初の裁判員裁判「東京都足立区の路上殺人事件」判決要旨 2009/8/6

2009-08-09 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

 東京都足立区の路上殺人事件で、東京地裁が6日、藤井勝吉被告(72)に言い渡した判決の要旨は次の通り。
 【主文】 被告を懲役15年に処する。
 【犯罪事実】 被告は5月1日午前、文春子さん(当時66歳)宅の玄関前付近で、死亡させると分かりながら、強い攻撃意思を持って文さんの左胸を2回、背中を1回、サバイバルナイフで突き刺した。文さんは出血性ショックで死亡した。
 【事実認定の補足説明
 近隣住民3人の公判証言は信用性が高く、以下の事実を認定出来る。
 被告宅の斜め前に住む被害者宅前には、植木やバイクが通りにはみ出していた。被告は被害者と言い争いになると手を出すことになり、刑務所に行かなければならないと考え、顔を合わさないよう我慢していた。
 被告は犯行前日に競馬で負けて酒を飲み、当日朝も飲んだ。被害者が植木の手入れをしており、競馬に出かけられずいらだった。被告はペットボトルが倒れていたことに文句を言い、被害者は言い返した。被告はサバイバルナイフを持ち出し、「ぶっ殺す」と言った。ナイフを突き出すと、手が被害者の体に触れるほど深く胸に突き刺さった。
 被告は「脅すためにナイフを見せると、被害者が『やるならやってみろ』と言い、あごを押し上げられた」と供述する。しかし、そのような言動をとるとは考えがたく、信用できない。
 動機 被告は被害者に一方的に憤まんの念を抱いていた。飲酒で抑制力が低下し、被害者に文句を言ったのに言い返されて怒りを爆発させたと認められる。
 殺意 〈1〉ナイフを被害者の上半身に3回深く突き刺し、うち1回は無防備な背中を刺している〈2〉逃げる被害者の後を追って悪態をついている――などから、被害者を死亡させると分かりつつ、強い攻撃意思を持って殺害したと認められる。
 【量刑の理由】
 被害者は、2人の息子が小中学生の時に夫に先立たれ、苦労して育て上げた。息子に慕われ、母親や兄弟から頼られ、人生の結実期を歩んでいた。突如この世を去ることになった無念さは計り知れない。遺族らの悲しみは深く、厳しい処罰を望んでいる。
 被告は、ナイフで胸や背中を3回も手加減することなく突き刺して被害者を殺害し、死なせる危険性の高い行為を繰り返した。被害者が殺人を誘発する言動をとったとは認められず、動機は身勝手で極めて短絡的である。近隣住民に与えた不安や恐怖も軽視できない。被告は暴力的な行動をしてはいけないという意識が低く、刑事責任は極めて重い。
 被告は犯行後に救急車を呼ばず、預金を下ろし、酒と競馬新聞を買って競馬場に行った。被害者の安否を気遣わない自己中心的な行動だ。他方、警察に出頭しようとし、逮捕後は犯行を認めている。公判で遺族に心から謝罪する言動が見られず、反省しているのか疑いもあるが、「後悔している」と述べるなど酌むべき事情もある。以上の諸事情を考慮し、主文の刑に処するのが相当と判断した。(2009年8月6日20時43分  読売新聞)

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初の裁判員裁判 開廷 立証、視覚に訴え 東京地裁 殺人事件を審理
2009年08月04日 19:18 
  6人の有権者が重大な刑事事件の公判に加わる全国初の裁判員裁判が3日午後、東京地裁(秋葉康弘裁判長)で開かれた。市民が法壇に並ぶのは1943年の陪審制度停止以来、66年ぶり。午前中の裁判員選任手続き(非公開)で決まった女性5人、男性1人が、裁判官3人とともに殺人事件を審理した。
  検察、弁護側とも視覚に訴える図や写真を多用し、難解な法律用語の使用を避け「です、ます調」で話すなど裁判員に分かりやすい主張を展開。審理は計約2時間で終わったが、3回の休憩を挟み裁判員の負担を軽減した。判決は6日。
  目撃者の証人尋問もあったが、裁判員から質問は出ず、遺体の写真に目を背ける裁判員もいた。
  審理対象は、東京都足立区で5月、はす向かいに住む韓国籍の整体師文春子さん=当時(66)=を刺殺したとして、無職藤井勝吉被告(72)が殺人罪に問われた事件。被告は起訴内容を認め、量刑の判断が焦点になる。
  この日、東京地裁で最も広い104号法廷(傍聴席98)に入った裁判員6人は、裁判官3人を挟むように左右二手に分かれ、緩い円弧状の法壇に着席。正面向かって左側に女性の裁判員3人、右側に女性裁判員2人、男性の裁判員1人が一列に並んだ。
  補充裁判員3人はいずれも男性で、その後方に座った。
  予断を与えないよう、裁判員の入廷前に被告の手錠と腰縄が外された。
  弁護側はモニターで図解を見せながら、以前からの近隣トラブルが背景にあり、積極的な殺意はなかったと訴えたのに対し、検察側は「ほぼ確実に死ぬ危険な行為と認識して刺した」と反論。
  検察側は「殺意には強いものから弱いものまで濃淡がある」と平易な言葉で述べ、イラストなどで致命傷の刃の向きや深さが分かるように工夫、強い殺意があったことを訴えた。
  裁判員は双方の主張に真剣に耳を傾け、メモをとる姿も見られた。
  検察側は証拠説明の中で「ショックでご覧になりたくないかもしれないが、重要な証拠なので見てください」と断り、被害者の遺体の写真を裁判員らの手元にある小型モニターに表示。顔を背けるようなそぶりを見せる女性裁判員もいた。
     ×      ×
●事件の概要
  東京地裁で3日始まった裁判員裁判第1号の事件概要は次の通り。
  検察、弁護側双方で争いのない点として、藤井勝吉被告(72)と被害者の女性は幅約2・3メートルの路地を挟んではす向かいに居住。被告は数年前から、女性が自宅前の路地にバイクや植木鉢を置いているのを邪魔だと思っていた。注意をしても言い返され、女性を嫌っていた。
  5月1日午前、被告が外出した際、自宅前の路上で被害者と出くわし、注意をすると、口論になった。被告はいったん自宅に戻り、持ち出したサバイバルナイフで、被害者の胸や背中などを何度も刺して殺害した。
  検察側は「被告は口論で『ぶっ殺す』と言い、刺した後も被害者を追い掛けるなど、強い殺意に基づく執拗(しつよう)で残忍な犯行」と主張。弁護側は「口論で『やるならやってみろ』と言われ、突発的に刺した。死んでほしいとは思わなかった。殺意は弱い」と反論している。
 =2009/08/04付 西日本新聞朝刊=

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