2017/9/20
91歳のおばあちゃんが突然失踪、そして財産消滅…何が起こった?
成年後見制度の深い闇 第6回
長谷川 学 ジャーナリスト
*何も告げずに消えた「91歳の友人」
「仲良くしていた91歳の身寄りのないおばあちゃんが、今年初めに突然、いなくなりました。何度、アパートを訪ねてもドアが閉まっていて応答がないのです。おばあちゃんは携帯電話も持っていません。体調を崩して、病院に緊急入院でもしたのかと、とても心配でした」
東京都内に住む佐伯和子さん(60代・仮名)は、こう語り始めた。
佐伯さんが「おばあちゃん」と呼ぶのは、近くに住んでいた高齢女性だ。近所のよしみで親しくなり、女性が生活の拠点にしてたアパートにもたびたび足を運ぶようになっていた。
だが、そんな友人が、突如として消息を絶ってしまったのだ。
(※シリーズのこれまでの記事はこちらから)
一体、何が起こったというのか。佐伯さんの話の続きを聞こう。
「そんなとき、ふと思い出したのが、おばあちゃんの言葉。以前、『体調が悪いときは区役所に相談するけど、結局、何もしてくれないのよ』とこぼしていたことがありました。それで、ひょっとしたら区役所なら居場所を知っているのではないかと問い合わせてみたんです。
すると、『その方には成年後見人がつきました』と言われました」
佐伯さん自身は、成年後見人の仕組みをよく知らなかったという。だが、認知症のお年寄りに後見人がついて世話をするというようなものだと説明を受け、区役所が関わっているのならと、ひとまずほっとしたという。ところが、である。
「『おばあちゃんに会いたいのですが、いまどこにいるのですか』と聞いたところ、『居場所は教えられません。いまは最終的に住むところを探しているところですが、個人情報ですので』と、区役所の担当者はかたくなな態度に変わってしまいました。家族でない人間に個人情報を教えるわけにはいかない、というのです。
仕方なく、『友達が連絡をほしがっている』と伝えてもらうように頼みましたが、半年たっても連絡はありませんでした……」
*あったはずの建物は更地に…
友人の行方が気になる佐伯さんは、もしやと考え、以前に聞いていた、この高齢女性の実家の場所を訪ねてみた。すると、都内にある女性の実家の建物は消えており、最近整地されたらしい更地に変わっていたという。
佐伯さんは、こう話す。
「以前聞いた話だと、この実家はおばあちゃんの名義だそうです。この家で、かつておばあちゃんは母親、兄弟と暮らしていました。ただ、おばあちゃんは母親と折り合いが悪かったそうで、若い時に実家を出て自活を始めたとか。
その後、母親も兄弟も亡くなり、おばあちゃんが土地・建物を相続したものの、老朽化が激しく、ネズミも出るので、とても住めない。それで、アパートで独り暮らしをしていたのです」
消えた高齢の女性、そして時期を同じくして更地になった女性の実家――。
ますます心配になってきた佐伯さんは、区役所への問い合わせを続けたが、相変わらずのダンマリだった。数ヵ月、まんじりともせず過ごしたあと、佐伯さんはインターネットで見つけた、成年後見にまつわるトラブル相談を受け付けている一般社団法人「後見の杜」にこの件を持ち込んだのだ。今年8月のことである。私が取材を始めたのも、この時期である。
*飛び出した「驚くべき発言」
佐伯さんによると、後見人がついたとされる直前でも、行方不明となった高齢女性は比較的しっかりしているように見えたという。
「最後に会ったのは今年の初めでしたが、そのときはとても元気でした。もちろん、91歳と高齢ですから、体調が良くない日もあるようでしたが、基本的には健康で、独り暮らしの気楽さもあってか、『悠々自適よ』と笑っていたんです。
区役所では『認知症があったので』と聞かされましたが、おばあちゃんとは、いつも普通に会話ができていたし、物忘れが目立つわけでもありませんでしたから、不思議な気がしました。
たしかに、言われてみれば、たまに同じ話を繰り返しするようなこともありましたけれど、その程度で後見人がつく必要があるのかなと感じたんです。
だって、おばあちゃんは普段、買い物にも一人で行っていたし、介護ヘルパーのお世話にもならず、完全に自活していたんですよ」
こうして相談を受けた「後見の杜」は、実態を把握するため、区議会議員らにも事情を説明し、協力を依頼するなどしたが、問題の女性の行方は杳として知れなかった。
ところが、そうした動きを受けてのことか、事態は急展開を見せる。9月初め、佐伯さんの携帯電話に突然、この女性から電話がかかってきたのだ。女性によると、現在は、ある高齢者福祉施設に入所しているという。
佐伯さんは、女性本人から施設の住所を聞き、「後見の杜」の事務局長とともに、その施設を訪ねた。
すると、ほっとしたのもつかの間、ようやく面会できた女性からは、耳を疑うような発言が飛び出した。
「財産は、すべて政府に取られたのよ」
はたして、どういう意味なのか。成年後見人がついたこととは、どのような関係があったのか。一連の出来事、とくに女性の所有建物が跡形もなく消えてしまった背景に、超高齢化社会を迎えた日本の行政が打ち出している、ある「大方針」の影響が透けて見えてくるのだが、その詳細は女性の証言をもとに、後編で紹介していきたい。 (第7回はこちらから)
◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
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◇ 突然失踪、財産も消滅---91歳女性が語る「お家は役所にとられたの」 成年後見制度の深い闇⑦ 2017/9/29
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