新聞記事のスクラップ=自分の問題意識の集積体

2009-05-12 | 社会
新聞案内人 2009年05月12日
 水木楊 作家、元日本経済新聞論説主幹
ビクター・ゾルザ氏の「新聞スクラップ」
 新聞とテレビの違いはいろいろ言われています。たとえば速報性では新聞はテレビにはかなわないが、ぱっと広げて何が大きなニュースかどうかひと目で分かる一覧性では、新聞が勝る。テレビには娯楽性があるが、新聞にはニュースの背景も分かる分析記事が載っている……。
 その中で、新聞のメリットとして、「スクラップ」ができることを挙げたいと思います。スクラップなどしなくても、見たい記事あれば、そのつど、データベースを開けばいいではないか、といった声も聞こえてきそうですが、データベースはただたくさんの記事が蓄積されているだけで、自分の問題意識とか、知りたい記事の方向性などは反映していません。
○縦に破いて箱に放り込んでおく
 そこで、私のスクラップの方法を紹介いたしましょう。ビスケットなどが入る大きな箱を居間に置いておき、気になる記事があれば、新聞を縦に破きます。新聞紙は横には大変破きにくい。それをただ放り込んでいくだけです。放り込むのは新聞だけではなく、雑誌のページも破き入れます。丁寧にはさみで切り取り、スクラップブックに貼るなどということはしません。
 一定期間が経過すると、ホットケーキを逆さにするように、重なった紙をひっくり返します。すると時系列順に記事が重なります。
 もう一度、ざっと目を通し、必要なものだけを残します。残るのは3分の2くらいになります。これをクリップでいくつかの束にするのです。本当に重要な記事は、パソコンに文書として打ち込んでおきます。
 大事なのは、自分は何を知りたいのか、という方向性を持つことで、いくつか溜まった束は自分の問題意識の集積体でもあります。
 いまをさる40年ほど前のことでした。日本経済新聞社のロンドン支局にいた私は、1ヶ月に一度、ビクター・ゾルザという名の東側問題専門家の寄稿文をもらい、それを東京に送るという務めを果たしていました。米ソの対立が厳しい時代で、ソ連や中国などはその意思決定方法を秘密のベールの奥に隠していたのです。
○東側ベールの奥を見抜いた理由
 ところが、このゾルザという人は、東側のベールの奥で起きていることをずばりずばりと推測し的中させたのです。1950年代後半、「一枚岩」と言われた中ソの間に亀裂が生じたと分析しましたし、1968年、「プラハの春」の後、ソ連軍が介入する可能性のあることも示唆していました。1960年代後半から70年代前半まで続いた中国の「プロレタリア文化大革命」は、形を変えた権力闘争だと誰よりも早く見抜きました。
 一度だけ、ロンドンの支局にゾルザ氏が訪ねてきたことがあります。それほど風采も上がらぬ、普通の中年男性でした。彼に、「どうして、そんなに秘密のベールの後ろが分かるのか」と訪ねたことがあります。
 彼の答えは、一言でした。「スクラップ」だったのです。彼の情報源の90%以上は新聞や雑誌などの公開情報だと言うのでした。ただし、記事の“固まり”を注意深く読み、その背後にあることについて想像をめぐらせ、仮説を設け、点検する。それで十分だと言うのでした。
 余談ですが、その後、ゾルザは姿を消し、いまはどこにいるのか、生きているのか死んでいるのか皆目分かりません。ビクター・ゾルザなどという名前は、偽名だったのではないかとすら思えることがあります。
○新聞の外電面を隈無く読んだ山縣有朋
 明治の元勲に山縣有朋という人物がいます。彼は語学ができなかったのですが、海外の情報に精通していると言われたものです。彼がやっていたことは、毎朝の新聞の外電面を隈なく読むことでした。少しでも分からないことがあると、秘書官や副官(彼は陸軍の大御所)を呼んで調べさせる。この作業を続ければ、「外遊3年分に匹敵する」と自ら言っていたほどです。
 以上で、テレビではできない、新聞のスクラップのメリットがお分かりになるかと思います。
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〈来栖のつぶやき〉
 中学生の頃だったか、「新聞は、歴史の記録です」と授業の中で教わった。なるほど、と思った。
 長年、私は新聞記事をスクラップしてきた。新聞紙は時を経れば変色したりして判読できなることを危惧し、大事だと思う記事はコピーをして保存した。
 が、今は水木楊氏と同様に“本当に重要な記事は、パソコンに文書として打ち込んでお”く。拙ブログは、そういった記事のスクラップブックである。私自身の考えはそう多くはブログ上に書かないが、方向性など、集積されたスクラップに自ずと表れていると思う。水木楊氏の論説に、わが意を得たり、の強い満足感がある。
“大事なのは、自分は何を知りたいのか、という方向性を持つことで、いくつか溜まった束は自分の問題意識の集積体でもあります。”
 新聞が好きだ。特に、日経新聞が。時間をかけて読み、思いを巡らす。テレビと違ってうるさくないのも、良い。

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