2020年4月17日 中日新聞
加賀温泉郷 不安と悲鳴 「見通し立たず」 休館相次ぐ
長期化見据え対策も
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、加賀市の山代、山中、片山津と、小松市の粟津の加賀温泉郷では宿泊客が激減し、休館する旅館が相次いでいる。多数の旅館が一斉に休館する事態はかつてなく、加賀市の温泉関係者からは「戦争中よりひどい」との声も。関係者は見えない先行きに不安を募らせる一方、長期戦を覚悟して対策を練る動きも出ている。(小室亜希子、長屋文太)
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、観光客の姿が見られない粟津温泉街=小松市粟津町で
泊客が激減しながらも、感染防止に気を配りながら営業を続ける旅館フロント=加賀市山代温泉の「大のや」で
「二十日までは営業する予定だったのですが…」。山代温泉の老舗「あらや滔々庵(とうとうあん)」の永井隆幸社長(48)は苦渋の表情で話す。
感染拡大に伴いキャンセルが相次ぎ、政府が緊急事態宣言を出した七日以降はさらに増えたが、予約がある限り営業を続けてきた。だが県が十三日に独自の宣言を出したのを受け、ひと晩考え抜いた。翌十四日、四月末まで休館することを決め、数件あった予約済みの客には事情を説明して了解してもらった。
「せっかく予約いただいたお客さまには申し訳ないが、これ以上受けるのはお客さまにも、私たちにもよくない」と永井社長。「少し前までは夏ごろには回復すると思っていたが、全く見通しが立たない。長期化を視野に入れて対策を練らないと」と話した。
加賀市の山代、山中、片山津の各旅館協同組合によると、十六日現在、山代は計二十一軒のうち、七~八割が何らかの形で休館の対応を取る。山中は計十八軒のうち、通常営業を続けているのは二、三軒、片山津は計十一軒のうち、二軒のみ。休館の期間は平日のみ休業する施設や、四月末まで、または五月の大型連休明けまでとする施設などさまざま。六月末までの長期休館を決めた施設もある。
小松市の粟津温泉では、旅館協同組合に加入している旅館はいずれも宿泊客のいない日は臨時休館している。老舗旅館「法師」は宿泊客がいるため、営業を続けてきたが、県の緊急事態宣言を受け、既に入っている予約を断り、臨時休館する検討をしている。阪覚(さかさとる)総支配人(51)は「感染拡大を防ぐことが第一。お客さまに協力してもらいながら対応を考えたい」と話す。
営業を続けるにも感染リスクへの懸念がある。系列旅館が長期休館となり、予約客を集約して受け入れる大手ホテルグループの加賀市の旅館支配人は「今一番大事なのは感染を広げないこと。お客さまや従業員へのリスクを考えたら、休館した方がいい」とこぼす。
片山津温泉旅館協同組合には「第二次世界大戦でも、こんなことはなかった」と悲鳴が届き、県中小企業団体中央会に経営アドバイザーの派遣を頼んだ。山代温泉旅館協同組合では、非接触型の体温計を共同購入し、利用客の入館時に検温して安心・安全を担保するなど、長期戦を見据えた対策を検討している。
特典付き宿泊プラン「コロナプラン」を売り出すなど、攻めの姿勢を打ち出してきた山代温泉の「森の栖(すみか)リゾート&スパ」も十五日、五月の半分以上で休館すると決めた。吉田久彦支配人(37)は休館を「筋トレの期間」と捉え、「この間に社内のシステムや労働環境を見直し、お客さまが戻った時によりよいサービスを提供し、利幅を上げられるようにしたい」と話す。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です