韓国が羨む「使用済み核燃料の再処理特権」 六ヶ所の稼働を急げ 金子熊夫

2013-07-08 | 政治

韓国が羨む「再処理特権」 六ヶ所の稼働を急げ
WEDGE Infinity2013年07月08日(Mon) 金子熊夫(外交評論家・エネルギー戦略研究会会長)
 韓国が米国との原子力協定の改定交渉でフラストレーションを溜めている。使用済み核燃料の再処理を行う権限を米国が与えないからだ。日本は36年前、米国と激突しながら辛うじて説得に成功し、再処理の特権を勝ち取った。だからこそ韓国は不公平感を抱いている。しかし現在、肝心の六ヶ所再処理工場の前途に深い霧が立ち込めている。
  日本で3.11以後止まっている原子力発電所の再稼働問題が大きな焦点となっている折、お隣の韓国では、懸案の韓米原子力協定改定交渉が重大な局面を迎えている。
 *韓国の恨み 日本だけなぜ優遇?
  この交渉の最大の争点は、韓国が、米国産の核燃料を原子炉で燃やした後の、いわゆる使用済み核燃料を再処理し、その結果抽出されたプルトニウムを利用する「権利」を米国から勝ち取ることができるかどうかである。この問題について、日本人の多くは無関心のようだ。
  李明博前政権以来数年越しの必死の交渉にもかかわらず、韓国は、対米説得に失敗した。結局、協定が満了する来年3月以降、2年間暫定的に現行協定を延長し、その間交渉を継続することとなった。5月半ば訪米した朴槿惠大統領はオバマ大統領に直談判したが不発に終わった。
  北朝鮮との対決の最前線で日夜頑張っている韓国の苦しい立場を米国は理解してくれないという不満や、同じ米国の同盟国である日本には再処理を認めておきながらあまりにも不公平だという恨み、やっかみが韓国国内に渦巻いている。再処理ができないとなると、原発輸出競争で不利になるという焦りもある。
  米仏日露に続く世界第5位の原発大国である韓国では、現在23基が稼働中だが、再処理ができなければ使用済み核燃料のサイト内貯蔵能力が限界に達し、このままでは早晩原発閉鎖も避けられない状況だ(と韓国側は説明している)。
  この説明で米国が納得しないのも無理はない。使用済み核燃料貯蔵施設が飽和するのは2016年だが、韓国が主張している乾式再処理の商用化には数十年を要するからだ。
  朴槿惠の父、朴正煕は1970年代、秘密裏に核武装を目指し、米国から警戒された。「米国は韓国の非核化の意志を疑っている」と韓国・中央日報紙は分析している。
 一般の読者のために少々説明を加えると、現行の韓米原子力協定は、旧・日米原子力協定と同タイプで、米国産の核物質(ウラン燃料)の再処理、濃縮、第3国移転は米国の事前承認がなければできないという明文の条項がある。
  日本は、77年春、カーター政権が発表した新核不拡散政策の適用第1号として、当時ほぼ完成していた茨城県東海村再処理施設の運転に「待った」をかけられた。
  果たせるかな、日米は文字通り激突した。日本は、福田赳夫首相と宇野宗佑科学技術庁長官兼原子力委員長(ともに当時)の下で挙国一致、正攻法で「再処理とプルトニウム利用は、資源小国日本のエネルギー安全保障上必要不可欠。日本は被爆国として非核に徹しており、再処理を行っても核武装や核拡散の心配は無用」と強硬に主張し続け、ついに米国から条件付きの承認を勝ち取った。
  交渉はその後も延々と続き、ようやく88年に「長期包括的事前承認」方式による新協定の締結に成功し、現在に至っているわけである。厳しい交渉が多かった戦後外交のなかで、日本側が完全に勝利した数少ない事例の一つと言ってよい。
  都合10年に及ぶ日米交渉を振り返ると、筆者が外務省の初代原子力課長として直接交渉に関与した前半は、カーター民主党政権の厳格な核不拡散政策に苦労させられたが、後半はレーガン共和党政権の原子力推進政策に助けられたという面もあった。
  その後、世界の核と原子力をめぐる状況は大きく変化している。近年とくに北朝鮮、イラン問題の悪影響は甚大だ。就任以来「核なき世界」(09年のプラハ演説)を標榜するオバマ政権は、核拡散防止のためには再処理と20%以上の濃縮を禁止したいというカーター政権以来伝統の政策を堅持している。
  今後原子力発電を導入する新興国に対しては、08年に米国がアラブ首長国連邦(UAE)と締結した原子力協定(再処理、濃縮の放棄を明記)をゴールド・スタンダードとしたい方針のようだ。つまり、カーター政権時代に再処理権を獲得した欧州原子力共同体加盟国と日本、それに、4年前に米国との粘り強い交渉で奇跡的にそれを獲得したインドだけを例外として、他のすべての国には新たに再処理権を認めないという方針を頑なに堅持しているのである。
