「国民への造反者は誰か」中日東京新聞 社説

2012-06-29 | 政治

分裂騒ぎの民主 国民への造反者は誰か
中日新聞 社説 2012年6月29日
 小沢一郎民主党元代表が反対し、撤回を求めた消費税増税法案。野田佳彦首相は「造反」議員らの厳正な処分を表明したが、公約破りは首相の方だ。どちらが国民に対する造反かを見極めたい。
 二〇〇九年衆院選マニフェストを反故(ほご)にした首相が悪いのか、実現できない公約を作った小沢氏の責任がより重いのか。
 民主党内ばかりか自民、公明両党からも厳しい処分を求める声が相次ぐ小沢氏の方が分は悪そうだが、公約に期待して民主党に政権を託した有権者は、野田氏の方にこそ問題ありと言いたいのではなかろうか。
 有権者は「生活が第一」「官僚主導から政治主導へ」「税金の無駄遣い根絶」「緊密で対等な日米関係」など、自公時代とは違う政権の実現を目指して票を投じた。
 もちろんそれらは難題だ。官僚機構や既得権益層の厚い岩盤を穿(うが)つのは容易でない。だからこそ政権交代という権力構造の歴史的変化に実現を託したのではないか。
 民主党議員の多くは、それらの実現は難しいと言うが、どこまで死力を尽くしたのか。抵抗が強いが故に早々に諦め、増税路線になびいたと疑われても仕方がない。
 できない約束を作った方が悪いという指摘もある。実現困難だと決め付けるのは早計だが、仮にできない約束だとしても、それを掲げて選挙に勝ったのではないか。
 実現に努力するのは当然だし、できないと考えるなら、作成時に疑義を申し出るべきだった。納得できないのなら民主党以外から立候補すべきではなかったか。
 公約破りの消費税増税を正当化するのは信義に反する。
 小沢氏は、民主党を離れないように求めた輿石東幹事長に対し、消費税増税法案の撤回を求め、話し合いは平行線に終わった。
 両氏はきょうにも再会談するが小沢氏らが新党結成に踏み切れば民主党が歴史的役割を果たせずに瓦解(がかい)する。残念だが、国民との約束を守れないなら仕方がない。
 そうなれば、民主党は政権政党としての正統性を失う。首相は消費税増税法案成立を強行せず、衆院を早急に解散すべきだ。そのためにも違憲・違法状態にある衆院の「一票の格差」を是正する必要がある。
 民主党が提出した一部連用制の導入案は複雑で、解散先延ばしが目的と疑われかねない。選挙制度の抜本改革は次期衆院選以降の課題とし、今国会では「〇増五減」案の実現を急ぐべきだ。
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小沢氏、一歩も引かず 「増税強行」なら離党
岩手日報【東京支社】
 消費税増税関連法案をめぐり、民主党の小沢一郎元代表は28日、輿石東幹事長と2度にわたり会談。「参院でも強行的に採決するなら党の枠を超えて直接国民に訴えなければならない」と離党を示唆しながら揺さぶりを掛け続けた。小沢氏は一歩も引かない構えで、交渉のボールは輿石氏に。党分裂をめぐり、執行部と小沢氏との駆け引きは激化している。
 会談は午後2時から50分間行われた後、同5時から再開。小沢氏はその間、議員会館の自室にこもって側近議員らと協議した。
 会談終了後、小沢氏は記者団に「増税先行は国民への背信行為。撤回してほしいという旨の話をした」と強調。「私の話を受けて輿石氏が努力なさっていると聞いている」と、29日にも予定される再会談での出方を見て判断することを説明した。(2012/06/29)
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消費増税法案採決で野田・小沢両陣営を翻弄?反対票を投じた鳩山氏の意外な影響
Diamond online 2012年6月28日 田中秀征「政権ウォッチ」[元経済企画庁長官、福山大学客員教授]
 消費税増税関連法案の採決は、野田佳彦首相と小沢一郎元代表の双方にとって、かろうじて面目を保つ奇妙な結果となった。
