また万引「理由はない」 法廷 の 窓
2021年2月28日(日曜日) 中日新聞朝刊
元介護士の女性(45)45が名古屋市内の大型店でセロハンテープなど(時価7百円相当)を盗んだとして逮捕されたのは、昨年7月のこと。それまでも万引を繰り返し、10月に8回目の有罪判決を受けた。更生の期待と落胆を重ねて老境を迎えた父親(72)は、ある心の病が娘に関係しているのでは、と私に打ち明けた。クレプトマニア(窃盗症)-。近年、注目される精神疾患だ。 (北島忠輔)
判決によると、女性が同市港区の大型店で盗んだセロハンテープは商品ではなかった。客が購入した商品に、店側が「支払い済み」の印として貼るものだ。
名古屋地裁での初公判で盗んだ理由を尋ねる弁護人に、女性は戸惑ったように答えた。「はっきりとした理由がない」。同じ窃盗罪で服役し、昨年2月に仮釈放されたばかりだった女性。その後も「毎日のように万引をしていた」と打ち明ける姿を、父親が傍聴席の最前列で見つめていた。
(中略=来栖)
女性は「バカ娘ですみません」と反省することも。父親は「人に迷惑をかけることはやめよう」と声をかけ、立ち直りを模索した。
だが、事件は続き、父親はクレプトマニアとの関連を考えるようになった。衝動を抑えきれず、盗みを繰り返す心の病だ。女性は医師の診断を受けていないが、父親は「それ以外、考えられない。恐ろしい病気です」と話す。女性は今回の事件の直前には、介護士として働きながらクレプトマニアの自助グループで、改善を目指していたという。
昨年10月30日、地裁の判決は懲役1年4月の実刑。満席のため、父親は傍聴席に入れなかった。法廷の外で扉の小窓から、娘の背中をそっと見守った。
父親は私に語った。「優しい娘なんです。刑務所を出たら、就職して世間並みに生活できるようになるまで、支えていく。本人も苦しいと思うと、見捨てることはできません。
刑罰よりも治療が必要
クレプトマニアを巡っては、米国精神医学会の診断手引きが、万引の疑いで逮捕された人の4~24%が該当するとのデータを示している。同手引きなどは、日本国内の診断基準としても使われている。「個人的用途や金銭的価値のためではなく、盗もうとする衝動を抑えられず繰り返す」「盗みの前に緊張が高まり、盗みに及ぶ時に満足や解放感がある」などを挙げている。窃盗罪に問われたマラソン元日本代表選手の女性が2018年、治療を受けていることを公表し認知度が高まった。事件を担当した林大悟弁護士は「対処には刑罰より治療が必要だが、ずっと司法の死角だった。近年は治療のために再度の執行猶予を選択する裁判例が増えてきた」と話す。
家族はどう対応するべきか。林弁護士は「やめたいと思っていてもやめられないから病気。本人を非難するのは勧められない」と指摘。精神科の受診に同行したり、家族会で病気への理解を深めたり、と「一緒に回復しようという姿勢を伝えることが大切」と語る。
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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〈来栖の独白 2021.03.01 Mon〉
嘗てはカネに困って(金が欲しくて)盗み、或いは強盗殺人に至ったりしたものだが、現代は「カネに困って」というのではないそうな。心を病んでの犯行とか。難しい世の中だ。