LGBTに厳しい塀の向こう側 個々の事情に対応進まぬ拘置所・刑務所 【日本の議論】2016.1.3

2016-01-03 | 社会

2016.1.3 08:00更新
【日本の議論】LGBTに厳しい塀の向こう側 個々の事情に対応進まぬ拘置所・刑務所
・同性愛書籍は?ホルモン剤投与は?
 性的少数者(LGBT)への社会的理解が進む中、刑事施設での対応の是非が議論を呼んでいる。東京拘置所は、男性の同性愛に関する書籍の閲覧や、男性から性別変更した女性へのホルモン剤の投与を認めなかった。こうした対応に弁護側は人権上の問題を指摘するが、拘置所側も他の収容者への影響などを挙げる。(小野田雄一)
 東京弁護士会は平成27年10月、男性(45)が東京拘置所で勾留中、同性愛に関する書籍の購入を申請し、同拘置所が許可しなかったのは人権侵害に当たるとして、再発防止を同拘置所に申し立てた。
 同会によると、男性は22年、男性同士の性行為や恋愛が描かれた書籍など22冊の購入を申請。これに対し、同拘置所は「規律や秩序が乱れる恐れがある」として許可しなかった。同拘置所は、男性がこうした書籍を入手すると、(それを読んだ)同性愛者でない他の収容者も性欲が刺激され、(1)発作的な性的行為に及ぶ恐れがある(2)同性愛を嫌う収容者とけんかが起きる可能性がある-などと説明した。
・刑事施設での性的少数者への対応例
 法務省によると、刑事施設では成人向け書籍も閲覧可能だが、どこまで閲覧可能にするかは描写の過激さや収容者の資質などを考慮し、各施設が個別に判断しているという。
 この問題の調査を担当した神谷延治弁護士は「男性は性犯罪者ではなかった上、他の収容者と離れた単独処遇を受けていた。拘置所のいう『恐れ』は抽象的な可能性にすぎず、図書の閲覧を制限できるほど蓋然性の高い現実的な危険性とは言い難い」と指摘した。
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 一方、交際男性を殺害したとして殺人罪に問われた元ホステス、菊池あずは受刑者(29)=懲役16年確定=の公判でも拘置所での処遇が取り上げられた。菊池受刑者は男性として生まれたが、性同一性障害と診断され、性別適合手術を受けて女性となっていた。
 弁護人らによると、菊池受刑者が東京拘置所に女性ホルモン剤の投与を希望したのに対し、同拘置所は「病気治療薬ではないため認められない」と決定。弁護側は「人権上、投与すべきだ」と主張し、出廷した医師も同様の証言をした。
 性同一性障害を研究する「GID学会」の理事長、中塚幹也・岡山大学大学院教授=生殖医学=は「性別適合手術後はホルモン剤投与が不可欠。投与がないと、抑鬱症状や体調不良、血圧上昇など心身に変調が生じる」と指摘。その上で、「刑事施設にも医師はいるが、性同一性障害への対応について詳しい知識を持っているとはかぎらない。対処に悩んだ場合は専門家に問い合わせ、意見を取り入れるなど柔軟な対応をすべきだ」と語った。
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 法務省も取り組みを進めている。性同一性障害で男性から女性への性別適合手術を受けた収容者に対し、戸籍上の性別変更を終える前でも入浴や身体検査は女性職員が対応するよう同省が全国の施設に通知している。女性から男性へと性別転換した収容者に対しても同様の措置がとられるとみられる。
 ただ、同省によると、全国の施設で性同一性障害やその傾向があると診断されたのは27年6月時点で約50人にすぎず、「ノウハウが蓄積されているとは言い難い」(同省担当者)。中塚教授は「社会の問題として、性的少数者にどのような対処が必要で望ましいのか、議論をより進める必要がある」と話している。
【用語解説】LGBT 性的少数者を総称する言葉。レズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれついた性別に違和感を持つ人)のそれぞれの頭文字を取った総称。トランスジェンダーは、生まれついた性別とは反対の性別になりたいと願う人や、自らを特定の性別に当てはめない人など、多様な分類を含む。東京都の渋谷区と世田谷区は条例や要綱を整備、同性カップルを男女間の結婚に相当する関係として認める証明書の発行を始めるなど、LGBTへの認知度が高まっている。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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