日本の論点PLUS この人の重大発言 小沢一郎・元民主党代表
2012年6月27日
「最善の策は、民主党が国民に訴えた原点に返ることだ。その可能性は非常に小さくなったが、(参院審議では)なお最後の努力をして民主党の在り方を変えることを、政府・党執行部に主張していく。(新党結成を含む今後の対応は)私に一任を了承していただいたので、みんなの気持ちを胸におきながら、最終の結論を出したい」=小沢一郎・元民主党代表 6月26日、消費税増税法案の衆院採決を終え、自らのグループの衆院議員40人と会合した後の記者会見で。
■どうなる、「小沢新党」
消費税率の引き上げを柱とする社会保障と税の一体改革関連8法案(民主・自民・公明3党による修正案)は、6月26日午後の衆院本会議で賛成多数で可決された。なかでも焦点だった消費税増税法案は、賛成が共同提案した民主、自民、公明の3党を中心とする363票。反対は自公以外の野党に民主党内の反対派を加えた96票。このうち民主党内反対票は、小沢一郎元代表のグループと中間派を合わせ57票にのぼった。
民主党造反組には、このほか棄権・欠席した議員が16人いたので、民主党の衆院議員289人のうちの73人、約4分の1が反旗を翻したかたちとなった。これで民主党は、事実上の分裂状態に陥った(人数は読売新聞6月27日付より)。
今後、法案は参院に送付され、順調に審議が進めば8月中旬に採決される見込みだ。参院は定数242のうち、民主党は104、自民党86、公明党19で、3党を合わせると8割を超える。参院民主党の小沢グループは19人にのぼるが、かりにその全員が反対票を投じても法案の成立には支障はない。消費税率の引上げ法案が17年ぶりに成立するのは、ほぼ確実となった。
消費税の導入が決まったのは、1988年12月、竹下登内閣のとき。翌1989年4月から税率3%の消費税が実施された。さらに1994年11月、村山富市内閣のもとで税率を5%に引き上げる法案が成立し、1997年4月、橋本龍太郎内閣のときに実施された。それから17年間、消費税率は5%に据え置かれたままだった。参院で法案が成立すれば、2014年4月から8%に、2015年10月からは10%へと2段階の引き上げが実施されることになる。
今回の衆院採決について、大阪市長の橋下徹氏は、次のように批判した。
「民主党は政権交代前に、4年間は増税しないとはっきり言った。今回の消費増税が許されるなら、選挙前の政策討論とかマニフェストとか、全部いらなくなってしまう。その時の状況で何でもありという政治を許してしまう。そういう採決だ」(朝日新聞6月27日付)、
産経新聞とフジテレビ系ネットワークが衆院採決の前日の6月25日におこなった世論調査では、消費税率を8~10%に引き上げることについて、反対が28.2%、どちらかといえば反対28.6%で、合わせて56.8%が反対と答えている。これに対して賛成は10.8%、どちらかといえば賛成が31.0%で、合わせて賛成41.8%にとどまった。
民自公の3党は、この不人気を承知で衆院採決に持ち込み、民主党内の造反組は「消費税反対」の世論を頼りに反対票を投じたわけだが、対立の構図は、法案審議の舞台が参院に移っても続くことは間違いない。
冒頭の小沢発言には、増税反対を貫きながら党内野党として残るか、離党して新党を結成するか逡巡しているニュアンスがうかがえる。背景には解散・総選挙への道筋がはっきりしていないことがある。
消費税増税法案の衆院採決では、57人の反対のうち小沢グループは43人。棄権・欠席13人のなかにも小沢グループが4人含まれていた。合わせて造反者は47人になるが、この全員が小沢新党に参加するとは限らず、最終的には40人前後になると見られる。小沢氏が新党結成を明言しないのは、新党立ち上げのための費用と解散総選挙の時期が読めないからだというのが大勢だ。
同グループ内では、「すぐ新党に打って出たほうがアピールできる」とする若手と、「新党はすぐ鮮度が落ちる。選挙が遠のけば来年まで政党交付金も得られず、干上がるだけだ」という声が交錯しているという(読売新聞6月26日付より)。たしかに、いま「消費税反対」と「原発再稼働反対」を掲げて、選挙に打って出れば、一定の支持を得る状況にあるのは事実だ。
じっさいいざ総選挙となれば1人1億円のお金がかかるといわれるきょう日、40人なら40億円が必要となる。それまで所属していた政党と「協議離婚」による合意の離党なら、政党助成金の交付を受けることができるが、除籍処分などのケンカ別れとなると、次の年の元旦の所属議員数に応じて交付される4月まで待たなくてはならない。
今回の消費増税法案では、党総裁の野田首相が「内閣の命運」をかけて臨んだ衆院採決で反対票を投じたのだから、党は重く処分すると考えるのが普通で、とても「協議離婚」とはいかない。小沢元代表が曖昧な発言に終始した背景にはそうした事情もあると思われる。
