光市母子殺害事件 「なぜ弁論に欠席したか」弁護士安田好弘
読売新聞 平成18年(2006年)3月15日付朝刊
「山口・光市母子殺害 被告弁護人出廷せず
山口県光市の本村洋さん(29)宅で1999年、妻(当時23歳)と長女(同11か月)が殺害された事件で殺人罪などに問われ、1、2審で無期懲役の判決を受けた同市内の元会社員(24)(犯行時18歳)について、最高裁第3小法廷は14日、死刑を求める検察側の上告を受けた口頭弁論を開こうとした。だが弁護士が2人とも出廷せず、弁論を開くことができなかった。
改めて4月18日に弁論期日を指定したが、死刑求刑の事件で弁護士の出廷拒否は異例。訴訟遅延行為に当たる可能性もあり、浜田邦夫裁判長は法廷で『極めて遺憾』と、弁護士を強く非難する見解を読み上げた。
この事件では、書面審理中心の最高裁が、弁論を開くことを昨年12月に決めたことで、死刑を相当とする判決になる可能性が出ている。死刑廃止運動を進める安田好弘、足立修一両弁護士が、今月6日に辞任した弁護士に代わって就任。『日本弁護士連合会が開催する裁判員制度の模擬裁判のリハーサルで、丸一日拘束される』との理由で、この日の法廷を欠席した。
これに対し、検察官は法廷で、『審理を空転させ、判決を遅らせる意図なのは明白』と述べ、弁論を開いて結審するよう要請。浜田裁判長は『正当な理由のない不出頭』と述べたが、結審は見送った。
安田弁護士らは今月7日付で、弁論を3か月延期するよう求める申請書も最高裁に提出しているが、翌日却下されていた。安田弁護士はこの日、『被告の言い分に最近変化があり、接見や記録の検討を重ねる時間が必要。裁判を長引かせる意図はない』とする声明を出した。」
「解説 これ以上許されず
今回の出廷拒否について、弁護士は訴訟遅延の意図を否定するが、これまでの経緯を見ると、遺族や国民の理解を得るのは難しい。
第3小法廷が弁論の開催を決めたのは、4人の裁判官の合議で無期懲役の判決に疑問がついたことを意味する。しかし、浜田邦夫裁判長が定年退官する5月下旬の時点で結審していなければ、合議をやり直さなければならない。弁護期日の指定に突然、弁護士が交代し、6月への延期を求めているのは、合議の流れを変える狙いと見なされても仕方のない面がある。
安田好弘弁護士ら死刑廃止を求めるグループはこれまでも、オウム真理教の松本知津夫被告の裁判などで、審理をストップさせる手法をとったことがある。
弁護側が4月の弁護期日も欠席すれば、最高裁は、『裁判所が対策を尽くしても出廷しなければ、弁護士抜きで審理を進められる』との判例に基づき、結審する可能性が高い。死刑の量刑基準が問われる重要な事件だけに、これ以上の弁護側の欠席は許されない。」としています。