【渋谷の変】同性パートナーシップ条例 根拠曖昧…入居・面会「断ったことない」不動産業者や病院も戸惑い

2015-05-10 | 社会

 産経ニュース 2015.5.9 07:00更新
【渋谷の変】(上)同性パートナーシップ条例 入居・面会「断ったことない」 根拠曖昧…不動産業者や病院も戸惑い
 「同性カップルであることが分かれば、家主から敬遠される可能性があることは本人たちも分かっている。あえて証明書を提示する人がいるのかどうか」
 個性豊かな若者たちが集う東京・渋谷。創業15年となる不動産会社で、賃貸住宅の仲介などを担当する男性は、渋谷区が進める同性パートナーシップ証明の効果に疑問を投げかける。
 たびたび同性同士の入居申し込みはあるが、「自分たちはカップル」と告白することは、まずない。2人の関係については、家賃を負担し合って生活をともにする「ルームシェア」と家主に報告する。「判断するのは家主だが、条例ができても変わらないと思う」と男性は言う。
 渋谷区は4月1日から、同性カップルに「結婚に相当する関係」を認めるパートナーシップ証明書を発行できる条例を施行させた。同性カップルが法律上の家族でないため、アパートなどの入居や病院での面会を断られる「事例が多い」との指摘があったためといい、全国初の取り組みだ。
 だが、別の不動産会社も「(同性カップルの場合も)ルームシェアという扱いでこれまでも全て受け入れている。入居を断られるといったトラブルは聞いたことがない」。区内の複数の病院からは「入院患者が拒否しない限り、誰でも面会できるようにしている」「同性パートナーであっても面会は断っていない」と戸惑いの声が聞かれた。
 区は施行にあたり、不動産会社へのヒアリングを行っておらず、病院からは質問に対する回答が得られていないといい、区議会では「拙速」との反対意見も出た。「当院だけでは対応について判断できない。医師会などの反応を待ちたい」(区内の病院)などと現場には混乱が広がっている。
*「性の多様性、啓発重要」
 「人間の性の多様性について肯定的な啓発が重要」と条例を提案し、成立に導いた桑原敏武前区長(79)は引退した。区長選は区議選とともに、4月19日告示、26日投開票の日程で行われた。証明書の発行や条例運用の行方は新区長の手に委ねられる。
 桑原前区長は条例が区議会の過半数を得て成立したことを引き合いに、「区長個人の意見で左右される筋合いのものではない」と牽制したが、区は証明書の発行にあたって必要な手続きや審査の内容など本格的なルール作りを始めたばかり。
 証明書発行の開始時期について、区の担当者は「今年度中」と述べるにとどめており、具体的なスケジュールは曖昧なままだ。
*「男女に特別な意味」
 同性愛など性的少数者への偏見や差別をなくす取り組みは重要だ。ただ、条例制定にあたっては「結婚に相当する関係」という証明書の効力について、憲法24条の「婚姻は両性の合意に基づく」との規定と整合性が取れるかが問題となった。憲法が男女間に限定する結婚の規定に、憲法の下に位置する条例が「相当する関係」を追加していいのかという議論だ。
 同性愛者であることを公表している豊島区議の石川大我さん(40)は「今回の条例は婚姻制度とは別物と考える。憲法では前提としての『法の下の平等』や『幸福追求権』も認められている。同性カップルは法的に保護されておらず、その欠陥を埋める意義がある」と訴える。
 一方、麗澤大学の八木秀次教授(憲法学)は「日本は古くから同性愛に対して寛容だったが、現在の法律では子供を産み、次の世代をつなぐことができる『男女の組み合わせ』に特別な意味を持たせている。同等の権利を認めることは家族観や家庭観の崩壊につながる」と指摘している。
*法令と条例、過去にも議論
 同性パートナーシップ条例と同様に、自治体の条例が国の法令に抵触するかどうかが議論となった事例は過去にもある。
 近年で激しい議論となったのは、神奈川県議会で平成19年に可決された知事の任期を恒久的に3期12年までとする多選禁止条例だ。
 条例案は18年にも提案されたが、憲法が定める「職業選択の自由」に抵触するなどの反対意見から否決。しかし、国の多選問題を検討する有識者会議が、多選制限の有効性を認めて「合憲」との結論を出し、議会も賛成に回って成立した。
 ただ、施行時期が「別の条例で定める日」と修正され、国が条例による多選制限を認めるよう法改正を行うまで、事実上の凍結状態となっている。
 11年には、山梨県高根町(現北杜市)の清里高原に別荘を所有する人々が、一般町民より高い水道料金を不当に負担させられているとして、水道料金を定めた条例の無効を求めて提訴。1、2審で判断が分かれたが、18年の最高裁判決は「公の施設の利用について差別的取り扱いを禁じた地方自治法に違反する」と別荘所有者の主張を認めた。
 12年には、東京都が大手銀行を対象に導入した事業規模に応じて税を徴収する外形標準課税(銀行税)条例をめぐり、銀行側が「法の下の平等に反する」として、都を相手に損害賠償を求めて提訴。1、2審とも判決では、地方税法違反を理由に都に徴収した銀行税の返還を命じ、最高裁で和解が成立した。
   × × ×
 渋谷区に異変が起きている。同性カップルに証明書を発行する条例制定、保養施設としていわくつきの物件購入…。識者からは「行政、議会とも機能していない」との嘆きも聞かれる。「渋谷」の現場を追った。(福田涼太郎)
<同性パートナーシップ証明>
 東京都渋谷区が4月1日に施行した「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」に盛り込んだ制度。性的少数者への支援策で、区内在住の20歳以上の同性カップルが対象。証明書を取得すると、事実上の「夫婦」として区営住宅へ申し込みができるほか、事業者側の判断で、事実上の「夫婦」として民間の賃貸住宅への入居、会社での家族手当の支給なども可能になるとしている。

