『人は死ねばゴミになる』 伊藤栄樹(元検事総長)著
中日新聞 文化 2020.4.21 火曜日
今週のことば 中村薫
初めてこの本を手にした時、少し違和感を感じた。しかし読んでみると、彼の癌との戦いが真摯に記録されていた。彼は妻に「人は死んだ瞬間、ただの物質、つまりホコリのようなものだ」と言う。「僕だって身近な人、親しい人が亡くなれば悲しい」という一面もある。だが、彼は合理的理性的な考えから死後の霊魂を信じない。「僕の檀那寺は浄土真宗だ。しかし仏教という宗教を信じているわけではない」、無宗教だと言う。これは日本のインテリの人に多い。外国人では考えられないことだ。
親鸞は「私が死んだら、加茂河にいれて魚にあたえてくれ」と言った。また蓮如は「朝には、元気であっても、夕方には、白骨となる身である」と無常を説き、霊魂を否定した。それは伊藤氏とよく似ている。しかし、一点だけ違うのは、親鸞も蓮如も霊魂を否定しながら念仏を信じる、それが本当の救いであるということである。(同朋大学名誉教授)
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)