7月3日付 編集手帳
女優の吉永小百合さんはある対談で、「どんなときに、もう若くないという感じを抱きましたか」という質問を受けて、答えたという。「涙が真っすぐに流れないで、横に走ったときです…」と
◆歌人の河野裕子さんが『横に走る涙』と題するエッセーに、〈女優でなければできない表現だろう〉と書いている(砂子屋書房、『河野裕子歌集』所収)
◆当方は女性ではないが、この答えにはうなずく。いつ頃からだろう。顔の造形上の変化なのか何なのか、言われてみると、読書やスポーツ観戦の折々に催す涙は確かに横に走っている
◆マウスのオスは涙でメスを口説くらしい。オスの涙腺から分泌される「ESP1」という物質がメスの脳を刺激して交尾を促進することが、東原和成・東京大学教授(応用生命化学)などの研究で明らかになった。オスが仕掛けても10回に9回は断るメスが、この物質を与えると2回に1回は受け入れたという
◆「横に走る涙でも、まだ使えるかしら?」と身を乗り出したあなた、残念でした。人間にはESP1の遺伝子がないので、縦でも横でも“泣き損”という。念のため。
(2010年7月3日01時28分 読売新聞)
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〈来栖の独白〉
吉永小百合さんという女優、私は子どものころ、『赤胴鈴之助』というラジオドラマで毎日のように声を聴いていた。愛らしくて美しい声だった。
若い頃、彼女が「子どもは生みません。こんな社会(時代)で生きていくのは大変だから」と言うのを聞いて、妙に感心した。今はその意味(こんな社会・時代で・・・・)が分かるが、当時の私には、何も分からず、難しいことを言う賢い人なんだ、と感心した。
そして今、「涙が真っすぐに流れないで、横に走ったときです…」に、感心した。根っからの女優だし、やっぱり、すごく賢い人だ。賢くて、心も容姿も、端正な人だ。
愚弟の清孝がいつだったか「吉永小百合だって、まだまだあんなにきれいだ。お姉さんは、その吉永小百合より若いんじゃないですか。いつまでも若くいてください、とは言いません。ただ、いつまでもきれいでいてください。歳をとっても、きれいでいることは、できます」と言った。
いつまでも若くいることもきれいでいることも、どちらも途方もなく不可能な話だ、私などには・・・。吉永さんは、きれいだ。彼女は年齢さえも味方につけて、人生の芳しい実りを見せてくれる。
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◇ 吉永小百合『報ステ』発言「武器を持たないということが、積極的平和主義だと思います」の間違い
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