26日夜、自民党の谷垣禎一総裁は、記者会見で「自民党の主張を全面的に反映させ修正合意し、衆院通過したことは『決められる政治』の実現に向け、大きな前進だった」と胸を張った。そのうえで「参院でも協力する用意があるが、民主党が体制を立て直し、造反者をきちんと処分することが前提だ」と民主党のガバナンスに注文を付けた。今後については、「政策面と政権基盤の双方で政権担当能力の喪失はますます明らかだ。国民の信を問う必要はますます強まった」と語り、解散をせまる構えだ(発言はいずれも産経新聞6月27日付)。参院の消費税関連法案の審議は野田内閣に協力するが、成立してしまえば解散をはばむ理由はないというわけだ。
しかし、もし参院の審議が長引いて、9月にずれ込めば、谷垣総裁は民主党との協調ばかりが際立ったまま自民党総裁選に移ることになる。これでは、総選挙を一日千秋の思いで待っている落選中の前議員らから、厳しい突き上げがあるのは必至だ。
そうした事態を避けるため、谷垣総裁は参院審議が終わりしだい、8月中に公明党と連携し、衆院で野田内閣の不信任案を提出するのではないか、という見方がある。しかし、衆院の勢力図は、自公(120+21)で141、他の野党を合計して34、これに無所属の12人が全員賛成しても187人にすぎない。不信任が成立するには過半数(240人)を超えなければならず、あと54人が不足となる。
そこで数合わせとして「小沢新党」をというのが、そのシナリオだが、小沢氏がはたして新党結成に踏み切るのかどうか。また新党ができたとしても、消費税で対立してきた小沢氏と自民党が連携するのは考えにくい。したがって自民党が不信任案を提出し、野田内閣を解散総選挙に追い込むというシナリオは、可能性がきわめて薄いということになる。
もうひとつ、小沢新党ができ、単独で内閣不信任案を提出するというシナリオも語られている。しかし、衆院規則第28条の3の規定には「不信任案の発議は、理由を附して50人以上の賛成者が連署して議長に提出する」旨が定められている。このため、小沢新党ができても、50人の壁を超えないかぎり単独では不信任案を提出できない。
どちらにしろ、内閣不信任案が成立し解散・総選挙になるという可能性はきわめて低いというのが永田町ウォッチャーの見方で、可能性の高いのが、これに代わる話し合い解散である。消費税関連法案の3党合意が成立する過程で、このシナリオは何度も語られてきた。参院に送られた消費税関連法案の審議を7月中に終え、8月上旬解散、9月上旬総選挙という日程だ。
嘉悦大学教授の高橋洋一元内閣参事官は、「このタイミングで総選挙に入れば、民主も自民も消費税増税によってかなり議席を失うが第一極は守り得る、(そうなると)第2極には反増税と暫定原発再稼働という対立軸をもつ大阪維新の会がのし上がる」(夕刊フジ6月27日付)と、予測している。しかし、消費税増税を強行した民自両党が大量の反り血を浴びるのを考えれば、話し合い解散のシナリオにも疑問符がつく。
野田首相は、衆院採決後の記者会見で、造反議員には「輿石幹事長と相談しながら、党内のルールに則って厳正に対応したい」(読売新聞6月27日付)と述べた。しかし翌27日、輿石幹事長は、国民新党との与党幹事長会談で、「造反者に対する処分はおこなわない」と明言した。迷走する民主党と、自公との協調にのめり込む野田内閣、早期解散を望むものの展望の開けない谷垣自民党、さらに小沢元代表の新党結成への道程も険しい。たしかなことは野田首相が握る解散権が日増しに重みをもってきたという現実である。
■消費税増税で景気はどうなる?
今回、野田首相が「税と社会保障の一体改革は待ったなし」と口ぐせのように強調した背景の一つに国際公約がある。
日本の国と地方の借金の総額はGDPの約2倍の900兆円。ギリシャの1.6倍を上回って世界一だ。このまま借金依存を続ければ、日本の財政信認が失われ、国債の売り圧力が強まり、極端なインフレを誘発しかねない――2010年にカナダで開かれたG20(20カの国・地域による首脳会議)で、当時の菅首相が、プライマリーバランス(歳入総額〈税収+税外収入-新規国債発行額〉から歳出総額〈政策経費-国債の利払い費・償還費〉を差し引いた基礎的財政収支)の赤字を2015年までに半減し、2020年に黒字化すると宣言。以後、政府・財務省一体となってPB(プライマリーバランス)の健全化に向けて走り出したという経緯がある。
消費税の増税による税収増は、約10兆円強。内閣府の中長期試算では、10%までの消費税増税で基礎的財政収支の赤字幅は、2012年度の名目国内総生産(GDP)比5.4%から2020年度は3.0%まで縮小。それでも国際公約のPB黒字化にはほど遠く、消費税率をさらに10%から6%引き上げ、16%にする必要があるという。社会保障費が歳出の5割を超えるなか、野田首相が「若い人につけを回さないために」と消費税の増税の必要性をしつように強調した理由だ。
ただ、デフレ下の消費税増税が消費を落ち込ませ、景気を減退させることによって国の税収をさらに減少させるという可能性もなくはない。そうなれば、財政は一段と悪化し、PB回復のシナリオは画餅と化すおそれもある。1997年4月、消費税率を3%から5%へ引き上げたときは、増税実施前の駆け込み需要で前月(3月)までの消費は伸びたが、4月からは需要が落ち込み、深刻な景気減退を経験した。
