「国家のためには、誰かがやらなければならないことなんだ。国民は私を支持してくれるだろうか」知事辞職

2012-10-26 | 政治/石原慎太郎

【石原知事辞職】国を憂え続け最後の決断
産経ニュース2012.10.25 23:32
 「国家のためには、絶対に誰かがやらなければならないことなんだ。国民は私を支持してくれるだろうか」
 今年4月16日。米国・ワシントンにあるシンクタンク「ヘリテージ財団」での講演で沖縄県・尖閣諸島の買い取りを表明した石原慎太郎知事はこの日深夜、ホテルの自室で側近の1人にこう問いかけた。
 手には蒸留酒の入ったグラス。領海侵犯などを繰り返す中国への危機意識、尖閣諸島をめぐる政府の姿勢へのいらだち、そして、自分に言い聞かせるようこうも語った。
 「日本が国家として老い朽ちていくのは忍びがたい。身命を賭(と)しての最後のご奉公だ」
 都知事を辞職して国政復帰を表明した石原氏が「東京から日本を変える」とのキャッチフレーズを掲げ、首都の顔となって4期13年半。歯にきぬ着せぬ物言いと強い指導力で旧来の秩序を破って国と対(たい)峙(じ)する姿勢は都民の支持を集めた。
「首相待望論」「国政復帰」「新党結成」…。内閣が不安定になると、必ず待望論が永田町周辺で話題になる。時にはそうした風潮を楽しむかのように、「アイム・トゥー・オールド(私は年を取り過ぎた)」などと周囲をけむに巻き続けたが、一方では特定政治家と“密談”を重ね、「国家」や「国の行方」について議論を重ねた。
 国民新党元代表の亀井静香氏や自民党元幹事長の野中広務氏とは、頻繁に懇談を重ねる仲だった。
 「石原さんのためなら泥をかぶる」
 「おれには(都政の)宿題もあるからな」
 「総理になれば宿題なんて簡単にできる」
 こんな話も交わされたとされる。各界の大物と密談を繰り返すことで、「新党結成」の選択肢は消えていないことを印象づけた。
 関係者によると、このタイミングで石原氏が新党結成に踏み切るのは、尖閣諸島の購入計画が国有化で実現しなくなったことに加え、自民党総裁選で長男の石原伸晃元幹事長が敗北したことも大きいとされる。
 今月中旬には側近の1人に、都知事を辞職して新党結成の意志を明かした。側近が「参院ですか」と問うと、石原氏は「いや、衆院だ」と力強く答えたという。新党結成に向けた有力後援者に対する協力依頼も水面下で続けていた。
 しかし、一方では、都知事の任期もまだ2年半残る。震災からの復興を掲げて立候補を表明した2020年東京五輪招致の最終選考も控えるなど課題は山積する。後継には、実務に長ける作家の猪瀬直樹副知事を指名したが、東京をテコに被災地の復興を期待した国民が納得するかも不透明だ。
 都庁OBが歴代都知事について、青島幸男氏は「庶民」、鈴木俊一氏は「武家」、美濃部亮吉氏は「公家」と例え、石原氏を「織田信長」と称したことがある。乱世を制し“天下をとる”ことができるかどうか。「石原劇場」最終章が幕を開ける。 (石元悠生)
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新しい日本人たちへの決起を促した石原慎太郎氏の都知事辞任と国政復帰宣言 『週刊 上杉隆』  
 新しい日本人たちへの決起を促した石原慎太郎氏の都知事辞任と国政復帰宣言
 Diamond online 週刊 上杉隆【第19回】2012年10月26日
 相変わらず見事なタイミングだった。
 きのう、石原慎太郎都知事は知事辞任を表明、国政復帰と新党結成を宣言した。
 確かに、15:00から都庁で開かれた緊急記者会見は80歳とは思えない力強さに満ちていた。
 ただ、その姿をMXテレビの画面で見て私が最初に感じたことは、「大変だな、石原さんも」というのが率直なところだった。
 今任期中の電撃的な辞任はすでに知っていた。
 昨年の3.11の震災直後、予定外の知事選不出馬を取り消した時に話した時も、同じ3月、自由報道協会で記者会見をした際も、またその夜、赤坂の料理屋で二人で食事をした時にも、石原さんは電撃辞任をほとんど断言していたからだ。
 問題は時期だった。今回、石原さんは一週間前に辞表を書いたという。だが、決意は4選決定の際、いや、本当は2回目のオリンピック東京招致立候補を決めた後、心に決めていたのだ。
 3年前、2009年のデンマークでのIOC総会直後、私はコペンハーゲン空港の特別室で石原さんと話していた。
「おい。もっと優しくしてくれよ」
 こう言いながら、石原さんはあの独特の人懐っこい笑顔を見せた。
 直前のIOC総会の記者会見(日本以外の国際会議ではフリーランスも会見に普通に参加できる)で、私が辞任を迫る質問をしたことに対する返答だった。
 それは5年前の2007年、3選当選を決めた直後の記者会見冒頭、私が次のように質問したことに遡る。
「知事は今回、オリンピック招致を公約に掲げて立候補しましたが、それに失敗した際はどうするのですか?」