 野田首相が期待した展開は、法案が可決され、民主党内からの反対者が少数(30人以下?)にとどまり、わずかな小沢シンパが小沢氏と党を出ていかざるを得なくなることだったであろう。
 だが、期待ははずれて党内の反対者が57名に達し、棄権や欠席者も15人、総計72人の“造反者”が出てしまった。
 ただ、現時点では、与党が過半数を割る「54人の離党」の悪夢には至りそうもないのが救いであろう。
 一方の小沢氏は、離党して新党結成を目指す人が54人を越えることを切望していただろう。もしもそうなったら、離党を切り札としてしばらくは党内で野田政権を揺さぶることもできた。
 結局、両者の戦いは痛み分けに終わり、次の段階に持ち越された。
■鳩山氏の増税反対発言で加速?「造反者」が予想を上回ったワケ
 造反者の数が大方の予想以上であったのはさまざまな理由があろう。
(1)多くの国会議員が採決直前の週末に選挙区に帰り、消費税増税に対する世論の厳しさを肌で感じたこと。また、おびただしい数の抗議の電話、メール、ファックスが東京や地元の事務所に寄せられ、行動に大きな影響を与えたに違いない。
(2)輿石東幹事長をはじめ、官邸からも、「穏便な処分」が発信され、そのことも民主党国会議員の造反を容易にしたであろうと推察できる。
(3)鳩山由紀夫元首相が、「離党なしの反対」を明言したことも大きかった。
 消費税増税反対イコール小沢新党参加と受け止める人が多いことは、民主党内の反対者の広がりを抑えていた。反対しても党内にとどまるというもう1つの絶好の選択肢を鳩山氏が提供してくれたのだ。
 また、鳩山氏は、増税法案には反対するが、他の関連法案には賛成するという挙に出た。これにより、全法案に反対した小沢グループと差別化されることになった。
 これから、造反者への処分がどうなるか注目されるが、鳩山氏の行動が処分に1つの基準を与えたと言ってもよい。投票行動の違いが処分の違いの明確な基準となり得るからだ。
 さて、小沢氏自ら採決後の記者会見で語ったように、直ちに離党して新党を結成することにはならないようだ。おそらく小沢氏は、処分を待って行動を起こす気になったのだろう。処分が決まって、それが通告される前に離党するということだろうか。今後の世論が、離党を躊躇する人に決断を促すと読んでいるのかも知れない。
 採決後、谷垣禎一自民党総裁は、造反者の処分をあらためて強く要求。野田首相も記者会見で処分は「厳正に対処する」と宣言した。
 しかし、この処分問題は一筋縄ではいかない。新たな混乱要因になることは避けられないだろう。自民とはもちろん、処分を受けた人、民主党内などすべての人を納得させる処分は至難の業だからだ。
■日本の政治史に残る「重大な公約違反」
 今回の政局で鳩山氏はきわめて重大な2つの証言をした。
 1つは、前回の総選挙で消費税増税はしないと公約しているということ。だから、野田首相は公約とは「真逆のことをしている」と断言した。
 政権交代時のリーダーだけに野田首相は反論も弁明できない。
 また、昨年の代表選挙のときには、野田首相は消費税増税について約束しなかったとも言った。首相は代表選挙で約束したと言っているがどうなのか。
 かつて日本の政治史に、これほどまで明確な重大公約違反があっただろうか。私は知らない。
 これから政局は、ロンドンオリンピックで一時的に不連続になる。その間、今回賛成した民主党議員も、選挙区で厳しく追及されて事態を直視することになるだろう。
 そうなれば党内の空気も大きく変わり、順調に参議院で可決成立に至るとは限らない。
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「小沢グループの造反に理あり 理念を掲げて総選挙を実施せよ」原英次郎 ダイヤモンド・オンライン編集長 2012-06-28 | 政治(経済/社会保障/TPP)  
 小沢グループの造反に理あり 理念を掲げて総選挙を実施せよ
