時効廃止 疑問の声も

2010-04-27 | 死刑/重刑/生命犯

時効廃止、即日施行へ 国会審議約4週間で改正法成立
 asahi.com2010年4月27日13時11分
 殺人事件などの「公訴時効」を廃止する刑事訴訟法などの改正案が27日午後、衆院本会議で可決、成立した。改正法は即日施行される見通し。「逃げ得を許していいのか」という犯罪被害者の声の高まりを受け、捜査実務にも影響する刑事司法の大転換が約4週間という異例に短い国会審議を経て実現する。 27日の午前中に法務委員会で締めくくりの質疑が行われた後、採決があり、原案通り可決された。法案は、直後に開かれた本会議に緊急上程された。
 改正法による時効見直しの対象となるのは「人を死亡させた罪」。このうち殺人や強盗殺人など、法定刑に死刑を含む罪については時効を廃止する。また、強姦(ごうかん)致死など無期懲役を含む罪は15年から30年▽傷害致死や危険運転致死罪は10年から20年――など、一部の罪を除いて現行の時効の期間を2倍にする。 改正法は、施行された時点で時効が完成していない事件についても適用される。殺人事件の場合、現行の25年に延長した2005年の改正以前に起きた事件は、これまでは15年で時効だった。警察庁によると、15年前の95年に発生し、捜査本部が置かれた殺人事件で、未解決事件は28件。このうち、同年7月に東京都八王子市のスーパーで女性3人が射殺された事件は、法改正によって時効廃止の対象になる。また同年4月28日に岡山県倉敷市で夫婦の遺体が見つかった殺人放火事件は、27日に法が施行された場合、発生時刻によっては28日午前0時の時効がなくなる可能性がある。政府はこうした時効直前の事件の救済を少しでも広げようと、先に審議された参院法務委員会で今月1日に審議入りして以降、成立、施行を急いできた。法改正をめぐっては、日本弁護士連合会が「事件から長い期間がたつことで証拠が散逸し、アリバイ立証ができなくなって冤罪を生む」などとして反対。また、日弁連や刑法学者らの間では、時効が完成していない過去の事件に適用することについても、さかのぼって処罰することを禁じた憲法39条に違反するのでは、という意見も出ていた。
 民主党も当初、政権交代前に「特定の事件について、検察官が時効の中断を裁判所に求める」とする政策案を発表した。だが、法相が諮問した法制審議会では民主党案は否定され、自公政権時代に森英介元法相が開いた勉強会の最終報告に近い案を答申。法相は法制審の答申に沿った法案を提出した。 27日の法務委員会の審議では「刑罰の基礎となる制度の法改正に、生の被害感情を持ち込むのは問題ではないか」「時効見直しでも検挙率は上がらない。むしろ捜査の充実が重要だ」といった意見が出た。しかし、民主党の政策の転換によって、与野党双方から法案への目立った批判は出なかった。
 法成立を受けて、法務省は今後、未解決事件の証拠品の管理など捜査実務上の課題について、警察庁と協議する方針だ。(河原田慎一)
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殺人の時効撤廃=改正刑訴法が成立へ-過去事件にも適用
  殺人など死刑に相当する凶悪事件の公訴時効撤廃を柱とする改正刑事訴訟法と刑法が27日午後の衆院本会議で、与党と自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立する。共産党は、国民的議論が不十分だとして反対する。成立を受け、政府は同日中に官報で両改正法を公布し、即日施行する。犯罪被害者の遺族の感情を踏まえ、改正法は、施行時に時効が完成していない事件にも適用される。 これにより時効が撤廃される過去の事件としては、1995年4月に岡山県倉敷市で起きた放火殺人事件(28日午前0時時効成立予定)が、最も早いケースとなる見通し。このほか、同年に東京都八王子市のスーパーで発生した女子高校生ら3人の射殺事件も、7月に迎える予定だった時効が撤廃されることになる。(時事通信2010/04/27-05:12)
時効廃止 疑問の声も
 朝日新聞 マイタウン栃木 2010年04月27日
 重大事件の公訴時効を廃止・延長する刑事訴訟法などの改正案が27日にも成立する見通しとなっている。殺人や強盗致死など死刑もありうる罪は時効が廃止され、傷害致死や強姦(ごう・かん)致死など人を死なせた罪は時効期間が2倍に延長される。「逃げ得は許さない」という被害者遺族の会の声が背中を押した法案だが、県内の関係者の胸中は複雑だ。懐疑的な意見もある。事件の被害者遺族、一線の弁護士、捜査関係者に聞いた。(阿部峻介、佐藤英彬)