今回の法案で、「実質2%・名目3%の経済成長」を増税実施の前提とするという景気弾力条項を残したのは、こうした最悪のケースを担保するためだ。しかし政府・民主党は、景気対策のための補正予算の前倒しの実施や、防災・減災分野への積極投資を掲げ、自民党は国土強靱化法案(10年間で200兆円規模の公共投資)を議員立法で提出、公明党は10年間で100兆円を集中投資する「防災・減災ニューディール」を提唱するなど、成長戦略に関しては、3党の論議は煮詰まっていないのが実情だ。
では、今回の法案成立によって、国民生活はどう変わるのか。第一生命経済研究所の試算によると、夫婦と子供2人で、年収が500~550万の標準世帯では、消費税率が8%になった段階で、現在よりも年7万2948円、10%になると、年11万9369円の負担増になるという。
今回、3党で修正された法案の中身を見ると、当初の政府案から後退したり、先送りされたりしたものが多かった。低所得者ほど負担が重くなる消費税の逆進性を緩和する措置として、8%の段階で「簡素な給付措置(一定額の現金給付)」を導入することが決まったが、金額や対象者の範囲は未定で、財源をどこに求めるかは決まっていない。
所得を正確に捕捉するための「共通番号(マイナンバー)制度」の導入を前提に、一定額のお金を配ったり、所得税を減税したりする「給付つき税額控除」や、生活必需品に「軽減税率」を適用したり、消費税自体を免除する「複数税率」の導入も検討されているが、現時点では、詳細は定まっていない。
いっぽう富裕な人の所得税率引き上げや、相続税の課税対象の拡大、自動車取得税や自動車重量税の軽減、住宅ローン減税などは、これからの検討項目に棚上げされた。
歳入庁の創設は、「創設に向けた本格的作業の開始」から「歳入庁その他の施策の検討」という表現に後退した。
また、一体的に決定されるはずだった最低保障年金の創設や、後期高齢者医療制の廃止など民主党がマニフェストの目玉として掲げた社会保障制度の改革は、3党による修正協議で押し返され、有識者や超党派の国会議員などで構成される国民会議で再検討することに先送りされた。社会保障制度の抜本改革が棚上げされ、消費税率の引き上げだけが優先されたという印象が拭えないのはこのためである。
消費税増税の実施までにはまだ2年の余裕がある。先送りされた問題は、新しく創設させる国民会議にゆだねられることになるが、社会保障の財源がなぜ消費税なのかなど、基本的なテーマを含め、国民の間に論議が広がることが求められる。
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◆「小沢新党」交付金なし?民主分裂時の“台所事情”/“小沢新党”立ち上げ費用は30億円 2012-06-23 | 政治
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◆軽減税率に落とし穴/何を軽減の対象にするかの線引き=業界を所管する官僚の裁量権拡大につながる 2012-05-24 | 政治(経済/社会保障/TPP)
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◆「民主・自民・公明3党修正協議という『消費税増税』八百長相撲の行方を読む」高橋洋一 2012-06-12 | 政治(経済/社会保障/TPP)
社会保障は「1勝1敗1分け」、では「景気条項」「歳入庁創設」「軽減税率」は?民主・自民・公明3党修正協議という「消費税増税」八百長相撲の行方を読む
現代ビジネス ニュースの深層 2012年06月11日(月)高橋 洋一
社会保障と税の一体改革は、とうとう国会外で民主、自民、公明の政党間協議になった。社会保障分野を先行して協議し、税制分野は6月11日から協議に入る予定で、15日の合意を目指すとしている。おそらく今週はその滑った転んだというニュースで連日話題になるだろう。はたして協議はどのように決着するのだろうか。
こうした政党間協議はだいたい決着がつく。決着がつかないものは協議しないというのが政治の原則だ。今週いっぱいがデットラインということだが、来週18~19日にメキシコのロスカボスで開催されるG20首脳会議は悩ましい日程にみえるだろう。
ただし、15日までの3党合意や21日までに採決というが、これらは財務官僚の得意なスケジュール戦法で、デッドラインを設定して相手を追い込んでいくというものだ。政治的には通年国会すべきとかいいながら、会期を大幅延長すれば、こうしたスケジュール設定も無意味になる(国会会期を政治的な駆け引きに使うのは先進国では日本ぐらいなものだ)。総理がG20に欠席するかも、とか、マスコミにリークし危機感を煽るのはしばしば官僚たちが行う常套手段だ。
なお、今週12日(火)、13日(水)の公聴会が終わると、いつでも採決可能になるのだが、国会外で3党が政党間協議を行い、その結果法案自体が変更される可能性が高いのに、今出されている法案を前提として公聴会を行うのはどういう神経だろうか。
■社会保障と税の一体改革の「ルーツ」
官僚のスケジュール戦法は別としても、どういった協議になるのだろうか。そのためには、税と社会保障の過去の経緯を知らなければいけない。