 それに対して、石原さんが答えたのは「そりゃ、男らしく責任は取りますよ」というものだった。
■既得権益を手放さない世代を毛嫌いしてきた石原氏
 石原語を翻訳するのには長年の経験を必要とする。
 多くのメディアが陥りがちな、彼の表層的な言葉尻だけを捉えてしまうと完全に本質を見失ってしまう。それはある意味、文学的でもあり、政治的でもあり、なによりいつも通りに、硬直した日本社会への挑戦的な価値紊乱のビーンボールでもあるのだ。
 石原さんがコペンハーゲンの空港でその後に続けて発したのは次のような言葉だった。
「おい、上杉君。責任を取るっていうのは辞めることだけではなくて、やり続けることもまたそうなんだよ。なんで老兵の俺がやらなきゃならないんだよ。だいたい君たちの世代がやればいいんだよ。本当にしっかりしてくれよ。日本ももっと老人をいたわってくれよ」
 日本の不甲斐なさ。とくに団塊世代の意思決定の弱さに対して、石原さんはずっとイラつきを隠してこなかった。
 1995年、国会議員だった石原さんは永年勤続25年の本会議スピーチの最中、突如、議員辞職を表明した。その際、野次の中で述べたワンフレーズがいまだに私の頭に残っている。
「日本は去勢された宦官のような国家に成り果てた――」
 それは石原さんなりの警句であった。
 その直後に出版した『国家なる幻影』では、その心中を、中央官僚システムの打破という具体的なアプローチとして明示しているし、またその4年後の1999年には、「東京から日本を変える」として都知事選に出馬、外形標準課税(銀行税)、ディーゼル車規制、都債券市場構想など矢継ぎ早に新政策を打ち出し、自らその活動の旗手として、政治の舞台に返り咲いたのだ。
 中央官僚という具体的な言葉を使いながらも、石原さんが指摘していたのは新しい日本人たちへの決起を促すことに他ならなかったのではないか。
 現在の硬直した日本の中央官僚システムは、同じく停滞したその経済システム(とくに会計方式など)とメディアシステム(記者クラブシステム)と相まって、日本を衰退させる最大の根源だと石原さんは言い続けてきた。
 よって、そのシステムを既得権益化することで、自己利益ばかりを追求してきた団塊、およびその前後の世代を、石原さんは毛嫌いしてきた。
■それぞれに「国家革命」を希求した文壇の2大スター
 拙著「石原慎太郎『5人の参謀』」(小学館)を世に出してからもう10年以上が経つ。
 あの当時から石原さんの語っていることは少しも変わっていない。
 尖閣問題も、憲法破棄も、中央官僚システム、記者クラブシステムへの批判も――。
 なにより不甲斐ない世代へ決起を促し続ける姿勢も変わっていない。
 きのうの石原知事辞任会見の最中、一緒にいた出口晴三元東京都議会議員はぽつりと私にこう語った。
「石原さん、三島由紀夫のあの市ヶ谷での最期の演説みたいな思い詰めている雰囲気になっているな。三島とは、時代も型も違うけど、ターゲットは同じ国家官僚、『憂国の情』だね」
 憂国の情――。なるほど、同じく「国家革命」を希求した二人だが、かたや文学と武力、片や文学と政治の道に分かれて進んだ当時のスター。膨大な石原さんの過去の著作を漁っても、不思議なことに三島への記述は少ない。
 それは石原さんと話していても気づく。おそらく、当時の文壇の2大スターだった二人は常に比較され続けてきたのだろう。
「川端(康成)さんは見ちゃたんだよ。三島さんの(断首された)頭を。でも、僕は(上の階に上がらず)見なかったんだよね。それが生き方の違いに繋がったかね」
 いつの頃だったか、石原さんに三島由紀夫の話を振った時、珍しくこう答えたのだった。
 江藤淳に「無意識過剰」と評された石原慎太郎――。
 今年「憂国忌」は42年目を迎える。80歳の石原さんは、無意識のうちに、当時距離を置いたあの三島由紀夫の「憂国の情」に重なっているのかもしれない。
 昨日の緊急辞任会見を観ながら、私はそう観想したのであった。
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〈来栖の独白2012/10/26 Fri. 〉
 「同じように感じている人がいる」、そう思いながら上杉氏の稿を読んだ。
 石原慎太郎氏の言説に触れるとき、私は必ず三島由紀夫の気配をその背後に感じる。理由は、上に書かれている。
 それにしても、醜悪なのはメディアである。ワンフレーズで、石原氏の思想も理念も、片づける。これは小沢一郎氏に対しても使い古された手法だ。
 小沢一郎氏を理解し、たびたび取材して我々に小沢氏の真実を伝えてくれた上杉氏が、石原氏のことも温かく真っ当な眼差しで書いていることが、私は嬉しい。
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石原慎太郎著『新・堕落論』 新潮選書 2011/7/20発行


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