、私は実はカメルーンを応援しようかという気分になっていました。なぜかというとその前の晩に、貧困にあえぐカメルーンがいかに代表チームとエトーの活躍を切望しているか描く、実に優れたNHKスペシャルを観たからです。影響されやすい私はこれで、日本よりもカメルーンの方がはるかにW杯での勝ちを必要としているじゃないかと、そんな気分になっていたのです。しかしそれを熱烈日本サポーターのヨーロッパ人にボソリと漏らしたら、叱られてしまいました。「社会貢献というのは、身近なところから始めるべきだ。カメルーンも大変だが、日本も大変じゃないか。日本が勝てばみんな気持ちが明るくなって、お祝いに飲み食いしたりものを買ったりしてお金を使うだろう。そうやって日本経済が元気になれば、まわりまわってカメルーンやアフリカにもその金は回って行く。だから日本を応援すべきなんだよ」と。
日本の大変さと、練習用のボールもないカメルーンの大変さは違うような気もするのですが、確かにこの人の言うとおり、回る回るよ経済は回るです。ともあれ、日本代表おめでとう!