もともと社会保障と税の一体改革は、消費税増税をもくろむ財務省が消費税を社会保障目的税として社会保障の衣をかぶせて増税を仕掛けていくものだった。このルーツは、小渕政権時代の1999年に予算総則において書き込まれた消費税を社会保障に使うという便宜的な方策がそもそもの始まりだ。
ただ、社会保障改革としてさしたる中身はなく、社会保障は消費税増税のための方便になっていた。つまり、社会保障を薄皮にして中身は消費税餡子たっぷりの薄皮饅頭というわけだ。
その自民党の案を与謝野氏が民主党に持ち込んだのだ。しかし、民主党としてはそのまま自民党のパクリではまずいので、社会保障として、(1)最低保障年金、(2)後期高齢者医療制度の廃止、(3)総合こども園を加えた。
もっとも今国会で具体的な法案が提出されているのは、このうちでは、(3)総合こども園だけだ。自民党としては、消費税増税部分は本質的に同じであるので、是非ともこの(1)~(3)を民主党から撤回させたい。ただし、自民党もすぐに結論が出ないことを知っているので、社会保障は議論の場を作って長期的に検討するという逃げ道も作っている。
このため、(1)最低保障年金は先送りになるだろう。(2)後期高齢者医療制度の廃止については、民主党は事実上容認であるが、マニフェスト破たんといわれるのをおそれている。後期高齢者医療制度も問題ありといわれながら、もう5年も制度運営が行われてきているので、容認もやむを得ないだろう。(3)総合こども園は、そもそも幼稚園と保育園の一体化であり、まあ民主党への配慮から方向としては与野党で合意すると思う。
要するに、民主は、(1)最低保障年金で引き分け、(2)後期高齢者医療制度の廃止で負け、(3)総合こども園で勝ちということで、1勝1敗1分けでまずまずの成績だろう。
民主が今国会で提出している社会保障関連法案は、(3)総合こども園のほかに、年金制度の微調整や官民被用者年金の一元化である。これらは基本的には民自公で合意するだろう。自民も民主が国会に提案していない話を協議の場に出してくるのだから、はじめから落としところのわかっている八百長相撲ととられても仕方ない。
■軽減税率は要注意
こうして社会保障分野の基本合意ができると、残りは消費税である。ここでも、民自公は引き上げに賛成であるので、基本は揺るがないが、民主党の党内議論で良識的な増税消極派の人々が盛り込んだ(4)景気条項(名目3%、実質2%)や(5)歳入庁創設(国税庁を日本年金機構などと統合)が争点になる。
自民党がこれを持ち出したのは国民のためという観点ではない。これらの論点を民主党執行部に突き付ければ、民主党が分裂するかもしれないという党利党略である。それだけでない。何が何でも増税したい、国税庁は国税権力維持のために手放せなという財務省の組織原理も自民が民主に迫る上で作用している。
(4)景気条項や(5)歳入庁創設がどうなるか、現時点ではよくわからない。(4)景気条項については自民内でも評価する声もある。もし自民が(4)景気条項を落とせと言うなら、代わりに日銀法改正という手もある。日銀法改正は自民内で公約になっているので、民主からこれを持ち出せば、自民は理屈上断れないはずだ。ただし、民主執行部は日銀法改正に反対なので、こうした絶妙な切り返しができないだろう。
(5)歳入庁創設は、給付付税額控除か軽減税率かという形でバトルになっている。前者を選ぶと歳入庁につながるので、財務省は本音は軽減税率だ。しかし、財務省としても、軽減税率の問題点(個別物品ごとに租税特別措置があるようなもので、線引きの難しさや官僚利権の山になる)は知っているので、建前は軽減税率反対だが、巧妙に世論を誘導して軽減税率に落としていくだろう。
たとえば、軽減税率は問題あるが消費者にわかりやすいなどといいだしたら、要注意だ。軽減税率は金持ちにも適用になるので、弱者対策としては給付付税額控除のほうが優れている。ちなみに、新聞業界は、欧州に調査団を派遣して税制改正要求として軽減税率を積極的に推している。
いずれにしても、(4)景気条項や(5)歳入庁創設は、消費税増税という大前提の下の話だ。大きなストーリーでは決着がついている。いうなれば、ガチンコでないプロレスの試合のようなもので、時間がくればフィニッシング・ホールドになる。
ただし、最後の最後でハプニングの起こる可能性もある。自民は谷垣総裁に一任した後で協議しているが、民主は協議後に再び党員の了解をとるのだ。ここで、協議内容に不満がある人には一縷の望みがある。
このまま、民自公が合意すれば、衆院では民主290、自民119、公明29計430名という、圧倒的多数で3分の2を楽々クリアし、後は60日国会を延長すれば、参院で否決されても審議されなくても衆院で再議決可能だ。
もし、民自で消費税増税に不満がある人が110名いれば、無様な3分の2を下回ることも可能であるが、そこまで覚悟のできている人がどれくらいいるのだろうか。
世論調査でも消費税増税反対が半数以上になっている。野田総理は「決める政治」というが、民意に反して「決める」のはおかしい。野田総理の正統性は民主内の代表選に勝利したというだけで、民意を得たものでない。
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◆ 「総選挙~そうなったら、国民は消費税のでたらめと原発再稼働のでたらめに鉄鎚を下すだろう」高橋洋一 2012-06-06 | 政治