 *韓国問題は対岸の火事に非ず
  翻って日本はどうなのか、どうなるのか。
 現行日米原子力協定で再処理の「包括的事前承認」は確保されているものの、本格稼働が大幅に遅れている青森県六ヶ所村の再処理工場が、協定有効期限の2018年以後どうなるかは、まったく不透明である。
  六ヶ所再処理工場は度々の不具合による計画の遅れで、長年足踏みしてきたが、ようやく今年10月に操業開始可能というところまできた。5月にはガラス固化体製造試験も終了、国の使用前検査を受ける準備が整った。ところが、原子力規制委員会が5月半ばに突然、新規制基準の策定が間に合わないとの理由で「待った」をかけた。
  新基準施行は早くて12月とみられる。しかも原発再稼働の審査でマンパワーを取られている規制委が、再処理工場の審査をどんなスピード感で進めるのかわからない。規制委は工場が立地する下北半島の断層も調査する意向を示している。
  そうなると気になるのは、米国政府の反応である。自国内での民生用核燃料の再処理を原則的に止めている米国は、基本的には、日本が原子力技術、とりわけ再処理を軸とする核燃料サイクルの技術を磨き上げ、それを厳正に管理していくことを期待している。核不拡散に「甘い」中国やロシアの原発が世界に輸出され、核技術が不安定に拡散するのを防ぐ意味でも、日米が連携して世界の原子力を牽引することで、核管理の秩序を保っていくべきだという考え方である。だからこそ、3.11事故後、民主党政権が掲げた「原発ゼロ」政策に米国は懸念を示したのだ。
  しかし、日本が六ヶ所工場の稼働にこのままてこずれば、どうなるかわからない。米議会には強烈な核不拡散論者(イコール再処理反対論者)もいるのだ。
  再処理の特権は、協定上の既得権だと思って安閑としていてはいけない。「権利の不行使は権利の放棄」とみなされる。一旦放棄したら二度と回復できないだろう。六ヶ所工場の稼働は、外交の歴史的経緯とエネルギー安全保障という縦軸、横軸を持って、俯瞰的視点から検討されなければならないテーマである。
  とりわけ六ヶ所工場の事業者である日本原燃は覚悟を持って一層奮励努力してもらいたい。まさに背水の陣で臨むべきで、今度また失敗したら後がないと肝に銘ずるべきだ。
 WEDGE2013年7月号より
-------------------------------------------------
◇ インド ミサイル実験成功でも 世界が心配しない理由/「核兵器は防御の兵器」核戦争に勝者はいない 2012-05-15 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉 
-------------------------------------------------
原発保有国の語られざる本音/多くの国は本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり 2011-05-10 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
 知らないのは日本人だけ? 世界の原発保有国の語られざる本音
 JB PRESS 2011.05.10(Tue)川島博之〈東京大学大学院農学生命科学研究科准教授〉
 4月の最終週に、ドバイ経由でエチオピアに出張した。出張ではホテルのロビーなどで外国人と何気ない会話を交わすことも多いのだが、今回出会った人々は、私が日本人と分かると、異口同音に「FUKUSHIMA」について聞いてきた。世界の人々が原発事故に関心を寄せているのだ。福島は広島、長崎と共に、広く世界に知られた地名になってしまった。
 日本はこれからも原子力発電を続けるべきであろうか。それとも、原発は取り止めるべきなのだろうか。
 報道各社による直近の世論調査では、賛否はほぼ拮抗している。多くの人が、地震が多い日本で原子力発電を行うことはリスクが伴うが、便利な生活を送るためには仕方がないと考えているのだろう。
 現在は、原発から漏れている放射性物質の封じ込めや津波で破壊された町の復興に関心が集まっているが、一段落つけば、これから原発とどう付き合うか、真剣に議論しなければならなくなる。