Diamond online 2012年6月25日 原英次郎[ダイヤモンド・オンライン編集長]
 社会保障・税一体改革に関する自公民3党の合意を受けて、明日26日にも消費増税関連法案が、衆議院で採決される見通しだ。これに対して、民主党の小沢(一郎元代表)グループは増税に反対し、離党も辞さない構えだ。今回の消費増税に関しては、小沢氏の行動は筋が通っている。今回の消費増税の引き上げには、反対せざるをえない。以下にその理由を述べてみたい。
■代議制民主主義崩壊の扉を開く愚行
 最も大きな理由は、明確な民主主義のルール違反である。03年の衆議院選挙以降、各政党が発表するマニフェスト選挙がようやく根付き始め、09年の衆議院選挙では、国民はマニフェストを参考にして民主党に投票し、政権交代を実現させた。
 そのマニフェストでは行政のムダをなくし、財源を組み替えることで、16.8兆円の財源をねん出して、増税は行わないと言っていたはずだ。実際の消費税率引き上げが、民主党の政権担当期間中より後に行われるから、マニフェスト違反ではないというのは、全く国民を馬鹿にした詭弁としか言いようがない。
 もちろん、情勢の変化でマニフェストがある程度修正されることがあってもよい。が、「増税を行わない」から、消費増税という増税路線へカジを切るのは、基本方針の大転換である。これを選挙もなしに行うということは、「うそつき」のそしりを免れない。何よりも、次回以降の選挙で、国民は何を根拠にして投票を行えばいいのか。今回のようなやり方は、代議制民主主義に対する不信と崩壊の扉を開くことになりかねない。
■社会保障問題の本質は本当に理解されているか
 二つ目の理由は、社会保障・税一体改革の問題の本質が、国民1人1人に十分に理解されているとは言えないことだ。日本の社会保障制度は、長い自民党政権下において、対症療法を重ねてきた結果、非常に複雑な仕組みとなっている。この結果、一部の官僚や専門家しか理解できず、国民はおろか「国会議員でも問題の本質が分かっていない」(某シンクタンンク専門家)。それこそが、最大の問題点なのだが、ここでは問題の所在を、ごく単純化して整理してみよう。
 社会保障・税一体改革の目的は、財政再建と社会保障制度を、将来にわたって維持可能なものにすることにある。日本の財政は収入(歳入)のうち、半分以上を国債などの借金で賄うという異常な事態が続いている。政府の国債の借金(債務)残高は、12年末には、日本が1年に生み出す(付加)価値であるGDP(国内総生産)の2.2倍にも達する見込みで、イタリアの1.3倍、米英仏の約1倍を大きく上回って、先進国中で最悪の状態にある。
 一刻も早く財政再建に踏み出さないと、いずれギリシャのようにならないとも限らない。財政赤字の最大の要因は、急速に進む高齢化によって、毎年1兆円以上のスピードで増え続ける社会保障費にある。現在、社会保障制度は給付(支出)と負担(収入)がバランスしていない。したがって、社会保障・税一体改革が必要だということである。
社会保障問題を理解する4つのキーワード
 では、なぜ給付と負担がアンバランスになってしまったのか。公的年金(以下、年金)を取り上げて、考えてみる。社会保障制度の中心は年金、医療、介護だが、実は年金が最も大きなウエイトを占めていると同時に、医療や介護も問題の本質が、ほぼ同じだからである。
 年金を理解するキーワードは、「賦課方式」と「積立方式」、それに「社会保険方式」と「税方式」の4つである。
 賦課方式とは、現役の勤労者が払う保険料で高齢世代の年金を払う仕組みで、若い人が高齢世代を養っている。これに対して、積立方式は高齢になり年金を受け取るときに備えて、保険料を積み立てておく。社会保険方式は、その名が示すように、年金の支払い財源が保険料で、保険料を支払った人だけが、保険金(年金)を受け取ることができる。これに対して、税方式は年金の財源が税で、一定の基準を満たせば、税を支払ったかどうかに関わりなく年金を受け取れる。
