「規制委」委員人選が焦点/四十年廃炉を見直す動きの背景には、原子力ムラからの強い巻き返しがある

2012-06-15 | 政治

「規制委」に権限と責任 民自公、最終合意 委員人選が焦点
東京新聞2012年6月15日 朝刊
 民主、自民、公明三党による新たな原子力規制組織に関する関連法案の修正協議が十四日、最終合意した。十五日に衆院を通過し、今国会で成立する見通しで、九月ごろ「原子力規制委員会」が発足する。規制委は、これまで複数の府省がバラバラに担ってきた安全規制を一元化し、権限と責任が集中した専門組織になる。ただ、課題は山積みだ。

      

 規制委は環境省の外局になるが、公正取引委員会のように独立性の高い組織に位置付けられる。原子力関連施設や事業に対する規制をつくり、監視する。定期点検を終えた原発を再稼働させる場合、安全性の判断も行う。
 東京電力福島第一原発事故の経験から、事故発生時の首相の指示権は制限され、専門的判断は規制委員長が担うことになっていて、権限は絶大だ。
 まず焦点になるのは、組織の核である委員五人に誰がなるか。
 東京電力福島第一原発事故では、専門知識を持つ原子力安全委員会の委員らにも事故を防げなかった一因があるとして、厳しい批判を浴びた。規制委員も専門家の就任を想定しているが「重い責任を負わされるだけに引き受け手がいるのか」(民主党議員)との指摘もある。人選は難航しかねない。
 三党協議では、事故時の対応で「委員長が判断を躊躇(ちゅうちょ)した時にどうするのか」との懸念も出た。委員長が事故に即応できるための対応マニュアルづくりも重要となる。
 規制委の事務局機能を担う「原子力規制庁」の体制も課題だ。
 規制庁職員は、原子力を推進してきた経済産業省や文部科学省からも採用するが、出身府省に戻ることは原則として認めない「ノーリターン・ルール」を設けた。規制委の独立性を担保するのが狙いで、職務の公正さを確保するため、原子力関連企業・団体への再就職も禁じる。
 新組織は、最終的に千人規模の集団となる。十分な人員の確保に加え、原子力の安全確保をないがしろにするような組織にしないために、国会の厳しい監視も重要な要素になる。 (大杉はるか)
◆「40年廃炉」崖っぷち 「規制委が判断」民自公決着
 政府が脱原発政策の目玉に掲げた、原発の運転期間を原則四十年とする大方針が、早くも揺らいでいる。民主、自民、公明の三党は十四日、関連法案の修正協議で、新たな原子力規制組織として発足する「原子力規制委員会」が期間を見直す規定を盛り込むことで最終的に合意。規制委の判断次第とはいえ、老朽原発が存続する可能性が高まった。 (鷲野史彦)
 三党合意では、四十年廃炉の文面だけは残った。ただ、九月ごろに発足する見通しの規制委が期間を速やかに見直す規定が盛り込まれ、その判断次第では廃炉の文面は有名無実となる。
 規制委は国家行政組織法三条に基づく独立性の高い組織で、有識者五人で構成。五人は国会の同意が必要で、今回の修正と同様に、自民党などの意向に左右される。人選次第では四十年超の運転が次々と認められることになりかねない。
 「四十年を超える原発は、例外に当たらなければそこで止めることになっている」。十三日の参議院予算委員会で、枝野幸男経済産業相は強調したが、先行きは危うい。

    

