〖今週のことば〗 尾畑文正
中日新聞 2020.11.03 朝刊 文化面
「あなたが受け取ったメッセージは何でしたか?」大坂なおみ(9月14日付 本紙夕刊)
今年のテニスの全米オープンで、日本人とハイチ系米国人を両親にもつ大坂なおみさんが優勝した。彼女は人種差別で命を奪われた人たちの名前を記した黒いマスクを全試合に使用して、差別に抗議を表した。試合後に彼女にマスクの意味を尋ねた質問者に「あなたが受け取ったメッセージは何でしたか?」と聞き返した。
それは質問者を介して、私たち一人ひとりに「あなた」と問いかけている。あなたとは人種差別、民族差別などの当事者でありながら、「私は差別していない」と他人事(ひとごと)にする「私」のことである。
差別問題はどこまでも「己が身にひきくらべて」(法句経)考える問題である。歴史的に形成されてきた差別に自らを顧みることなく、傍観的に「人間は皆平等である、差別はいけない」と考えて正論とすることではない。むしろ、現実の構造的な差別に加担している、その自覚に身を据えることが求められている。
(同朋大名誉教授)
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〈来栖の独白 2020.11.03 〉
火曜日の中日新聞〖今週のことば〗は、いつも楽しみにしている。本日も、共感できる内容。
そうか、大坂なおみ選手のメッセージは、もはや2か月近く前のことだったか。鋭くて正当で感服したものだった。他人事にしている限り、差別はなくならない。私への戒めである。