反骨の弁護士が見た戦後
ひまわりと羊 第五部 罪と罰 ■ 6 ■
資料を手に事件を振り返る内河さん
少年事件 厳罰化に疑問
2022年8月31日(水曜日) 中日新聞
大高緑地アベック殺人事件の主犯の被告=犯行当時(19)=の死刑判決を破棄し、無期懲役を言い渡した控訴審。判決を受けて、被害者遺族の一人は「本来は死刑であるべきだ。ただ、長い刑に服することも死刑に相当するのではないか」と語った。丸刈り頭で判決公判に臨んだ被告は、内河恵一(よしかず)ら弁護団に「ありがとうございました」と話したという。内河の胸中は、高揚感とは程遠かった。
「無期懲役で、ずっと荷物を背負うことになった。『やった』というのとは違う。興奮した雰囲気はなかった」
判決から時間がたった今、内河と弁護団の一員だった雑賀正浩(60)は被告から毎年のようにはがきを受け取っている。内容の詳細は明かさないものの、「生きて償う」という決意を忘れていないと二人は感じている。
雑賀は、公判が進むに従って事件をきちんと説明できるようになっていった被告に成長を感じ取る。それによって、「本当の事件の姿がある程度解明できた」との手応えもある。内河も、変わっていった被告の姿に感慨を抱く。
「どんな人間でも弁護する価値はある。生きるか死ぬかというところで社会をさまよう人に関わった。弁護士として少しは役に立てたのかもしれない」
刑事司法の世界では今年4月に改正少年法が施行され、殺人や傷害致死、強盗などで起訴された18、19歳の「特定少年」の氏名を検察当局の判断で発表するようになった。大高事件の被告も、この基準では実名公表の対象になる可能性がある。被告の成長を目の当たりにしてきた弁護団に、今回の動きはどう映るのか。 「子どもの基盤をつくったのは大人。少年事件の厳罰化は、大人が自分の間違いを子どもに押しつけているようにしか思えない」。雑賀はそう考える。
「環境で人生が決まる部分もある。僕は貧乏人から弁護士になったけど、そこには運もあった。もっと弱い人にとっても、生き方が保証される社会であってほしい。今の流れはその逆にある」
内河も厳罰化を求める風潮に危機感を募らせる。「浮かれたようにバッシングになびいていく」。社会の雰囲気をそんなふうにも感じる。「一生刑務所の中にいろ!」「人の人生終わらせたんだから、自分の人生も終わらせるしかないでしょ」。インターネット上では、今も被告に向けた厳しい言葉があふれている。
(文中敬称略)=第5部終わり
この連載は吉光慶太が担当しました。第六部は九月に掲載予定です。
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し
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