目くらましの内閣改造は一時しのぎ。9月の新首相誕生で解散総選挙か?ならば「増税」「原発再稼働」を争点にマニフェスト違反の民主党に鉄槌を
現代ビジネス「ニュースの深層」2012年06月04日(月)高橋洋一
野田・小沢再会談は予想どおり物別れで終わった。これで本コラムで再三にわたり指摘してきたように、民主・自民の増税大連立の方向が決定的になった。
今回の再会談は、野田総理にとってそれなりに収穫はあった。野田総理は、内閣改造と自民党との協議について了解をもらったからだ。内閣改造は総理の専権事項なので了解というのはおかしな話であるが、総理から内々の人事話があったのかもしれない。誰でも事前に人事話を聞いて悪い気がしないはずだ。輿石幹事長を更迭するという話もあったが、結局は党人事をいじらずに、内閣改造だけとなった。
輿石幹事長の会見にあったが、野田総理は「この会期内に採決しないと成立しないから、そういう方向で行く」という話があり、「それは私も同じだ。」といっている。会期内採決にめどがたったことも、野田総理には大きな前進だろう。
野田総理は社会保障と税の一体改革というが、その実体は社会保障を薄皮とし、中身は消費税増税たっぷりの薄皮饅頭だ。これは菅政権で与謝野氏を取り込んでから既定路線だ。与謝野氏は消費税増税だけをやりたかったので、社会保障は二の次だった。民主党の社会保障改革を徹底的に批判していたので、民主党の社会保障はこれでズタズタになった。薄皮を取り除けば消費税増税だけなので、賛成の野田民主と谷垣自民、反対の小沢氏という構図だと、小沢斬りで野田民主と谷垣自民が手を組むしかなくなる。
問題は解散であった。谷垣自民としては、ただ消費税増税だけだと、増税大連立・野合といわれる。そこで解散総選挙を言わざるを得なかった。解散権は総理の専権事項だ。民主党でどのような議論があっても、野田総理一人を説得すれば行使できる。
ところが、一票の格差で今は違憲状態と最高裁にいわれている。総理の解散権は縛られないというものの、さすがにこのまま解散総選挙を行うのはリスクがある。解散総選挙のためには少なくとも選挙制度改正を行う必要がある。解散総選挙を嫌う民主党はノラリクラリとしていた。
ここで自民党がぶち壊すといえば違う展開になっただろうが、自民党内長老グループは解散を回避しあわよくば民主・自民の大連立で閣僚ポストでも欲しいという人が多い。その結果、今国会の解散は遠のく一方だが、消費税増税法案は着々と時計が進み、6月上中旬の公聴会以降いつでも採決されても不思議でない状態だ。
谷垣自民党総裁も解散は強くいえなくなってきている。もうタイミングを失っているし、下手に言い出せば自民党内の谷垣おろしが勃発しかねないからだ。
消費税増税で解散なしというのは、国民にとっては悪夢のような話だが、財務省にとっては好ましいシナリオだ。財務省は、今の野田・谷垣のゴールデンコンビの時しか増税はできないと考えている。そのために増税にマスコミを籠絡して必死だ。一方、解散総選挙については、ひょっとして増税に反対する第三極がでてきて、増税廃止法案を出して増税をひっくり返すのを怖れている。
今総選挙であれば、4割の増税賛成票を民主・自民が奪い合って、残り6割の増税反対票を第3極がとるかもしれないからだ。ということは、民主と自民にとっても、第三極の勢いが落ちるまで総選挙を先送りしたくなるわけだ。
増税は民主党のマニフェスト違反にもかかわらず、解散なしで国民は文句をいえない。増税のために民主党へ政権交代したわけでない。こんな約束違反を許したら、次の選挙ではマニフェストなぞ見向きもされなくなって、政治不信になるだろう。
■野田内閣総辞職ならマスコミは喜んで飛びつくだけ
マスコミは消費税増税・解散なしでも、何かネタを探すので、総辞職(野田総理のクビ)あたりのネタに喜んで飛びつく。目先ネタに目がくらみ、マニフェスト違反にもかかわらず解散なしを追求できないだろう。
次の選挙になってもマニフェストは堂々と破るものという感じになるのではないか。それほど今回の消費税増税は罪作りなものだ。
大飯原発の再稼働をめぐっては、関西広域連合の知事たちが、立場一転して事実上の容認したことで、野田総理は、関係3閣僚との会合を開いて、再稼働を最終判断するだろう。これもひどいものだ。
政府・民主党・関電は、極めて卑怯な方法で、関西の首長らを「事実上容認」に追い込んだ。「15%足りないが、いいのか」「このままでは大停電が起こる」「停電が起これば病院への電力も止まり、急病人が死亡しかねない」と恫喝とも受け止められるキャンペーンを展開していたという話だ。ピークロード・プライシングも出してくるのが遅すぎる。1年も前からわかっていたのにである。住民を人質に、実質的におどしをかけていたとしたら、これほどひどい話はない。
■9月に解散はあるのか
国民はどうしたらいいのだろうか。民主党某幹部は、消費税と原発を次期総選挙の争点にならないように、今のうちから決着済みにしたいという。しかし。それは大間違いだ。
消費税では、凍結法案や税率再引き下げ法案を掲げることはできる。原発も暫定基準なので、本格基準まで再停止するという政策の選択肢がある。