 賦課方式、積立方式とも、それぞれ長所・短所があるが、賦課方式の場合は、人口構成が高齢世代より、常に若い人の方が多いピラミッド型になっていないと、問題が噴出する。社会保険方式は保険加入者がみなでリスク(年金の場合は長生きのリスク)をカバーし合うもので、対象は加入者で保険料を払った人だけ。負担と給付の対応関係が明確で、自己責任型ともいえる。
 税方式は、何らかの事情(年金の場合は老齢)で所得がなくなったか、低くなった人に対して、税を財源に所得を補助する。つまり、所得の再配分であり、税を納めているかどうかは関係がない。言い換えれば、保険方式と違い、受益と負担は対応していない。
 現在、日本の公的年金は、賦課方式でかつ社会保険方式である。これが現在の問題を生みだしている根源である。ごく簡単な例で、考えてみよう。
 主に民間のサラリーマンなどが加入する厚生年金の場合、年金受給者は現役時代の給与の約60%の年金を受け取っている。今から約50年前の1965年には、9.1人の現役世代で1人の高齢者を支えていたので、単純計算すれば60÷9.1=6.6%の保険料率でよいことになる。これに対して、2012年では現役世代2.4人で一人を支えなくてはならないから、60÷2.4=25%の保険料率になるはずだが、実際は約16%なので、保険料だけでは年金の支給金額を賄いきれない。その不足分を「国庫負担」という名の税金(国債よる収入かもしれないが)を投入して、補っているという構図だ(実際はもっと複雑。どのように国庫負担が行われているかは『西沢和彦の「税と社会保障抜本改革」入門』第1回を参照)。
 こうした構図が二つの問題を引き起こしている。現在の年金受給者も、現役時代には年金保険料を支払っており、一般の保険や貯金の感覚からすれば、支払ったおカネは年金支払いの原資として積み立てられていると思っていても、何ら不思議ではない(正確に言うと一部は積み立てられている)。だから、年金を減額しようとすると激しい反発が起こる。二つ目は、受益と負担の関係が明確な保険方式に、それが明確でない税金を相当金額つぎ込んでしまったということだ。国民からすれば、保険料の引き上げに加えて、なぜ増税まで行われなくてはいけないのか、増税を認めたとして、どんな受益があるのか理解しづらい。
■長期の道筋は示されず消費増税だけが先行
 賦課方式は現役世代の保険料で高齢世代を養う仕組みだから、収支をバランスさせる方策は、①経済成長率を上げるか、②年金の給付額を減らすか、③保険料をあげるかの三つしかなく、実際にはこれらを組み合わせるしかない。
 第1の論点は、我が国の「名目」成長率をあげることができるのか、できないのかということである。名目成長率が上がれば、税収も増えて増税も少なくてすむし、給与が増えれば保険料の負担感も小さくなる。
 日銀の金融緩和が欧米に比べて小さいため、物価の持続的な下落であるデフレから脱却できず、円高も続くという根強い意見がある。これに対して、国会で徹底した議論が行われたとは言えず、自公民がどのような経済見通し、経済政策を前提としているかが分からない。
 第2の論点は、現状の年金制度について、抜本的な改革が必要なのか、現状の制度を前提にした調整でよいのかが、うやむやにされたということだ(3党合意では社会保障制度改革国民会議で議論するとされている)。
 実は、自公政権下で「100年安心」を謳った2004年の年金改革の柱は、給付金額を抑制し、保険料率に上限を設けるということだった。最終的には、年金の給付を現役時代の約50%まで引き下げ、保険料率は約18%で頭打ちにするといものだ。だが、2050年に現役世代1.2人で1人の高齢者を支えなくてはならないとすると、保険料だけでは大幅に財源が不足する。自公両党は年金は現行制度を前提に考えるとしているが、保険料が大幅に不足することを考えると、消費税率がどこまで上がるのか、国民には長期的な展望が不明なままだ。
