やまゆり園事件から2年 入所者の親らが投げかける「事件の本質」とは? 2018.7.19 AERA

2018-07-20 | 相模原事件 優生思想

やまゆり園事件から2年 入所者の親らが投げかける「事件の本質」とは?
野村昌二2018.7.19 16:00 AERA 

  
  大月和真さんと長男の寛也さん。和真さんが優しく声をかけると、寛也さんは笑ってうなずくしぐさを見せる。今回、自分にできることは何でもしようという思いから、取材に応じてくれた(撮影/写真部・小山幸佑)
 殺傷事件から間もなく2年。現場は再生に向けて動き出しているが、今も被告の障害者差別は続く。障害者が置かれた状況も、変わっていない。二度と悲劇を起こさないために、国や私たちはどうすべきか。
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 19人が殺害され27人が負傷した事件現場は今、白いフェンスに囲まれ建て替えに向けた工事が進む。ここではかつて、入所者たちの笑い声があふれていた。
 2016年7月26日、事件が起きた日、大月寛也(ひろや)さん(37)は、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で暮らしていた。入所者が次々とナイフで刺殺された、「戦後最悪」とされる事件が起きた場所だ。殺人などの罪で逮捕・起訴されたのは、この施設の元職員の植松聖(うえまつさとし)被告(28)だった。
 寛也さんの父親の和真(かずま)さん(68)によれば、自閉症の寛也さんは18歳の時に津久井やまゆり園に入所した。事件が起きた時、寛也さんは被告の襲撃を免れたエリアにいたため無事だった。だが、事件直後、一時帰宅から施設に戻った際は、なかなか居住棟に入ろうとせず、ホーム(生活エリア)に着くまで母親の腕をつかんでいたという。いままで一度もなかったことだ。
「いつもと違う異様な雰囲気を、寛也なりに感じとっていたのだと思います」
 寛也さんは昨年4月から、仮移転した「芹(せり)が谷(や)園舎」(横浜市港南区)に移り、事件前と変わらずマイペースで生活できている。しかし、負傷した利用者の中には、刃物を連想するため爪を切るのを怖がったり、一人でトイレに行けなかったりする人もいると聞き、「精神的な癒えない傷は今も残っているのではないか」と和真さんは言う。
 被告の弱者への差別意識が、なぜ凶悪犯罪へと至ったのか。なぜ無抵抗の人間の命を奪ったのか。ヒトラーが降臨したなどと気取る被告は、報道機関などに送った手紙に「意思疎通がとれない人間を安楽死させるべきだ」などと記している。
 だが、先の和真さんは強く否定する。
「寛也は何を話しかけてもうなずきます。言葉を一言も話さないので、本当は何を考えているのか分からないのですが、でも何となく意思疎通はできています。『ご飯だよ』といえば、テーブルについてくれます」
 今回の事件が社会に大きな衝撃を与えたのは、単に犠牲者が多かったからというだけではない。これまで日本社会が直視してこなかった問題が噴出したからだ。事件は、さまざまな問題を社会に投げかけた。
●「稼げば勝ち」という考えが排外的な差別意識を生む
 精神科医の香山リカさんは、事件は、今の社会を覆う排外的な差別意識が突出したものだと指摘する。
「経済至上主義や成果主義の中、稼げば勝ち、利益を上げない人は価値がないという考えが世界の一つの『原則』になっています。そうした中、自分と異なるものへの想像力がなくなり、異質なものは排除してもいい、自分の考えは世間の支持を得られるのではないかと考えたのではないでしょうか」
 日本障害者協議会(東京都新宿区)の代表、藤井克徳(かつのり)さん(68)は、事件後の対応や関連する動きから、障害者が置かれている立場が浮き彫りになったと話す。
「まずは、警察による犠牲者の匿名発表がありました」
 今回、神奈川県警は犠牲者全員を匿名で発表した。通常、殺人事件では警察は被害者を実名で発表するが、同県警は匿名にした理由について「遺族の強い要望」としている。
 実際、家族に知的障害者がいることを知られたくないという遺族もいた。しかしそのため、犠牲者は匿名のまま社会から忘れられ、彼らの人生はほとんど振り返られることはなく、事件を正当化する被告の供述だけが大きく報じられている。藤井さんは言う。
「隠さざるを得なかったのは、障害者への偏見という社会の本質的な問題が潜んでいるからとみるべきです」
 次に藤井さんが挙げるのが、事件後も利用者は長く同じ敷地内で暮らしていたことだ。最後まで残った入所者39人が芹が谷園舎に移ったのは、17年4月。約9カ月もかかったのは、障害者の人権や感性を理解していると思えないデリカシーを欠いた事態と指摘する。
「心のバランスをとるためにも、少しでも早く凄惨な現場から遠ざかるべきでした」
 最後に、大規模入所施設の問題を挙げる。津久井やまゆり園のような障害者を対象とした入所施設は、全国に約3千カ所。施設での虐待や身体拘束は後を絶たず、地域社会から遠隔地にあるものも少なくない。施設以外に安心して預ける場がないため、消去法で大規模施設に入らざるを得ない現状があるという。藤井さんは厳しく批判する。
「やまゆり園の事件の後、厚生労働省が出した対策は、措置入院制度の見直しと施設の防犯対策の徹底のみ。あまりにも対症療法的なものにとどまっている。障害者が置かれた状況も環境も、2年前と変わっていない」
●事件の背景に何があったか総括も検証もされていない
 事件が起きる直前の16年4月には「障害者差別解消法」が施行された。第1条では障害の有無に関係なく「相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現を目指すとしている。法の精神には大半の人が賛同するが、多くの人に障害者に対する差別感情は根強く残り、「多様性」や「共生」といった言葉だけが躍る。
 二度と悲劇を繰り返さないためにどうすればいいか。私たち社会は、障害者とどう向き合うべきなのか。
 冒頭で紹介した大月さんは、仕事の悩みや不満を抱える職員を支える相談支援体制の整備が必要と話す。
「仕事の葛藤や不安を抱えている職員に専門的なカウンセリングを通して心の安定を図り、不適格であれば、別の仕事を斡旋することなどができればと思います」
 次男(47)がやまゆり園のグループホームに入所している杉山昌明(まさあき)さん(78)は、大切なのは知的障害者に対する理解をもっと広げることだと話した。
「たとえば、電車内で障害者が大声を上げたり、走り回ったりしていると、乗客の方は怖がります。それは障害者のことを知らないからです。多くの人が障害者のことを知れば理解が進み、十分な支援があれば障害者が地域で普通に生活できるようになるのではないかと思います」
 前出の藤井さんは、「共生」という言葉を進化させた「インクルージョン」が重要と説く。障害者も健常者も、ともに生き、ともに支えあう社会を意味する言葉だ。
「インクルージョンの実現のためには、今回の事件の背景に何があったかをあらゆる角度から総括し検証すること。事件から2年たっても国も社会も真剣に行っていない。総括も検証もないところに、社会の発展はありません」
 ナイフを向けられたのは、私たち社会、そして私たち一人ひとりでもあるのだ。(編集部・野村昌二)
 ※AERA 2018年7月16日号

 ◎上記事は[AERA]からの転載・引用です
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