 その議論を行う前に、世界の原発事情についてよく知っておくべきだ。フランスが原発大国であることを知っている人は多いと思うが、その他の国の事情については、よく知られていないと思う。
 筆者の専門はシステム分析だが、システム分析ではデータを揃えて広い視野から先入観を持たずに現実を直視することが第一歩となる。そこで本稿ではIEA(国際エネルギー機関)のデータを基に、世界の原発事情について考えてみたい。そこからは原発の意外な一面が見えてくる。
*原発を所有する国の意外な顔ぶれ
 原発は最先端の科学技術を利用したものであるから、先進国にあると思っている人が多いと思う。しかし、調べて見るとどうもそうとは言い切れない。
 現在、31カ国が原発を所有している。原発による発電量が最も多い国は米国であり、その発電量は石油換算(TOE)で年に2億1800万トンにもなる(2008年)。
 それにフランスの1億1500万トン、日本の6730万トン、ロシアの4280万トン、韓国の3930万トン、ドイツの3870万トン、カナダの2450万トンが続く。日本は世界第3位だが、韓国も第5位につけており、ドイツを上回っている。
 その他を見ると、意外にも旧共産圏に多い。チェルノブイリを抱えるウクライナは今でも原発保有国だ。石油換算で2340万トンもの発電を行っている。その他でも、チェコが694万トン、スロバキアが440万トン、ブルガリが413万トン、ハンガリーが388万トン、ルーマニアが293万トン、リトアニアが262万トン、スロベニアが164万トン、アルメニアが64万トンとなっている。
 旧共産圏以外では、中国が1780万トン、台湾が1060万トン、インドが383万トン、ブラジルが364万トン、南アフリカが339万トン、メキシコが256万トン、アルゼンチンが191万トン、パキスタンが42万トンである。
 その他では、環境問題に関心が深いとされるスウェーデンが意外にも1670万トンと原発大国になっている。また、スペインが1540万トン、イギリスが1370万トン、ベルギーが1190万トン、スイスが725万トン、フィンランドが598万トン、オランダが109万トンとなっている。
 原発を保有している国はここに示したものが全てであり、先進国でもオーストリア、オーストラリア、デンマーク、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガルは原発を所有していない。
 ここまで見てくると、一概に原発は先進国の持ち物と言うことができないことが分かろう。
*多くの国は本音で核兵器を持ちたがっている
 東欧諸国は旧共産圏時代に建設し、今でもそれを保有している。しかし、台湾やインド、ブラジル、南アフリカ、パキスタンになぜ原発があるのだろうか。韓国の発電量がなぜドイツよりも多いのであろうか。また、G7の一員でありながら、なぜイタリアには原発がないのか。
 原発の有無は、その国の科学技術力や経済力だけでは決められない。
 ある国が原発を所有する理由を明確に知ることは難しい。その国の人に聞いても、明確な答えは返ってこないと思う。しかし、原発を持っている国名を列記すると、その理由がおぼろげながら見えてくる。原発は国家の安全保障政策に関係している。
 原子力による発電は原子力の平和利用であるが、ウランを燃焼させることにより生じるプルトニウムは原子爆弾の原料になる。また、原発を製造しそれを維持する技術は、原爆を製造する技術につながる。原発を持っている国は、何かの際に短時間で原爆を作ることができるのである。
 北朝鮮が原爆の所有にこだわり、それを手にした結果、米国に対して強い立場で交渉できる。この事実は広く知られている。そのために、イランも原爆を欲しがっている。
 米国が主導する世界では、世界の警察官である国連の常任理事国以外は核兵器を所有してはいけないことになっている。それ以外の国が原爆を持つことは、警察官以外が拳銃を持つようなものであり、厳しく制限されている。
 しかし、各国の利害が複雑にぶつかり合う世界では、金正日が米国に強気に出ることができるように、核兵器を持っていることは外交上で有利に働くと考えられている。
 多くの国は、本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり、原発保有国のリストと発電量を見ていると、その思いの強さが伝わってくる。
*フランスが原発大国でイギリスの原発が小規模な理由