 四十年廃炉を見直す動きの背景には、原子力ムラからの強い巻き返しがある
 電力各社でつくる電気事業連合会は一月、「四十年で運転制限する技術的根拠の明確化」を国に要望。日本原子力学会も今月七日、原発は部品交換すれば六十年超の運転が可能として、制限は「合理性・科学性に疑問」と反対を表明した。
 これに呼応するように、自民党は三党協議で「一律に年数制限する科学的根拠が不明確」と主張。規制委の発足を急ぐ民主党は足元を見透かされ、妥協に追い込まれた。
 細野豪志原発事故担当相は四十年廃炉を確実にする厳しい基準をつくると宣言していたが、準備はまったく進んでいない。
 それどころか、規制機関であるはずの経産省原子力安全・保安院は、東京電力福島第一原発事故について、老朽化の影響は「考えがたい」とする見解を発表。七月に運転開始四十年を迎える関西電力美浜2号機の運転延長に道を開く不可解な審査を強行した。
 規制委の設立準備に携わる内閣官房の金子修一参事官も「四十年で廃炉にする基準はなかなか思い浮かばない」とこぼす。
 脱原発依存、四十年廃炉。政府は明確に約束した。安易な妥協を繰り返し、約束をほごにすることは決して許されない。
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東京新聞【社説】
原子力規制委 廃炉規定はどうなる
2012年6月15日
 民主、自民、公明三党が原子力規制組織の発足で大筋合意した。「廃炉四十年」の原則を維持しつつも、新設の「原子力規制委員会」発足後に見直すという。廃炉規定を骨抜きにしてはならない。
 原発の運転期間を原則四十年としながら、九月までに発足させる原子力規制委員会が速やかに見直すことになった。つまり、原発が四十年を超えて運転する判断は、同委員会に丸投げされる。自民党の意見に配慮したという。脱原発を求める国民の思いは反映されるだろうか。
 ここで思い出してほしい。細野豪志原発事故担当相は今年一月末に、運転開始から四十年を超えている原発の再稼働は「今の状況ではあり得ない」と明言していた。しかも、二十年の延長を認めることについても、「例外中の例外だ」と強調していたのだ。
 もともと原発の寿命に定めはなく、三十年で国の審査を受け、問題なしと判断されれば、継続使用され、その後も十年ごとに審査を受ければよかった。機器を取り換えれば、原発は老朽化しないという建前のもとで、期限はあいまいなままだったのだ。
 「原則四十年」という政府方針が、三党合意の「見直す」という言葉で、あり得ないはずの四十年超の運転を現実化させないだろうか。例外中の例外のはずの「延長二十年」が、むしろ常態化しないだろうか。少なくとも原発の寿命規定が、なし崩しにされる恐れが濃厚に出てきた。
 原発の規制の在り方については、国会の事故調査委員会が提言することになっている。報告書がまとまる前に、こうした合意がなされること自体が、見切り発車といえる。事故調は超党派の議員立法でつくられた国政調査権を持つ組織だ。事故調の役目をないがしろにしているのと同然で、自己矛盾でもある。
 細野氏は先月、二〇三〇年時点の原発比率を「15%がベース」とも発言した。仮に四十年超が例外でなくなれば、国のエネルギー政策が変更されることも意味する。
 原子力規制委員会は、独立した三条委員会として新設される。非常時には首相に「指示権」が付与されるとはいえ、再稼働の妥当性から、原発事故の対応まで強大な権限を持つ。
 それだけに人選は中立的な立場で行われるべきだ。法律家や思想家ら幅広い分野からも人材を求め、廃炉への道筋を公正に考えてほしい。
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筆洗
2012年6月15日
 人型ロボットの外見が、人間に似れば似るほど、人間は好感を持つが、あるところで逆に嫌悪感を抱くようになる。が、さらにそっくりになっていくとまた好感度が上がる…▼これは<不気味の谷>と呼ばれるロボット工学の世界の仮説の一つらしいが、中途半端に似ていると不気味に感じるというのは何となく分かる気がする。つい、連想してしまうのがこのごろの民主党▼その民主党が自民、公明両党と新たな原子力規制組織の設置関連法に関する修正協議で合意した。原発の“寿命”は原則四十年とするルールは維持されたが、よく聞けば、その妥当性を、今後発足する原子力規制委員会が速やかに判断し、見直すとの規定も入ったのだという▼これでは規制委の判断次第で寿命が延長されかねない。原発維持の考えが根強い自民党の反発を受けて譲歩した結果らしいが、「原則四十年」こそは民主党の掲げる「脱原発依存」の柱だろう▼もしも、それさえ守れぬなら、もはや「脱原発依存」の看板は倒れる。消費増税のことなど、ただでさえ、民主党はどんどん自民党に似てきて“不気味の谷”に入った感があるのに、数少ない違いがまた一つ消えることになる▼この“谷”を脱する道は二つあるが、違いを取り戻す方向にいくほかあるまい。もしこれ以上自民党そっくりになるなら、もう民主党はいらないのだから。
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原子力規制委法案が衆院通過 原子力ムラとの決別 人選がカギ 2012-06-16 | 地震/原発/政治 
  原子力規制委法案が衆院通過  ムラ決別 人選がカギ
中日新聞  特 報  2012/06/16
 「原子力規制委員会」設置法案が十五日、衆院で可決され、原子力の安全規制を新たに担う組織にやっと発足のめどがついた。ただ、問題は新組織のありようだ。規制委と、その事務局となる規制庁は信用に足る存在となるのか---。(佐藤圭・中山洋子記者)