 一方、民主党が掲げていた税財源による最低保障年金と社会保険方式による所得比例年金の導入は、抜本的な改革に近いが、これも消費税引き上げのために棚上げされてしまった。そもそも、長期的な負担と受益の関係すら示されなかった。
 国民が知りたいのは、今後、ますます労働力人口が減り、高齢人口が増える中で、現状の社会保障制度のままでよいのか、それとも抜本的な改革が必要なのか、それぞれの場合に、長期的な負担と受給の関係はどうなるのかということだ。結局、その道筋は示されることなく、消費増税だけが先行されようとしている。しかも消費税の使途が社会保障に限定されたために、社会保障が赤字だから、大切な社会保障を維持するために、という理由でいくらでも増税が可能になりかねない道を切り開いてしまった。
 社会保障と税のあり方は、国のかたちでもある。自己責任を重視し、格差を受け入れるのか。格差を小さくするために、再配分を重視する社会を目指すのか。まずは、その理念が求められる。理念が明確にならなければ、4つのキーワードを組み合わせて政策を練り上げることができない。
 理念と政策を同じくするものが結集しない政党は、結局のところ分裂せざるを得ないことを、今回の民主党の内紛が如実に示した。今こそ、理念と政策という旗の下に、志を同じくする政治家同士が集まり、国民に信を問う。それこそが民主主義の筋というものだ。今回、消費増税が実現したとしても、国民の信頼を失った政党・政治家が、さらなる国民負担を求めることに国民は納得しないだろう。
 小沢一郎氏も「増税はやるべきことをやってから」一辺倒ではなく、やるべきことをやっただけで問題が解決するのかどうか、その先の長期的な展望をも示すべきである。
(ダイヤモンド・オンライン編集長 原 英次郎)
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政権選択の苦い教訓「消費増税」衆院通過/政治と大手メディアの劣化のなかで、光明のような中日東京新聞 2012-06-27 | メディア
 政権選択の苦い教訓「消費増税」衆院通過
 中日新聞【社説】2012年6月27日
 「一体」改革法案が衆院を通過した。消費税は増税しないと衆院選で公約した民主党による約束違反は明白だ。苦い教訓は次の選挙にこそ生かしたい。
 有権者のやり場のない怒りは、どこにぶつけたらいいのだろう。
 二〇〇九年衆院選で、消費税は増税しないと公約して政権交代を実現した民主党議員が、敵対していた自民、公明両党と結託して消費税率引き上げ法案に賛成する。
 自民党とは違う脱官僚や政治主導、税金の無駄遣いを徹底的になくすことで「コンクリートから人へ」の政治実現を期待した有権者の民意は完全に踏みにじられた。
◆ルール違反は明白
 野田佳彦首相は、消費税を増税する理由を「社会保障改革を実現する上で、どうしても安定財源が必要だ。しっかりと国民で助け合う、支え合うための税金として消費税を充てる」と説明する。
 本格的な少子高齢化を迎え、社会保障制度を持続可能なものに抜本改革する必要はある。国の借金が一千兆円にも上る財政状況に対する危機感も首相と共有したい。いずれ消費税増税が避けられないだろうことも理解する。
 しかし、引き上げることはないと公約した消費税の増税法案を、衆院選を経ずに成立させてしまうことは、民主主義の明白なルール違反にほかならず、納得がいかない。
 政策の具体的な数値目標や達成時期、財源を明示して政権選択肢を示すのがマニフェスト政治だ。
 首相が〇九年衆院選時に公言したように「書いてあることは命懸けで実行する。書いてないことはやらない」というのは大前提だ。
 英国を本家とするマニフェストは日本では〇三年衆院選以降、各党が導入した。国民が政策によって政権を選ぶという、定着しつつあった流れを断ち切った野田首相の責任は極めて重い。
◆「棚上げ」か解散を