2015.5.10 07:00更新
【渋谷の変】(下)保養所にAV撮影歴の「ボロい旅館」購入 1カ月で建て替え 「ほかに税金の使い道ないのか」
 「行政は最少の支出で最大の効果を生み出さなければならない。この保養施設の購入は、その原則からかけ離れている」
 静岡県の伊豆半島南東部に位置する河(かわ)津(づ)町。かつては川端康成の小説「伊豆の踊子」の舞台にもなった温泉地で、東京都渋谷区が昨年10月にオープンした保養施設「河津さくらの里 しぶや」の効果に、区議の一人が疑問を呈する。
 「オープン」とは言っても、開業からわずか1カ月余りで“目玉施設”の大浴場が建て替え工事に入り、老朽化の激しかった東館も解体が決定、営業しているのは本館のみだ。宿泊客は大浴場が再開予定の「今年の秋ごろ」(区担当者)まで、近くの公営温泉に行き、「借り湯」をする必要がある。
 河津町は、早春には早咲きで有名なカワヅザクラ(河津桜)が咲き誇り、都心から特急1本で行けることもあって、行楽シーズンには多くの観光客が訪れるが、この保養施設の開業からの平均稼働率は約4割にとどまっているという。
 「世界に一つしかないような貴重な物件なら別だが、すぐに工事が必要となるようなボロい旅館を多額の税金を使って購入する必要があったのか」。区議は怒りをにじませる。
*「人間なら末期症状」
 区は、これとは別に保有している神奈川県箱根町の保養施設が「稼働率が9割以上、時期によっては予約が取れない」として、平成25年12月、河津町にある昭和2年創業の老舗温泉旅館の買い取りを表明。昨年3月末に購入費(1億1千万円)と改修費計約2億2800万円の予算が成立した。
 しかし、購入後の耐震診断の結果、オープン直前になって大浴場と東館の耐震不足が判明。耐震性能を示すis値がそれぞれ最も低いところで東館は0・143、大浴場は0・003と、基準値の0・6を大幅に下回り、いずれも震度6強以上の地震で、倒壊、崩壊する危険性が高いレベルであることが分かった。
 一般財団法人日本耐震診断協会は「信じがたい低い数値。人間で言えば全身を病気にむしばまれた末期症状の状態だ。目で見ても何かしらの異常が分かったのではないか」と驚く。
 だが、区は施設を予定通りオープンさせ、耐震性不足を知りながらも大浴場を昨年11月末まで営業。東館の解体費や大浴場の建て替え費計約2億6500万円を補正予算で追加計上し、同12月に工事に入った。
区議会は購入前に視察を行ったが、参加したベテラン区議は「施設を見ても耐震不足の可能性にまで思いが至らなかった。反省している。ここまでやったのだから、しっかり改修して営業を続けたい」という。
*「即廃止は無理」
 この保養所をめぐっては昨年5月、一部週刊誌が公営化前の18~25年にアダルトビデオの撮影が頻繁に行われた名物旅館だったと報道。「あまり気持ちのいいことではない」などと区民らから苦情があったことで、一躍有名になった。
 当時の桑原敏武区長(79)や区幹部は区議会などで、「撮影のことは知らなかった」「地元の人も誰も知らない」と突っぱねたが、地元住民は「旅館を貸し切って撮影していたことは周辺では有名」と話す。
 また、購入前の不動産鑑定で区の委託業者は旅館の価値を約1億2500万円と算定したが、耐震診断の結果が出る前に反対派区議が別の鑑定業者に依頼した結果は約4千万円。1億1千万円での購入は違法として、区に対し旅館側に購入費の返還を要請するよう求める訴訟を起こしている。
 元埼玉県志木市長で、NPO法人「地方自立政策研究所」の穂坂邦夫理事長(73)は「果たして公共サービスとして保養施設が必要なのか。税金を『人のお金』だと思うからチェックが甘くなる。ほかに税金を使うべき分野はないのか。何のために選挙で選ばれたのか。責任をもって考えるべきだ」と述べた。
*公営施設…閉鎖や民営化主流
 公営の保養施設の閉鎖や民営化など、自治体の多くが見直しを加速させる中、新たに開設するという渋谷区の動きは“異質”だ。
 東京都板橋区は、所有する箱根(神奈川県箱根町)などの3施設を平成24年度末に全て閉鎖、民間に売却した。施設の老朽化や区民の利用者減が主な原因。
 15年度までは区が直接運営していたが、年間の赤字が約2億3千万円に膨れ上がり、16年度からは民間のリゾート会社などに施設を無償貸与する形で経費を圧縮。「区民への案内パンフレット作成費」など年100万円未満に支出を減らしたが、老朽化による建て替えが迫り、多額の改修費が出ることを避けるため、土地建物の売却を決めた。
 墨田区も伊豆高原(静岡県伊東市)に保養施設を所有し、18年度から指定された民間業者が管理、運営を続けている。民間管理への切り替えによって区負担額は1億5600万円(17年度)から約9700万円(18年度)となり、約5900万円の削減に成功。だが、25年度実績で稼働率が3割を切るなどし、「区の施策として役割を終えた」(担当者)として、27年度末をめどに閉鎖予定だ。
 こうした見直しが進む中、渋谷区は静岡県河津町の施設の購入で、所有する保養施設を2つに増やした。運営はいずれも、区が100%出資する第三セクター「渋谷サービス公社」などによって行われているが、今後の経営状況によっては、さらなる財政負担も懸念される。(福田涼太郎)

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同性パートナー証明書を発行 渋谷区が全国初の条例案 LGBT(性的少数者)への意識変化 2015-02-12 
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