オウム裁判で死刑囚を証人尋問へ
NHK NEWS WEB 1月26日 17時3分
17年近い逃亡の末に逮捕されたオウム真理教の平田信被告の裁判で、地下鉄サリン事件などで死刑が確定した教団元幹部の井上嘉浩死刑囚に対する証人尋問が検討されていることが関係者への取材で分かりました。
死刑囚の証人尋問は極めて異例で、実施された場合、新たな事実が明らかになるかどうか注目されます。
オウム真理教の平田信被告(47)は、17年近い逃亡のあと、去年の元日に逮捕され、東京・品川区で公証役場の事務長だった假谷清志さん(当時68)を車で連れ去り監禁した罪などで起訴されています。
裁判は裁判員が参加して、東京地方裁判所でことし中には始まる見通しですが、死刑が確定した教団元幹部の井上嘉浩死刑囚(43)に対する証人尋問が検討されていることが、関係者への取材で分かりました。
井上死刑囚は教団の非合法活動を担った「諜報省」と呼ばれた組織のトップで、地下鉄サリン事件など10の事件で起訴され、最高裁で死刑が確定しています。
公証役場事務長の事件では、拉致の際に中心的な役割を担い、平田被告とも同じ現場にいたとされることから、証人として話を聞くことが必要と判断されたものとみられます。
死刑囚に対する証人尋問は極めて異例で、一連のオウム事件の裁判では初めてですが、井上死刑囚の弁護士によりますと、本人は証人として呼ばれれば出廷する意向だということです。
一方で、死刑囚を証人として呼ぶことには警備上の問題などが指摘されていて、場所や方法についても通常の裁判と異なる対応が求められます。
井上死刑囚は、去年、家族を通じてNHKに手記を寄せていて、千代田区や港区など10か所にマンションなどを極秘に借り、都心にサリンをまく計画があったことなどを明らかにしていて、証人尋問が実施された場合、新たな事実が明らかになるかどうか注目されます。
■井上死刑囚とは
井上嘉浩死刑囚(43)は、16歳でオウム真理教に入り、かつては麻原彰晃、本名・松本智津夫死刑囚の「側近中の側近」とも言われました。
教団ではさまざまな非合法活動を担う「諜報省」と呼ばれた組織のトップを務めていて、地下鉄サリン事件や都庁爆破事件など10の事件に関わったとされ、一連の事件で死亡した人は合わせて15人に上りました。
裁判では事件に対する反省のことばを繰り返し述べるようになり、1審は無期懲役でしたが、2審の東京高等裁判所は「凶悪な犯行の責任は極めて重く反省を深めていることを最大限考慮しても極刑を選択するしかない」と死刑を言い渡し、最高裁で確定しています。
判決によりますと、公証役場の事務長が監禁され、その後死亡した事件では、拉致の際に信者の犯行の役割を決めるなど中心的な立場で平田被告とも同じ現場にいたとされています。
しかし、平田被告と井上死刑囚との間で具体的にどのようなやり取りがあったのかなど明らかになっていない点もあり、証人として話を聞くことが必要だと判断されたものとみられます。
外部との接触が厳しく制限されている死刑囚が証人として法廷に呼ばれることになれば、拘置所と裁判所の間で厳重な警備を行う必要があるため、場所や方法についてもさらに検討が行われる見通しです。
■井上死刑囚の手記
井上死刑囚は去年、家族を通じてNHKに手記を寄せ、一連の事件や当時の教団内部の動きなどについて記していました。
手記では事件の被害者に対し、「尊い命を奪ったことや多くの人を苦しめたことを申し訳なく思っています」と反省のことばを書いています。
一方で当時、東京の千代田区や中央区、それに港区など、皇居の周辺の10か所にマンションなどを極秘に借りて、都心にサリンを散布する計画があったことも明らかにしています。
このほか、警察の強制捜査を阻止することが目的だったとされてきた地下鉄サリン事件について、「実際は麻原彰晃、本名・松本智津夫死刑囚が『ハルマゲドン、最終戦争が近づいている』とする自分の予言を実現するために事件を引き起こした」などと記しています。
■遺族は新事実の解明に期待
事件の遺族は井上死刑囚への証人尋問が実現すれば、新たな事実の解明につながるのではないかと期待を寄せています。
公証役場の事務長、假谷清志さん(当時68)の長男の実さんは、父親の死因など裁判では解明されていない点があると考え、みずから拘置所で井上死刑囚と面会を行ってきました。
假谷さんは、証人尋問が行われることになれば、井上死刑囚の証言によってまだ明らかになっていない事実の解明が進む可能性があると話しています。
そのうえで假谷さんは、「井上死刑囚は、平田被告のいわば上司だっただけに裁判でも欠かせない証人だと思う。真実をありのままに話してほしい。平田被告との間で証言に食い違いが出れば、何が正しいのかが改めて審理されることになり、より真相が明らかになるのではないかと期待している」と話しています。
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◆ 元オウム真理教幹部井上嘉浩被告の上告棄却