 もちろんマニフェストは万能ではなく、一文字たりとも変えてはならない「聖典」ではない。加えて日本政治は代議制民主主義だ。状況の変化に応じて公約と違う政策を、選挙を経ずに進めなければならない場合もあるだろう。
 例えば、原発政策。民主党マニフェストは「安全を第一として、原子力利用について着実に取り組む」と推進の立場だが、菅前内閣以降、十分とは言えないものの「脱原発依存」路線に転換した。
 それを公約違反と責め立てる人はまずいないだろう。福島第一原発事故を契機に、マニフェストが前提とした原子力の「安全神話」が崩れ、原子力ムラの利権構造が白日の下にさらされたからには、政策転換は当然だからだ。
 しかし、首相が消費税増税の前提とする少子高齢化は突然始まったことではない。増税路線への転換は、税金の無駄遣いをなくす努力を怠り、官僚支配を突き崩す政治生命を懸けた熱意が足りなかったことの当然の帰結である。少子高齢化は言い訳にすぎない。
 民主主義では結論とともに手続きも重要である。国民の理解を得るための手順を欠いた政策は、それがたとえ国民に必要だとしても理解や同意は得られないだろう。「信なくば立たず」である。
 首相がもし消費税増税が日本の将来に必要だと思うのなら、自公両党と組んで中央突破を図るのではなく、面倒でも手続きをやり直す労苦を惜しんではならない。
 首相が今すべきは小沢一郎元代表ら民主党内造反議員の処分ではなく、「国民会議」で一年以内に結論を得る社会保障改革の全体像が決まるまで消費税増税法案を棚上げするか、衆院を解散して国民に信を問うことだ。
 三年前の暑い夏、高い期待を担って誕生した民主党政権が今、国民の眼前にさらすのは、自民党に同化していく無残な姿である。
 首相はそれを「決められない政治」からの脱却というが、指弾されているのは、既得権益や官僚支配など「変えるべきことを決められない政治」だ。公約違反の消費税増税など決めない方がましだ。
 民主党政権の消費税増税路線への変わり身は、われわれ有権者にとっては苦い経験となったが、そこから得たものを、日本の政治を前進させる教訓としたい。
◆白紙委任ではない
 まず、マニフェストは完璧ではない。本当に実現できる政策かを見極め、選挙後も実現状況を監視する。白紙委任してはいけない。
 法案への賛否が議員の最も重要な政治行動である。各法案への投票行動を詳しく知る必要がある。
 政策で議員や政党を選ぶ。公約した政策を実現しようとしないのなら、次の選挙では投票しない。この循環を完成させない限り、日本の民主主義は前に進まない。
 有権者が投票する際の材料を十分に提供するのは、われわれ新聞の重要な仕事だと肝に銘じたい。
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東京新聞【筆洗】 2012年6月27日
 <一つの言葉で喧嘩(けんか)して/一つの言葉で仲直り/一つの言葉で頭がさがり/一つの言葉で笑いあい/一つの言葉で泣かされる>。東京・柴又の「寅(とら)さん記念館」にある「言葉は心」という詩だ▼映画評論家の故淀川長治さんがお坊さんから教わり、いつも口ずさんでいるのを映画監督の山田洋次さんが聞き、映画「男はつらいよ」の撮影現場に飾ったという。何げない言葉に人は喜び、傷つく。重ねるほど色あせて、心に届かなくなる言葉もある▼「心から、心から、心からお願い申し上げます」。野田佳彦首相は一昨日の臨時代議士会で懇願した。消費税関連法案の衆院本会議での採決前に、党の仲間に直接訴える最後の機会だったが、反対派議員は反発を強め、むしろ亀裂は深まったようだ▼きのうの本会議で、法案に反対票を投じた民主党の議員は五十七人。棄権も含めると、七十人を超える大量の“造反”議員が出て、民主党は事実上、分裂状態に陥った▼「マニフェストはルールがある。書いてあることは命懸けで実行する。書いてないことはやらないんです」「シロアリ退治しないで、消費税引き上げなんですか?」。首相が選挙応援の演説で訴えてからまだ三年もたっていない▼政権交代して財務副大臣、財務相を経験したとたん、首相はマニフェストを忘れ増税一直線に変心した。言葉は心。心からそう思う。