 日本では、フランスが原発大国であることはよく報じられるが、その理由が語られることはない。フランスが原発に舵を切ったのは、地球環境問題がやかましく言われるようになった1990年代以前のことである。フランスはCO2を排出しない発電方法として原発を選んだわけではないのである。
 それには、西側にいながら米国と一線を画したいと考えるドゴール以来の外交方針が関連していると考えるべきであろう。同様の思いは、国防に関心が深いスウェーデンやスイスにも共通する。また、フィンランドは常にソ連の脅威にさらされてきた。
 そう考えると、西側の中でもイギリスの原発発電量がスウェーデンよりも少なく、フランスの約1割に過ぎないことがよく理解できよう。イギリスの外交方針が米国と大きく異なることは多くない。原子力の力を誇示して、ことさらに米国と一線を画す必要はないのである。
 韓国に原発が多いことも理解できる。米国が作り出す安全保障体制の中で原爆を持つことは許されないが、北朝鮮が持っている以上、何かの際に原爆を作りたいと考えている。
 その思いは台湾も同じである。旧共産圏に属する小国が、多少のリスクに目をつぶって原発を保持し続ける理由もそこにある。東西の谷間に埋もれるなかで、少しでもその存在感を誇示したいと思っているのだ。
*「絶対安全」とは言えない原発の所有を国民にどう説明するか
 このような力の外交の一助として原発を位置づけるという考え方は、多くの国で国民にそれなりの理解を得ているようだ。だから、フランスや韓国や台湾、ましてパキスタンで反原発のデモが繰り返されることはない。
 しかし、日本、ドイツ、イタリアではそのような考え方は国民のコンセンサスとはなり難い。言うまでもなく、この3国は第2次世界大戦の敗戦国であり、多くの国民は力による外交を毛嫌いしている。そのために、原発の所持を安全保障の観点から国民に説明することが難しくなっている。
 この3国では原発所持の理由を、経済性や絶対安全であるとする観点から説明することになる。しかし、それだけでは、使用済み燃料の最終処理に多額の費用を要し、また、福島の事故で明らかになったように、絶対安全とは言えない原発の所有を国民に説明することはできない。
 イタリアはチェルノブイリ原発事故の後に国民投票を行い、原発を廃止した。また、ドイツも緑の党などが強く反対するために、福島の事故を受けて、原発の保有が大きな岐路に立たされている。
 ここに述べたことを文書などで裏付けることは難しい。しかし、原発の保有国リストや発電量を見ていると、自然な形で、ここに述べたようなことが見えてくる。世界から見れば、日本の原子力政策も潜在核保有力の誇示に見えていることであろう。
 これまで、日本における原発に関する議論は、意識的かどうかは分からないが、本稿に述べた視点を無視してきた。
 しかし、原発の経済性と安全性の議論だけでは、なぜ、原発を持たなければならないのかを十分に議論することはできない。福島の事故を受けて、今後のエネルギー政策を考える際には、ぜひ、タブーを取り除いて議論すべきであろう。
 戦後66年が経過しようとしている。少子高齢化も進行している。そろそろ、老成した議論を始めてもよいのではないであろうか。(背景の着色は来栖)
〈筆者プロフィール〉
川島 博之 Hiroyuki Kawashima
 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など
・世界の中の日本 メイド・イン・ジャパンの製品を世界中に売りまくりジャパンバッシング(日本叩き)が沸き起こっていたのは遠い過去の話となった。今では何を求めても反応すらしない国(ジャパンミッシング)として世界から忘れられようとしている世界第2位の経済大国ニッポン。国際社会から孤立しないためには何をすべきなのか。海外に張り巡らされた日本人随一のネットワークを生かして、日本の取るべき針路を考察する。
=============================
広島原爆ドーム「核保有国でないから、こんな悲惨な被害を受ける」を心に刻むインド国防相 WiLL2013/5月号 2013-04-07 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
WiLL5月号 2013年4月26日発行
蒟蒻問答 第84回 「中韓は対話の域を超えている」堤堯×久保紘之
(抜粋)
p246~
核問題はインドを見習え
編集部 ところで、北朝鮮に対してはどう動いたらいいのでしょう?
