保釈率倍増、高まる逃走・再犯リスク 裁判所判断に浮かぶ懸念
2019.6.20 21:54|
窃盗罪などで実刑が確定し、横浜地検が収容しようとして神奈川県愛川町の自宅から逃走した小林誠容疑者(43)について、横浜地検は20日、公務執行妨害容疑で逮捕状を取り、県警が全国に指名手配した。小林容疑者は過去にも複数の事件で実刑判決を受けており、今回の事件は逃走を許した検察当局の失態とともに、裁判所の保釈判断が適切だったのかも問われる。過去10年で保釈を許可する割合(保釈率)が急増するなど、裁判所が容疑者や被告の身柄拘束を解く判断基準を緩和する動きを強めていることに対し、捜査当局から逃走や再犯のリスクが再三、指摘されてきたためだ。(大竹直樹)
■複数回の実刑判決
関係者によると、小林容疑者は過去にも、傷害致死や強姦(ごうかん)致傷、監禁致傷、覚せい剤取締法違反、窃盗などの罪で複数回、実刑判決を受けていた。
刑事訴訟法は被告らから保釈請求があった場合、証拠隠滅の恐れがある場合などを除き保釈を認めなければならないと規定。「権利保釈」と呼ばれるが、小林容疑者は常習として長期3年以上の懲役または禁錮に当たる罪を犯しており、例外として保釈は認められない。ただ、健康状態や裁判準備など被告の不利益の程度を考慮して裁判官の裁量で保釈を認めることができ、今回は、この「裁量保釈」で認められていた。
一方、元東京高裁部総括判事の門野博弁護士は「保釈にあたって裁判官は諸々の要素を考えて判断している。再犯防止は保釈を認めない要件に入っておらず、一般的な治安維持の観点で保釈制度を考えるのは良くない」との見方を示す。
元検事の高井康行弁護士は「保釈保証金を納付させ、逃亡するなどした場合に没収することで逃亡を防ぐとの考えだが、最近は逃走したり、再犯に及んだりするケースが増えており、従来の考え方が通用しなくなっている」と指摘する。
■殺人罪で実刑でも
保釈の運用が変化する契機となったのが平成18年6月。当時、大阪地裁部総括判事だった京都大大学院法学研究科の松本芳希教授が法律雑誌に発表した論文だ。証拠隠滅の現実的、具体的可能性があるかを検討すべきだと指摘、否認や黙秘をただちに「証拠隠滅の恐れ」と結びつけることを戒めた。この考えが裁判官の間で広まったとされる。
全国の地裁、簡裁が保釈を許可する割合は20年の14・4%から29年には31・3%と10年間で倍増。今年3月には東京地裁が、殺人罪で懲役11年の実刑判決を受けた被告の保釈も認めた。東京高裁が許可しなかったが、検察内では衝撃を持って受け止められた。
4月には、会社法違反罪に問われた日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告(65)について、東京地裁が証拠隠滅の恐れを認めながら保釈を許可。身柄拘束を解く判断基準緩和の流れは加速している。
■相次ぐ保釈中の逃走
一方で保釈中の逃走は後を絶たない。
29年6月には盗撮事件の判決公判で、保釈中の男が仙台地裁の法廷で警察官に切りつけ、逃げようとした事件が発生。昨年2月には千葉県館山市で、覚せい剤取締法違反罪に問われ、保釈が取り消された男を函館地検の職員が収監しようとした際に逃走する事件も起きている。
勾留中の容疑者や被告、服役中の受刑者が逃走した場合、逃走罪に問われるが、保釈中の逃走には適用されない。高井弁護士は「今の制度では、保釈中に収監のための出頭要請に応じなかったり、単に逃げたりしただけでは処罰ができない。今後は、逃走防止のために、これらの場合でも処罰できるようにすることも検討すべきだ」と語る。
ある検察関係者は「収監する際に抵抗されるケースは少なくない。裁判所は逃亡の恐れを慎重に吟味してほしい」と強調した。
◎上記事は[産経新聞]から転載・引用です *強調(=太字)は来栖
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【主張】実刑確定の男逃走 保釈のあり方急ぎ見直せ
神奈川県愛川町で、実刑が確定した保釈中の男が逃走した。刃物を振り回す男を取り逃した横浜地検の職員や同行した神奈川県警厚木署員の大失態である。
男は刃物を所持したままとみられ、愛川町と同県厚木市の教育委員会は公立小中学校45校で児童生徒の安全が確保されるまで登校を見合わせることを決めた。住民への影響は大きい。
町への連絡が逃走後約3時間後に遅れた地検の対応も問題である。町は防災無線で町民に注意を喚起したが、この間に新たな犯行があれば、どう責任を取るつもりだったのか。
そもそも男は、なぜ保釈中だったのか。
男は窃盗、傷害、覚せい剤取締法違反などの罪に問われ、昨年9月に横浜地裁小田原支部で懲役3年8月の実刑判決を受けた。男は東京高裁に控訴したが、高裁はこれを棄却し、今年2月に判決が確定した。男は控訴審中に保釈されたのだという。
保釈の認められる要件は逃亡や証拠隠滅の恐れが高くない場合に限られる。逃亡しているではないか。保釈を許可した裁判所は不明を恥じ、謝罪すべきである。
男はこれまで書面による出頭要請に応じず、検察側は自宅を複数回訪れたが、接触できていなかった。どの時点においても、保釈は取り消されるべきだった。
保釈請求を許可する割合(保釈率)は平成20年の14・4%から29年には31・3%と倍以上に増加している。特別背任などの罪で起訴された日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告も証拠隠滅の恐れを指摘されながら保釈された。
一方で、保釈中に被告が逃走したり、再犯に及んだりするケースは後を絶たない。29年中に保釈中に再犯で起訴された被告は246人を数えた。中には、覚せい剤取締法違反罪に問われた暴力団員が保釈中に男性を射殺し、拳銃を所持したまま逃走しているとみられる最悪の事例もある。
3月には殺人罪で懲役11年の実刑判決を受け控訴中の被告に東京地裁が保釈を認める決定を出し、東京地検の抗告を受けて東京高裁が地裁決定を取り消していた。
刑事司法の目的は社会の安全や公平性を守ることにある。行き過ぎた現行の保釈のあり方が、その目的に適(かな)っているとはいえまい。早急に見直す必要がある。
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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