ひょっとしたら大阪維新の会やみんなの党などの第三極はそうした政策の対立軸をだすだろう。9月の民主代表選のあとに、今うわされている新しい代表(小沢氏にも適当な距離感といわれている)でご祝儀支持率が上がったら、総選挙という話もでている。そうなったら、国民は消費税のでたらめと原発再稼働のでたらめに鉄鎚を下すだろう。
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◆<軽減税率適用狙い>メジャー紙の消費税増税プロパガンダと「野田・小沢」会談で小沢氏排除の理由 2012-05-31 | メディア
〈来栖の独白 2012/5/31〉
昨日野田総理と小沢一郎氏との消費税増税に関する1時間半にわたる話し合いが行われた。本日のメジャー紙社説は、そのことをコメントしている。読んでみたが、歩調を合わせて野田総理援護、小沢氏非難である。つまり「消費税増税に舵を切れ」「小沢氏と袂を別って、自民党と手を組み、消費税増税せよ」である。「増税は国民の痛みを伴うことであり、国民との約束違反(マニフェストに反する)」と訴える小沢氏を徹底して斥けている。
なぜ、メディアは、こうも増税に力を貸すのか。その理由は「軽減税率」適用である。軽減税率とは、特定物品に低い税率を導入するものだが、日本新聞協会は昨年7月、新聞への軽減税率適用を求める要望書を政府に提出した。政府は、新聞各社が消費税増税プロパガンダにどれだけ励んだかを見ることになる。新聞社は、見られることになる。昨日の「野田・小沢」会談報道は、その査定に大きく響いたはずだ。メジャー紙は、すべて「合格」したに違いない(中日東京新聞を除く)。
政府もメディアも役所も、国民のことを思いはしない。おのが利権しか念頭にない。当局(政・官・報)の力をもってすれば、小沢一郎氏ひとり葬ることなど、朝飯前である。そのことを本日のメジャー紙は如実に示している。
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野田・小沢会談 「もう一度」は時間の浪費だ(5月31日付・読売社説)
議論は、予想通り平行線だった。野田首相は増税反対派に妥協せず、社会保障と税の一体改革を着実に進めるべきだ。
首相が民主党の小沢一郎元代表と会談し、消費税率引き上げ関連法案の成立への協力を要請した。「社会保障と財政の状況を踏まえれば、一体改革は待ったなしだ」と迫った。
小沢氏は、「増税前にやるべきことがある」と従来の姿勢を崩さず、法案に賛成できないと明言した。さらに、「行政改革による無駄の排除」「社会保障の理念の後退」「デフレ脱却が途上」の3点を主張したという。
双方の主張を吟味すれば、明らかに大義は野田首相にある。
消費税率引き上げは昨秋以降、党代表選や一体改革関連法案の了承などの党内手続きをきちんと経ている。少子高齢化に伴って社会保障費が増大する中、増税先送りは財政を一段と悪化させよう。
小沢氏の「増税前にやるべきことがある」との主張は、改革先送りのための常套じょうとう句に過ぎない。行革やデフレ脱却の重要性は、党内論議で何度も確認されている。
小沢氏は、「政権公約(マニフェスト)の原点を忘れるな」とも言う。だが、小沢氏が主導したマニフェストは、予算組み替えによる年16・8兆円の財源捻出など非現実的で、民主党政権に「負の遺産」を背負わせたのが実態だ。
衆参ねじれ国会の下、野党の協力が不可欠な中で、あえて実現不可能な公約を持ち出すのは、「反対のための反対」である。
首相と小沢氏の会談を仲介し、同席もした輿石幹事長は、「党内融和」を優先しており、再会談の可能性を否定していない。
しかし、合意する見込みがないのに、何度も同様の会談を繰り返すことには意味があるまい。
関連法案の成立には、自民、公明など野党との法案の修正協議が欠かせない。自民党は「小沢氏との決別」を協力の条件の一つに掲げている。再会談が与野党協議の妨げとなるのなら、いずれ会談打ち切りを決断する必要がある。
野田首相は、関連法案採決時の党内からの造反について「党として対応する」と語り、処分を辞さない構えだ。一体改革に「政治生命を懸ける」と言明している以上、今国会での法案成立を最優先すべきで、安易な妥協は禁物だ。
自民党が社会保障制度改革基本法案の骨子をまとめるなど、一体改革をめぐる与野党協議の機運は徐々に高まってきている。この機を逃してはならない。
(2012年5月31日01時36分 読売新聞)
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社説:元代表と平行線 首相、早く見切りを
毎日新聞 2012年05月31日 02時31分
もはや時間稼ぎなど許されない。消費増税法案をめぐり野田佳彦首相と民主党の小沢一郎元代表が会談した。首相の増税法案への協力要請を元代表は拒み、物別れに終わった。
元代表は首相から再会談の要請があれば応じる考えを示したが、接点を見いだすことは難しい。首相は再会談について「もう一回反すうしながら考えたい」と述べ、歯切れが悪かった。成算なき党内融和に見切りをつけ、自民党との協議に専念すべき時だ。
