2017/11/10 現代ビジネス
「日本が防衛力を増強すれば戦争になる」は愚かな妄論だ ミサイルが落ちた後では遅いのだから
長谷川 幸洋 ジャーナリスト 東京新聞・中日新聞論説委員
■「批判する絶好のチャンス」と思って…
米国のトランプ大統領が日米首脳会談で日本に米国製兵器の購入を求め、安倍晋三首相は防衛力拡充を約束した。これを左派系のマスコミや有識者は「安全保障と通商問題を絡めるのは不穏当」などと批判している。的外れもいいところだ。
まず、両首脳の発言を確認しよう。
トランプ氏は会見で記者の質問に答えて「日本はさまざまな防衛装備を米国から購入するだろう。そうすれば、上空でミサイルを撃ち落とすことができるようになる。米国は世界最高の兵器を持っている。F35は世界最高の戦闘機だ。米国には多くの雇用が生まれ、日本はもっと安全になる」と語った。
安倍首相は「アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しくなる中、日本の防衛力を質的、量的に拡充していかなければならない。F35AやSM3ブロック2Aも米国からさらに導入する。イージス艦もさらに購入していくことになる」と応じた。
これに対して、朝日新聞は11月7日付の社説で「喫緊の安全保障と通商問題を絡めるのは不穏当だ。必要性を判断するのは日本自身である」と批判した。東京新聞も同じく社説で「対日貿易赤字対策の側面もあるのだろうが、やみくもな防衛力増強が地域の不安定化を招くことは留意せねばならない」と書いた。
もっと踏み込んだのは、元外務官僚の孫崎享氏である。同氏はツイッターで「北朝鮮危機煽り、米国軍需産業栄え、日本・韓国に米国兵器買わせる構図明確化」と指摘した。「 米国が北朝鮮危機を煽るのは日本と韓国に兵器を買わせるためだ」というのである。
今回の首脳発言をとらえて、左派勢力は「日本は米国の言うなり」というお決まりの批判をする絶好のチャンスとみているようだ。
大統領が言及したF35の導入について、日本はどういう方針で臨んできたのか。
政府は2011年12月に計42機のF35導入を閣議決定した(https://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2000P_Q1A221C1000000/)。そのうえで、2年後の13年12月に閣議決定した14〜18年度の中期防衛力整備計画(中期防、http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2014/pdf/chuki_seibi26-30.pdf)では、計画期間内にまず28機の購入を決めた。残りの14機はその後で購入することになった。
それで終わりかといえば、そうでもない。
■「北朝鮮危機は日米のせい」?
以上のような経過を簡単に辿っただけで、東京新聞の「やみくもな防衛力増強」という指摘が当たらないのは明白だ。政府は中期防を含めて、6年前から2度の閣議決定を経て、F35の購入計画を決めてきた。よく考えもせずに増強したわけではない。
朝日新聞が書いた「(トランプ大統領が)安全保障と通商問題を絡めるのは不穏当で、必要性を判断するのは日本自身」という批判も当たらない。トランプ政権が成立するはるか前に、日本政府が決めていた。
安全保障と通商問題を絡めるのは「不穏当」か。とんでもない。安全保障と通商問題は本質的に表裏一体だ。たとえば、環太平洋連携協定(TPP)の背景に中国封じ込めの意図が込められているのは、政府はけっして口にしないが、世界で「暗黙の了解事項」である。朝日はどこを見ているのか。本気でそう思っているなら、ジャーナリズムを廃業したほうがいい。
私は2月の時点でとっくに「通商問題はF35を買えば済む話」と指摘しておいた(2月17日公開コラム、http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50998)。当時はトランプ氏が日本の貿易黒字を問題視して「新たな自動車摩擦再燃か」という懸念が報じられてきたころだ。これはまさに安保と絡めて考えることで解決する通商問題の好例だったのだ。
実際、両首脳は今回、そのように合意して通商問題は終わりになった。そんな見通しは日本を取り巻く環境を考えれば、すぐ分かる話である。朝日は「通商と安保は別」などと思っているから気がつかない。ようするにピンぼけなのだ。
孫崎氏がいう「北朝鮮危機を煽って日韓に兵器を買わせる構図」という指摘も曲解に基づく妄想論である。いまの事態は「日米が煽ったから生じた危機」なのか。まったく違う。北朝鮮は重油と軽水炉の提供も米国から約束されたのに(1994年の米朝枠組み合意)、秘密裏に核とミサイル開発を進め、自ら約束を反故にしてしまった。
東京新聞の「(日本の)防衛力増強が地域の不安定化を招く」というのも孫崎氏と似たステレオタイプ(紋切り型発想)である。もうそろそろ「煽り論」はやめたらどうか。ミサイルが日本に落下してから軌道修正しても遅い。
■「日本の核武装」すら俎上にあるのだから
そのうえで本題である。
日本はなぜ防衛力の増強が必要なのか。そして、米国から兵器を買う必要があるのか。核とミサイルを手にしつつある北朝鮮の脅威、それに中国の尖閣諸島に対する野心を見れば、日本が防衛力を強化しなければならないのは当然だ。
日本の防衛を米国に全部、肩代わりしてもらうわけにはいかない以上、この点で議論の余地はない。なぜ米国の兵器か。なにもかも米国製である必要はないが、大統領が言ったように米国製に最高の能力があるなら、米国製が最優先になる。加えて日米同盟関係を考えれば、自衛隊の活動も米国と一体化していくので、なおさら合理的である。
それより心配なのは、米国がリスクの大きさにおののいて軍事攻撃を断念する一方、中国、ロシアも事態を傍観するだけで結局、金正恩政権が核とミサイルを完成させてしまう事態である。そうなったら、日本はどうやって国を守るのか。
米国は「核抑止力で日本を防衛する」と言うだろうが、日本としても抜本的な防衛力強化に向かわざるをえなくなる。F35の追加配備やSM3ブロック2A、イージスアショアなど迎撃ミサイル網の強化は当然としても、それで十分か。
敵基地攻撃能力の確保だけでなく、「日本の核武装論」あるいは「日本に対する米国の核配備論」も本格的に議論されるようになる可能性が高い。
トランプ大統領は中国に対して、日本の核武装を念頭に「北朝鮮の核を容認すれば中国が困ることになる」と言っている。交渉の現場では、すでに日本の核武装が持ち出されているのだ。F35の追加購入に文句を付けているような場合ではない。
左派系マスコミや論者もお粗末な妄論はいい加減にして、少しはまともな政策論を展開してほしい。
◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です *強調(太字)は来栖
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◇ 原発保有国の語られざる本音/多くの国は本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり
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