尖閣諸島騒動の裏で「かつお節工場」が狙われている/人民解放軍が「掘ったて小屋」を建てることもできる

2012-04-24 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

窪田順生の時事日想:尖閣諸島騒動の裏で、「かつお節工場」が狙われている
2012年04月24日 08時01分 UPDATE Business Media 誠
 石原慎太郎都知事がぶちあげた「尖閣諸島の買い取り」。中国だけではなく政府も巻き込んでかなり波紋を広げているが、この騒動に乗じて日本の生命線が危険にさらされている。
 石原慎太郎・東京都知事が尖閣諸島を東京都が買うと言いだした。
 わざわざワシントンで発表したことからも政府に対する挑発であり、この問題をどうにか動かしたいという真意もよく分かる。しかし、ひとつの心配として「オレが買う」「いや、オレが」なんて小競り合いをしている間に、日本の「生命線」が危険にさらされているという点だ。
 それは「かつお節工場」である。
 ご存じの方も多いと思うが、尖閣諸島はかつて多くの人々が生活し、住居のほか、かつお節工場などがあった。
 今から4年前、石垣島へ行って仲間均石垣市議に取材をしたことがある。海上保安庁の制止を振り切って、尖閣諸島にちょいちょい上陸している御仁で、今年のお正月にも上陸を果たしてニュースになった。
 その仲間市議から1枚の写真をいただいて、がくぜんとしたことがある。
 かつて「かつお節工場」だった高く積み上げられた石垣が破壊されてしまっているのだ。
■人民解放軍が上陸して「掘ったて小屋」を建てる?
 下の写真をご覧になっていただければ分かると思うが、場所によっては原型をとどめていないほど崩れてしまっている。

            

「かつお節工場」は台風や強い風のせいで、原型をとどめていないほど崩れている(出典:仲間均石垣市議)
 この惨状を目にして思わず「中国人の活動家が壊したんですか?」と尋ねたが、仲間市議によると、台風や強い海風のせいだという。
 なんにせよ、あれから4年の月日が流れ、崩壊はさらにすすんでいるはずだ。
 なんて話を聞くと、「たかが古くさい石垣が壊れてるぐらいじゃねえか」と思うかもしれないが、実はこの「かつお節工場」こそが、中国からの「防波堤」になるのだ。
 尖閣諸島の海域は波がかなり高い。それを言い訳に、あのあたりで領海侵犯している中国籍や台湾籍の漁船が、「乗員の安全のため緊急避難したい」と上陸する恐れがある。
 それは裏を返せば、「自称漁民」の人民解放軍が上陸して、しれっとした顔で「掘ったて小屋」を建てることもできるということだ。
 もしそんな事態になったら、都が所有しているとか、歴史的にうんたらと訴えても意味はない。例えば、かつて福建省の漁民が尖閣諸島付近で遭難し、魚釣島の漁民たちが救助した時、中国政府が「沖縄県八重山郡尖閣列島」と明記して感謝状を送った「史実」もあるが、中国側は無視している。
 こうなると競売物件に居座るヤクザと同じで、漫画『カバチタレ』の世界でいえば「占有事実」がカギとなる。つまり、ここでは200人以上の日本人が暮らしていた住居跡や「かつお節工場」だ。上陸した「自称・漁民」は真っ先にこれを破壊するはずだ。
 だから、そうなる前に一刻も早く文化財なりに指定して修復をし、きっちりと保存をする。今のままでは、破壊して「台風のせいだろ」とトボけられても我々には確認しようがない。
 そんなの考え過ぎだ、と呆れるかもしれないが、現実に「かつお節工場」がなかったばっかりに、自国に「掘ったて小屋」を建てられた人々がいる。
■「世界一幸せな国」を襲った不幸な侵略
 「世界一幸せな国」として知られるブータンと、中国(チベット自治区)と接するあたりは、山奥でほとんど人がおらず、漢方でおなじみの冬虫夏草(とうちゅうかそう、ふゆむしなつくさ)がとれ、ヤクの放牧にも適していた。要するに、尖閣諸島と同じく「豊富な資源」の眠るところだった。
 そこへある時、人民解放軍がひょいと領土をまたいで、しれっとした顔で「掘ったて小屋」を建てた。抗議すると、中国は「おまえらの領土だって証拠はどこにある?」とばかりに新しい地図をつくって、こう言い放った。
 「絶対に譲れない」――。
 結果、ブータン国土は約4万6500キロ平方メートルからおおよそ2割減の約3万8400キロ平方メートルになった。今も交渉中だが相手が悪い。もう取られたと思った方がいい。
 国土を奪われるというのは、国家元首にとっては身体を切り刻まれるよう苦痛である。そんな心労がたたったブータン国王夫妻を、日本のマスコミは嫌味のように「世界一の幸せ者」とヨイショ攻めにした。なかでも際立っていたのが『朝日新聞』で、わざわざ今年の正月の社説で「ひとつの未来をみいだした」として、日本人はブータンを見習うべきだと綴っていた。
 その『朝日新聞』が都知事の「尖閣諸島買取」に対して「無責任だ」と批判し、尖閣諸島問題は放っておけ、「日中両国民がお互いに批判しあって、何か得るものがあるのか」と言いだした。
 大方、「尖閣諸島を奪われたって、幸せが得られればいいじゃないか」などと言いたいのだろうが、あいにく日本人はそこまでブータンに憧れていない。
 ちなみに朝日新聞といえば、文化財に助成をする財団ももつ。どうすれば「かつお節工場」を文化財にできるかを説いてくれた方が、よほどためになる。
・窪田順生氏のプロフィール:
 1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。
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