 日本のメディア、評論家連中は、北朝鮮が実験をくり返すたびに「冷静に構えて話し合いの道を探れ」などと埒もないセリフを言うが、北は親子3代、核ミサイル保有への確固たる意志は変わらない。なのに、いたずらに時間を与えてきた。核に対抗できるのは核しかない。備えあれば憂いなしだ。何でその方向に議論が進展しないのかね。
久保 パワーポリティクスの世界を堂々と生き残るには、核を持たないと土台無理な話なんですよ。アルジェリアの事件について「なぜ守れなかったのか」と質問された際、安倍はこう言いました。
 「イギリスなど、武力を持っていて戦争行為をする準備ができている国と、我々のような国と同じように論じられても困る」
 これは全くその通りなんだけど、かつて池田勇人は外交交渉の帰りに思わず「ああ、日本にも核があったらなぁ」とため息混じりに呟いた。それから半世紀経っても、この問題は“呟き”の域を出ない。
 でも、いきなり世界に向けて「日本も核を持つ」と宣言するわけにいかんよ。手順というものがある。
久保 北朝鮮は核弾頭を作り、ノドン300発の照準を日本に合わせているという。そんななかで、悠長に手順を踏んでいる場合ですかねぇ。
 たとえば現在、ロケット開発や原子力発電などを民間に委託しているけど、それこそ国家が前面に立ってやるべきことでしょう。いまの原発が危ないというのなら、国家が科学の粋を結集し、採算抜きで世界一安全堅固で高性能の原発を開発すればいいだけの話です。
 山中伸弥教授のiPS細胞の研究は人間の生命科学の進展に大きく貢献したけど、一方では、その生命を守るために生命を犠牲にしなければならない時が、国家にはある。そのためには、まず国家の独立が必要。そして、その国家を有効に維持・防衛するためには核武装が必要になる。これはノーベル賞作家のクロード・シモンが、祖国フランスの核実験を支持するために展開した論理です。
堤 核の問題はインドがいい例となる。かつて佐藤栄作がひそかに核武装を意図し、西ドイツに共同開発を呼びかけたことがある。首相シュミットは拒否したけど、これを利用してアメリカから核のレンタルに成功した。一方、日本には核のレンタルすら認めない。
 比べてインドは深く静かに潜行し、秘密裡に核を作ってしまった。当時、それに気付かなかったことでCIA長官がクビになり、CIA無用論まで出た。インドはアメリカから経済制裁を喰らったけど、こう訴えた。「われわれは中印戦争で惨敗した。中国は核を持っている。我々も持たねばまたやられる」とね。
 中国の脅威を言い立てて、いまじゃインドの核は公認、アメリカから核の技術を提供されるまでになった。中国の脅威をいうなら、日本も同様だ。おまけに北の脅威も加わった。ドイツやインドにできたことが、なぜ日本にはできない。
 加瀬英明さんに聞いた話では、インド国防相の部屋に行くと、広島の原爆ドームのカラー写真が壁に飾ってあるそうだ。聞けば、「核を持たなければ、こういう悲惨な被害を受けることを、毎日、心に刻むために飾ってある」という答えだ。
 アメリカは核を持った国とは絶対に戦争をしない。イラクのサダムは核を持たないからやられた。金正日も金正恩もそれを知っているから核に執着する。
 北朝鮮が最初の核実験を強行した時、安倍晋三と中川昭一は「日本も核の議論を始める必要がある」と発言した。この二人を朝日新聞はNHKと組んで叩きに叩いた。他の大手メディアも同様だ。かつて安倍の祖父・岸信介は「自衛のために小型の戦術核をもつことは憲法違反ではないと発言して、これまた物議を醸した。安倍が官房長官の頃、早稲田大学のキャンパスで、祖父の「戦術核合憲論」をどう思うかと問われてこれを是認したときも、朝日以下のメディアは叩いた。核の議論をする者を目の仇に、袋叩きにして議論を封殺する。核だけではない。いまだに日本人は軍備や核という言葉にアレルギーをもっている。
久保 国民が反対しようがしまいが、国家が生き残るためにやらなきゃいけないことは、断固としてやらないといけないんですよ。
p250~
ネクロフィリアからの脱却を
久保 「原発も国家も大企業もいらない。小さな共同体をつくり、再生可能エネルギーで十分生きていける」。「3・11以降の反核・反原発運動家らはどんどん“縮志向”になって、そんなユートピア像しか思い描けない。
 エーリヒ・フロムは『悪について』(紀伊國屋書店)のなかで、ネクロフィリア(死への希求)とバイオフィリア(生への希求)という2つの概念を提示しました。
 フロムによれば、「核戦争は戦争の一切の合理化を成立不能にする」ものであり、核戦争阻止、核実験反対に立ちあがらない人々をネクロフィリア、その逆をバイオフィリアと呼んだ。フロムは原発と原爆を混同したりはしていませんが。