【社会部発】オウム裁判終局 「真相」なお疑問
産経ニュース2009.12.10 21:19
約190人が裁かれたオウム法廷は、4被告を残すだけとなった。中でも麻原彰晃死刑囚の側近だった井上被告の判決確定は、オウム裁判全体が終局にあることを象徴する。
井上被告を含む一連のオウム判決は、事件が教祖だった麻原死刑囚の指示・首謀で起こされたことを事実認定することで、刑事上の責任を総括していった。
しかし、法廷を取材した経験を持つ者として一連の裁判が、前代未聞の大量殺人がなぜ起きたかの真相に肉薄したかについては、若干の疑問が残っている。何人もの被告の1審を傍聴した宗教学者が「凶行は教祖と弟子の欲望、感情がドロドロに重なりあったところに生まれたという一面もあるはず。刑事手続きには表れない生々しいオウムの部分を知りたい」と話していた。
そんな中にあって、井上被告の法廷での様子や、接見した人から伝わる拘置所での様子は、教団のドロドロぶりや、1人の若者の心の葛藤(かつとう)、心の弱さが色濃く出たという点で異彩を放っていた。
「オウムの申し子」「修行の天才」と評価され、1千人を入信させたという逸話もある被告。1、2審では、教祖夫妻の痴話げんかなどを饒舌(じようぜつ)に暴露しながらも、遺族から「格好いいことばかり言って」と批判されると激しく狼狽(ろうばい)。「申し訳ない」と何度も涙を流した。1審で「無期」宣告された時には、死の緊張感から解き放たれたためか、激しく泣いた。
弁護人は最近の様子を、「16歳で入信、子供のままだった被告が、ようやく少し大人になってきたように感じる」と語る。他の教団元幹部らの死刑確定を聞くと、絶句し、言葉が出ない状態という。
井上被告が法廷や接見者らにさらした生々しい姿。酌み取れる部分があれば、カルトによる悲劇を繰り返さないための教訓にしなくてはいけない。
ただ、オウム裁判全体を見たときに、麻原死刑囚が何も事実を語ることなく裁判を終えてしまったことが返す返すも残念だ。(赤堀正卓、酒井潤)
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井上嘉浩被告の死刑確定へ オウム事件で9人目
2009年12月10日 16時36分
1995年の地下鉄サリン事件など10事件で殺人罪などに問われた元オウム真理教幹部井上嘉浩被告(39)の上告審判決で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は10日、被告の上告を棄却した。一審の無期懲役判決を破棄し、死刑とした二審東京高裁判決が確定する。
一連のオウム事件での死刑確定は、松本智津夫死刑囚(54)=教祖名麻原彰晃=らに続き9人目。うち一審が無期懲役だったのは井上被告だけだった。元幹部新実智光被告(45)ら4人は上告中。
井上被告は京都市出身。16歳で教団の前身「オウム神仙の会」に入り、教団では「諜報省大臣」を務めた。弁護側は「二審は地下鉄サリン事件での役割を過大視し死刑の結論を導いた。被告の反省も深まっている」として、死刑回避を求めていた。
判決によると、井上被告は松本死刑囚らと共謀し95年3月20日、営団地下鉄(現東京メトロ)でサリンを散布し、乗客や職員12人を殺害するなどしたほか、94年の元信者ら2件の殺人事件に関与。95年には目黒公証役場事務長を拉致し監禁、死亡させた。(共同)
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〈来栖の独白 2009/12/10 〉
オウム真理教に拉致されて死亡した目黒公証役場元事務長の長男、仮谷実さんは、本日のNHKの報道の中で「井上被告は、判決が無期懲役から死刑に移ってからは、自らを語らなくなった。自分ひとりで完結させてしまった。真相を知らないでは、遺族は、終わることが出来ない」と云った。井上被告、死刑と無期刑との間で烈しく揺れているようだ。
井上被告同様、先般確定した豊田・広瀬死刑囚たち皆に、事件について、生死について、人生について、そして仏法について、心ゆくまで考えさせてあげたい。若すぎる彼ら。本来優れた感性の持ち主であったのに、人生のとば口で、散らしてしまった。
仏陀は言う。「法(仏法)に依りて人に依らざれ」と。「私を崇拝するな。法によって生きよ」と。親鸞も、「弟子の一人ももたず」と言った。麻原彰晃という教祖(人間)を絶対視したところから、彼らは過った。法を求めさせてあげたい。道を求めさせてあげたい。
既成の教団は、オウムの若者に道を示しえなかったことを猛省すべきだ。渇くように道を求めた彼ら。純粋な魂の持ち主が、単なる犯罪者として断罪された。既成の教団は腸(はらわた)を動かされなくてはならない。彼ら一人ひとりに、教団の鈍感を詫びねばならない。彼らを誰一人として救い得なかったことを、詫びねばならない。
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