「乾坤一擲(けんこんいってき)、一期一会のつもりで説明したい」。首相はこんな大見えをきって、元代表との会談にのぞんだ。その言葉は重いはずだ。
増税法案は民主党で長時間議論した末に了承された。にもかかわらず決定後も公然と反対論が出ることを首相は事実上、黙認してきた。党内融和重視の輿石東幹事長の路線を尊重したためだろう。
役職を持たぬ元代表との会談をわざわざ輿石氏が仲介し大仰に行うこと自体、おかしな話だ。それでも元代表は党内で多くの議員に影響力を持ち、その動向は終盤国会を左右し得るのが現実だ。首相が会談に動いたことをいちがいに否定はしない。
だが、行革の徹底や経済情勢など「そもそも論」を展開し「今は賛成できない」と説く元代表と、増税を「待ったなし」とする首相の隔たりはやはり明白だ。
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野田首相へ―自民との協調が優先だ
朝日新聞 社説 2012年5月31日(木)付
野田首相が民主党の小沢一郎元代表と約1時間半会談し、消費増税への協力を要請した。
だが、小沢氏は「大増税の前にやるべきことがある」と、今国会での法案成立に反対する姿勢を明確にした。
平行線だった会談結果をみるにつけても、首相には「一党員との会談」より優先すべきことがあるのは明らかだ。
政権交代から2年9カ月。「動かない、決められない」惨状が続く政治を前に動かす。
そのために、譲るべきは譲って、野党、とりわけ最大野党の自民党に、法案の修正合意を真摯(しんし)に働きかけることだ。
「社会保障は世代間の公平を確保しなければならない。財政も厳しい。(消費増税は)待ったなし。ぜひご協力を」。会談で、首相が小沢氏に説いた危機意識は私たちも共有する。
社会保障と税の一体改革という、国の将来像に直結するテーマである。「挙党一致」「党内融和」が可能なら、それに越したことはないと私たちも思う。
これに対し、小沢氏は政権交代が実現した09年総選挙のマニフェストの柱を並べて反論した。「統治の仕組みを大改革し、ムダを徹底的に省いた財源を、新しい政策の財源にする。その約束が緒についていない」
確かに、民主党のマニフェストは破綻(はたん)状態にある。
だが、マニフェストが実行できていないからといって、増税にも、社会保障の改革にも手をつけてはならないといわんばかりの主張は暴論にすぎる。
民主党政権がなぜ、政治を動かせないのか。一歩ずつでも、できることを積み上げていく。そんな着実な政治の営みが欠けていたのではなかったか。
これまでの国会審議で印象深かったのは、10%への消費増税だけでなく、厚生・共済年金の一元化、年金の受給資格期間の短縮など、2大政党の主張に差のない政策が多いことだ。
民主党では、法案を採決すれば小沢氏が党を割りかねない、と継続審議や会期の大幅延長による採決先送り論も出ている。だが、それでは「決められない政治」が続くだけだ。
会期末まであと3週間。審議を尽くし、与野党で一定の合意ができた法案は粛々と採決して成立させる必要がある。
合意できない政策は、有識者をまじえた「国民会議」で話し合う。そんな自民党の提案を首相は受け入れるべきだ。
そうして政治を進めた結果、小沢氏が民主党とたもとを分かつというなら仕方がない。首相はもはや腹をくくるときだ。
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首相は自公との連携へ踏み出すときだ
日本経済新聞 社説 2012/5/31付
野田佳彦首相と民主党の小沢一郎元代表の会談が平行線に終わった。意見が異なる同士がよく話し合うのはよいことだが、堂々巡りを繰り返してもきりがない。野田首相は与党の分裂をおそれることなく、前に踏み出すときだ。
消費増税を巡り、野田政権は民主党の党内議論を経たうえで関連法案を国会提出した。与党議員は一致団結して法案成立を目指すのが筋だ。小沢元代表も例外ではない。どうしても消費増税に反対ならば離党するしかあるまい。
そもそも小沢元代表は1993年に出版した自著「日本改造計画」で当時3%だった消費税率を10%に引き上げるよう主張した。細川内閣では事実上の消費増税だった国民福祉税構想を推進した。
この期に及んでの反対は政策論というよりも与党内での主導権を取り返すための政局論と受け止められても仕方ない。
再会談に前向きな発言をしているが、本気で妥協の道を探る気があるのか。与党にとどまりつつ、政権の足を引っ張るのはやめてもらいたい。
日本が「失われた20年」から抜け出すには社会保障と税の一体改革は避けて通れない。いま必要なのは消費増税の是非の蒸し返しではなく、よりよい改革に向けた現実的な話し合いだ。
野田政権は参院では過半数を占めていない。小沢元代表を説得できたところで与党だけで法案成立は無理なのだから、消費増税を実現するには、税制の考え方が似通っている自民党や公明党の協力を得るしかない。
与党の党内融和なのか、野党との連携なのか。ここまでの野田首相は腰が定まらないきらいがあった。小沢元代表との物別れは踏ん切りを付けるよい機会だ。自公両党との協議の場づくりに全力を挙げてほしい。