 さて、いま反原発デモに参加する大江健三郎や菅直人など、日本の反核平和愛好者たちは「生に向かおうとする気持ち」はあっても「平和を守るために命を犠牲にすることもありうる」という積極的平和主義を生きたことはない。だから彼らをバイオフィリアと言えるわけがない。
 僕はかつて戦後知識人の核、“絶対悪”神話の原点はどこなのか、探ってみたことがあります。そうすると、荒正人の「火」(昭和46年6月14日)という論文に辿り着いた。荒はそのなかで、核は壊滅的、否定的な側面と、平和的な積極的な側面があると考えた。前者を取るなら世界はネクロポリス(死都)に、後者を取るならばアクロポリス(世界市)になる、と。そして、いずれの道を選ぶかは、人民の手による「政治」にかかっていると荒は書いています。荒は共産主義者なので、「ソ連の核はいい核」となってしまうわけですが・・・。
 問題は荒が、「今日、人類は星のエネルギーを獲得したのである。この無限大のエネルギーもいつかは必ず産業化されるだろう」と書いたユートピア的なイメージが、いつ頃から反核・反原発を同列に扱い、マイナスイメージ一色に塗りつぶされたのか、です。(略)
p251~
 ともあれ、安倍のキャラクターで僕がもっとも評価するのは、バイオフィリア的側面です。ならば、彼がやるべきことは「戦後レジームの脱却」、すなわちネクロフィリア的な核ニヒリズムという戦後精神の改革を断行することでしょう。
 それは参院選後にやると思うよ。まずは経済を立て直さないと、国防すら覚束なくなる。軍備も技術革新もカネがかかるんだよ。
====================================
【脱中国元年】中国・北朝鮮には、防衛戦略の抜本的改変から(5) 2013-02-24 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
 【脱中国元年】中国、北朝鮮には寝技で対抗 新外交は防衛戦略の抜本的改変から★(5)
 zakzak2013.02.24
 防衛大綱の見直しが決まった。
 将来的に日本は、核兵器で恫喝する中国や北朝鮮の脅威に、どう抑止力(対抗能力)を持つことができるのか。あるいは核バランスをどうやって達成できるか?
 選択肢として従来いわれたシナリオも多いが、本稿で筆者は「考えられないことを考える」(ハーマン・カーン)。
 日本が自主的に核兵器開発を行うには、もはや間に合わない。そもそも、核拡散防止条約は日本に核武装させないための世界の監視体制であり、IAEA(国際原子力機関)の査察は日本の原発の軍事転用を防ぐ目的で設営された。
 であるとすれば、短時日裡に日本が核保有するには、常識では「考えられないシナリオ」を検証しておく必要がある。
 (1)パキスタンから買う。これまでの累積援助5000億円をチャラにするのが交換条件で軍事専制のパキスタンと秘密交渉を展開する。同時にこれはパキスタンの同盟国=中国に強い猜疑心を生ませるだろう。
 (2)インドと安保条約を結び、インドが中国へ向けている核兵器を一時借用するなりの密約を締結する。密約がなくともあるように国際社会の舞台裏で撹乱(かくらん)情報を流す。
 (3)日米安保条約の下、在日米軍があり、第7艦隊が横須賀、佐世保に寄港している。在日米軍の施設など総資産はおよそ25兆円程度で、年間維持費は2兆円程度と推計される。
 日本が持つ対米債権は1兆2000億ドル、為替差損ですでに40兆円ほど損をしているが、これを政治的に有効に使えばよい。つまり対米債権を担保に、在日米軍と第7艦隊を一時的にでも日本の指揮下におく。在日米軍を核兵器付きで傭兵化するという日米同盟の密約は技術的に可能ではないか
 (4)腐敗した中国軍の高官を買収し、中国から核兵器を横流しさせる。あるいは中国の軍の一部を買収し、将来の日本への亡命を条件に、日本向けミサイルの頭脳にあるコンピューターを入れ替えるなどして無効化する。
 これらの作戦を実践するには、強固なハッカー部隊と、インテリジェンス部隊が日本に必要とされることは言うまでもない。
 うさぎの耳はなぜ長いのか。
 戦後日本は自ら謀略を仕掛けることもなく、ひたすら国際社会の「善意」に期待して外交を展開し、国家安全保障を米国に依存してきた。このため、未曾有の危機に遭遇しても自らは何をなすべきかの判定さえできなくなった。
 尖閣戦争が近いという危機の到来がこうした幼児性、劣化した安全保障感覚を呼び覚まし、危機管理の中枢とは何かを考えさせてくれる絶好の機会となった。
 国家たるべき条件は、インテリジェンス戦略の確立、そのための情報機関設立が喫緊に必要とされている。 (評論家、ジャーナリスト・宮崎正弘)=おわり *強調(着色)は来栖
=======


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。