 東京・霞が関の合同庁舎の一角にある原子力安全委員会事務局。入り口のドアには「関係者以外立ち入り禁止」の張り紙がある。部屋に入ろうとした職員に取材を申し込むと、「電話してください」とにべもなかった。
 福島原発事故をめぐる安全委の対応は、斑目春樹委員長の名前をもじって「デタラメ」と批判されてきた。政府案の原子力規制庁が四月に発足していれば、三月末に廃止されるはずだったが、国会審議が難航。ようやく十五日、民主、自民、公明三党が共同提出した「原子力規制委員会」設置法案が衆院本会議で可決。参院審議を経て、今国会で成立する見通しとなった。安全委は経済産業省原子力安全・保安院とともに、九月までに解体される。
■寄付受け取り、再就職制限 議員規定に自信
 新たな規制組織は、国家行政組織法三条に基づく独立性の高い専門家五人による規制委を環境省の外局として設置。政府案で規制組織本体となる予定だった規制庁は、規制委の事務局にとどまる。委員は国会の同意を得て、首相が任命する。ここで問題となるのは「原子力ムラ」と決別できるかどうかだ。
 少なくともムラの住人が、あからさまな形で委員になるのは難しそうだ。委員長と委員は原子力事業者からの寄付情報を公開しなければならず、寄付そのものを制限する内部規範の策定も義務付けられる。内部規範には ①在任中には寄付を受けてはならない
②研究を指導していた学生が原子力事業者に就職した場合は事業者名などを公表--などの規定が盛り込まれる。
福島事故後、斑目氏と代谷誠治委員が就任前の三~四年間、原子力関連企業や業界団体から三百十万~四百万円の寄付を受けていたことが明らかになった。斑目氏のようなムラの住人は事実上、規制委の委員の人選からは外されることになる。
 委員は、原子力の専門家である必要はない。当初の案は「原子力に関する専門知識と経験を有する者」だけとなっていたが、三党の修正協議で「高い識見を有する者」が追加された。
 規制庁職員は発足時、原発を推進してきた保安院などから採用されるが、出身官庁には戻れない「ノーリターン・ルール」を設定するとともに、原子力関連企業・団体への再就職を制限される。
 規制委案を主導した自民党の塩崎恭久元官房長官は「委員には原子力と行政の知識を兼ね備えた人がふさわしい。原子力ムラ以外にも人材はいる。国民の信頼を取り戻すことは可能だ」と強調する。
 修正協議の座長を務めた民主党の近藤昭一衆院議員は「原子力ムラを排除する仕組みはできた。政府がしっかりと脱・原発依存を具体化していくことが大事だ」と指摘した。
「無縁の人いるか」「別分野も手」
■識者 悲観と要望
 原発推進の旗振り役である経産省の下に置かれた保安院の結論を安全委が追認するだけだったことが、原子力行政の欠陥だった。新体制でそうした因習は絶つことができるのだろうか。
 「これまで原発推進政策に疑問を持つ研究者が排除され続けてきた。今、ムラと無縁の専門家がどれだけいるのか」
 そう危ぶむのは富士通総研主任研究員で、昨年十月まで内閣官房国家戦略室で民間任用を担当していた梶山恵司氏だ。
 「仮に最良の委員が集まっても、事務局が元の官僚のままでは骨抜きになりかねない」とする梶山氏は、とりわけ事務局の人選に注目する。
 「日本の役人は数年で部署を異動するので、専門家が育ちにくい。専門家ではないから政治の思惑に従って動いてしまう。原子力規制も、現状では電力会社から情報を集めるのが精一杯。これから、きちんと力量のある行政官を育てていくしかない」
 福島第一原発などの基本設計を担当した元東芝技術者の渡辺敦雄氏は、新体制が機能できるかどうかは「すべて人選にかかっている」と強調する。
 米国では福島の事故後、原子力規制委員会(NRC)の委員長を務めていたグレゴリー・ヤツコ氏が、オバマ政権の原発回帰戦略に公然と反対した。最近になってヤツコ氏は辞任したが、渡辺氏は「ヤツコ氏のような硬骨漢をメンバーに選ぶのも、米議会のモラルの高さの表れ。同じように新体制が機能するためには、日本の国会にも高いモラルが求められる」とクギを刺す。
 そのうえで「NRCのメンバーも技術スタッフもみんな学位を持っている。だからこそ、メーカーや電力会社の並みいる博士に対しても技術的な論陣を張ることができる」と指摘する。「日本の官僚は調整型のマネジメント能力が求められてきたが、それでは議論すらできない」
 元東芝の格納容器設計者の後藤政志氏は「原子力規制の現場では、どんどん原則がぶれ、安全から離れていった。活断層のある場所に造らない筈が、なぜ原発の周りは活断層だらけなのか。そんな体質を考えると、簡単にムラの影響を取り除けない気もする」と悲観的だ。
 実際、福島事故への反省がいまだにみえない専門家たちの姿勢は、独立性の高い規制委が暴走した場合の危うさも示唆する。
 京大原子炉実験所の小出裕章助教は「これだけの事故が起きているのに、誰ひとり責任を取ろうとしていない。その人々が組織を作り直したからといって期待などできない」と切り捨てる。
 それでも、最良の「人選」を担保するにはどうすればいいのか。
 前出の梶山氏は「国会に歯止めも期待しにくい。現行の原子力委員会も原子力安全委員会も国会同意人事だが、どちらの委員長も解任されていない」と前置きしながら、「霞が関や永田町にも信頼できる人材はいる。まずは、見識のある専門家や官僚を見つけて組織設計を託すことだ」と話した。
 渡辺氏は、この機に人心の一新を提案する。
 「事故対応で必要な技術のうち、実は原子力工学はほんの一部。機械工学や土木工学などあらゆる分野にまたがっている。新組織のスタッフはこうしたジャンルの博士学位の保持者を集め、既成概念にとらわれない人材を登用すればいい。ある意味、社会システムを変える絶好のチャンスだ」


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