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夕歩道
中日新聞2012年6月27日
 平家物語などに登場する鵺(ぬえ)。サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持つという。元来は夜に鳴く鳥らしい。物の怪(け)と恐れられ、えたいの知れぬ人物をさす。そういえば、民主党にも多くの鵺が。
 筆頭は、この期に及んで党内融和しか言わぬ幹事長。政党の体をなしていないのは明らか。マニフェスト違反の消費増税派は言語道断。造反派も選挙目当てが丸見え。しかし、欠席や棄権は鵺だ。
 旗を鮮明にすれば批判を受ける。でも、それこそが議員の責務。えたいの知れぬ鵺には次の選挙で票を投じる材料もない。重要政策の賛否を問う本紙調査にだんまりの議員ら。これも鵺だろうね。
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党議より大義「有権者の意見をお聞きした上での行動として反対票」 しなたけし衆院議員/二の足踏む連合 2012-06-24 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
しな たけし(階 猛)衆議院議員
党議より大義-会期延長と消費増税
By しなたけし • 2012年6月24日

 会期末の21日、今通常国会を79日間、延長することが決まりました。
 これに先立ち18、19、20日に行われた党内全議員を対象とする各会議において、私は、
①社会保障・税一体改革関連法案の採決を急ぐあまり、行政改革実行法案や公務員制度改革法案など他の多くの重要法案の審議を後回しにしていること
②自民、公明両党に大幅に譲歩し、民主党が目指してきた社会保障や税制の姿とは似て非なる内容の三党修正合意を確定しようとしていること
 に異議を唱え、再考を求めてきました。
 (なお、私が考える三党修正合意の問題点については、 『「社会保障と税の一体改革に関する三党実務者間合意」(修正合意)の問題点について』 http://shina.jp/a/activity/5491.htm をご参照ください。)
 残念ながら、長時間の議論を経ても、野田総理をはじめ党執行部側は、他の法案と歩調を合わせるために採決の時期を遅らせたり、三党修正合意を見直したりすることなど、党内の意見を踏まえた柔軟な対応を取ろうとはしませんでした。
 その最大の理由は、21日の会期末までに結果を出さなくてはならないということにありました。しかし、会期を79日間延長するのであれば、この理由は意味をなさなくなります。もう一度原点に戻り、消費増税法案を採決する前に、今国会で通すべき法案を通し、三党修正合意の正すべきところは正すことに全力で取り組むべきです。
 私は、会期延長を決める本会議直前の代議士会で、このような意見を述べましたが、党幹部からは何らの回答も得られませんでした。このまま衆議院本会議での採決に突き進むようであれば、私は反対票を投じざるを得ません。
 結果、党議に違反したとして除名など厳しい処分を受けるかもしれませんが、それは覚悟の上です。私が反対票を投じるのは、思いつきの行動でもなければ、野田総理の失脚を狙った行動でもありません。毎週選挙区に帰って、多くの有権者のさまざまな意見をお聞きした上での投票行動であり、野田総理と民主党政権が間違った方向に進まないための投票行動です。
 政治が目標を見失い、国民から見放されることがないよう、今回は、党議よりも大義を優先したいと考えています。

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