●法律の話 気は晴れぬ/遺族
 「別に15年なら、15年でいい。犯人を見つけたらオレの手で捕まえるだけ」。9年前に娘を失った父親はこう吐き捨て、行き場のない憤りをあらわにした。
 事件は2001年4月14日未明、西那須野町(現那須塩原市)の住宅街で起きた。大田原市の国際医療福祉大に通う大学4年、前田笑(えみ)さん(当時24)が民家の敷地で刺殺体で見つかった。血痕は近くのマンション1階の自室から続く。留守だったその民家に助けを求めたのか、玄関のガラス戸は割れていた。
 時効期間を最長25年とした刑事訴訟法改正前に起きたこの事件は、発生から15年で時効を迎える。今月14日、今年も那須塩原署員らが情報を求めてチラシを配った。
 「栃木に行っても意味がない。犯人が捕まるわけでもない」。前田さんの実家、長野県伊那市の父修さん(68)はこう話し、この日を迎えたむなしさを語る。
 自分と同じ一文字、そして、「笑顔は何事にも勝る」との思いで名付けた娘。一度はデザイン系の短大に入ったが、やがて母や姉2人と同じ看護師の道を目指して栃木へ出た。今は毎日、居間の仏壇から笑いかけてくる。
 殺人罪の時効が廃止されるかもしれない、というニュースはもちろん知っている。しかし、だからといって気が晴れるわけではない。
 「9年たっても何の進展も聞かない。悪いけど時効廃止は税金の無駄遣い。別に15年なら15年でいい」。公訴時効はあくまでも法律の話で、「家族には時効なんてない」。犯人を見つけたら自分の手で捕まえてやる――。それが当時も今も変わらない、正直な気持ちという。
 ●誤認逮捕増えるおそれ/弁護士
 菅家利和さんの無罪が確定した足利事件で、弁護団の主任弁護人を務めた渋川孝夫弁護士は、「被害者にとって時効は不当というのは十分理解できるが、時効が無くなれば冤罪の可能性も増える」と、時効廃止に慎重な姿勢を示す。
 もちろん、時効が廃止・延長されれば長期間の捜査で十分な裏付けを取ることができる。一方で、証拠の収集が徐々に難しくなり、誤認逮捕の可能性が高まる恐れもある。「制度にはメリットとデメリットがある」と話す。
 さらに、時効廃止の影響について「新たな法律を定めることで国家の権限がより強まる」とも指摘。旧西ドイツでも1979年、ナチス戦犯への時効廃止を法的に認めたが、同国には「ナチスとの決別」という明確な大義があった。日本ではどうか。「法を改正すれば、どんな事件でも解決に向かうとは考えにくい」とし、「こうした点について国会での審議で十分な議論がされたのかいささか疑問が残る」としている。
 ●証拠保存・収集に難点/県警
 事件の捜査にあたる県警の幹部は、DNAによって古い事件が解決する可能性も肯定しながら、証拠保存や収集の難しさを挙げ、「一長一短」と複雑な心境を明かす。
 「今でもギリギリの状態」。ある幹部が心配するのは証拠保存の問題だ。旧今市(現日光)市で2005年に当時7歳の女児が連れ去られて殺された「今市事件」の捜査本部がある今市署では、証拠物とともに捜査員のメモも毎日のように積まれる。
 すでに会議室を一室つぶし、終わった事件で空きができてもすぐに埋まる状態。「こっちは証拠になるかどうか分からないものまで集めてくる。このまま増え続ければどうやって保管すればいいか」と頭を悩ます。 別の幹部は証拠収集の難しさも挙げる。例えば目撃証言。警察官がいったん調書を作ったとしても、起訴前には検察官が改めて話を聞き、調書を作り直すことも多い。何十年もたってから容疑者を逮捕し、検察官が目撃証言を再確認する場面を迎えたらどうするか。「人の記憶は薄れるし、その目撃者が亡くなったら無駄になる」
 一方で、時効廃止に口をそろえて賛成するのはDNAの残る事件についてだ。最近でも、時効間近の強姦(ごう・かん)事件を水戸地検がDNA型鑑定を証拠として起訴する事例があった。「鑑定資料の保存がしっかりできれば決め手にはなりうる」と話した。〈公訴時効〉刑事訴訟法の規定で、犯罪行為が終わった時点から一定期間を過ぎると容疑者が現れても起訴できなくなる制度。専門家によると、(1)時間の経過で証拠が散逸し、捜査や公正な裁判が難しくなる(2)被害者や社会の処罰感情が薄れる(3)検挙から免れた期間に犯人が築いてきた社会との関係を尊重する――などが存在理由とされる。審議中の法案では法定刑に死刑がある罪は廃止、人を死なせた罪などは延長する。時効になっていない過去の事件にも適用され、県内事件の廃止対象は10件前後とみられる。

時効は廃止した方がいいのか


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