放射線汚泥肥料 人体への影響を専門家が警告
日刊ゲンダイ2011年7月6日
農水省の基準は信用できるか
●「内部被曝を考慮すればセシウムよりも測定されていないストロンチウムが危険」
放射性物質の土壌汚染の危険性が指摘されているが、盲点になっているのは汚染された汚泥を原料とする肥料の問題だ。
先月末、農水省は放射性物質を含む汚泥の「肥料への利用」基準をようやくまとめた。原則として原料汚泥中の放射性セシウムの濃度が1キロあたり200ベクレル以下であれば肥料として使用できる。特例として、農地土壌より汚泥のセシウムの濃度が低く、かつ濃度が1キロあたり1000ベクレル以下であれば地域内に限って肥料として使用可能としている。あまり話題にならないまま実行されつつあるが、この農水省の基準は信用できるのか。プラザ30階クリニック(東京)の副院長で放射能から体を守る栄養療法に詳しい土井里紗氏(内科)に聞いた。
「農水省は、過去の土壌の放射線量に基づいて基準値を決めているといいますが、内部被曝について正しく認識をしていないようです。セシウムしか測定されていませんが、さらに問題なのは測定されていないストロンチウムの危険性です。放射性物質が体外から出ていく生物学的半減期で考えると、セシウム137が90日程度なのに比べ、ストロンチウム90は49年と長い。ストロンチウムは、体内に入るとカルシウムと間違って骨に吸収されてしまう。ベータ線を放出し、10ミリという狭い範囲で放射線を出します。その分エネルギーは強く毒性が高いため、少量でも取り込むのは避けるべきです。内部被曝を考慮するなら、ストロンチウムも測定すべきです」
セシウムやストロンチウムといった放射性物質を含んだ汚泥が肥料として広域に流通したとき、どんな事態が懸念されるのか。
●細胞、骨に蓄積
「放射性物質はどんなに少なくてもリスクがあります。野菜や果物はセシウムをカリウムと間違えて根から吸収してしまいます。また、自然放射線の内部被曝は年間1.5ミリシーベルトといわれていますが、自然放射線は人間の進化の過程で体に蓄積しないようになっています。しかし、人工放射線の歴史は原爆からの非常に短い期間しかありません。(野菜や果物に含まれた)セシウムは全身の細胞に、ストロンチウムは骨に蓄積してしまうのです。自然放射線と同じリスクとしてみてはいけません。人体に与える影響として考えられるのは、骨肉腫をはじめとしたがんなどですね」
現時点ではセシウムの危険性しか問題になっていないが、文科省・環境モニタリングの結果によれば、福島第1原発から60キロの福島県本宮市や80キロの西郷村から採取した植物からもストロンチウムが検出されている。もちろん生活圏である。政府は、人体に影響を及ぼす可能性があるすべてを調べ基準を改めるべきだ。
*強調(太字)は来栖