自公両党にも次期衆院選をいかに有利に戦うかなど、はじきたい打算はたくさんあろう。だが、国民は「決められない政治」にはうんざりしている。底の浅い駆け引きをしていては政権奪回どころか、政権批判票を第三極にそっくり持っていかれるに違いない。
「分かれたる家は立つことあたわず」。約150年前、リンカーン米大統領は奴隷制を巡る国論分裂をこう批判すると、内乱覚悟で制度廃止へと踏み出した。野田首相もいつまでもためらっている場合ではない。
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野田首相 公約撤回なぜ打ち出さぬ
産経新聞2012.5.31 03:13[主張]
消費税増税をめぐる野田佳彦首相と小沢一郎元民主党代表との会談は、首相からの関連法案成立への協力要請を小沢氏が「大増税の前にやることがある」と拒み、物別れに終わった。
大方の予想通りの展開だ。首相は「かなり率直な天下国家の議論ができた」などと意義も強調したが、危機感が足りないというしかない。
よりよい社会保障と税の一体改革を実現するには、首相は自民党との法案修正協議の進展に全力を挙げるほかない。前提となるのは、民主党マニフェスト(政権公約)の抜本的な見直しだ。
その点、会談で首相の姿勢は曖昧だった。政策転換を明確に打ち出して協議への道を切り開くしかないのに、「乾坤一擲(けんこんいってき)」の必死さはうかがえなかった。
小沢氏は消費税増税に反対する理由として、行政改革や地方分権、社会保障制度改革への取り組みが不十分だと指摘した。デフレ脱却なども挙げたが、根本にはマニフェストが一向に実現しないことへの不満があるのだろう。
だが、行政の仕組みを変えて無駄をなくし16・8兆円の財源を生み出すとの主張は、小沢氏が幹事長を務めた鳩山由紀夫政権の時点で破綻した。その後も、ばらまき政策を全面的に見直さなかったことが大混乱につながっている。
小沢氏は年金制度改革や後期高齢者医療を挙げて「われわれのビジョンは忘れ去られようとしている」とも指摘した。最低保障年金の導入や後期高齢者医療の廃止を貫くべきだとの意味だろうが、莫大(ばくだい)な費用を要し、社会保障費の無原則な増大につながる。
首相はマニフェストについて「これまで以上に取り組みを進める」と答えたが、これで与野党協議の環境が整うのか。小沢氏と折り合うなら、与野党協議は望めない。首相が再会談を明言しなかったのは当然だ。
小沢氏は「消費税率引き上げ自体には反対でない」と語った。平成5年の著書「日本改造計画」で消費税10%を打ち出し、翌年に当時の細川護煕首相と7%の国民福祉税構想を進めた経緯もある。
首相は小沢氏が現時点の増税に反対している点を「時間軸の違い」と述べた。最も重要な政策で大きな食い違いを与党内に残したままで、法案を成立させることなどできるのだろうか。
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【社説】中日新聞
野田・小沢会談 増税の免罪符にするな
2012年5月31日
野田佳彦首相と小沢一郎民主党元代表との会談は、消費税増税をめぐり平行線に終わった。首相はこれを機に、増税に向かって突き進むつもりなのか。会談を増税の免罪符にされたら、かなわない。
輿石東幹事長を交えた会談は約一時間半に及んだ。野田、小沢両氏がこれほどじっくり相対するのは、まれな機会ではないか。
首相は、今の国会(延長がなければ会期は六月二十一日まで)での成立に「政治生命を懸ける」と言明した消費税増税について「財政状況や少子高齢化の問題を考えれば、待ったなしだ」と協力を要請した。
これに対し、小沢氏は「国民に大きな税負担を求める前に政権としてやるべきことがある。消費税増税に今、賛成とはいかない」と行政・社会保障改革、デフレ対策を先行させるべきだと反論した。
予想された展開だった。財政状況に対する危機感はわれわれも首相と共有するが、小沢氏の発言を正論と考えるのが妥当だろう。
二〇〇九年衆院選で国民が民主党に政権を託したのは、中央集権から地域主権、官僚主導から政治主導へと行政の仕組みを変え、行政の無駄を徹底的になくして財源を捻出するというマニフェストを信頼したからにほかならない。
にもかかわらず、行政改革は中途半端に終わり、マニフェストに一行もない消費税増税を民主党政権の手で強行したのでは、国民をだましたとの批判は免れない。
首相は今後の対応について、記者団に「今回の会談を反すうしながら考えていきたい」と語った。
小沢氏の指摘を受け、首相が消費税増税を一時棚上げし、行政の無駄排除に本気で取り組んだり、社会保障制度の抜本改革に乗り出すのなら、会談にも意義がある。
しかし、協力を求めたが平行線に終わったことを免罪符に、消費税増税に向けた動きを加速させるのなら納得いかない。会談は単なるアリバイづくりでしかない。
同じく消費税10%への増税を掲げてきた自民党の谷垣禎一総裁は首相に対し、小沢氏を切り捨てるのなら、増税法案に賛成する意向を重ねて示している。
百人を超えるとみられる小沢氏支持グループが反対しても、自民党などの賛成で増税法案は成立するという誘い水だ。
小沢氏を切って増税のために自民党と組むのか。政権交代の大義に従うのか。首相には大きな岐路だろうが、国民の負託の意味を熟考した決断をすべきである。